StudyMed医師国家試験

数年後に濁る水晶体―「細胞の入れ替わり」で読み解く放射線の早期反応と晩期反応

第118回医師国家試験 F問題 第2問

国試問題にチャレンジ

第118回 F問題 第2問

放射線の身体的影響で晩期反応〈障害〉はどれか。

  1. a.脱毛
  2. b.白内障
  3. c.運動失調
  4. d.けいれん
  5. e.皮膚紅斑

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、放射線の身体的影響を「いつ現れるか」で分類する問題だ。被ばく後すぐに出る早期反応と、数か月から数年、時には数十年たってから出る晩期反応。どの組織が障害されると、どちらのタイプになるのかを考えるのが着眼点だよ。
医学生医学生
放射線医学の講義で「細胞分裂が盛んな組織ほど放射線感受性が高い」と習いました。それと関係がありますか。
ドクタードクター
大いにある。骨髄、消化管の粘膜、皮膚の表皮、毛包、生殖腺のように細胞の入れ替わりが速い組織では、幹細胞が障害されると、成熟した細胞が寿命で減っていくタイミングに合わせて症状が出る。だから早期に現れるんだ。逆に、水晶体や血管、結合組織、神経のように入れ替わりの遅い組織の障害は、長い潜伏期を経て表に出てくる。
医学生医学生
だとすると、脱毛は毛包の細胞分裂が盛んだから早期反応ですね。
ドクタードクター
その通り。頭皮に数Gy程度の被ばくがあると、2〜3週間ほどで脱毛が起こる。線量がそれほど多くなければ一時的で、数か月後にまた生えてくることが多い。皮膚紅斑はどうかな。
医学生医学生
皮膚も早期反応だと思いますが、放射線皮膚炎は治療が終わってからも長く残るイメージがあって、少し迷います。
ドクタードクター
鋭い疑問だね。紅斑は照射部位の血管拡張や炎症によるもので、被ばく後数時間〜数日の一過性の初期紅斑と、2〜3週間後の主紅斑がある。どちらも早期反応だ。線量が増えると乾性落屑、湿性落屑、潰瘍へと進む。一方で皮膚にも晩期反応があって、萎縮、毛細血管拡張、色素沈着、線維化がそれにあたる。「赤くなるのは早期、硬く薄くなるのは晩期」と区別しておくといい。
医学生医学生
放射線治療科を回ったとき、乳癌の術後照射の患者さんで、照射野の皮膚が赤くなっていたのを見ました。あれが早期反応なんですね。
ドクタードクター
そうだね。では運動失調とけいれん。神経は入れ替わりの遅い組織だから、晩期反応に思えないかな。
医学生医学生
そう考えてしまいました。神経の障害なら時間がかかりそうです。
ドクタードクター
そこが引っかけどころだ。ここでの運動失調やけいれんは、全身に数十Gy以上という極めて大きな線量を浴びたときの急性放射線症候群、その中枢神経障害型の症状として考える。脳の血管が障害されて脳浮腫や頭蓋内圧亢進が起こり、被ばく後数時間から数日で意識障害、運動失調、けいれんが現れ、多くは短期間で死に至る。だから早期反応に分類されるんだ。
医学生医学生
急性放射線症候群は、線量が増えるにつれて骨髄障害型、消化管障害型、中枢神経障害型と重くなっていくんでしたね。
ドクタードクター
よく覚えているね。そして残る白内障が正解だ。水晶体の上皮細胞が障害されると、異常な線維細胞が水晶体の後極に集まって、後嚢下混濁として現れる。被ばくから数年、線量が少ないほど長い潜伏期を経て発症する、代表的な晩期反応だよ。
医学生医学生
白内障は確定的影響だとCBTの勉強で覚えました。晩期なのに確定的、というのが少し混乱します。
ドクタードクター
そこは大事な整理ポイントだ。「早期か晩期か」は時間の軸、「確定的か確率的か」はしきい線量の有無という別の軸なんだ。確定的影響はしきい線量を超えると発生し、線量が増えるほど重症になる。脱毛、紅斑、不妊、白内障などがこれにあたる。確率的影響はしきい線量がないと仮定され、線量に応じて発生確率が上がるもので、発がんと遺伝性影響だ。白内障は「晩期反応かつ確定的影響」というわけ。
医学生医学生
2つの軸を掛け合わせて覚えればいいんですね。ほかに晩期反応にはどんなものがありますか。
ドクタードクター
放射線肺線維症などの組織の線維化、放射線脊髄症や脳壊死、放射線直腸炎による下血、そして発がんだ。原爆被爆者では白血病が被ばく後数年で増え、固形がんは10年以上の潜伏期を経て増えたことが知られている。臨床で特に知っておきたいのは白内障のしきい線量で、ICRPは2011年にこれをおよそ0.5 Gyと大幅に引き下げ、日本でも眼の水晶体の等価線量限度が引き下げられた。
医学生医学生
IVRや透視をする医師にとっては他人事じゃないですね。防護眼鏡の大切さがよくわかりました。
ドクタードクター
その通り。放射線の影響は患者さんだけでなく医療者自身にも関わる。どの組織に、いつ、どのような影響が出るのかを理解しておくことが、適切な防護と説明の基本になるよ。

まとめ

放射線の身体的影響は、被ばく後数日〜数週間で現れる早期反応と、数か月〜数十年後に現れる晩期反応に分けられます。早期反応は骨髄・消化管粘膜・皮膚・毛包など細胞の入れ替わりが速い組織に起こり、脱毛や皮膚紅斑が代表的で、大線量の全身被ばくでは急性放射線症候群の中枢神経障害型として運動失調やけいれんも早期に生じます。晩期反応は水晶体・血管・結合組織などの障害や発がんによるもので、白内障は後嚢下混濁として数年後に現れる代表例です。時間による分類と、しきい線量の有無による確定的・確率的影響の分類は別の軸であり、白内障は晩期反応かつ確定的影響に当たります。白内障のしきい線量が約0.5 Gyに引き下げられたことも含め、これらの知識は患者への説明だけでなく医療者自身の放射線防護にも直結します。

解答・解説

正解はbです

【テーマ】放射線の身体的影響の時間による分類 放射線による身体的影響(被ばくした本人に現れる影響)は、症状が現れるまでの時間によって早期反応(急性障害)と晩期反応(晩発障害)に分けられる。 ・早期反応:被ばく後、数日〜数週間以内(放射線治療の領域では照射開始からおおむね3か月以内)に現れる。 ・晩期反応:数か月〜数年、場合によっては数十年を経て現れる。 早期反応が起こりやすいのは、細胞分裂が盛んで細胞の入れ替わりが速い組織(骨髄、消化管粘膜、皮膚の表皮、毛包、生殖腺など)である。幹細胞が障害されると、成熟細胞が寿命を迎えて減っていく時期に合わせて症状が出るため、比較的早く現れる。一方、晩期反応は、細胞の入れ替わりが遅い組織(水晶体、血管、結合組織、神経など)の障害や、DNA損傷が蓄積・固定して生じる発がんなどによって起こり、長い潜伏期を経て現れる。

解き方

選択肢のうち、脱毛と皮膚紅斑は皮膚・毛包の早期反応、運動失調とけいれんは大線量の全身被ばくによる急性放射線症候群の中枢神経障害として早期に生じる症状である。白内障は水晶体の障害で、数年の潜伏期を経て発症する代表的な晩期反応である。

選択肢考察

  1. ×a.  脱毛

    毛髪をつくる毛包(毛母細胞)は分裂が非常に盛んで、放射線感受性が高い。頭皮に数Gy程度の被ばくがあると、およそ2〜3週間後に脱毛が起こる。早期反応の代表であり、線量が比較的少なければ一時的で、数か月後に再び生えてくることが多い(大線量では永久脱毛となる)。晩期反応ではない。

  2. ○b.  白内障

    放射線白内障は、水晶体の上皮細胞が障害され、異常な線維細胞が水晶体後極に集まることで、後嚢下混濁として生じる。被ばく後、数年(線量が少ないほど長い)の潜伏期を経て発症する代表的な晩期反応である。一定の線量を超えると発生する確定的影響(組織反応)に分類され、国際放射線防護委員会(ICRP)は2011年にしきい線量をおよそ0.5 Gyと、従来より大幅に低く見直した。これを受けて日本でも眼の水晶体の等価線量限度が引き下げられている。

  3. ×c.  運動失調

    全身に数十Gy以上という極めて大きな線量を受けると、急性放射線症候群のうち中枢神経障害型(脳血管型)が起こる。脳の血管障害による脳浮腫・頭蓋内圧亢進のために、被ばく後早期(数時間〜数日)に意識障害、運動失調、けいれんなどが生じ、多くは短期間で死亡する。したがって運動失調は早期反応として扱われる。

  4. ×d.  けいれん

    運動失調と同様に、大線量の全身被ばくで生じる急性放射線症候群の中枢神経障害型の症状である。脳浮腫や頭蓋内圧亢進によって被ばく直後から数日以内に起こるため、早期反応に分類される。

  5. ×e.  皮膚紅斑

    皮膚紅斑は、照射された皮膚の血管拡張や炎症によって生じる早期反応である。数Gy程度の被ばくで、数時間〜数日以内の一過性の初期紅斑と、2〜3週間後の主紅斑がみられる。線量が増えると乾性落屑、湿性落屑、潰瘍へと進む。皮膚の晩期反応としては、萎縮、毛細血管拡張、色素沈着、線維化などが知られ、紅斑とは区別して覚える。

早期反応(急性障害)の例

・放射線宿酔:頭痛、悪心、嘔吐、めまい、全身倦怠感など。被ばくや照射の初期に起こる。 ・急性放射線症候群(全身被ばく):線量が増えるにつれて、骨髄障害型(白血球・血小板減少による感染・出血)→ 消化管障害型(下痢、脱水、腸管感染)→ 中枢神経障害型(意識障害、運動失調、けいれん)と重症化する。 ・皮膚:紅斑、落屑、脱毛 ・粘膜:口内炎、食道炎、腸炎 ・生殖腺:一時的または永久的な不妊

晩期反応(晩発障害)の例

・白内障 ・組織の線維化・萎縮(放射線肺線維症、皮膚の萎縮や毛細血管拡張など) ・放射線脊髄症、放射線脳壊死 ・消化管の狭窄や出血(放射線直腸炎による下血など) ・発がん:白血病(原爆被爆者では被ばく後数年で増加)、固形がん(10年以上の潜伏期)

確定的影響(組織反応)と確率的影響

・確定的影響:しきい線量があり、それを超えると発生し、線量が増すほど重症になる。脱毛、紅斑、不妊、白内障など。早期反応の多くと、白内障・線維化などの晩期反応が含まれる。 ・確率的影響:しきい線量がないと仮定され、線量に応じて発生確率が増える。発がんと遺伝性影響。 「早期か晩期か」と「確定的か確率的か」は別の軸の分類であり、白内障は「晩期反応かつ確定的影響」である点に注意する。

胎児への影響

被ばく時期により、着床前期では流産(あるいは影響なし)、器官形成期では奇形、胎児期では精神発達遅滞や発育遅延が問題となる。

POINT

・早期反応:細胞の入れ替わりが速い組織に起こる。脱毛、皮膚紅斑、粘膜炎、骨髄抑制、不妊、急性放射線症候群(運動失調・けいれんなどの中枢神経症状を含む)。 ・晩期反応:数か月〜数年以降に起こる。白内障、線維化、脊髄症・脳壊死、発がん(白血病・固形がん)。 ・白内障は晩期反応かつ確定的影響(しきい線量はICRPにより約0.5 Gyに引き下げ)。 ・発がんと遺伝性影響は確率的影響。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。