マスクでγ線は防げない―外部被ばく防護の「時間・距離・遮蔽」を見極める
第120回医師国家試験 C問題 第17問
国試問題にチャレンジ
放射線による外部被ばくの線量低減のために考慮する因子で誤っているのはどれか。
- a.作業時間
- b.空間線量率
- c.遮蔽物の厚さ
- d.放射線源との距離
- e.N95マスクの着用
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
放射線被ばくには、体外の線源から放射線を受ける外部被ばくと、放射性物質を体内に取り込む内部被ばくがあり、対策は根本的に異なります。外部被ばくの線量はおおむね「線量率×時間」で決まり、時間を短く、距離をとる(逆2乗則)、遮蔽する(半価層ごとに1/2)の3原則で低減し、空間線量率はその評価の基本となる量です。N95マスクは粒子の吸入を防ぐ内部被ばく・空気感染の対策であり、透過力の強いγ線などによる外部被ばくは減らせません。内部被ばくでは取り込み防止が基本で、核種に応じて安定ヨウ素剤やプルシアンブルーを用います。ICRPの正当化・最適化(ALARA)・線量限度の枠組みとあわせて理解しておくことは、放射線を日常的に扱う医療者として自分と患者を守る基礎になります。
解答・解説
正解はeです
外部被ばくと内部被ばく
放射線被ばくには2つの経路がある。 ・外部被ばく:体の外にある線源から出た放射線を受けること。 ・内部被ばく:放射性物質を吸入・経口・創傷などから体内に取り込み、体の内側から放射線を受けること。 両者は対策がまったく異なる。外部被ばくで防ぐべきものは放射線そのもの(主にγ線・X線、中性子線など透過力の強い放射線)である。内部被ばくでは放射性物質が体内に入るのを防ぐ。
外部被ばく防護の3原則
外部被ばくの線量は、おおまかに「その場の線量率 × 滞在時間」で決まる。線量率は線源からの距離と、線源との間にある遮蔽物によって変わる。ここから次の3原則が導かれる。 1. 時間:被ばくする時間を短くする。 2. 距離:線源から離れる(点線源では線量率は距離の2乗に反比例する)。 3. 遮蔽:線源との間に遮蔽物を置く(鉛やコンクリートなど。厚いほど線量は指数関数的に減る)。 空間線量率は、この3つすべての前提となる量である。
考え方
作業時間・空間線量率・遮蔽物の厚さ・線源との距離は、いずれも外部被ばく線量を直接左右する因子である。一方、N95マスクは粒子の吸入を防ぐ呼吸用保護具である。体外の線源から飛んでくる透過性の放射線を減らす効果はない。したがって外部被ばく低減の因子として誤っているのはN95マスクの着用である。
選択肢考察
- ×a. 作業時間
考慮すべき因子であり、記述は正しい。線量率が一定なら、被ばく線量は滞在時間に比例する。作業時間を半分にすれば線量も半分になる。作業手順を事前に準備・練習する、複数人で交代する、といった方法で、線源の近くにいる時間を短くする。
- ×b. 空間線量率
考慮すべき因子であり、記述は正しい。空間線量率は、その場所で単位時間あたりに受ける線量(例:μSv/h)である。被ばく線量は空間線量率×時間で見積もれるため、サーベイメータなどで線量率を測定し、線量率の低い場所を選んで作業する。また、予想される線量から作業時間の上限を決める。時間・距離・遮蔽の効果を評価するための基本となる量である。
- ×c. 遮蔽物の厚さ
考慮すべき因子であり、記述は正しい。γ線・X線は物質を通るあいだに指数関数的に減弱する。線量を半分にする厚さ(半価層)ごとに線量が1/2になるので、遮蔽物は厚いほど、また密度・原子番号の大きい物質(鉛など)ほど効果が高い。診療用X線の現場では、防護衣(プロテクター)、防護板、鉛ガラスなどが使われる。
- ×d. 放射線源との距離
考慮すべき因子であり、記述は正しい。点線源からの線量率は距離の2乗に反比例する(逆2乗則)。距離を2倍にすれば線量率は1/4、3倍にすれば1/9になる。費用がかからず効果の大きい方法で、鉗子やトングなどを使って線源に直接触れない、透視中は可能な範囲で患者から一歩下がる、といった形で実践する。
- ○e. N95マスクの着用
誤っているので、これが正解である。N95マスクは米国NIOSH(国立労働安全衛生研究所)の規格に合格した呼吸用保護具である。「N」は耐油性がない(Not resistant to oil)こと、「95」は試験粒子(約0.3μm)を95%以上捕集できることを表す。結核、麻疹、水痘などの空気感染対策に用いられる。放射性物質を含む粉じんを吸い込むのを防ぐ、つまり内部被ばくの対策としては意味がある。しかし、体外の線源から飛んでくるγ線などを遮る効果はなく、外部被ばくの線量は減らせない。
放射線防護の体系(国際放射線防護委員会〈ICRP〉)
・行為の正当化:被ばくを伴う行為は、害を上回る便益がある場合にだけ行う。 ・防護の最適化:経済的・社会的要因を考慮しつつ、被ばくを合理的に達成できる限り低くする(ALARA〈as low as reasonably achievable〉の原則)。 ・線量限度の適用:職業被ばくや公衆被ばくに限度を設ける。患者の医療被ばくには線量限度を適用せず、正当化と最適化で管理する。
外部被ばく対策と内部被ばく対策
・外部被ばく:時間・距離・遮蔽の3原則。個人線量計で被ばく線量を管理する。 ・内部被ばく:放射性物質を体内に取り込まないことが基本である。マスク(防じんマスク、N95マスクなど)、手袋、ガウンを着用し、汚染区域での飲食・喫煙を禁止し、創傷を保護し、体表を除染する。取り込んでしまった場合は、核種に応じて排泄を促したり取り込みを抑えたりする(例:放射性ヨウ素に対する安定ヨウ素剤、放射性セシウムに対するプルシアンブルー)。
放射線の種類と遮蔽
・α線:紙1枚で止まる。外部被ばくはほとんど問題にならないが、体内に取り込まれると影響が大きい。 ・β線:プラスチックや薄いアルミ板で止まる。 ・γ線・X線:透過力が強く、鉛や厚いコンクリートで遮蔽する。 ・中性子線:水やコンクリートなど、水素を多く含む物質で遮蔽する。
POINT
・外部被ばく防護の3原則は「時間を短く・距離をとる・遮蔽する」である。 ・線量 ≒ 線量率 × 時間であり、線量率は距離の2乗に反比例する(逆2乗則)。 ・マスクは放射性物質の吸入を防ぐ内部被ばく対策であり、外部被ばくの低減にはならない。 ・N95マスクは約0.3μmの粒子を95%以上捕集する規格で、空気感染(結核・麻疹・水痘)対策に用いる。
