StudyMed医師国家試験

すべての血球の「母」が持つ力―造血幹細胞を定義する自己複製能

第114回医師国家試験 C問題 第10問

国試問題にチャレンジ

第114回 C問題 第10問

造血幹細胞の特徴で正しいのはどれか。

  1. a.止血作用
  2. b.貪食作用
  3. c.酸素運搬能
  4. d.自己複製能
  5. e.血栓溶解作用

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は造血幹細胞の基本的な性質を問う問題だ。選択肢には血液の働きがずらりと並んでいるけれど、それが「誰の機能なのか」を区別することが着眼点になる。まず、造血幹細胞とはどんな細胞か説明できるかな。
医学生医学生
赤血球も白血球も血小板も、全部この細胞から作られる、という源流の細胞ですよね。
ドクタードクター
その通り。そして幹細胞は、2つの能力で定義される。一つは、骨髄系とリンパ系のすべての血球に分化できる多分化能。もう一つが、分裂したときに自分と同じ未分化な幹細胞を生み出して、幹細胞の数を保つ自己複製能だ。
医学生医学生
分化できるだけでは足りないんですか。
ドクタードクター
いい疑問だね。血球は寿命が短い。赤血球で約120日、血小板で7〜10日ほど、好中球は血中では1日にも満たない。だから毎日膨大な数の血球を作り続ける必要がある。もし分化するばかりなら、幹細胞はやがて使い尽くされてしまう。自己複製で自分自身を補充しているからこそ、生涯にわたって造血を続けられるんだ。
医学生医学生
なるほど、正解は自己複製能ですね。でも、ほかの選択肢も血液の大事な働きばかりなので、少し迷いました。
ドクタードクター
そこが問題のポイント。止血、貪食、酸素運搬、血栓溶解は、いずれも分化を終えた細胞や血漿中のタンパク質が担う「機能」だ。未分化な幹細胞自体はそうした機能をもたない。一つずつ担い手を確認しよう。止血はどうかな。
医学生医学生
血小板です。生理学の講義で、一次止血と二次止血を習いました。
ドクタードクター
そうだね。血管が傷つくと、血小板が露出したコラーゲンにフォン・ヴィレブランド因子を介して粘着し、凝集して血小板血栓を作る。これが一次止血。その後、凝固因子の働きでフィブリンができて血栓が強固になるのが二次止血だ。血小板は骨髄の巨核球の細胞質がちぎれてできるもので、幹細胞の性質ではない。
医学生医学生
貪食は好中球やマクロファージですね。免疫学の実習で、好中球が細菌を取り込む様子を顕微鏡で観察しました。
ドクタードクター
いい経験だね。好中球、単球、単球が組織に移ったマクロファージ、樹状細胞などが貪食を担う。どれも幹細胞から分化した成熟細胞だ。酸素運搬は言うまでもなく赤血球。成熟の過程で核を失い、ヘモグロビンをたっぷり含んだ両凹円盤状の形でガス交換に適応している。
医学生医学生
血栓溶解は、細胞というより線溶系の仕事でしたよね。
ドクタードクター
正解。プラスミノゲンがプラスミンに変わり、プラスミンがフィブリンを分解する。この反応を進めるt-PAは主に血管内皮細胞が産生する。つまり血漿タンパク質と内皮細胞のしくみで、やはり幹細胞とは関係がない。
医学生医学生
「機能」は成熟した細胞の持ち物で、幹細胞の特徴は「増える・分化する能力」だと区別すればいいんですね。
ドクタードクター
その整理で完璧だ。ここから発展知識。造血幹細胞は普段、細胞周期の静止期であるG0期にとどまってほとんど分裂しない。骨髄の中の比較的低酸素な微小環境、いわゆるニッチで静止状態が保たれ、自己複製が支えられていると考えられている。
医学生医学生
血液内科の実習で、造血幹細胞移植の患者さんを見学しました。移植したのは少量の細胞なのに、全部の血球が回復するのが不思議でした。
ドクタードクター
それこそ自己複製能と多分化能の証拠だ。移植した幹細胞が骨髄に生着し、自分を増やしながら全系統の血球を作り出すから、長期にわたって造血が回復する。移植には骨髄移植、末梢血幹細胞移植、臍帯血移植があって、幹細胞のマーカーとしてはCD34がよく用いられ、移植する細胞数の評価にも使われるよ。
医学生医学生
末梢血から幹細胞を採るには、G-CSFを使うんでしたっけ。
ドクタードクター
そう。G-CSFを投与すると造血幹細胞が骨髄から末梢血中に動員されるから、それをアフェレーシスで採取する。臨床的には、幹細胞そのものが障害されると再生不良性貧血のように全系統の血球が減るし、幹細胞レベルで腫瘍化が起これば骨髄増殖性腫瘍や一部の白血病につながる。汎血球減少を見たら、幹細胞レベルの異常を考える視点を持っておこう。

まとめ

造血幹細胞は、すべての血球の源となる細胞で、自分と同じ幹細胞を生み出す「自己複製能」と、骨髄系・リンパ系のすべての血球へ分化する「多分化能」の2つによって定義されます。血球は寿命が短いため、自己複製によって幹細胞が枯渇しないことが生涯にわたる造血を支えています。止血は血小板、貪食は好中球やマクロファージ、酸素運搬は赤血球、血栓溶解はプラスミンとt-PAなど線溶系が担う機能であり、未分化な幹細胞の性質ではありません。CD34陽性細胞やG-CSFによる末梢血への動員は造血幹細胞移植で活用され、幹細胞の障害は再生不良性貧血、腫瘍化は骨髄増殖性腫瘍などにつながります。「成熟細胞の機能」と「幹細胞の能力」を区別する考え方は、血液疾患や移植医療を理解する土台になります。

解答・解説

正解はdです

問われていること

造血幹細胞(hematopoietic stem cell:HSC)がもつ本質的な性質を問う問題である。

造血幹細胞の2つの性質

造血幹細胞は、赤血球・白血球・血小板などすべての血球の源となる細胞であり、次の2つの能力によって定義される。 1. 多分化能:骨髄系(赤血球、顆粒球、単球、血小板の元となる巨核球)とリンパ系(T細胞、B細胞、NK細胞)のすべての血球へ分化できる能力 2. 自己複製能:分裂した際に、自分と同じ未分化な幹細胞を生み出し、幹細胞の数を保つ能力 血球は寿命が短い(赤血球で約120日、血小板で約7〜10日、好中球は血中では1日に満たない)。そのため、毎日膨大な数の血球を作り続けなければならない。分化だけを続ければ幹細胞はやがて使い尽くされてしまうため、自己複製によって幹細胞自身を維持していることが、生涯にわたる造血を可能にしている。

考え方

選択肢のうち止血・貪食・酸素運搬・血栓溶解は、いずれも分化を終えた細胞や血漿中のタンパク質が担う「機能」である。未分化な造血幹細胞自体はこれらの機能をもたない。幹細胞を特徴づけるのは「機能」ではなく「増える・分化する能力」であると押さえれば、自己複製能が正解と判断できる。

選択肢考察

  1. ×a.  止血作用

    止血作用を担う細胞は血小板である。血管が傷つくと、血小板は露出したコラーゲンにフォン・ヴィレブランド因子(von Willebrand factor:VWF)を介して粘着し、活性化・凝集して血小板血栓を作る(一次止血)。その後、凝固因子の働きでフィブリンが形成され、血栓が強固になる(二次止血)。血小板は骨髄の巨核球の細胞質がちぎれてできるもので、造血幹細胞そのものの性質ではない。

  2. ×b.  貪食作用

    貪食作用(細菌や異物、死んだ細胞を取り込んで処理する働き)をもつのは、好中球、単球と、単球が組織に移行して分化したマクロファージ、樹状細胞などである。これらは造血幹細胞から分化した成熟細胞であり、未分化な造血幹細胞は貪食作用をもたない。

  3. ×c.  酸素運搬能

    酸素運搬能をもつのは、ヘモグロビンを多量に含む赤血球である。赤血球は成熟過程で核を失い、両面が凹んだ円盤状になってガス交換に適した形をとる。造血幹細胞から赤芽球を経て分化した最終段階の細胞の機能であり、造血幹細胞自体にはない。

  4. ○d.  自己複製能

    自己複製能は、多分化能と並ぶ造血幹細胞の最も重要な特徴である。造血幹細胞は通常、細胞周期の静止期(G0期)にとどまってほとんど分裂しない。必要に応じて分裂し、一部は分化へ向かい、一部は自分と同じ幹細胞として残る。このしくみによって幹細胞が枯渇せず、生涯にわたって血球を供給できる。造血幹細胞移植で、移植した少数の細胞から長期にわたって全系統の造血が回復するのも、この自己複製能と多分化能があるためである。

  5. ×e.  血栓溶解作用

    血栓溶解(線溶)は、プラスミノゲンがプラスミンに変換され、プラスミンがフィブリンを分解することで起こる。この反応を進める組織プラスミノゲン活性化因子(tissue plasminogen activator:t-PA)は主に血管内皮細胞が産生する。線溶系は血漿中のタンパク質と内皮細胞が担うしくみであり、造血幹細胞の性質ではない。

造血の場の変遷

胎生期には卵黄嚢、次いで肝臓・脾臓が主な造血の場となり、出生後は骨髄が造血の場となる。成人では主に体幹の骨(椎骨、胸骨、肋骨、骨盤など)の赤色骨髄で造血が行われ、四肢の長管骨の骨髄は加齢とともに脂肪に置き換わる(黄色骨髄)。

造血幹細胞の維持と骨髄ニッチ

造血幹細胞は骨髄内の特定の微小環境(ニッチ)で維持されている。ニッチは比較的低酸素であり、この環境や周囲の間質細胞からのシグナルが、幹細胞を静止状態に保ち自己複製を支えていると考えられている。

造血幹細胞の分化の流れ

造血幹細胞 → 多能性前駆細胞 → 骨髄系共通前駆細胞(赤血球・巨核球・顆粒球・単球の系統へ)とリンパ系共通前駆細胞(T細胞・B細胞・NK細胞の系統へ)に分かれる。分化にはエリスロポエチン(赤血球系)、トロンボポエチン(巨核球・血小板系)、G-CSF(granulocyte colony-stimulating factor:顆粒球コロニー刺激因子、好中球系)などのサイトカインが関与する。

臨床との関わり

・造血幹細胞の表面マーカーとしてCD34がよく用いられ、移植に用いる細胞数の評価にも使われる。 ・G-CSFを投与すると、造血幹細胞が骨髄から末梢血中へ動員される。これを利用して末梢血から幹細胞を採取するのが末梢血幹細胞移植である。 ・造血幹細胞移植には、骨髄移植、末梢血幹細胞移植、臍帯血移植がある。 ・造血幹細胞が障害されると再生不良性貧血のように全系統の血球が減少し、幹細胞レベルの腫瘍化は骨髄増殖性腫瘍や一部の白血病の原因となる。

POINT

・造血幹細胞の2大特徴は「自己複製能」と「多分化能」 ・止血=血小板、貪食=好中球・単球/マクロファージ、酸素運搬=赤血球、血栓溶解=プラスミン系(t-PAは血管内皮細胞が産生) ・成熟血球の機能と、幹細胞の能力(増える・分化する)を区別する ・G-CSFで造血幹細胞が末梢血へ動員され、末梢血幹細胞移植に利用される

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。