触れるリンパ節、触れないリンパ節―身体診察の限界を知る
第120回医師国家試験 E問題 第5問
国試問題にチャレンジ
体表からの触診で腫大を確認できないリンパ節はどれか。
- a.腋窩リンパ節
- b.顎下リンパ節
- c.頸部リンパ節
- d.肺門リンパ節
- e.鎖骨上リンパ節
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
触診で腫大を確認できるのは、頸部・顎下・鎖骨上・腋窩・鼠径などの皮膚直下にある表在リンパ節であり、胸郭内にある肺門リンパ節は体表から触れることができません。肺門・縦隔・腹腔内などの深部リンパ節は、胸部X線写真、CT、超音波、PET-CTなどの画像検査で評価します。腋窩リンパ節は乳癌、左鎖骨上リンパ節はVirchow転移として胃癌など腹部悪性腫瘍、両側肺門リンパ節腫脹はサルコイドーシスと結び付けて覚えておくとよいでしょう。触れたリンパ節は大きさ・硬さ・圧痛・可動性から反応性、癌転移、悪性リンパ腫を推測する手がかりになります。身体診察で評価できる範囲とその限界を理解することは、適切な画像検査を選ぶ臨床判断の基礎になります。
解答・解説
正解はdです
本問は、身体診察(触診)で評価できるリンパ節と、画像検査でしか評価できないリンパ節を区別できるかを問うている。 触診で腫大を確認できるのは、皮膚と皮下組織の直下、あるいは筋肉の浅い層の近くに位置する「表在リンパ節」である。代表的なものは頭頸部(耳介前・耳介後・後頭・オトガイ下・顎下・頸部・鎖骨上)、腋窩、滑車上(肘の内側)、鼠径、膝窩のリンパ節であり、全身のリンパ節診察ではこれらを順に触れていく。 一方、胸腔や腹腔の内部にある「深部リンパ節」(縦隔・肺門・傍大動脈・腸間膜など)は、肋骨や胸壁・腹壁、臓器に囲まれているため、どれほど腫大しても体表から触れることはできない。これらの評価には胸部X線写真、CT、MRI、超音波検査、PET-CTなどの画像検査が必要となる。 したがって、選択肢のうち胸郭内に存在するリンパ節を選べばよい。
選択肢考察
- ×a. 腋窩リンパ節
腋窩(わきの下)の脂肪組織内にある表在リンパ節であり、触診で腫大を確認できる。診察時は患者の腕の力を抜かせ、検者が前腕を支えた状態で腋窩の奥(頂部)から胸壁・前壁・後壁に沿って指先で探ると触れやすい。上肢・胸壁・乳房のリンパ流を受けるため、乳癌の転移先として特に重要であり、乳癌を疑う場合や診断した場合には必ず診察する。
- ×b. 顎下リンパ節
下顎骨の下縁と顎二腹筋に囲まれた顎下三角に位置し、広頸筋のすぐ深部にあるため触診可能である。下顎骨下縁の内側に指を当て、上外方へ押し上げるように触れる。近くに顎下腺があり、腫大リンパ節と顎下腺を混同しないよう注意する。口腔(歯肉・舌・口唇など)や顔面の炎症・腫瘍で腫大しやすい。
- ×c. 頸部リンパ節
頸部リンパ節は、オトガイ下・顎下・前頸部・側頸部(胸鎖乳突筋に沿う深頸リンパ節を含む)などの総称であり、胸鎖乳突筋の前縁・後縁に沿って触れることで腫大を確認できる。頭頸部癌の転移部位として重要で、頸部の腫瘤を視診・触診で発見したことを契機に原発巣が見つかることもある。感染症(伝染性単核球症など)や悪性リンパ腫でも腫大する。
- ○d. 肺門リンパ節
肺門リンパ節は、気管支・肺動静脈が肺に出入りする肺門部、すなわち胸郭の内部(縦隔に接する部位)に存在する。周囲を肋骨・胸壁と肺に囲まれているため、腫大しても体表から触れることは不可能であり、胸部X線写真(肺門陰影の拡大)や胸部CTなどの画像検査で評価する。両側肺門リンパ節腫脹(bilateral hilar lymphadenopathy:BHL)はサルコイドーシスの典型的所見であり、肺癌のリンパ節転移、結核、悪性リンパ腫でも腫大する。
- ×e. 鎖骨上リンパ節
鎖骨の上方のくぼみ(鎖骨上窩)にあり、腫大すれば触知できる。患者に軽く肩をすくめさせたり、深呼吸させたりすると触れやすくなる。左鎖骨上リンパ節は胸管が静脈角に注ぐ部位の近くにあるため、胃癌などの腹部悪性腫瘍の遠隔転移が生じやすく、Virchow(ウィルヒョウ)転移として知られる。右鎖骨上リンパ節は肺・縦隔・食道の病変で腫大しやすい。なお、頭頸部癌の取扱いでは鎖骨上リンパ節は深頸リンパ節の一部に分類される。
表在リンパ節と深部リンパ節
・表在リンパ節(触診で評価可能):耳介前、耳介後、後頭、オトガイ下、顎下、頸部(前頸・側頸)、鎖骨上、腋窩、滑車上、鼠径、膝窩など。 ・深部リンパ節(画像検査で評価):縦隔、肺門、傍大動脈(腹部大動脈周囲)、腸間膜、腸骨動脈周囲など。超音波、CT、MRI、PET-CTで腫大の有無や性状を確認する。
触知リンパ節の性状評価
大きさ、硬さ、圧痛の有無、可動性、癒着(周囲組織や他のリンパ節との一塊化)を確認する。一般に、圧痛を伴い軟らかく可動性良好なものは炎症性(反応性)を、無痛性で硬く可動性不良なものは癌の転移を、弾性硬で無痛性のものは悪性リンパ腫を疑う手がかりとなる。
癌の転移と関連の深いリンパ節
・腋窩リンパ節:乳癌。 ・左鎖骨上リンパ節(Virchow転移):胃癌など腹部悪性腫瘍。 ・頸部リンパ節:頭頸部癌、甲状腺癌。 ・肺門・縦隔リンパ節:肺癌(病期分類に関わり、CTやPET-CT、超音波気管支鏡ガイド下針生検〈EBUS-TBNA〉で評価する)。 ・鼠径リンパ節:外陰・肛門・下肢の悪性腫瘍。
両側肺門リンパ節腫脹(BHL)
サルコイドーシスで高頻度にみられる。胸部X線写真で両側の肺門陰影が拡大して見え、CTで確認する。
POINT
・触診で評価できるのは表在リンパ節(頸部、顎下、鎖骨上、腋窩、鼠径など)である。 ・肺門・縦隔・腹腔内のリンパ節は体表から触れられず、胸部X線写真・CT・超音波などの画像検査で評価する。 ・腋窩リンパ節は乳癌、左鎖骨上リンパ節(Virchow転移)は胃癌など腹部悪性腫瘍、両側肺門リンパ節腫脹(BHL)はサルコイドーシスと結び付けて覚える。
