「説明と同意」はどの法律に?―インフォームド・コンセントの本質と落とし穴
第114回医師国家試験 B問題 第8問
国試問題にチャレンジ
インフォームド・コンセントについて誤っているのはどれか。
- a.医師法に定められている。
- b.患者の自己決定権の行使が目的である。
- c.代替可能な治療法についても提示する。
- d.同意はいつでも撤回することができる。
- e.医療従事者側からの十分な説明が前提である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
インフォームド・コンセントとは、医療従事者が病状や治療の内容、効果と危険性、代替手段や治療しない選択の利点・欠点などを十分に説明し、患者が理解したうえで自発的に医療行為を受けるかを決めることで、目的は患者の自己決定権の保障にあります。同意はいつでも撤回でき、撤回による不利益があってはなりません。法的には医療法第1条の4第2項に医療の担い手の説明努力義務として定められており、医師法には規定がない点が頻出の引っかけです。逆に診療録の記載と5年保存、応招義務などは医師法に規定されているため、両者の取り違えに注意が必要です。救急時などの例外や、インフォームド・アセント、共同意思決定といった関連概念も含めて理解しておくことが、患者中心の医療を実践する土台になります。
解答・解説
正解はaです
インフォームド・コンセント(informed consent:説明を受けたうえでの同意)の目的・内容と、それを定める法律を問う問題である。「誤っているのはどれか」という否定型の設問であることに注意する。 インフォームド・コンセントとは、医療従事者が病状、予定する検査や治療の内容・目的、期待される効果、危険性や副作用、他にとりうる方法(何もしない場合を含む)とその利点・欠点などを十分に説明し、患者がそれを理解したうえで、強制されることなく自らの意思で医療行為を受けるかどうかを決めることをいう。その根底にあるのは患者の自己決定権(自律尊重の原則)であり、医療者側の責任逃れのための手続きではない。 日本の法律上の位置づけは、1997年の医療法改正で加えられた医療法第1条の4第2項である。医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は、医療を提供するにあたり適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならないと定めている(努力義務)。医師法にはインフォームド・コンセントの規定はない。 医師が行う行為なので医師法、と考えがちだが実際は医療法であるという点が出題の狙いである。逆に、病院・診療所で保管される診療録の保存義務(5年間)は医師法に規定されている。この「取り違えやすい組み合わせ」を整理しておくとよい。
選択肢考察
- ○a. 医師法に定められている。
誤った記述であり、本問の正解である。インフォームド・コンセントに関する規定は医療法第1条の4第2項にあり、医師に限らず歯科医師・薬剤師・看護師などすべての医療の担い手に、適切な説明を行って医療を受ける者の理解を得る努力義務を課している。医師法には説明と同意についての条文はない。なお医師法第23条は、診療した患者やその保護者に療養の方法など保健の向上に必要な事項を指導する義務(療養指導義務)を定めているが、これはインフォームド・コンセントとは別の規定である。
- ×b. 患者の自己決定権の行使が目的である。
正しい記述である。インフォームド・コンセントは、自分の身体に何が行われるかを患者自身が決めるという自己決定権を、実際に行使できるようにするためのものである。十分な情報がなければ自己決定はできないため、説明はその前提条件となる。医療者の免責や、同意書を取ることそのものが目的なのではない。
- ×c. 代替可能な治療法についても提示する。
正しい記述である。患者が自分の価値観に合う選択をするためには、医師が勧める方法だけでなく、他の治療法や経過観察(治療しない選択)も含めて、それぞれの効果・危険性・負担などの利点と欠点を示す必要がある。選択肢が一つしか示されなければ、実質的に患者は選ぶことができない。
- ×d. 同意はいつでも撤回することができる。
正しい記述である。自己決定権に基づく以上、患者はいったん与えた同意を理由を問わずいつでも撤回できる。また、同意を撤回したことによって、その後の診療で不利益な扱いを受けてはならない。治験や臨床研究の同意説明文書にも、同意撤回の自由と撤回による不利益がないことを明記することが求められている。
- ×e. 医療従事者側からの十分な説明が前提である。
正しい記述である。「informed(説明を受けて理解した)」という部分が示すように、同意が有効となるには、医療従事者から患者が理解できる言葉で十分な情報が提供され、患者がそれを理解していることが前提となる。説明が不十分なまま得た同意は、形式上署名があっても有効なインフォームド・コンセントとはいえない。
有効なインフォームド・コンセントの要素
・情報の開示:病名・病状、検査や治療の目的と内容、予想される効果、危険性・副作用・合併症、代替手段とその利点・欠点、治療を受けない場合の見通しなど ・理解:患者が説明内容を理解していること(専門用語を避け、質問の機会を設ける) ・同意能力:患者に判断する能力があること。小児や判断能力が低下した患者では家族などの代諾者が関与するが、可能な範囲で本人の意思も尊重する(小児では本人の賛意を得るインフォームド・アセント) ・自発性:強制や不当な誘導がなく、自由意思で決定すること ・同意の撤回の自由
インフォームド・コンセントが例外的に省略・簡略化されうる場面
・生命に危険が差し迫った救急時で、本人の意思確認も代諾者への連絡もできない場合 ・感染症法に基づく入院勧告や、精神保健福祉法に基づく措置入院など、法律に基づく強制的な医療 ・患者自身が説明を受けることを望まない場合(知らないでいる権利)
歴史的背景
・ニュルンベルク綱領(1947年):ナチスの人体実験の反省から、被験者の自発的同意を不可欠とした。 ・ヘルシンキ宣言(1964年、世界医師会):ヒトを対象とする医学研究の倫理原則で、インフォームド・コンセントを要件とした。 ・リスボン宣言(1981年、世界医師会):患者の権利に関する宣言で、自己決定権や情報を得る権利をうたった。
取り違えやすい法律の規定
・医療法:インフォームド・コンセント(医療の担い手の説明努力義務)、病院・診療所の開設や構造設備、医療安全、診療に関する諸記録(2年保存)など ・医師法:医師免許、応招義務(第19条)、無診察治療等の禁止(第20条)、異状死体等の届出(第21条)、処方箋の交付義務(第22条)、療養指導義務(第23条)、診療録の記載と5年間の保存(第24条)など
関連する概念
・セカンドオピニオン:主治医以外の医師に意見を求めること。自己決定のための情報を補う手段であり、主治医は診療情報の提供に協力する。 ・共同意思決定(SDM:shared decision making):医療者が医学的根拠を、患者が価値観や生活背景を出し合い、一緒に方針を決めていく考え方。
POINT
・インフォームド・コンセントは医療法第1条の4第2項に規定(努力義務)。医師法ではない。 ・逆に診療録の記載・5年保存は医師法第24条。 ・目的は患者の自己決定権の保障であり、医療者の免責ではない。 ・十分な説明(代替治療や治療しない選択を含む)と患者の理解が前提。 ・同意はいつでも撤回でき、撤回による不利益があってはならない。
