失調は右か左か―「二重交叉」で解く小脳と伝導路の左右問題
第114回医師国家試験 B問題 第7問
国試問題にチャレンジ
右上肢に運動失調をきたす病変部位はどれか。
- a.右放線冠
- b.右中脳被蓋
- c.右小脳半球
- d.左延髄外側
- e.左脊髄後索
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
運動失調がどちら側に出るかは、伝導路の交叉部位から判断します。小脳半球の出力は上小脳脚の交叉と錐体交叉で二重に交叉するため、小脳半球の障害は同側の四肢失調を起こし、延髄外側(Wallenberg症候群での下小脳脚障害)や脊髄後索の障害でも同側に失調が出ます。一方、上小脳脚の交叉より上位にある中脳被蓋(Claude症候群など)、視床、内包、放線冠(失調性片麻痺)の障害では対側に失調が出ます。小脳性失調はRomberg徴候陰性、脊髄後索障害による感覚性失調は陽性という違いも鑑別に役立ちます。交叉の位置を押さえて病変部位と症状の左右を対応させる考え方は、神経診察と局在診断の基本です。
解答・解説
正解はcです
運動失調(ataxia)とは、筋力低下がないのに、複数の筋の動きを協調させることができず、動作が滑らかに正確に行えない状態をいう。原因によって、小脳性、脊髄性(深部感覚障害による感覚性失調)、前庭性、大脳性などに分けられる。本問は、病変部位と、その病変で失調が「左右どちら側」に出るかを、伝導路の走行と交叉部位から判断する問題である。
失調の出る側を決める原則
・小脳は同側の身体を制御する。小脳から大脳への出力(歯状核→上小脳脚→中脳で交叉→対側の赤核・視床→大脳皮質)と、大脳皮質から脊髄への出力(皮質脊髄路が延髄下端の錐体交叉で再び交叉)とで2回交叉するため、結果として小脳半球の障害は同側の四肢の失調を起こす。 ・したがって、小脳そのもの、あるいは上小脳脚の交叉より下位の小脳との連絡路(下小脳脚・中小脳脚など)の障害では同側に失調が出る。 ・上小脳脚の交叉(中脳下部)より上位、つまり中脳被蓋の赤核付近、視床、内包、放線冠などの障害では対側に失調が出る。 ・脊髄後索(深部感覚)は脊髄内では交叉せず同側を上行し、延髄で交叉して内側毛帯となる。よって脊髄後索の障害では同側の感覚性失調が出る。 これらを当てはめると、右上肢の失調を生じるのは、右小脳半球、右の延髄外側(下小脳脚)、右の頸髄後索、左の中脳被蓋・視床・内包・放線冠などの病変である。選択肢の中では右小脳半球のみがこれに該当する。
選択肢考察
- ×a. 右放線冠
放線冠は大脳皮質と内包の間を扇状に走る投射線維の集まりで、皮質脊髄路や、小脳からの情報を視床経由で受けて大脳皮質から下行する皮質橋小脳路などが通る。この部位のラクナ梗塞では、軽い片麻痺と同側(麻痺と同じ側)の小脳性失調が組み合わさる失調性片麻痺(ataxic hemiparesis)を生じることがある。しかし症状は病変と反対側に出るため、右放線冠の病変では左上下肢に麻痺や失調が出る。
- ×b. 右中脳被蓋
中脳被蓋には動眼神経核・動眼神経線維、赤核、すでに交叉を終えた上小脳脚の線維、内側毛帯などが含まれる。上小脳脚は中脳下部で交叉して対側の赤核・視床へ向かうため、交叉後の線維が走る右中脳被蓋の障害では左側に失調や振戦などの不随意運動が出る。代表例が、同側の動眼神経麻痺に対側の小脳性失調を伴うClaude症候群や、同側の動眼神経麻痺に対側の振戦・不随意運動(内側毛帯が及べば対側の感覚障害)を伴うBenedikt症候群である。右上肢には失調は出ない。
- ○c. 右小脳半球
小脳半球は同側の四肢の協調運動を制御している。小脳からの出力は上小脳脚で交叉して対側の大脳皮質に至り、大脳皮質からの皮質脊髄路が錐体交叉で再び交叉するため、二重交叉の結果、小脳半球の障害は同側に症状を出す。右小脳半球の病変では右上下肢に、測定障害(指鼻試験で目標を行き過ぎる・届かない)、企図振戦、反復拮抗運動不能(手の回内・回外の交互運動がぎこちない)などの小脳性失調が現れる。
- ×d. 左延髄外側
延髄外側の障害はWallenberg症候群(延髄外側症候群)を起こす。病変側には下小脳脚の障害による小脳性失調、顔面の温痛覚障害(三叉神経脊髄路核・脊髄路)、Horner症候群、球麻痺(嚥下障害・構音障害・嗄声)が、対側には頸部以下の温痛覚障害(外側脊髄視床路)が出る。錐体路と内側毛帯は延髄の内側を通るため障害されず、運動麻痺や深部感覚障害はみられない。失調は病変と同側に出るので、左延髄外側の病変では左上下肢の失調となる。
- ×e. 左脊髄後索
脊髄後索は位置覚・振動覚などの深部感覚を伝え、脊髄内では交叉せず同側を上行し、延髄の後索核(薄束核・楔状束核)を経て交叉する。したがって左後索の障害では左側の深部感覚障害による感覚性失調(脊髄性失調)が生じ、右上肢には出ない。感覚性失調は視覚で代償されるため、閉眼で増悪するのが特徴でRomberg徴候が陽性となる。なお上肢の失調が出るのは、上肢からの線維(楔状束)が加わる頸髄レベルの病変の場合である。
運動失調の分類と特徴
・小脳性失調:測定障害、企図振戦、反復拮抗運動不能、筋緊張低下、断綴性・爆発性言語、眼振、酩酊様の歩行などを示す。深部感覚は正常で、閉眼しても症状は大きく変わらないためRomberg徴候は陰性。小脳虫部の障害では体幹失調(座位・立位の動揺、失調性歩行)が、小脳半球の障害では同側の四肢失調が目立つ。 ・脊髄性(感覚性)失調:脊髄後索や後根の障害で深部感覚が低下して起こる。位置覚・振動覚の低下、Romberg徴候陽性、洗面現象(閉眼で洗顔すると身体がふらつく)、足元を見ながら踵を床に打ちつけるような歩行が特徴。原因として亜急性連合性脊髄変性症(ビタミンB12欠乏)、脊髄癆、Friedreich失調症などがある。 ・末梢神経性失調:大径有髄線維が障害される末梢神経障害(感覚性ニューロパチー、Guillain-Barré症候群の亜型であるFisher症候群など)で起こる。Romberg徴候陽性で、腱反射が低下・消失する。 ・前庭性失調:起立・歩行時の平衡障害と眼振、めまいを伴うが、臥位での四肢の協調運動(指鼻試験など)は保たれる。一側障害では患側へ倒れやすい。
Romberg徴候
両足をそろえて立たせ、開眼では安定しているが閉眼すると大きく動揺・転倒する場合を陽性とする。視覚による代償が失われると深部感覚の障害が表に出るためであり、脊髄性・末梢神経性失調で陽性となる。小脳性失調では開眼時から不安定で、閉眼しても大差がないため陰性と判定する。
失調が出る側のまとめ
・同側に出る:小脳半球、中・下小脳脚、延髄外側(Wallenberg症候群)、上小脳脚交叉前、脊髄後索 ・対側に出る:中脳被蓋(赤核、交叉後の上小脳脚:Claude症候群など)、視床、内包、放線冠(失調性片麻痺)
小脳の主な入出力
・入力:下小脳脚(脊髄小脳路、前庭・オリーブからの線維)、中小脳脚(大脳皮質→橋核→対側小脳の皮質橋小脳路) ・出力:上小脳脚(歯状核→交叉→対側の赤核・視床VL核→大脳運動野)
POINT
・小脳半球の障害は同側の四肢失調を起こす(小脳出力の上小脳脚交叉と錐体交叉による二重交叉のため)。 ・延髄外側(下小脳脚)障害も同側の失調。Wallenberg症候群では錐体路と内側毛帯は障害されない。 ・上小脳脚交叉より上位(中脳被蓋・視床・内包・放線冠)の障害は対側の失調。 ・脊髄後索の障害は同側の感覚性失調でRomberg徴候陽性。小脳性失調はRomberg徴候陰性。
