「疑い」の段階で動く―虐待が疑われる子どもを前に医師がすべきこと
第114回医師国家試験 B問題 第5問
国試問題にチャレンジ
虐待が疑われる小児を診察した際の対応として適切なのはどれか。
- a.学校に連絡する。
- b.警察へ通報する。
- c.虐待の事実を立証する。
- d.児童相談所に通告する。
- e.親に事実関係を確認する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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医学生
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医学生
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医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
児童虐待防止法では、虐待を受けたと「思われる」児童を発見した者はすべて、速やかに児童相談所・市町村・福祉事務所へ通告する義務があり、確証や立証は必要ありません。この通告は医師の守秘義務違反には当たらず、医師は保護者を問い詰めたり学校や警察へ連絡したりするのではなく、外傷の所見や説明との食い違いを客観的に記録したうえで、児童相談所に判断を委ねます。通告後は児童相談所が原則48時間以内に安全確認を行い、必要に応じて保護者の同意なしに一時保護を行うことができます。高齢者虐待・障害者虐待は市町村、配偶者暴力は配偶者暴力相談支援センターまたは警察と、通報先の違いもあわせて整理しておきましょう。「疑いの段階で、正しい窓口に」という原則は、子どもの命を守るために臨床医が必ず身につけておくべき行動規範です。
解答・解説
正解はdです
医師が診察の場で児童虐待を疑ったときにとるべき行動を問う問題である。 根拠となるのは「児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)」である。同法第6条は、児童虐待を受けたと「思われる」児童を発見した者に、速やかに市町村、都道府県の設置する福祉事務所、または児童相談所へ通告する義務を課している。ここでいう義務は医師に限らず、すべての国民に及ぶ。また同法第5条は、医師・保健師・教職員・弁護士など職務上児童虐待を発見しやすい立場にある者に、早期発見に努める義務を定めている。 押さえるべき点は次の3つである。 ・通告の要件は「疑い」で足りる。虐待であるという確証や証拠をそろえる必要はない。 ・通告先は児童相談所・市町村・福祉事務所である(児童相談所虐待対応ダイヤル「189」も利用できる)。 ・通告は守秘義務違反にならない。同法第6条第3項は、刑法の秘密漏示罪などの守秘義務規定が通告義務の遂行を妨げるものと解釈してはならないと明記している。 したがって医師は、虐待の有無を自分で確定しようとしたり、保護者を問いただしたりするのではなく、診察所見を客観的に記録したうえで、速やかに児童相談所などの公的機関に通告し、その後の調査と判断を専門機関に委ねるのが適切である。
選択肢考察
- ×a. 学校に連絡する。
学校は法律上の通告先ではない。学校や教職員は医師と同じく虐待を早期発見すべき立場にあり、学校自身が虐待を疑えば児童相談所などへ通告する側である。医師から学校へ連絡しても、立入調査や一時保護などの法的権限を持つ機関に情報が届かず、子どもの安全確保につながらない。また、本人や家族の同意なく学校に診療情報を伝えることは、守秘義務の観点からも問題となりうる。
- ×b. 警察へ通報する。
児童虐待防止法が定める通告先は児童相談所・市町村・福祉事務所であり、警察は含まれない。通告を受けた児童相談所が調査を行い、刑事事件として扱うべきと判断した場合や、安全確認・立入調査に際して必要な場合に警察と連携する仕組みになっている。なお、生命に危険が差し迫っているなど緊急性が極めて高い場面では警察への連絡が併用されることもあるが、虐待を疑ったときの基本的な対応として第一に選ぶべきものではない。
- ×c. 虐待の事実を立証する。
通告には虐待の確証は不要であり、「虐待を受けたと思われる」段階で通告することが求められる。立証を待っていると通告が遅れ、その間に子どもが重大な被害を受けるおそれがある。事実関係の調査は児童相談所の役割であり、刑事責任を問う場面で犯罪事実を立証するのは検察官である。医師の役割は、外傷の部位・形態・時期の推定、説明との食い違いなどの所見を診療録や写真に客観的に残し、調査に役立てることである。
- ○d. 児童相談所に通告する。
児童虐待防止法第6条により、虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに児童相談所・市町村・福祉事務所のいずれかに通告しなければならない。医師も当然この義務を負い、通告は守秘義務違反には当たらない。通告を受けた児童相談所は児童の安全確認を行い、必要に応じて立入調査や、児童相談所長の判断による一時保護を行う。医師が取るべき対応として最も適切である。
- ×e. 親に事実関係を確認する。
医師が保護者を問いただすと、保護者が警戒して受診を中断したり、子どもを医療機関や関係機関から遠ざけたり、証拠を隠したりするおそれがある。さらに、保護者が刺激されて子どもへの加害がエスカレートする危険もある。受傷機転を通常の問診として聴取し記録することは必要だが、虐待の有無を保護者に確認・追及することは避け、判断は児童相談所に委ねる。
児童虐待の4類型(児童虐待防止法第2条)
・身体的虐待:殴る、蹴る、やけどを負わせる、激しく揺さぶるなど ・性的虐待:子どもへの性的行為、性的行為を見せる、ポルノの被写体にするなど ・ネグレクト:食事を与えない、ひどく不潔にする、重い病気でも受診させない、同居人による虐待を放置するなど ・心理的虐待:言葉による脅し、無視、きょうだい間の差別的扱い、子どもの目の前で家族に暴力をふるう(面前DV)など 近年の児童相談所の対応件数では心理的虐待が最も多い。
虐待を疑う所見の例
・説明された受傷機転と外傷の程度や部位が合わない、説明が変わる ・受診の遅れ ・新旧混在した多発外傷、多発骨折(特に骨幹端骨折や後部肋骨骨折) ・タバコによる円形熱傷、境界が鮮明な浸水型熱傷 ・乳児の硬膜下血腫や眼底出血(乳幼児揺さぶられ症候群など、虐待による頭部外傷) ・体重増加不良、不潔な身なり、予防接種や健診の未受診
通告後の流れ
通告を受けた児童相談所は、原則として48時間以内に子どもの安全を直接目視で確認することが国の指針で求められている。必要に応じて都道府県知事による立入調査(警察の援助を求められる)、児童相談所長の判断による一時保護(保護者の同意は不要)が行われ、さらに施設入所や里親委託などの措置へ進むことがある。
医療機関の体制
多くの病院では院内に児童虐待対応チーム(CPT:Child Protection Team)を置き、個々の医師が一人で判断を抱え込まず、組織として通告と記録を行う体制をとっている。
関連する他の法律の通報先との区別
・配偶者からの暴力(DV防止法):配偶者暴力相談支援センターまたは警察に通報するよう努める(努力義務) ・高齢者虐待(高齢者虐待防止法):市町村に通報 ・障害者虐待(障害者虐待防止法):市町村(使用者による虐待は市町村または都道府県)に通報
POINT
・児童虐待は「疑い」の段階で通告する。確証は不要である。 ・通告先は児童相談所・市町村・福祉事務所(虐待対応ダイヤル189)。警察や学校は法定の通告先ではない。 ・通告義務はすべての国民にあり、医師の守秘義務に優先する(通告は守秘義務違反にならない)。 ・医師は保護者を問い詰めたり自ら立証したりせず、所見を客観的に記録して専門機関に委ねる。 ・一時保護は児童相談所長の権限で行われ、保護者の同意は不要である。
