運動で消える不整脈は怖くない―学校心臓検診で見つかった心室性期外収縮の見極め方
第114回医師国家試験 B問題 第36問
国試問題にチャレンジ
13歳の男子。学校心臓検診で心電図異常を指摘され,父親に連れられて受診した。自覚症状はない。脈拍76/分,不整。血圧110/74mmHg。心エコー検査所見に異常を認めない。心電図を別に示す。この心電図にみられる期外収縮は運動により消失した。Holter心電図検査において期外収縮の連発を認めなかった。 患児および父親への説明として正しいのはどれか。

- a.「不整脈の薬を飲みましょう」
- b.「心臓カテーテル検査を行います」
- c.「体育の実技は見学してください」
- d.「心配はないので経過をみていきましょう」
- e.「カテーテルアブレーションという治療を行います」
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
学校心臓検診で見つかる不整脈として多い心室性期外収縮は、先行するP波のない幅広いQRSが早いタイミングで出現するのが特徴で、Ⅱ・Ⅲ・aVFで陽性の下方軸なら流出路起源の特発性PVCが示唆されます。リスク評価では、症状の有無、心エコーでの器質的心疾患の有無、運動による変化、Holter心電図での連発や多形性の有無を確認し、無症状・心疾患なし・単形性かつ単発・運動で消失・連発なしなら良性と判断します。良性のPVCには抗不整脈薬、カテーテルアブレーション、心臓カテーテル検査、運動制限はいずれも不要で、経過観察が適切です。一方、運動で増加・連発する、多形性、失神などの症状や基礎心疾患がある場合、あるいはPVCが非常に多い場合は精査や治療を検討します。「治療しない」という判断を根拠をもって説明できることは、子どもの生活を守るうえで欠かせない臨床能力です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・13歳男子。学校心臓検診で心電図異常を指摘されたが、自覚症状(動悸、胸痛、失神など)はない。 ・脈拍76/分で不整、血圧110/74mmHgは年齢相応で、循環動態に問題はない。 ・心エコー検査で異常なし → 心筋症、弁膜症、先天性心疾患などの器質的心疾患(心臓の構造そのものの病気)は認めない。 ・心電図:洞調律の幅の狭いQRS波の間に、先行するP波を伴わない幅の広いQRS波が単発で散発的に出現している。この幅広い心拍は心室性期外収縮(PVC:premature ventricular contraction)である。期外収縮のQRSはⅡ・Ⅲ・aVFで大きく上向き、aVLで下向きであり、電気的興奮が心臓の上方から下方へ向かっていること(下方軸)を示す。このような形の期外収縮は右室または左室の流出路から生じることが多く、器質的心疾患のない若年者にみられる特発性心室性期外収縮の典型的なパターンである。 ・期外収縮は運動によって消失し、Holter心電図(24時間心電図)でも連発(2発以上続けて出ること)はない。
診断と判断のプロセス
心室性期外収縮そのものは健康な人にもしばしばみられる不整脈で、問題になるのは「危険な不整脈(心室頻拍・心室細動)に移行しやすいか」「背景に心臓病があるか」である。リスクを評価する主なポイントは次のとおりである。 ①症状の有無(失神やめまい、動悸の自覚) ②器質的心疾患の有無(心エコーなど) ③運動による変化(運動で増加・連発する場合は要注意、運動で減少・消失すれば良性の可能性が高い) ④連発の有無や多形性(Holter心電図) 本例は、無症状、器質的心疾患なし、単形性・単発、運動で消失、連発なし、とすべての点で良性を示しており、特発性の心室性期外収縮と判断できる。予後は良好で、治療も運動制限も必要なく、定期的な経過観察を行えばよい。 学校生活管理指導表に当てはめると、運動制限のない管理区分(E可)、あるいは管理不要に相当する。
選択肢考察
- ×a. 「不整脈の薬を飲みましょう」
誤り。抗不整脈薬は、期外収縮による強い自覚症状(動悸など)がある場合、期外収縮が非常に多く心機能低下(期外収縮誘発性心筋症)を招いている場合、心室頻拍など危険な不整脈がある場合などに考慮する。抗不整脈薬自体が新たな不整脈を誘発する作用(催不整脈作用)を持つものもあるため、無症状で心疾患もない良性の単発期外収縮に投与する利点はない。
- ×b. 「心臓カテーテル検査を行います」
誤り。心臓カテーテル検査は血管内に管を挿入する侵襲的な検査であり、心エコーなどの非侵襲的検査で異常が疑われ、さらに詳しい評価(冠動脈の状態、心内圧の測定、心筋生検など)が必要な場合に行う。本例は心エコー・運動負荷・Holter心電図のいずれでも危険な所見がなく、侵襲的な検査を追加する理由はない。
- ×c. 「体育の実技は見学してください」
誤り。運動で消失する期外収縮は、運動時に増える交感神経の働きで洞調律の心拍数が上がり、期外収縮が出る余地がなくなるために消えるもので、運動による危険性は低いと判断される。反対に、運動で期外収縮が増える、連発する、多形性になるといった場合は運動制限を検討する。本例は器質的心疾患もないため運動制限は不要であり、不必要な制限は子どもの心身の発達や学校生活の質を損なう。
- ○d. 「心配はないので経過をみていきましょう」
正しい。無症状で器質的心疾患がなく、単形性・単発で、運動で消失し、Holter心電図でも連発を認めない心室性期外収縮は良性の特発性心室性期外収縮であり、生命予後は良好である。治療や運動制限は不要で、普段どおりの生活を続けながら、学校心臓検診や外来で定期的に心電図を確認していけばよい。経過中に動悸・失神などの症状が出現した場合や、期外収縮の増加・連発がみられた場合には再評価する。
- ×e. 「カテーテルアブレーションという治療を行います」
誤り。カテーテルアブレーションは、不整脈の発生源や回路をカテーテル先端からの高周波通電などで焼灼する治療である。心室性期外収縮に対しては、症状が強く薬が効かない場合や、期外収縮が非常に多く心機能低下をきたしている場合などに考慮されるが、本例のように無症状で頻度も少なく心機能も正常な良性の期外収縮では適応とならない。
心室性期外収縮(PVC)の心電図
・洞調律のリズムより早いタイミングで、先行するP波を伴わない幅の広い(0.12秒以上)変形したQRS波が出現する。 ・T波はQRSと逆向きになることが多い。 ・期外収縮の前後のRR間隔の和が、洞調律のRR間隔のほぼ2倍となる(代償性休止期)ことが多い。 ・QRSの形から発生部位を推定できる。Ⅱ・Ⅲ・aVFで上向き(下方軸)なら流出路起源が多く、V1で左脚ブロック型なら右室起源、右脚ブロック型なら左室起源が示唆される。
PVCのリスク評価
・良性を示唆する所見:無症状、器質的心疾患なし、単形性、単発、運動で減少・消失。 ・注意を要する所見:失神などの症状、器質的心疾患(心筋症、心筋炎、先天性心疾患術後など)の合併、多形性、連発(2連発、3連発以上は非持続性心室頻拍)、運動で増加・連発、R on T型(先行するT波の頂上付近に出現)、QT延長の合併。 ・心筋梗塞後の患者などで用いられたLown分類は、期外収縮の頻度・多形性・連発・R on Tで重症度を段階付けたものである。 ・心室性期外収縮が非常に多い場合(1日の総心拍数の概ね10~20%以上など)は、心機能低下(期外収縮誘発性心筋症)をきたしうるため、心エコーで経過を追う。
学校心臓検診
・小学校1年、中学校1年、高校1年で心電図検査が行われる。 ・心室性期外収縮は検診で発見される不整脈として頻度が高い。 ・精密検査では心エコー、運動負荷心電図、Holter心電図などで危険度を判定し、学校生活管理指導表で管理区分(A:在宅医療・入院が必要~E:普通の生活可)と運動の可否を決める。
POINT
・無症状、器質的心疾患なし、単発・単形性、運動で消失、Holter心電図で連発なし → 良性の特発性心室性期外収縮。 ・良性のPVCは治療も運動制限も不要で、経過観察とする。 ・運動で増加・連発する、多形性、失神などの症状、基礎心疾患の合併がある場合は精査・治療や運動制限を検討する。 ・抗不整脈薬やカテーテルアブレーションは、症状が強い場合や心機能低下・危険な不整脈がある場合に考慮する。
