StudyMed医師国家試験

3日続く動悸、すぐに戻すか、まず落ち着かせるか―心房細動の初期対応は「48時間」が分かれ道

第120回医師国家試験 D問題 第52問

国試問題にチャレンジ

第120回 D問題 第52問

78歳の女性。動悸を主訴に来院した。高血圧で治療中である。1か月前から週に1回程度,誘引なく動悸症状があるが数分で改善していた。3日前から動悸症状が持続している。日常生活には支障はないが,症状が持続するため受診した。意識は清明。身長156cm,体重45kg。脈拍116/分,不整。血圧108/68mmHg。SpO2 98%(room air)。心音と呼吸音とに異常を認めない。心エコー検査では左室壁運動は良好に保たれている。12誘導心電図(A)と胸部エックス線写真(B)とを下に示す。  抗凝固薬投与とともに,症状改善目的の初期対応で適切なのはどれか。

第120回 D問題 第52問の問題画像
  1. a.β遮断薬投与
  2. b.ジギタリス投与
  3. c.カテーテルアブレーション
  4. d.アデノシン三リン酸急速静注
  5. e.直ちにカルディオバージョン

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、動悸で受診した高齢女性の不整脈を診断して、症状を改善するための最初の一手を選ぶ問題だ。注目してほしいのは、心電図の波形、血行動態が安定しているかどうか、そして発作が始まってからどのくらい経っているか、の3点だよ。まず心電図から何がわかるかな。
医学生医学生
P波がはっきりせず、基線が細かく揺れていて、RR間隔がバラバラです。心房細動だと思います。
ドクタードクター
その通り。P波の代わりにf波と呼ばれる細動波が見えて、RR間隔が全く不規則、いわゆる絶対性不整脈だね。QRS幅は狭いから、心室内の伝導はふつうだ。高齢と高血圧はどちらも心房細動の代表的な危険因子だから、背景とも合っている。
医学生医学生
脈は速いですが、血圧は保たれていて意識もはっきりしています。緊急で何かしないといけない状況ではないということでしょうか。
ドクタードクター
いい着眼点だ。ショックや急性心不全、心筋虚血があれば、経過時間に関係なくすぐに電気的除細動を行う。でも今回は血圧が保たれ、胸部エックス線写真でも心拡大や肺うっ血、胸水はなく、心エコーで左室の動きもよい。血行動態は安定していると判断できる。
医学生医学生
では、心房細動の治療の柱を整理すると、抗凝固と、脈を整える治療ですよね。循環器内科の講義でも三本柱と習いました。
ドクタードクター
そう。血栓塞栓症の予防である抗凝固療法、症状を改善するためのレートコントロールかリズムコントロール、そして背景疾患の管理だ。設問では抗凝固薬はすでに前提になっているから、問われているのは2つ目。ここで大事になるのが、3日前から持続しているという時間経過なんだ。
医学生医学生
正直、洞調律に戻せば一番すっきりするので、すぐにカルディオバージョンしたくなってしまいます。
ドクタードクター
そこが落とし穴だね。心房細動が48時間以上続くと、心房がきちんと収縮しないぶん血流がよどんで、左房、特に左心耳に血栓ができている可能性がある。その状態で洞調律に戻すと、心房の収縮が回復した拍子に血栓が飛んで脳塞栓症を起こしかねない。だから直ちにカルディオバージョンするのは不適切なんだ。
医学生医学生
なるほど、戻した瞬間が危ないんですね。じゃあ除細動したい場合はどうするんですか。
ドクタードクター
少なくとも3週間しっかり抗凝固療法を行うか、経食道心エコーで左房内に血栓がないことを確認してから行う。そして除細動後も少なくとも4週間は抗凝固療法を続ける。洞調律に戻ってもしばらくは心房の動きが十分に回復しないからだ。
医学生医学生
ということは、今やるべきなのは心拍数を下げるレートコントロールで、β遮断薬が正解ですね。
ドクタードクター
正解。β遮断薬はβ1受容体を遮断して房室結節の伝導を遅らせ、心室に伝わる興奮を減らして心拍数を下げる。左室収縮能が保たれて心不全もない心房細動では、ベラパミルやジルチアゼムのような非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬と並ぶ第一選択だ。血圧はやや低めだから、少量から慎重に始めるのがポイントだね。
医学生医学生
ジギタリスも心拍数を下げる薬だと薬理学で習いました。なぜこちらではないんでしょうか。
ドクタードクター
ジギタリスは迷走神経を介して房室伝導を抑えるけれど、効き始めるのが遅く、動いたときなど交感神経が高まった状態では心拍数を抑えにくい。しかも治療域と中毒域が近く腎排泄性だから、高齢で体重45kgと小柄な人では中毒の危険が高い。悪心や視覚異常、徐脈、心室性不整脈などが出うる。今は主に左室収縮能が低下した心不全例や、他の薬で不十分なときの追加薬という位置づけだ。
医学生医学生
ATPの急速静注は、救急外来の実習で頻拍を止めるのに使っているのを見ました。
ドクタードクター
それはおそらく発作性上室頻拍だね。房室結節リエントリー性頻拍や房室回帰性頻拍のように、房室結節を回路に含む頻拍なら、ATPで房室結節を一瞬強く遮断すると止まる。でも心房細動は心房内の無秩序な興奮が原因で、房室結節には依存しない。一瞬脈が遅くなっても停止しないし、作用は数秒で切れる。気管支攣縮の副作用もあり、適応はないんだ。
医学生医学生
カテーテルアブレーションは根治が狙えるので、魅力的に見えました。
ドクタードクター
肺静脈と左房の間を電気的に隔離する肺静脈隔離術は、症候性の発作性心房細動では有力な選択肢だよ。ただ、これは計画して待機的に行う治療で、来院直後の症状改善を目的とした初期対応ではない。施行前後の抗凝固や左房内血栓の除外も必要になる。
医学生医学生
まとめると、血行動態が安定していて48時間以上経っていれば、抗凝固とレートコントロールでまず落ち着かせる、という流れですね。
ドクタードクター
その理解で完璧だ。最後に周辺知識も押さえよう。抗凝固の適応はCHADS2スコアで評価する。心不全、高血圧、75歳以上、糖尿病が各1点、脳梗塞や一過性脳虚血発作の既往が2点で、この患者さんは高血圧と年齢で2点だから適応がある。非弁膜症性なら直接経口抗凝固薬が第一選択で、機械弁や中等度以上の僧帽弁狭窄症ではワルファリンを使う。
医学生医学生
分類についても確認させてください。3日続いているなら、もう持続性心房細動になるんでしょうか。
ドクタードクター
よくある誤解だね。現在の分類では、発症後7日以内に洞調律に戻るものを発作性、7日を超えて続くものを持続性と呼ぶ。だから3日目の今は発作性心房細動が持続している段階だ。臨床では、分類の名前よりも、48時間を超えているかどうかと血行動態が安定しているかどうかが、目の前の治療方針を決める鍵になるよ。

まとめ

動悸と不整な頻脈があり、心電図でP波の消失・f波・RR間隔の絶対的不整を認めれば心房細動と診断できます。血行動態が破綻していれば経過時間にかかわらず緊急の電気的除細動を行いますが、安定していて発症から48時間以上経過している場合は左房内血栓のリスクがあるため、直ちに洞調律化せず、抗凝固療法とともにレートコントロールを行うのが原則です。左室収縮能が保たれた例ではβ遮断薬または非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬が第一選択で、ジギタリスは即効性に乏しく高齢・低体重では中毒に注意が必要です。ATPは房室結節を回路に含む発作性上室頻拍の停止薬で心房細動には無効、カテーテルアブレーションは待機的な根治療法です。除細動を行う場合は3週間以上の抗凝固または経食道心エコーでの血栓否定が前提となり、この「血行動態」と「48時間」の二軸で考える習慣は、救急外来での心房細動診療の基本となります。

解答・解説

正解はaです

所見の整理

・78歳女性、高血圧で治療中:高齢と高血圧はいずれも心房細動(atrial fibrillation:AF)の代表的な危険因子である。 ・1か月前から週1回程度、きっかけなく動悸が起こり数分で自然に治まっていた:自然停止する発作性の頻脈性不整脈が繰り返されていたことを示す。 ・3日前からは動悸が止まらず持続している:発作が自然停止せずに続いている状態であり、発症から48時間以上が経過している点が治療方針上きわめて重要である。 ・脈拍116/分で不整:頻脈で、かつリズムが不規則(絶対性不整脈)であり、AFを強く疑わせる。 ・血圧108/68mmHg、意識清明、SpO2 98%、心音・呼吸音正常、日常生活に支障なし:血行動態は安定しており、ショックや急性心不全の徴候はない。 ・心エコーで左室壁運動良好:左室収縮能は保たれている。 ・12誘導心電図(A):P波が消失し基線が細かく揺れる細動波(f波)を認め、RR間隔が全く不規則である。QRS幅は狭い。これによりAFと診断できる。 ・胸部エックス線写真(B):明らかな心拡大、肺うっ血、胸水(肋骨横隔膜角の鈍化)を認めない。

診断

発作性に繰り返していたAFが、今回は3日間持続している状態である。なお、現在の分類では発症後7日以内に停止するものを発作性、7日を超えて持続するものを持続性と呼ぶため、3日目の現時点では「発作性AFの持続中」と位置づけられる。いずれにせよ、頻脈を伴うAF(脈拍116/分)で、血行動態は安定、左室収縮能は保たれ、心不全徴候はない。

初期対応の考え方

AF診療の柱は、①脳梗塞などの血栓塞栓症の予防(抗凝固療法)、②症状の改善(心拍数を下げるレートコントロール、または洞調律に戻すリズムコントロール)、③背景疾患の管理である。本問では①の抗凝固薬はすでに前提とされ、②について「症状改善目的の初期対応」が問われている。 発症から48時間以上経過したAFでは左房(特に左心耳)内に血栓が形成されている可能性があり、洞調律に戻した瞬間に心房収縮が回復して血栓が飛ぶ危険がある。そのため、血行動態が安定している限り、すぐに除細動(リズムコントロール)を行うのではなく、まず抗凝固療法を開始しつつ心拍数を適正化するレートコントロールを行うのが原則である。左室収縮能が保たれ心不全もない本例では、レートコントロールの第一選択はβ遮断薬(あるいは非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬)となる。

選択肢考察

  1. ○a.  β遮断薬投与

    β遮断薬は交感神経β1受容体を遮断して房室結節の伝導を遅らせ、心室に伝わる興奮の数を減らすことで心拍数を下げる。左室収縮能が保たれ心不全徴候のないAFでは、非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬(ベラパミル、ジルチアゼム)と並んでレートコントロールの第一選択であり、効果発現も速い。血圧は108/68mmHgとやや低めだが血行動態は安定しており、少量から慎重に開始すれば使用可能である。抗凝固療法と組み合わせる症状改善目的の初期対応として最も適切である。

  2. ×b.  ジギタリス投与

    ジギタリス(ジゴキシン)は迷走神経を介して房室伝導を抑え心拍数を下げる作用があり、AFのレートコントロールに使われることはある。しかし、作用発現が遅く、安静時には効いても労作時など交感神経が亢進した状態での心拍数抑制効果は弱い。また治療域と中毒域が近く、腎排泄性であるため、高齢・低体重(45kg)で腎機能が低下しやすい本例ではジギタリス中毒(悪心、視覚異常、徐脈、心室性不整脈など)の危険が高い。現在は収縮能の保たれたAFでの第一選択ではなく、主に左室収縮能が低下した心不全合併例や他剤で不十分な場合の追加薬として位置づけられる。

  3. ×c.  カテーテルアブレーション

    カテーテルアブレーションは、AFの主な発生源である肺静脈と左房の間を電気的に隔離する(肺静脈隔離術)ことで再発を抑える根治的なリズムコントロール治療である。症候性の発作性AFでは有力な選択肢だが、待機的に計画して行う治療であり、来院直後の症状改善目的の初期対応として行うものではない。また施行前後には十分な抗凝固療法と左房内血栓の除外が必要である。

  4. ×d.  アデノシン三リン酸急速静注

    アデノシン三リン酸(ATP)の急速静注は、房室結節を一過性に強く遮断する。房室結節リエントリー性頻拍(AVNRT)や房室回帰性頻拍(AVRT)のように、房室結節を回路に含む発作性上室頻拍(PSVT)の停止に有効である。AFは心房内の無秩序な興奮が原因で房室結節に依存しないため、ATPで一瞬心拍数が下がっても停止せず、作用時間も数秒と極めて短いため治療にならない。むしろ、心房の不応期を短縮させてAFを誘発・持続させることや気管支攣縮を起こすことがあり、適応はない。

  5. ×e.  直ちにカルディオバージョン

    カルディオバージョン(同期下の電気的除細動)は、AFを洞調律に戻すリズムコントロールの手段である。ショック、急性心不全、心筋虚血など血行動態が破綻している場合には時間経過にかかわらず直ちに行うが、本例は血行動態が安定している。さらに発症から48時間以上経過しているため左房内血栓の存在が否定できず、直ちに除細動を行うと洞調律復帰に伴って血栓が遊離し脳塞栓症を起こす危険がある。待機的に除細動を行う場合は、少なくとも3週間の適切な抗凝固療法を行うか、経食道心エコーで左房内血栓がないことを確認したうえで実施し、除細動後も少なくとも4週間は抗凝固療法を継続する。

心房細動の分類(持続時間による)

・初発AF:初めて診断されたもの(持続時間は問わない) ・発作性AF:発症後7日以内に洞調律に戻るもの(自然停止または治療による) ・持続性AF:7日を超えて持続するもの ・長期持続性AF:1年以上持続するもの ・永続性AF:洞調律化を目指さないと判断されたもの

心電図所見

P波の消失、細動波(f波:基線の不規則な細かい揺れ、心房の興奮頻度は350〜600/分程度)、RR間隔の絶対的不整。QRS幅は通常狭い。

治療の三本柱

1.抗凝固療法:CHADS2スコア(心不全、高血圧、75歳以上、糖尿病が各1点、脳梗塞・TIAの既往が2点)などで脳梗塞リスクを評価する。本例は高血圧1点+75歳以上1点で2点であり、抗凝固療法の適応がある。非弁膜症性AFでは直接経口抗凝固薬(DOAC)が第一選択で、機械弁や中等度以上の僧帽弁狭窄症ではワルファリンを用いる。 2.レートコントロール:左室収縮能が保たれていればβ遮断薬または非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬。左室収縮能が低下している場合はβ遮断薬(少量から)やジギタリス、急性期にはアミオダロン静注などを用い、陰性変力作用の強いCa拮抗薬は避ける。 3.リズムコントロール:抗不整脈薬、電気的除細動、カテーテルアブレーション。

除細動と血栓塞栓症

発症48時間未満で血行動態が安定していれば、抗凝固を開始したうえで早期の除細動を考慮できる。48時間以上(または発症時期不明)の場合は、3週間以上の抗凝固療法後、もしくは経食道心エコーで左房内血栓を否定してから除細動を行い、その後も4週間以上抗凝固を続ける。血行動態が不安定な場合は経過時間にかかわらず緊急で電気的除細動を行う。

POINT

・動悸+不整な頻脈+心電図でf波とRR間隔不整 → 心房細動。 ・血行動態が安定し、左室収縮能が保たれたAFの頻脈 → 抗凝固療法+レートコントロール(β遮断薬または非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬)が初期対応。 ・発症48時間以上経過したAFは、左房内血栓のリスクがあるため直ちに除細動しない(3週間の抗凝固または経食道心エコーで血栓否定後)。 ・ATPはPSVTの停止薬であり、AFには無効。 ・ジギタリスは即効性に乏しく、高齢・低体重・腎機能低下では中毒に注意。 ・カテーテルアブレーションは待機的な根治療法であり、初期対応ではない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。