喘息がある人のPSVT―ATPを打つ前に立ち止まる理由
第120回医師国家試験 A問題 第9問
国試問題にチャレンジ
気管支喘息の治療中の患者で,発作性上室頻拍を生じ,迷走神経刺激により頻拍発作の停止がない場合に,初期治療で適切なのはどれか。
- a.β遮断薬投与
- b.カルシウム拮抗薬投与
- c.カルディオバージョン
- d.アデノシン三リン酸投与
- e.カテーテルアブレーション
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
発作性上室頻拍の急性期治療は、血行動態が不安定なら同期下カルディオバージョン、安定していればまず迷走神経刺激を行い、無効ならATP急速静注または非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬の静注で房室結節の伝導を抑えます。気管支喘息の患者では、ATP(アデノシンによる気管支攣縮)とβ遮断薬(β2遮断による気管支収縮)を避け、気管支収縮を起こさないベラパミルなどのカルシウム拮抗薬が適しています。ただしカルシウム拮抗薬は低血圧や左室収縮能低下例では避け、WPW症候群に合併した心房細動では房室結節抑制薬はいずれも禁忌となります。カテーテルアブレーションは発作中の治療ではなく、再発予防・根治のために待機的に行う治療です。同じ不整脈でも患者背景によって最適な薬が変わることを理解しておくことは、救急外来での安全な薬剤選択に直結します。
解答・解説
正解はbです
問われていること
気管支喘息を治療中の患者に発作性上室頻拍(PSVT:paroxysmal supraventricular tachycardia)が起こり、迷走神経刺激(Valsalva法など)で停止しなかったとき、次に行う初期治療を選ぶ問題である。「喘息の合併」という条件が薬剤選択にどう影響するかがポイントになる。
PSVT急性期治療の流れ
①まず血行動態を評価する。血圧低下、意識障害、ショック、急性心不全、虚血性胸痛などを伴う不安定な状態であれば、直ちに同期下カルディオバージョン(電気的除細動)を行う。 ②血行動態が安定していれば、まず迷走神経刺激を試みる。迷走神経の興奮で放出されるアセチルコリンが房室結節の伝導を抑え、房室結節をリエントリー回路に含む頻拍(房室結節リエントリー性頻拍、房室回帰性頻拍)を停止させる。 ③迷走神経刺激が無効なら薬物治療に進む。通常の第一選択はアデノシン三リン酸(ATP)の急速静注であり、次いで非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬(ベラパミル、ジルチアゼム)の静注、β遮断薬の静注が用いられる。いずれも房室結節の伝導を一時的に抑制してリエントリー回路を断ち切る。
喘息合併時の考え方
ATPは体内で速やかにアデノシンに分解され、アデノシンA1受容体を介して房室結節伝導を強く抑制する一方、気道のアデノシン受容体を刺激して気管支攣縮を誘発しうる。β遮断薬は気管支平滑筋のβ2受容体を遮断し、気管支拡張作用を打ち消して喘息発作を誘発しうる。これに対し、非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬は房室結節のL型カルシウムチャネルを遮断して伝導を抑制し、気管支収縮を起こさない。したがって、喘息患者で迷走神経刺激が無効だったPSVTの初期治療としては、カルシウム拮抗薬(ベラパミルなど)の静注が最も適切である。 本問では血行動態が不安定であるとの記載はなく、安定例として考える。
選択肢考察
- ×a. β遮断薬投与
β遮断薬は房室結節伝導を抑制するためPSVTの停止や心拍数調節に有効である。しかし、気管支平滑筋のβ2受容体を遮断すると気管支が収縮し、喘息発作を誘発・増悪させるおそれがある。非選択性β遮断薬(プロプラノロールなど)は気管支喘息患者に禁忌であり、β1選択性の高い薬剤でも喘息患者では慎重な判断が必要で、初期治療として選ぶべきではない。
- ○b. カルシウム拮抗薬投与
非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬(ベラパミル、ジルチアゼム)は房室結節のL型カルシウムチャネルを遮断し、伝導を遅らせて房室結節を含むリエントリー回路を断ち切る。気管支収縮作用がないため、喘息患者でも安全に使用できる。ベラパミルの静注はATPと並ぶPSVT停止の代表的な薬物治療である。ただし陰性変力作用と血管拡張作用があるため、低血圧、左室収縮能が低下した心不全、WPW症候群に伴う心房細動(偽性心室頻拍)、心室頻拍が否定できないwide QRS頻拍では使用を避ける。
- ×c. カルディオバージョン
同期下カルディオバージョンは、PSVTにより血圧低下、意識障害、急性心不全などを来した血行動態不安定例で最優先される処置であり、薬物治療が無効な場合にも行われる。しかし、鎮静が必要で侵襲もあるため、血行動態が安定しており薬物治療を試みる余地がある本問の状況では、初期治療として優先されない。
- ×d. アデノシン三リン酸投与
ATPの急速静注は作用時間が数秒〜十数秒と短く、PSVT停止効果が高いため、喘息などの問題がなければ迷走神経刺激無効例の第一選択薬である。しかし、分解産物のアデノシンが気道のアデノシン受容体を刺激して気管支攣縮を誘発しうるため、気管支喘息患者では原則として避ける。本問では喘息を治療中であるため、より安全なカルシウム拮抗薬を優先する。
- ×e. カテーテルアブレーション
カテーテルアブレーションは、リエントリー回路の一部(房室結節遅伝導路や副伝導路)を高周波通電などで焼灼する根治療法であり、PSVTでは成功率が高い。発作を繰り返す例、薬物治療が無効・困難な例、生活の質が損なわれる例で待機的に行うものであり、頻拍発作中の初期治療として選択するものではない。
PSVTの概要
上室(心房・房室接合部)を起源とし、突然始まり突然停止する頻拍である。心拍数は150〜250/分程度で、心電図では規則正しいnarrow QRS頻拍を示す。P波はQRS波に重なって見えないか、QRS直後に逆行性P波として現れることが多い。 ・房室結節リエントリー性頻拍(AVNRT):最も多い。房室結節内の遅伝導路と速伝導路を回路とする。 ・房室回帰性頻拍(AVRT):副伝導路(Kent束)を介する。WPW症候群に関連し、多くは房室結節を順行・副伝導路を逆行する順方向性である。 ・心房頻拍:心房内の異所性興奮やリエントリーによる。房室結節は回路に含まれないため、房室結節を抑える処置では停止しにくい。
迷走神経刺激の方法
Valsalva法(息こらえ。いきんだ後に仰臥位で下肢を挙上する修正Valsalva法が成功率が高い)、頸動脈洞マッサージ(頸動脈雑音や脳血管障害の既往がある場合は避ける)、顔面の冷水浸水など。眼球圧迫は網膜剥離の危険があり推奨されない。
抗不整脈治療薬と注意すべき合併症
・ATP(アデノシン):喘息で気管支攣縮。一過性の胸部不快感、顔面紅潮、徐脈・心停止がみられる。 ・β遮断薬:喘息で気管支収縮(非選択性は禁忌)、心不全増悪、徐脈。 ・非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬:低血圧、左室機能低下例での心不全増悪、徐脈。 ・WPW症候群に心房細動が合併した場合(偽性心室頻拍)は、ATP・Ca拮抗薬・β遮断薬・ジギタリスなどの房室結節抑制薬は副伝導路の伝導を相対的に促進して心室細動を招くおそれがあるため禁忌。Ⅰ群抗不整脈薬やカルディオバージョンを用いる。
再発予防・根治
カテーテルアブレーションが根治療法であり、AVNRTやAVRTでは成功率が高い。
POINT
・PSVTの急性期治療:血行動態不安定なら同期下カルディオバージョン、安定なら迷走神経刺激 → 無効ならATP急速静注またはベラパミルなどのCa拮抗薬静注。 ・気管支喘息患者ではATP(気管支攣縮)とβ遮断薬(β2遮断による気管支収縮)を避け、非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬を選ぶ。 ・WPW症候群+心房細動では房室結節抑制薬(ATP、Ca拮抗薬、β遮断薬、ジギタリス)は禁忌。 ・カテーテルアブレーションは再発予防・根治のための治療であり、発作中の初期治療ではない。
