その胃管、本当に胃に入っている?―ベッドサイドの確認法の落とし穴とエックス線の確実性
第114回医師国家試験 B問題 第22問
国試問題にチャレンジ
経管栄養を目的としてチューブを胃に挿入する際に,適切な位置に留置されていることを確認する最も確実な方法はどれか。
- a.エックス線写真を撮影して確認する。
- b.口腔内にチューブのたわみがないことを確認する。
- c.チューブからシリンジで液体が引けることを確認する。
- d.挿入されている長さをチューブの目盛りにより確認する。
- e.チューブに空気を送り込み,心窩部で気泡音が聴取できることを確認する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
経鼻胃管は盲目的に挿入するため、気管・気管支への誤挿入や食道内での屈曲が起こりえ、咳反射の弱い患者では誤挿入に気づかず栄養剤を注入して重篤な肺炎を招く危険があります。心窩部での気泡音の聴取、液体の吸引、挿入長の目盛り、口腔内のたわみの確認はいずれも簡便ですが、単独では誤挿入を否定できません。最も確実なのはエックス線撮影で、チューブが正中を下行して横隔膜を越え、先端が左上腹部の胃泡内にあることを直接確認できます。初回挿入時や判断に迷う場合、誤挿入リスクの高い患者ではエックス線で確認してから注入し、留置後も注入のたびに位置のずれや呼吸状態を観察します。体内に盲目的に留置したデバイスは画像で位置を確かめるという原則は、気管挿管チューブや中心静脈カテーテルにも共通する医療安全の基本です。
解答・解説
正解はaです
経鼻胃管(栄養チューブ)を挿入したあと、栄養剤を注入する前に先端が胃内にあることを確認する方法を問う問題である。
考え方
経鼻胃管は盲目的に(先端を直接見ずに)挿入するため、意図せず気管・気管支に入ったり、食道内でとぐろを巻いたり、まれには気胸や食道穿孔を起こしたりすることがある。特に意識障害、嚥下障害、鎮静下、気管挿管中の患者では咳反射が弱く、気管へ誤挿入されても咳き込みなどの症状が出ないことが多い。このまま栄養剤を注入すると、肺に直接栄養剤が流れ込み、重篤な肺炎や呼吸不全、死亡に至りうる。 ベッドサイドで行う確認法(気泡音の聴取、内容物の吸引、挿入長の確認、口腔内の観察など)は簡便だが、いずれも誤挿入を完全には否定できない。チューブの走行と先端の位置を画像で直接示せるエックス線撮影が、最も確実な確認法である。ベッドサイドの方法は複数を組み合わせて補助的に用い、初回挿入時や判断に迷う場合にはエックス線で確認する、というのが基本的な考え方である。
選択肢考察
- ○a. エックス線写真を撮影して確認する。
胸腹部エックス線写真では、X線不透過ライン入りのチューブが食道に沿って正中付近を下行し、横隔膜を越えて先端が左上腹部の胃泡(胃内のガス像)の中にあることを直接確認できる。気管・気管支に入っている場合は、チューブが気管分岐部より先で気管支の走行に沿って肺野へ向かうので判別できる。食道内での反転や先端の位置不足もわかるため、選択肢の中で最も確実な方法である。
- ×b. 口腔内にチューブのたわみがないことを確認する。
口腔内でのたわみやとぐろの有無を見ることは、チューブが口の中で丸まっていないかの確認にはなるが、見えるのは口腔内だけである。咽頭より先で気管に入っていたり、食道内で屈曲・反転していたりしても口腔内には異常が現れないため、先端が胃内にある根拠にはならない。
- ×c. チューブからシリンジで液体が引けることを確認する。
液体が吸引できても、それが胃液とは限らない。チューブの先端が咽頭や食道にあれば唾液や食道内の分泌物が、気管・気管支にあれば気道分泌物や胸水などが引けることもある。逆に、胃内に正しく留置されていても胃内容が少なかったり先端が胃壁に当たっていたりすると吸引できないことがある。吸引物のpHを測定して強い酸性(胃液)であることを確かめれば補助的な判断材料にはなるが、制酸薬(プロトンポンプ阻害薬など)の使用中は胃液の酸性度が下がるため、やはり確実とはいえない。
- ×d. 挿入されている長さをチューブの目盛りにより確認する。
成人ではおおよそ鼻孔から45〜55cm程度で胃に達するとされ、鼻先〜耳朶〜剣状突起の距離を目安に挿入長を決めることが多い。しかし必要な長さは体格によって異なり、また目標の長さまで入っていても、気管内に誤って入っていたり、咽頭・食道で屈曲していたりすることがある。目盛りは挿入の目安や、留置後に抜けかかっていないかを確認するには有用だが、先端位置を保証するものではない。
- ×e. チューブに空気を送り込み,心窩部で気泡音が聴取できることを確認する。
シリンジで空気を送り込み、心窩部に当てた聴診器で「ゴボッ」という気泡音を聴く方法は古くから広く行われてきた。しかし、チューブ先端が気管や気管支(特に下葉の気管支)、食道下部にある場合でも、送気音が心窩部へ伝わって胃内と同じように聞こえることがある。気管誤挿入を見逃した事故例も報告されており、単独では確実な確認法とはいえない。
経鼻胃管の誤挿入とその危険
経鼻胃管は、経管栄養のほか、胃内容の減圧(腸閉塞や術後)、薬剤投与、胃洗浄などに用いられる。誤挿入の部位としては気管・気管支が最も問題となり、気づかずに栄養剤や薬剤を注入すると重篤な肺炎・呼吸不全を起こす。高齢者、意識障害、嚥下障害、鎮静中、気管挿管・気管切開中の患者では咳嗽反射が乏しく、誤挿入のリスクが高い。わが国でも経鼻栄養チューブの誤挿入による死亡事故が報告され、医療安全上の注意喚起が繰り返し行われている。
位置確認法のまとめ
・確実な方法:エックス線撮影(先端が横隔膜下の胃泡内にあることを確認) ・補助的な方法:吸引物の性状やpHの確認、心窩部での送気音の聴取、挿入長(目盛り)の確認、口腔内のたわみの確認、呼吸状態・咳嗽の観察 補助的な方法は単独では信頼できないため、複数を組み合わせて判断する。初回挿入時、入れ替え時、判断に迷う場合、誤挿入リスクの高い患者ではエックス線で確認してから注入を開始する。また、留置後も注入のたびに固定位置(目盛り)のずれや口腔内のたわみ、呼吸状態の変化がないかを確認する。
他の留置物でも画像確認が原則
気管挿管チューブ(先端が気管分岐部の数cm上)、中心静脈カテーテル(先端が上大静脈内)なども、留置後に胸部エックス線写真で位置と合併症(気胸など)の有無を確認する。
POINT
・胃管の先端位置を確認する最も確実な方法はエックス線撮影である。 ・気泡音の聴取、吸引物の確認、挿入長、口腔内のたわみの確認は、いずれも気管への誤挿入や食道内での屈曲を否定できない。 ・気管への誤挿入に気づかず栄養剤を注入すると重篤な肺炎を起こすため、注入前の位置確認が必須である。
