夢の中で叫ぶ10年―レム睡眠行動障害から読み解くLewy小体型認知症の3つの検査
第114回医師国家試験 A問題 第75問
国試問題にチャレンジ
80歳の男性。夜間に大声をあげることを主訴に来院した。約10年前から時々はっきりした夢をみて,夜中に大声をあげるようになった。1年前から動作がのろくなり,歩行時に歩幅が小刻みとなって,つまずくことが増えてきた。2か月前から,カーテンが人の姿に見えることがあったという。さらに,夜中に大声をあげて手足を動かしてベッド周囲の物を落とすことが増えてきたため,心配した妻に勧められて受診した。既往歴に特記すべきことはなく,常用薬はない。頭部MRIでは軽度の脳萎縮以外に異常は認めない。 診断に有用な検査はどれか。3つ選べ。
- a.脳脊髄液検査
- b.末梢神経伝導検査
- c.ポリソムノグラフィ
- d.MIBG心筋シンチグラフィ
- e.ドパミントランスポーターSPECT
対話形式の解説
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ドクターまとめ
レム睡眠行動障害、パーキンソニズム、具体的な幻視がそろう高齢者では、αシヌクレインが蓄積するLewy小体病、特にLewy小体型認知症を考えます。レム睡眠行動障害は運動症状や認知機能障害に何年も先行することが多く、シヌクレイノパチーの前駆症状として重要です。2017年改訂の診断基準では、ポリソムノグラフィでの筋緊張低下を伴わないレム睡眠、MIBG心筋シンチグラフィでの集積低下、ドパミントランスポーターSPECTでの線条体集積低下の3つが指標的バイオマーカーとされ、後2者はAlzheimer型認知症との鑑別にも役立ちます。脳脊髄液のアミロイドβ・タウは主にAlzheimer型認知症の指標であり、末梢神経伝導検査は中枢変性疾患の診断には寄与しません。抗精神病薬への過敏性という治療上の落とし穴も含め、症状の組み合わせと経過から病態を見抜き、適切な検査で裏づける力は認知症診療の基本となります。
解答・解説
正解はc, d, eです
所見の整理
・80歳男性。主訴は夜間に大声をあげること。 ・約10年前から、鮮明な夢をみて夜中に大声をあげるようになり、最近は手足を動かしてベッド周囲の物を落とすまでになっている。夢の内容に合わせて声を出したり体を動かしたりするこの症状は、レム睡眠行動障害(REM sleep behavior disorder:RBD)を示す。 ・1年前から動作緩慢、小刻み歩行、つまずきやすさが出現しており、パーキンソニズムと考えられる。 ・2か月前から、カーテンが人の姿に見えるという幻視(ある物を別の物と見誤る錯視も含む)がある。 ・常用薬はなく、抗パーキンソン病薬や抗精神病薬など、幻視やパーキンソニズムを引き起こす薬剤の影響は考えにくい。 ・頭部MRIは年齢相応の軽度の脳萎縮のみで、多発脳梗塞(脳血管性パーキンソニズム)、正常圧水頭症、腫瘍などを示唆する所見はない。
診断へのプロセス
RBD、パーキンソニズム、具体的な幻視の組み合わせは、αシヌクレインが蓄積するLewy小体病の特徴である。RBDは運動症状や認知機能障害に何年も先行して出現することが多く、本例でも10年前から存在していた。パーキンソニズム出現から1年以内に、薬剤の影響なしに幻視が出現していることから、Parkinson病の進行に伴う幻視よりも、Lewy小体型認知症(dementia with Lewy bodies:DLB)を最も考える。DLBの臨床診断基準(2017年改訂)の中核的特徴のうち、本例は「繰り返す具体的な幻視」「RBD」「パーキンソニズム」の3つを満たす。
設問の考え方
2017年のDLB診断基準では、診断の確からしさを高める検査として「指標的バイオマーカー」が定められている。 (1) SPECTまたはPETで示される基底核のドパミントランスポーター取り込み低下 (2) MIBG心筋シンチグラフィでの取り込み低下 (3) ポリソムノグラフィで確認された、筋緊張低下(アトニア)を伴わないレム睡眠 本問で問われている「診断に有用な検査」は、まさにこの3つである。脳脊髄液検査や末梢神経伝導検査は、DLBの診断を支持する特異的な所見をもたらさない。
選択肢考察
- ×a. 脳脊髄液検査
脳脊髄液検査は、Alzheimer型認知症のバイオマーカー(アミロイドβ42の低下、総タウ・リン酸化タウの上昇)の評価や、髄膜炎・脳炎など炎症性・感染性疾患、Creutzfeldt-Jakob病(14-3-3蛋白、RT-QuIC法)の鑑別に用いられる。DLBについては日常診療で確立した髄液診断マーカーはなく、診断基準の指標的バイオマーカーにも含まれていない。本例の診断に有用な検査とはいえない。
- ×b. 末梢神経伝導検査
末梢神経伝導検査は、運動・感覚神経の伝導速度や振幅を測定し、ニューロパチーの有無や脱髄・軸索障害の区別を評価する検査である。DLBは中枢神経の変性疾患であり、通常この検査に異常は現れない。なお、認知症に末梢神経障害などを伴う神経核内封入体病などでは異常がみられることがあるが、本例の病像には当てはまらない。
- ○c. ポリソムノグラフィ
ポリソムノグラフィ(睡眠ポリグラフ検査)は、脳波、眼球運動、オトガイ筋などの筋電図、呼吸、心電図などを睡眠中に同時記録する検査である。正常のレム睡眠では骨格筋の緊張が消失するが、RBDではレム睡眠中にも筋活動が残る(筋緊張低下を伴わないレム睡眠)。これを確認するとRBDを確定でき、DLB診断基準の指標的バイオマーカーに該当する。また、睡眠時無呼吸症候群による夜間の異常行動との鑑別にも役立つ。
- ○d. MIBG心筋シンチグラフィ
123I-MIBG(メタヨードベンジルグアニジン)はノルアドレナリンと同様に交感神経終末に取り込まれるため、心臓交感神経の分布・機能を画像化できる。Lewy小体病では早期から心臓交感神経の節後線維が変性・脱落するため、心臓への取り込みが低下し、心臓/縦隔比(H/M比)が低値となる。Alzheimer型認知症や多系統萎縮症、進行性核上性麻痺では通常低下しないため、鑑別に有用である。ただし糖尿病性自律神経障害や心疾患でも低下しうる点に注意する。DLBの指標的バイオマーカーである。
- ○e. ドパミントランスポーターSPECT
123I-イオフルパンを用いたSPECT(DaTscan)は、黒質から線条体(尾状核・被殻)へ投射するドパミン神経終末のドパミントランスポーターを画像化する。黒質線条体ドパミン神経が変性するDLBやParkinson病では線条体への集積が低下する。Alzheimer型認知症では通常正常であり、DLBとの鑑別に特に有用である。DLBの指標的バイオマーカーである。なお、進行性核上性麻痺や多系統萎縮症などでも低下する一方、本態性振戦や薬剤性パーキンソニズムでは低下しない。
Lewy小体型認知症(DLB)の概要
・大脳皮質や脳幹にαシヌクレインを主成分とするLewy小体が広く出現する神経変性疾患で、Parkinson病、多系統萎縮症とともにシヌクレイノパチーに分類される。変性性認知症の中ではAlzheimer型認知症に次いで多い。 ・初期には記憶障害が目立たないことがあり、注意障害、遂行機能障害、視空間認知障害が前景に立ちやすい。 ・抗精神病薬に対する過敏性が強く、少量でもパーキンソニズムの急激な悪化や意識障害を起こしうるため、幻視や妄想への対応で安易に抗精神病薬を使わない。
DLBの臨床診断基準(2017年改訂)の骨子
必須項目:日常生活に支障をきたす進行性の認知機能低下(認知症)。 中核的特徴: ・注意や覚醒度の変化を伴う認知機能の変動 ・繰り返し出現する、具体的で詳細な幻視 ・認知機能低下に先行することもあるRBD ・動作緩慢、静止時振戦、筋強剛のうち1つ以上のパーキンソニズム 支持的特徴:抗精神病薬への重篤な過敏性、姿勢保持障害、繰り返す転倒、失神や一過性の無反応、高度の自律神経障害(便秘、起立性低血圧、尿失禁など)、過眠、嗅覚低下、幻視以外の幻覚、体系化された妄想、アパシー・不安・うつ。 指標的バイオマーカー:ドパミントランスポーターSPECT/PETでの基底核の取り込み低下、MIBG心筋シンチグラフィの取り込み低下、ポリソムノグラフィでの筋緊張低下を伴わないレム睡眠。 支持的バイオマーカー:CT/MRIで側頭葉内側部(海馬)が比較的保たれる、脳血流SPECT/FDG-PETで後頭葉の血流・代謝低下(FDG-PETで後部帯状回が保たれるcingulate island sign)、脳波で後頭部優位の徐波。 probable DLB:中核的特徴2つ以上、または中核的特徴1つ+指標的バイオマーカー1つ以上。指標的バイオマーカーのみではprobable DLBと診断しない。 possible DLB:中核的特徴1つのみで指標的バイオマーカーがない、または指標的バイオマーカー1つ以上で中核的特徴がない。
Parkinson病に伴う認知症(PDD)との区別
認知症がパーキンソニズムの出現前、または出現から1年以内に生じた場合はDLB、パーキンソニズム出現から1年以上経って認知症が生じた場合はPDDとする(いわゆる1年ルール)。両者は病理学的には連続した病態と考えられている。
RBDについて
レム睡眠中の筋緊張抑制が障害され、夢の内容に一致して大声をあげたり手足を動かしたりする。高齢男性に多い。他の神経疾患を伴わない特発性RBDは、長期経過のなかで高率にParkinson病やDLBなどのシヌクレイノパチーへ移行することが知られ、その前駆症状として重視される。治療にはクロナゼパムなどが用いられ、ベッド周囲の危険物を除くなど環境調整も行う。
DLBの治療
認知機能障害に対してコリンエステラーゼ阻害薬のドネペジルが保険適用をもち、幻視などにも効果が期待できる。パーキンソニズムにはレボドパを少量から用いるが、幻視を悪化させることがある。
POINT
・RBD+パーキンソニズム+具体的な幻視 → Lewy小体型認知症(DLB)を考える。 ・DLBの指標的バイオマーカーは、ドパミントランスポーターSPECT(線条体集積低下)、MIBG心筋シンチグラフィ(H/M比低下)、ポリソムノグラフィ(筋緊張低下を伴わないレム睡眠)の3つ。 ・Alzheimer型認知症ではドパミントランスポーターSPECTとMIBG心筋シンチグラフィは通常正常であり、鑑別に役立つ。 ・脳脊髄液のAβ42低下・タウ上昇はAlzheimer型認知症のマーカー。 ・DLBでは抗精神病薬への過敏性に注意する。
