StudyMed医師国家試験

窓口で払うのは「一部」だけ―日本の公的医療保険のしくみを総点検

第113回医師国家試験 F問題 第3問

国試問題にチャレンジ

第113回 F問題 第3問

公的医療保険について正しいのはどれか。

  1. a.保険料率は全国一律である。
  2. b.医療給付は現金給付で行われる。
  3. c.財源の8割以上は保険料である。
  4. d.75歳以上はすべて1割負担である。
  5. e.医療費が高額の場合には助成制度がある。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は公衆衛生の定番、日本の公的医療保険の基本構造を問う問題だ。着眼点は「誰が保険を運営しているか」「給付の形はどうか」「お金はどこから来るか」「患者はいくら払うか」「払いすぎを防ぐ仕組みはあるか」の5つ。この5つの軸で各選択肢を見ていこう。
医学生医学生
国民皆保険なので、保険料率もどこでも同じなんじゃないかと思っていました。
ドクタードクター
そう思う人は多いね。でも皆保険というのは「全員がどれかの保険に入る」という意味で、保険そのものは一つではないんだ。会社員なら健康保険、公務員なら共済組合、自営業者や無職の人は国民健康保険、75歳以上は後期高齢者医療制度というように、職業や年齢で加入先が分かれている。
医学生医学生
そういえば臨床実習の医療面接で、保険証の種類を確認する練習をしました。協会けんぽとか健保組合とか書いてありますね。
ドクタードクター
その違いがまさにポイント。健康保険組合は法律の範囲内で組合ごとに保険料率を決めるし、協会けんぽは都道府県支部ごとの医療費水準を反映して料率が違う。国民健康保険も市町村ごとに算定方法や水準が異なる。だから全国一律ではないんだ。
医学生医学生
給付の形はどうでしょう。保険から患者にお金が支払われるイメージがあったのですが。
ドクタードクター
医療保険の中心である療養の給付は「現物給付」が原則だよ。患者は窓口で一部負担金を払うだけで、診察や検査、投薬、入院といった医療サービスそのものを受け取る。残りの費用は医療機関が審査支払機関を通じて保険者に請求するんだ。
医学生医学生
なるほど、お金ではなく医療そのものが給付されるんですね。では現金給付は全くないんですか。
ドクタードクター
あるよ。出産育児一時金、出産手当金、傷病手当金、埋葬料、それに高額療養費の払い戻しなどが現金給付だ。ただし医療給付の基本は現物給付、と押さえておこう。なお出産手当金と傷病手当金は被用者保険の給付で、国民健康保険では法定給付ではない点も出題されやすい。
医学生医学生
財源については、保険なので保険料がほとんどを占めると思っていました。
ドクタードクター
実際は国民医療費の財源のうち保険料はおよそ5割、公費が約4割弱、患者負担が1割強なんだ。高齢化で後期高齢者医療制度などに多くの公費が投入されているから、保険料だけで8割には届かない。
医学生医学生
公衆衛生の講義で「保険料・公費・患者負担はおよそ5:4:1」と習ったのを思い出しました。75歳以上の負担割合はどうでしょう。
ドクタードクター
後期高齢者医療制度の窓口負担は原則1割だけど、現役並み所得者は3割。さらに2022年10月からは、一定以上の所得がある人に2割負担の区分も設けられた。だから「すべて1割」は誤りだ。ちなみに未就学児は2割、小学生から69歳は3割、70〜74歳は原則2割だよ。
医学生医学生
残るのが高額な医療費への助成制度ですね。これは高額療養費制度のことでしょうか。
ドクタードクター
その通り、これが正解だ。1か月の窓口負担が自己負担限度額を超えた場合、超えた分が保険者から支給される。限度額は年齢と所得区分で異なり、世帯での合算や、直近12か月で何度も上限に達したときに限度額が下がる多数回該当という仕組みもある。
医学生医学生
抗がん剤治療を受けている患者さんだと、毎月かなりの医療費になりそうです。腫瘍内科の実習で、医療費の心配をされている方がいました。
ドクタードクター
まさにそういう人のための制度だね。事前に限度額適用認定証の交付を受けるか、マイナ保険証を使えば、窓口での支払いを最初から限度額までにとどめられる。いったん高額を立て替える必要がなくなるんだ。
医学生医学生
制度を知っているかどうかで、患者さんの安心感が全然違いそうですね。
ドクタードクター
そうなんだ。医師は制度の細部まで扱うわけではないけれど、高額療養費やソーシャルワーカーへの相談につなぐことは治療継続を支える大切な役割になる。経済的な理由で治療をあきらめる人を減らすためにも、基本の仕組みは押さえておこう。

まとめ

日本は国民皆保険制度をとり、職業や年齢に応じて健康保険、共済組合、国民健康保険、後期高齢者医療制度などに加入するため、保険料率は保険者ごとに異なります。療養の給付は医療サービスそのものを提供する現物給付が原則で、現金給付には出産育児一時金や傷病手当金、高額療養費の払い戻しなどがあります。国民医療費の財源は保険料が約5割、公費が約4割弱、患者負担が1割強で、75歳以上の窓口負担は原則1割ですが所得に応じて2割・3割となります。1か月の自己負担が限度額を超えた場合には高額療養費制度で超過分が支給され、限度額適用認定証などで窓口負担を抑えることもできます。こうした制度の理解は、患者が経済的負担を理由に治療を中断しないよう支援するうえで、臨床医にとっても欠かせない知識です。

解答・解説

正解はeです

日本の公的医療保険制度の基本的な仕組みを問う問題である。押さえるべき論点は、(1) 保険者ごとに保険料率が異なること、(2) 医療そのものを提供する「現物給付」が原則であること、(3) 国民医療費の財源構成(保険料・公費・患者負担)、(4) 年齢・所得に応じた患者の一部負担割合、(5) 自己負担が過大にならないための高額療養費制度、の5点である。 日本は国民皆保険制度をとり、すべての国民がいずれかの公的医療保険に加入する。加入先は職業や年齢によって分かれており、保険者(保険を運営する組織)ごとに保険料率や財政状況が異なる。受診時には医療機関の窓口で一部負担金を支払うだけで診察・検査・投薬などの医療を受けられ、残りの費用は医療機関が審査支払機関を通じて保険者に請求する。さらに、1か月の自己負担が一定の上限額を超えた場合には、超えた分が払い戻される高額療養費制度があり、これが正解となる。

選択肢考察

  1. ×a.  保険料率は全国一律である。

    誤り。保険料率は加入している保険者によって異なる。健康保険組合(主に大企業の被用者が加入)は、健康保険法が定める範囲内で、事業の内容や組合の財政状況に応じて自ら保険料率を決める。全国健康保険協会(協会けんぽ、主に中小企業の被用者が加入)では、都道府県支部ごとの医療費水準を反映して都道府県単位で保険料率が設定される。国民健康保険の保険料(税)も市町村ごとに算定方法や水準が異なる。したがって全国一律ではない。

  2. ×b.  医療給付は現金給付で行われる。

    誤り。医療保険の中心となる療養の給付は「現物給付」である。患者は窓口で一部負担金を支払うだけで、診察・処置・投薬・入院などの医療サービスそのものを受け取る。残りの費用は医療機関が審査支払機関(社会保険診療報酬支払基金や国民健康保険団体連合会)を通じて保険者に請求し、医療機関へ支払われる。なお医療保険にも現金給付はあり、出産育児一時金、出産手当金、傷病手当金、埋葬料(葬祭費)、高額療養費の払い戻しなどがこれにあたるが、医療給付の基本は現物給付である。

  3. ×c.  財源の8割以上は保険料である。

    誤り。国民医療費の財源は、保険料、公費(国庫および地方の負担)、患者負担などから構成される。保険料が占める割合はおよそ5割(50%前後)にとどまり、公費が約4割弱、患者の自己負担が1割強である。高齢化に伴い後期高齢者医療制度などへの公費投入が大きいことも、保険料の割合が8割に届かない理由である。

  4. ×d.  75歳以上はすべて1割負担である。

    誤り。75歳以上が加入する後期高齢者医療制度の窓口負担は原則1割であるが、現役並み所得者は3割負担となる。さらに2022年10月からは、現役並み所得者には該当しないものの一定以上の所得がある者は2割負担となった。したがって「すべて1割」ではない。

  5. ○e.  医療費が高額の場合には助成制度がある。

    正しい。高額療養費制度により、医療機関や薬局の窓口で支払った額が1か月(暦月の1日から末日まで)で自己負担限度額を超えた場合、その超過分が保険者から支給される。自己負担限度額は年齢(70歳未満か以上か)と所得区分によって異なり、同一世帯での合算(世帯合算)や、直近12か月に何度も上限に達した場合に限度額がさらに下がる多数回該当の仕組みもある。事前に限度額適用認定証の交付を受ける(またはマイナ保険証を利用する)と、窓口での支払いをはじめから限度額までにとどめることができる。家計の負担が過大にならないようにするための制度である。

公的医療保険の種類

・被用者保険(職域保険): 健康保険(協会けんぽ=主に中小企業の被用者、健康保険組合=主に大企業の被用者)、船員保険(船員)、共済組合(国家・地方公務員、私立学校教職員) ・国民健康保険(地域保険): 自営業者、農業従事者、無職者、退職者など。都道府県と市町村が共同で運営する。ほかに同業種で組織する国民健康保険組合もある ・後期高齢者医療制度: 75歳以上(および一定の障害がある65〜74歳)。都道府県ごとの後期高齢者医療広域連合が運営する ・生活保護受給者は原則として国民健康保険から外れ、医療扶助によって医療を受ける

患者の一部負担割合

・小学校入学前: 2割 ・小学校入学後〜69歳: 3割 ・70〜74歳: 2割(現役並み所得者は3割) ・75歳以上: 1割(一定以上所得者は2割、現役並み所得者は3割)

医療保険の給付

・現物給付: 療養の給付(診察、薬剤・治療材料の支給、処置・手術、在宅療養・訪問看護、入院)、入院時食事療養費など ・現金給付: 高額療養費、出産育児一時金、出産手当金、傷病手当金、埋葬料(葬祭費)など ・出産手当金と傷病手当金は被用者保険の給付で、国民健康保険では法定給付とされていない

国民医療費の財源の概略

保険料が約5割(事業主負担と被保険者負担)、公費が約4割弱(国庫と地方)、患者負担が1割強である。

POINT

・保険料率は保険者ごとに異なる(協会けんぽは都道府県単位、健保組合は組合ごと) ・療養の給付は現物給付が原則。現金給付は高額療養費、出産育児一時金、傷病手当金など ・国民医療費の財源は保険料が約5割、公費が約4割弱、患者負担が1割強 ・75歳以上の窓口負担は原則1割、一定以上所得者は2割、現役並み所得者は3割 ・1か月の自己負担が限度額を超えると、超過分は高額療養費として支給される

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。