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インクのしみに映る心―Rorschachテストの10枚を正しく知る

第113回医師国家試験 F問題 第28問

国試問題にチャレンジ

第113回 F問題 第28問

ある心理テストで用いられる図版の一部を別に示す。  この心理テストについて正しいのはどれか。

第113回 F問題 第28問の問題画像
  1. a.無彩色と有彩色の図版からなる。
  2. b.テスト全体には5分程度を要する。
  3. c.テスト全体は4枚の図版からなる。
  4. d.被験者は自ら質問紙に回答を記入する。
  5. e.精神疾患のスクリーニングが目的である。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は心理検査の基本を問う問題だ。示された図版がどの検査のものかを見抜き、その検査の構成や実施方法を正しく知っているかがポイントになる。図版は、紙にインクを垂らして二つ折りにしたような、左右対称で意味をもたない形をしているね。これを見て何を思い浮かべるかな。
医学生医学生
ロールシャッハテストですよね。精神科の講義で、何に見えるかを答えさせる検査だと習いました。
ドクタードクター
その通り。スイスの精神科医Hermann Rorschachが考案した検査で、性格検査のうちの投影法に分類される。投影法とは、あいまいでいろいろに解釈できる刺激を見せて、その自由な反応に本人の欲求や感情、思考様式といった言葉にしにくい内面が映し出されることを利用する方法なんだ。
医学生医学生
答え方に正解がないからこそ、その人らしさが出るということですね。
ドクタードクター
そう。では検査の構成から確認しよう。図版は何枚あると思う?
医学生医学生
選択肢に4枚というのがありましたけど、もっと多かった気がします。
ドクタードクター
正しくは10枚で、IからXまで決まった順番で提示する。そのうち黒と灰色の濃淡だけで描かれた無彩色図版が5枚、色を含む有彩色図版が5枚だ。有彩色のうちIIとIIIは黒に赤が加わったもの、VIII、IX、Xは多色の図版になっている。
医学生医学生
じゃあ「無彩色と有彩色の図版からなる」というのが正しい記述ですね。色が混ざっていることにも意味があるんですか。
ドクタードクター
大いにある。色彩にどう反応するか、あるいは反応しないかは、感情の動きやそのコントロールの程度を推測する手がかりとして解釈に使われるんだ。
医学生医学生
被験者が質問紙に自分で回答を書く、という選択肢はどうですか。
ドクタードクター
それは質問紙法の特徴だね。MMPIやYG性格検査がその代表だ。Rorschachテストは検査者と被検者が1対1で向き合う面接形式で、被検者は図版を1枚ずつ見て何に見えるかを口頭で答え、検査者がそれを逐語的に記録する。
医学生医学生
精神科の臨床実習で心理士さんの検査に同席させてもらったとき、確かにずっと記録を取っていました。その後でも何か質問していた気がします。
ドクタードクター
よく見ていたね。10枚すべての自由反応が終わった後に質疑段階があって、図版のどの部分が、形や色、濃淡、動きといったどんな特徴からそう見えたのかを一つずつ尋ねる。だから実施だけで通常1時間前後かかり、さらに記号化と解釈にも相当の時間がかかる。5分程度で終わる検査ではないんだ。
医学生医学生
そんなに手間がかかるなら、精神疾患のスクリーニングには向かないですね。
ドクタードクター
その通り。スクリーニングは多くの人を短時間で簡便にふるい分けるためのものだ。Rorschachテストの目的は、性格特性や思考の過程、現実検討能力、感情の状態を詳しく評価し、精神病水準、境界水準、神経症水準といった病態水準を推定することにある。
医学生医学生
結果はどうやって解釈するんですか。印象で決めるわけではないですよね。
ドクタードクター
反応を記号化して体系的に解釈する。図版全体を使ったか部分を使ったかという反応領域、形態・色彩・濃淡・運動のどれで見えたかという決定因、人間や動物といった反応内容、多くの人が答える平凡反応かどうか、そして形態水準などだ。形にまったく合わない反応が多いと、思考障害や現実検討の障害が示唆される。包括システムや片口法といった体系がある。
医学生医学生
投影法にはほかにTATやバウムテストもありましたよね。CBTの勉強で分類表を丸暗記しました。
ドクタードクター
いい復習だね。投影法にはTAT、P-Fスタディ、SCT、バウムテストがあり、質問紙法にはMMPI、YG性格検査、MPI、TEG、作業検査法には内田-クレペリン精神作業検査がある。投影法は意識的な操作を受けにくく深層心理に迫れる反面、熟練を要し解釈に検査者差が出やすい。質問紙法は客観的で簡便だが、回答を意識的に操作されやすい。この長所と短所の対比もセットで覚えておこう。

まとめ

Rorschachテストは、左右対称のインクのしみの図版を用いる投影法の性格検査で、図版は無彩色5枚と有彩色5枚の計10枚からなり、決まった順番で提示されます。面接形式で行い、被検者は何に見えるかを口頭で答え、その後の質疑段階で反応の根拠となった領域や特徴を確認するため、実施だけで1時間前後を要します。反応領域、決定因、反応内容、平凡反応、形態水準などを記号化して解釈し、性格特性や思考・感情の状態、病態水準の評価に用いるもので、短時間で行うスクリーニング検査ではありません。質問紙法(MMPI、YG性格検査など)や作業検査法(内田-クレペリン精神作業検査)との違いと、それぞれの長所・短所を整理しておくことは、精神科診療で心理検査の結果を適切に読み取る基礎になります。

解答・解説

正解はaです

示された図版は、紙にインクを垂らして二つ折りにしたような、左右対称で意味をもたない形(インクのしみ)である。これはRorschach(ロールシャッハ)テストの図版の特徴であり、本問はこの検査の基本的な性質を問うている。 Rorschachテストは、スイスの精神科医Hermann Rorschachが考案した心理検査で、性格検査のうちの投影法(projective technique)に分類される。投影法とは、あいまいで多様な解釈ができる刺激を示し、それに対する自由な反応の中に、本人の欲求・感情・思考様式など、言葉にしにくい内面が映し出される(投影される)ことを利用する方法である。 検査の構成と手順は次のとおりである。 ・図版は全部で10枚あり、黒と灰色だけで描かれた無彩色図版が5枚(I、IV、V、VI、VII)、色を含む有彩色図版が5枚(黒に赤が加わったII、III、および多色のVIII、IX、X)である。 ・検査者と被検者が1対1で向き合う面接形式で行う。被検者は図版を1枚ずつ見て、何に見えるかを口頭で答える(自由反応段階)。 ・10枚すべてが終わった後、検査者は各反応について、図版のどの部分が、どのような特徴(形、色、濃淡、動きなど)からそう見えたのかを尋ねる(質疑段階)。 ・得られた反応は、反応した領域、反応を決めた要因、内容、ありふれた反応かどうか(平凡反応)などの観点から記号化(スコアリング)され、包括システム(Exner法)や片口法などの体系で解釈される。 このように、実施にも解釈にも時間と専門的な技能を要する検査であることを押さえれば、各選択肢の正誤は判断できる。

選択肢考察

  1. ○a.  無彩色と有彩色の図版からなる。

    10枚の図版は、黒・灰色の濃淡のみからなる無彩色図版5枚と、赤などの色を含む有彩色図版5枚で構成される。色彩への反応の有無や仕方は、感情の動きやそのコントロールの程度を推測する手がかりとして解釈に利用される。

  2. ×b.  テスト全体には5分程度を要する。

    誤り。10枚の図版それぞれについて自由反応と質疑を行うため、実施だけで通常は1時間前後(数十分〜1時間程度)かかり、被検者によってはそれ以上になることもある。さらにスコアリングと解釈にも相当な時間を要する。5分程度で終わる検査ではない。

  3. ×c.  テスト全体は4枚の図版からなる。

    誤り。Rorschachテストは10枚の図版で構成され、決まった順番(IからX)で提示される。

  4. ×d.  被験者は自ら質問紙に回答を記入する。

    誤り。被検者が質問紙に自分で回答を記入するのは、MMPI(ミネソタ多面人格目録)、YG性格検査(矢田部-ギルフォード性格検査)などの質問紙法である。Rorschachテストは面接形式で行い、被検者は見えたものを口頭で答え、検査者がそれを逐語的に記録する。

  5. ×e.  精神疾患のスクリーニングが目的である。

    誤り。スクリーニングは多数の人を短時間・簡便にふるい分けることを目的とするが、Rorschachテストは実施・解釈に時間と熟練を要するため、その用途には適さない。本検査の目的は、性格(人格)特性、思考の過程や現実検討能力、感情の状態などを詳しく評価し、病態水準(精神病水準、境界水準、神経症水準などの重症度)を推定することにある。

性格検査の分類

・質問紙法:被検者が質問項目に自分で回答する。実施・採点が容易で客観性が高い反面、回答を意識的に操作されやすい。例:MMPI、YG性格検査、MPI(モーズレイ性格検査)、TEG(東大式エゴグラム)。 ・投影法:あいまいな刺激への自由な反応から内面を推測する。意識的な操作を受けにくく深層心理を探れる反面、実施・解釈に熟練を要し、検査者による解釈のばらつきが出やすい。例:Rorschachテスト、TAT(主題統覚検査:人物場面の絵から物語を作らせる)、P-Fスタディ(絵画欲求不満テスト)、SCT(文章完成法)、バウムテスト(樹木画テスト)。 ・作業検査法:一定の作業をさせ、その経過から性格を評価する。例:内田-クレペリン精神作業検査。

Rorschachテストの主な評価項目

・反応領域:図版全体を使ったか(W)、部分を使ったか(D、Dd)、白い空白部分を使ったか(S)。 ・決定因:形態(F)、色彩(C)、濃淡、運動(M など)のどれによってそう見えたか。 ・反応内容:人間、動物、解剖など。 ・平凡反応:多くの人が答える反応。少ないと現実検討力の低下が疑われる。 ・形態水準:反応がインクのしみの形にどれだけ合っているか。著しく合わない反応は思考障害や現実検討の障害を示唆する。

図版の構成

無彩色:I、IV、V、VI、VII 黒+赤:II、III 多色:VIII、IX、X

POINT

・Rorschachテストは投影法の性格検査で、左右対称のインクのしみの図版を用いる。 ・図版は10枚(無彩色5枚、有彩色5枚)である。 ・面接形式で、被検者は何に見えるかを口頭で答える。質問紙法ではない。 ・所要時間は長く、スクリーニングではなく性格特性や病態水準の評価に用いる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。