StudyMed医師国家試験

「染まらない場所」に答えがある―外傷で造影CTが威力を発揮する脾損傷

第113回医師国家試験 F問題 第29問

国試問題にチャレンジ

第113回 F問題 第29問

外傷患者で診断を確定するために,単純CTに造影CTを追加することが最も有用なのはどれか。

  1. a.気胸
  2. b.脳挫傷
  3. c.脾損傷
  4. d.肋骨骨折
  5. e.びまん性軸索損傷

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は外傷診療で、単純CTに造影CTを追加する意味を問う問題だ。着眼点は「造影剤を入れると何が新しく見えるのか」という一点。そこが分かれば、どの損傷で造影が診断を決めるかが自然に見えてくるよ。
医学生医学生
造影すると血管が白く映る、というくらいのイメージしかありません。放射線医学の講義でヨード造影剤の話は聞いたんですが。
ドクタードクター
出発点としてはそれで十分。静脈から入れたヨード造影剤は、血管と、血流の豊富な実質臓器を均一に白く染める。これを増強効果という。ここから大事な情報が3つ得られるんだ。1つ目は、実質臓器の中で血流が途絶えた裂傷や挫滅の部分が、染まらない領域として浮かび上がること。2つ目は、出血が続いていれば血管の外へ漏れた造影剤が濃い白い影として見えること。これを血管外漏出、extravasationと呼ぶ。3つ目は仮性動脈瘤などの血管損傷だ。
医学生医学生
単純CTだと、臓器と血腫の区別がつきにくいということですか。
ドクタードクター
その通り。単純CTでは臓器実質と新鮮な血液のCT値が近いので、境界がはっきりしないことが多い。腹腔内に血液がたまっていることは分かっても、どこがどれだけ裂けているか、今も出血しているかは判断しにくいんだ。では、この性質が一番生きる損傷はどれだと思う?
医学生医学生
血流が多い臓器の損傷なので、脾損傷でしょうか。
ドクタードクター
正解。脾臓は血流が非常に豊富な実質臓器で、外傷では大量出血の原因になりやすい。造影CTなら裂傷の範囲や深さから損傷の重症度を分類でき、血管外漏出や仮性動脈瘤があれば活動性出血や再出血のリスクが高いと判断できる。それがそのまま、保存的に見るか、経カテーテル動脈塞栓術、つまりTAEをするか、手術にするかの判断に直結するんだ。
医学生医学生
気胸はどうでしょう。肺の病変なので造影したほうがよく見えそうな気もします。
ドクタードクター
そこは逆に考えよう。胸腔内の空気はCT値がおよそマイナス1000HUと極端に低く、周りとの濃度差がとても大きい。だから単純CTで十分に描出できるし、胸部X線で見落としやすい少量の潜在性気胸も単純CTで拾える。造影を加えても気胸の診断精度は上がらないんだ。
医学生医学生
肋骨骨折も同じ理屈ですね。骨はもともと真っ白に映るので。
ドクタードクター
そう。骨は高吸収域として単純CTではっきり見え、骨折線やずれも評価できる。そもそも肋骨骨折はまず胸部X線で評価することが多いね。ただ、多発肋骨骨折に伴う血胸や肋間動脈からの出血を評価したいときには造影CTを撮ることがある。これは骨折そのものではなく、出血の評価のためだという点を区別しておこう。
医学生医学生
脳挫傷は造影しないんですか。救急科の実習では、頭部外傷の患者さんはまず頭部CTを撮っていましたが、造影していた記憶はありません。
ドクタードクター
よく観察していたね。頭部外傷の急性期は、まず単純CTで出血を評価するのが原則だ。脳挫傷は点状の出血による高吸収域と、浮腫や壊死による低吸収域が混在する、salt and pepperと表現される所見を示す。受傷直後は目立たなくても数時間から数日で拡大することがあるので、単純CTを繰り返して経時的に追うことが大切なんだ。外傷性の動脈解離などを疑うときはCTアンギオグラフィを行うけれど、これは脳挫傷の診断のためではない。
医学生医学生
びまん性軸索損傷は、意識障害が強いのにCTであまり所見がない病気、と国試の勉強で覚えました。
ドクタードクター
いい覚え方だ。頭部に回転加速度が加わって、大脳白質や脳梁、脳幹の軸索が広範に引き伸ばされ断裂する損傷だね。CTでは脳梁や白質の小さな点状出血がみられる程度で、異常が乏しいことも多い。診断にはMRIが有用で、T2*強調像や磁化率強調像での微小出血、拡散強調像での異常信号が手がかりになる。造影CTは診断に寄与しないよ。
医学生医学生
整理すると、空気や骨、頭蓋内の出血は単純CTで十分で、造影が決め手になるのは実質臓器の損傷範囲と活動性出血の評価、ということですね。
ドクタードクター
完璧なまとめだ。ここで臨床上とても大事な注意点を加えておこう。造影CTは、循環動態が安定している、あるいは輸液などで安定化できた患者に行う検査なんだ。ショックが続く患者をCT室に運ぶのは危険で、そういうときは初療室でFASTを行って腹腔内出血を確認し、緊急開腹などの止血を優先する。
医学生医学生
JATECの講習の話で聞いた、プライマリサーベイとセカンダリサーベイの流れですね。
ドクタードクター
そう。プライマリサーベイでABCDEを評価して蘇生し、循環が安定していればセカンダリサーベイで全身CTを撮る。頭部は単純、体幹部は造影というのが基本だ。造影CTで評価すべき外傷としては、脾臓のほかに肝臓・腎臓・膵臓の実質臓器損傷、TAEの適応判断が必要な骨盤骨折、大動脈損傷、腸間膜損傷なども押さえておこう。
医学生医学生
脾損傷は全部手術になるわけではないんですよね。
ドクタードクター
循環動態が安定していれば、多くは非手術療法が選ばれる。造影CTで血管外漏出や仮性動脈瘤があればTAEを検討し、ショックが続くなら脾摘出術などの緊急手術だ。脾摘後は肺炎球菌など莢膜をもつ細菌による重症感染症、いわゆるOPSIのリスクがあるので、ワクチン接種も忘れないようにしよう。

まとめ

造影CTでは、ヨード造影剤が血管や血流の豊富な実質臓器を染めるため、臓器の裂傷が造影されない領域として描出され、造影剤の血管外漏出によって活動性出血も評価できます。そのため脾損傷のような実質臓器損傷では、造影CTの所見が損傷の重症度判定と、保存的治療・TAE・手術の選択に直結します。一方、気胸や肋骨骨折は周囲との濃度差が大きく単純CTで十分に診断でき、脳挫傷は単純CTの経時的評価、びまん性軸索損傷はMRIが診断の中心です。造影CTは循環動態が安定した患者に行い、ショックが続く場合はFASTで出血を確認して止血を優先するという原則もあわせて押さえておきましょう。「造影で何が新しく見えるか」を理解することは、外傷初期診療で適切な検査を選ぶ力の土台になります。

解答・解説

正解はcです

外傷診療でCTを撮る際に、造影剤を使うことでどんな情報が加わるのかを問う問題である。 造影CTでは、静脈から投与したヨード造影剤が血管や血流の豊富な実質臓器を白く染める(増強効果)。これにより次のことがわかるようになる。 1. 実質臓器(肝・脾・腎など)の損傷範囲:正常な実質は均一に造影されるが、裂傷や挫滅で血流が途絶えた部分は造影されない領域として浮かび上がる。単純CTでは臓器と血腫のCT値が近く、境界がはっきりしないことが多い。 2. 活動性出血の有無:出血が続いていると、血管外へ漏れた造影剤が濃い高吸収域として見える(血管外漏出、extravasation)。 3. 血管損傷:仮性動脈瘤、動静脈瘻、血管の途絶など。 一方、空気(気胸)や骨(骨折)は単純CTでもまわりの組織との濃度差が大きく、造影しなくても十分に診断できる。頭部外傷の脳実質の損傷は、急性期にはまず単純CTで出血を評価し、さらに詳しく調べる必要があればMRIを用いるのが原則で、造影CTが診断を決めることはない。 したがって、造影を加えることで損傷の程度と活動性出血が明らかになり、治療方針の決定に直結する実質臓器損傷、すなわち脾損傷が最も適切である。なお、造影CTは循環動態が安定している(または輸液などで安定化できた)患者に行う。ショックが続く不安定な患者では、CT室へ移動せず、FAST(focused assessment with sonography for trauma:外傷初期診療で行う迅速簡易超音波検査)で腹腔内出血を確認し、緊急開腹術などに進む。

選択肢考察

  1. ×a.  気胸

    胸腔内の空気はCT値が非常に低く(約−1000 HU)、肺や胸壁との濃度差が大きいため、単純CTで容易に描出できる。胸部単純X線では見落としやすい少量の気胸(潜在性気胸)や、縦隔気腫・皮下気腫の広がりも単純CTで評価できる。造影を加えても気胸の診断精度は上がらない。

  2. ×b.  脳挫傷

    脳挫傷は単純CTで、点状の出血(高吸収域)と浮腫・壊死(低吸収域)が混在する、いわゆる salt and pepper 様の所見として認められる。受傷直後は所見が乏しくても、数時間〜数日で出血や浮腫が拡大・明瞭化することがあり、単純CTを繰り返して経時的に追うことが診断と予後予測に重要である。造影は不要である。なお、外傷性の頭頸部血管損傷(動脈解離など)を疑う場合にはCT angiography(CTA)を行うが、これは脳挫傷の診断目的ではない。

  3. ○c.  脾損傷

    脾臓は血流が豊富な実質臓器で、外傷時に大量出血の原因となりやすい。単純CTでは脾周囲や腹腔内の血液貯留はわかっても、脾実質の裂傷の範囲や深さ、出血が今も続いているかは判断しにくい。造影CTでは、損傷部が造影されない領域として描出され、損傷分類(重症度)を決められる。さらに造影剤の血管外漏出や仮性動脈瘤があれば活動性出血・再出血のリスクと判断でき、経カテーテル動脈塞栓術(TAE)や手術による止血が必要かどうかを即座に決められる。このように造影を加えることが診断と治療方針に直結するため、最も有用である。

  4. ×d.  肋骨骨折

    骨は高吸収域として単純CTで明瞭に描出され、骨折線やずれ(転位)を評価できる。肋骨骨折はまず胸部単純X線で評価し、X線でわかりにくい転位のない骨折や肋軟骨の損傷が問題となる場合に単純CTを用いる。造影しても骨折の診断には役立たない。なお、多発肋骨骨折に伴う血胸や肋間動脈損傷を評価する場合には造影CTが行われることがあるが、それは骨折そのものの診断のためではない。

  5. ×e.  びまん性軸索損傷

    びまん性軸索損傷(diffuse axonal injury:DAI)は、頭部に加わる回転加速度によって大脳白質や脳梁、脳幹の神経軸索が広範に引き伸ばされ、断裂する損傷である。受傷直後からの意識障害が持続するのに、CTでは大きな占拠性病変(血腫など)を認めないことが特徴である。CTでは脳梁・白質の小さな点状出血や脳室内出血、外傷性くも膜下出血がみられる程度で、異常が乏しいことも多い。確定診断にはMRI(T2*強調像や磁化率強調像〈SWI〉での微小出血、拡散強調像での異常信号)が有用で、造影CTは診断に寄与しない。

外傷初期診療とCTの位置づけ

外傷初期診療(JATECなど)では、まずプライマリサーベイでA(気道)、B(呼吸)、C(循環)、D(中枢神経)、E(体温・脱衣)を評価して蘇生を行う。循環の評価にはFAST、胸部・骨盤X線を用いる。循環動態が安定していれば、セカンダリサーベイの段階で全身CT(頭部は単純、体幹部は造影)を撮影し、損傷を網羅的に確認する。

造影CTで評価すべき主な外傷

・肝・脾・腎・膵などの実質臓器損傷:損傷範囲と重症度、活動性出血の評価 ・骨盤骨折:骨盤内の動脈からの出血(TAEの適応判断) ・大動脈損傷:胸部大動脈の損傷、仮性瘤 ・腸間膜・血管損傷

単純CTで十分な主な外傷

・気胸、血胸の有無 ・骨折(頭蓋骨、肋骨、脊椎、四肢など) ・急性硬膜外血腫・急性硬膜下血腫・脳挫傷・外傷性くも膜下出血などの頭蓋内病変

脾損傷の治療

循環動態が安定していれば、多くは保存的治療(非手術療法)が選択される。造影CTで血管外漏出や仮性動脈瘤を認める場合はTAEを検討する。循環動態が不安定でショックが続く場合は緊急開腹術(脾摘出術や脾縫合術)を行う。なお、脾摘出後は肺炎球菌などの莢膜をもつ細菌による重症感染症(OPSI:overwhelming postsplenectomy infection)のリスクがあるため、ワクチン接種が推奨される。

POINT

・造影CTは、実質臓器損傷の範囲と、造影剤の血管外漏出による活動性出血の評価に不可欠である。 ・脾損傷・肝損傷などでは造影CTの所見がTAEや手術の適応判断に直結する。 ・気胸、骨折、脳挫傷は単純CTで十分に診断できる。 ・びまん性軸索損傷はCT所見が乏しく、MRIが診断に有用である。 ・造影CTは循環動態が安定している患者に行う。不安定な患者はFASTで評価し、止血処置を優先する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。