StudyMed医師国家試験

「仕事が不安です」に応えるのは誰か―患者のニーズから同席者を選ぶチーム医療の基本

第113回医師国家試験 E問題 第40問

国試問題にチャレンジ

第113回 E問題 第40問

45歳の男性。3か月前から倦怠感と息切れを自覚するようになった。頸部にしこりを触れることに気が付き,心配になって受診した。既往歴と家族歴に特記すべきことはない。職業は会社員。妻と子ども2人と同居している。精査の結果,悪性リンパ腫と診断し,抗癌化学療法が必要と判断した。患者は「最近転職したばかりで,今後の仕事や会社との関係についてとても不安なので,利用できる支援制度について相談したい」と言う。患者への説明にあたり他の職員の同席を求めることにした。  同席者として最も適切なのはどれか。

  1. a.看護師
  2. b.薬剤師
  3. c.事務職員
  4. d.同僚の医師
  5. e.医療ソーシャルワーカー

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、病気の診断そのものではなく、患者さんの「困りごと」に誰が応えるべきかを問う問題だ。注目してほしいのは、患者さん自身が何を相談したいと言っているか。そこを読み取れば答えは自然に見えてくるよ。
医学生医学生
悪性リンパ腫で化学療法が必要なので、副作用の説明ができる看護師さんや薬剤師さんかな、と最初は思いました。
ドクタードクター
化学療法という言葉に引っ張られると、そう考えたくなるね。でも患者さんの訴えをもう一度読んでみよう。不安の中心は治療そのものかな?
医学生医学生
いえ、「転職したばかりで仕事や会社との関係が不安」「支援制度について相談したい」と言っています。医学的な話ではなく、生活や仕事の話ですね。
ドクタードクター
その通り。患者さんの問題は大きく身体的・精神的・社会的に分けて考えると整理しやすい。今回は就労や収入、医療費といった社会的・経済的な問題だ。この領域の専門職は医療ソーシャルワーカー、いわゆるMSWなんだ。
医学生医学生
MSWって、臨床実習で回った病院の退院調整カンファレンスに出ていた方ですよね。転院先や介護サービスの調整をしていました。
ドクタードクター
よく見ていたね。MSWの多くは社会福祉士や精神保健福祉士の資格をもち、社会福祉の立場から患者さんと家族の経済的・心理的・社会的な問題の解決を援助する。退院支援や社会復帰の支援、使える制度の紹介、関係機関との連絡調整まで担うから、今回の相談にぴったりなんだ。
医学生医学生
看護師さんも説明の場に同席することは多いと思うんですが、それでは足りないんですか。
ドクタードクター
同席自体はよくあるし、副作用への対処や生活上の注意、心のケアでは大きな力になる。ただ、就労や休職に関わる公的制度を具体的に紹介し、手続きを調整するのは看護師さんの中心的な業務ではない。だから「最も適切」とは言えないんだ。薬剤師さんも同じで、抗癌薬のレジメン確認や服薬指導、副作用モニタリングの専門家だけれど、仕事や制度の相談は専門外だね。
医学生医学生
事務職員さんは、書類の手続きに詳しそうなので候補になりそうな気もします。
ドクタードクター
診断書や申請書類の発行窓口として関わることはあるね。でも、患者さん個々の社会的状況を評価して、どの制度をどう組み合わせるかを相談・助言する専門的な役割は担っていない。そこがMSWとの違いだ。
医学生医学生
同僚の医師はセカンドオピニオン的な意味合いですよね。今回の相談とはずれている気がします。
ドクタードクター
そうだね。医学的説明を補強する意味はあっても、医師が社会保障制度の細部や手続きに精通しているとは限らない。患者さんのニーズに合わせて職種を選ぶ、これがチーム医療の基本的な考え方なんだ。
医学生医学生
訴えの中身を見極めて、その領域の専門家につなぐということですね。では、MSWは具体的にどんな制度を紹介するんでしょうか。
ドクタードクター
代表的なのが高額療養費制度だ。1か月の自己負担が所得に応じた上限を超えた分が払い戻され、限度額適用認定などを使えば窓口での支払いも上限までにとどめられる。化学療法のように医療費がかさむ治療では特に大事だね。もう一つが傷病手当金。会社員など被用者保険の加入者が病気で働けず給与が出ない場合、連続3日の待期期間のあと4日目から支給され、支給期間は通算1年6か月だ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で聞いた覚えがあります。国家試験でも数字が狙われそうですね。病状によっては障害年金の対象になることもあるんですか。
ドクタードクター
がんでも対象となることがあるよ。さらに、厚生労働省のガイドラインに基づく「治療と仕事の両立支援」という仕組みもある。主治医と企業側の産業医など、そして患者さんが情報を共有し、勤務時間や業務内容の配慮を検討するものだ。両立支援コーディネーターが関わることもある。
医学生医学生
がん診療連携拠点病院の「がん相談支援センター」もありましたよね。
ドクタードクター
そう。MSWや看護師などが、その病院にかかっていない人も含めて無料で治療・生活・就労・経済面の相談に応じている。がん医療では身体的苦痛だけでなく、精神的・社会的・スピリチュアルな苦痛、つまり全人的苦痛(トータルペイン)への対応が求められる。社会的苦痛の窓口としてMSWを早めに紹介できるかどうかは、治療を続けられるかどうかにも関わる大事なポイントだよ。

まとめ

患者さんの訴えは身体的・精神的・社会的な問題に分けて捉え、その領域の専門職を説明の場につなぐことがチーム医療の基本です。仕事や会社との関係、収入、医療費、社会保障制度に関する相談に応えるのは医療ソーシャルワーカー(MSW)であり、看護師・薬剤師・事務職員・同僚医師はそれぞれ重要な役割をもつものの、この相談の中心的な担い手ではありません。がん患者さんの就労・経済面では、高額療養費制度、傷病手当金(待期3日後の4日目から通算1年6か月)、治療と仕事の両立支援、がん相談支援センターなどが代表的な支援です。全人的苦痛の一つである社会的苦痛に早期から目を向け、適切な職種へつなぐ視点は、患者さんが安心して治療を続けるための土台になります。

解答・解説

正解はeです

所見の整理

患者は45歳の会社員男性で、妻と子ども2人を養う働き盛りの世代である。悪性リンパ腫と診断され、抗癌化学療法が必要となった。治療期間中は入院や外来通院、副作用による体調不良のため、これまで通りに働けなくなる可能性が高い。 患者自身が訴えているのは病気そのものへの不安よりも、「最近転職したばかり」という事情を背景とした仕事・会社との関係への不安であり、「利用できる支援制度について相談したい」と具体的に要望している。

設問の考え方

ここで求められているのは、医学的な治療内容の説明を補う職種ではなく、就労継続・休職・収入保障・医療費負担といった社会的・経済的課題について、公的制度や社会資源を紹介し調整できる専門職である。患者の訴え(ニーズ)がどの領域の問題かを見極め、その領域を専門とする職種を説明の場に加えることが、チーム医療の基本的な考え方である。 社会福祉の立場から患者・家族の心理社会的問題や経済的問題の解決を支援し、制度の利用手続きを仲介する専門職は医療ソーシャルワーカー(MSW:medical social worker)であり、本問で同席を求める相手として最も適切である。

選択肢考察

  1. ×a.  看護師

    看護師は療養上の世話と診療の補助を担い、化学療法中の副作用への対処や生活上の注意点の説明、患者の心理的サポートなどで重要な役割を果たす。説明の場に同席すること自体は珍しくないが、本患者が求めている就労・休職に関わる公的支援制度の具体的な紹介や手続きの調整は看護師の中心的業務ではなく、「最も適切」とはいえない。

  2. ×b.  薬剤師

    薬剤師は調剤、服薬指導、抗癌薬のレジメン(投与計画)の確認や副作用モニタリングなどを担う薬の専門家である。化学療法の場面では関わりが深い職種だが、本患者が相談したいのは仕事と会社との関係や支援制度という社会的な問題であり、薬剤師の専門領域とは異なる。

  3. ×c.  事務職員

    医療機関の事務職員は受付、会計、診療報酬請求、書類の発行手続きなどを担当する。診断書や各種申請書類の発行窓口として関わることはあるが、患者個々の社会的状況を評価し、どの制度をどう組み合わせて使うべきかを相談・助言する専門的な役割は担っていない。

  4. ×d.  同僚の医師

    別の医師の同席は、診断や治療方針についてのセカンドオピニオン的な説明や、医学的説明を補強する目的では意味をもつ。しかし本患者の不安の中心は医学的事項ではなく就労と社会保障制度であり、医師は一般にこれらの制度の詳細や手続きに精通しているわけではない。患者のニーズに応える同席者としては適切でない。

  5. ○e.  医療ソーシャルワーカー

    医療ソーシャルワーカーは保健医療機関に勤務するソーシャルワーカーで、多くは社会福祉士や精神保健福祉士の資格をもつ。社会福祉の立場から、患者や家族が抱える経済的・心理的・社会的問題の解決を援助し、退院支援や社会復帰の支援、医療費や生活費に関わる制度の紹介、関係機関との連絡調整を行う。本患者のように、治療と仕事の両立や休職中の収入、医療費負担などに不安を抱える場合、利用できる制度(後述の補足参照)を具体的に示し手続きを支援できるのはこの職種であり、説明の場に同席させるのが最も適切である。

医療ソーシャルワーカー(MSW)の主な業務

厚生労働省の「医療ソーシャルワーカー業務指針」では、主な業務として次のものが挙げられている。 ・療養中の心理的・社会的問題の解決、調整援助 ・退院援助 ・社会復帰援助 ・受診・受療援助 ・経済的問題の解決、調整援助 ・地域活動

がん患者の就労・経済面で関係しうる主な制度

・高額療養費制度:1か月の医療費の自己負担額が所得に応じた上限額を超えた場合、超過分が払い戻される(事前に限度額適用認定を受けたり、マイナ保険証を利用したりすれば、窓口での支払いを上限額までにとどめられる)。化学療法のように医療費がかさむ治療で特に重要である。 ・傷病手当金:健康保険(被用者保険)の被保険者が業務外の病気やけがで働けず給与が支払われない場合に、連続3日間の待期期間の後、4日目から支給される所得保障である。支給期間は支給開始日から通算1年6か月である。 ・障害年金:病状によっては、がんでも対象となることがある。 ・治療と仕事の両立支援:厚生労働省のガイドラインに基づき、主治医・企業(産業医など)・患者が情報を共有し、勤務時間や業務内容の配慮を検討する仕組みがある。両立支援コーディネーターが支援に関わることもある。

相談窓口

がん診療連携拠点病院には「がん相談支援センター」が設置されており、医療ソーシャルワーカーや看護師などが、その病院を受診していない人も含めて、治療・生活・就労・経済面の相談に無料で応じている。ハローワークの就職支援ナビゲーターと連携した就労支援が行われている施設もある。

チーム医療と緩和ケア

がん医療では、身体的苦痛だけでなく、精神的・社会的・スピリチュアルな苦痛(全人的苦痛、トータルペイン)への対応が求められる。社会的苦痛(仕事、経済、家庭内の役割の問題など)には医療ソーシャルワーカーが中心となって対応し、医師・看護師・薬剤師・心理職などと多職種で連携する。

POINT

・患者の訴えを身体的・精神的・社会的な問題に分け、その領域の専門職につなぐのがチーム医療の基本である。 ・仕事、経済、医療費、社会保障制度、退院後の生活に関する相談は医療ソーシャルワーカー(MSW)が担当する。 ・がん患者の就労支援に関わる代表的な制度:高額療養費制度、傷病手当金、治療と仕事の両立支援。 ・がん診療連携拠点病院には、がん相談支援センターが設置されている。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。