StudyMed医師国家試験

薬剤師からの電話にどう応える?―ASTと主治医の役割分担を読み解く

第120回医師国家試験 B問題 第34問

国試問題にチャレンジ

第120回 B問題 第34問

84歳の女性。2日前から発熱し,意識障害のため救急車で搬入された。来院時の意識レベルはJCSⅡ-10。体温38.9℃。心拍数128/分,整。血圧74/40mmHg。呼吸数28/分。SpO2 96%(マスク6L/分酸素投与下)。初期輸液とノルアドレナリンの投与を開始し,血液培養2セットを含む各種微生物検査を実施したのちに,広域スペクトル抗菌薬を投与して入院した。入院3日後,検査結果を確認した抗菌薬適正使用支援チーム[Antimicrobial Stewardship Team〈AST〉]の薬剤師から担当医に連絡が入り,抗菌薬の変更を提案された。  ASTの薬剤師に対する回答で適切なのはどれか。

  1. a.「無断で検査結果を確認するのはご遠慮ください」
  2. b.「ASTで抗菌薬の処方を変更しておいてください」
  3. c.「医師への提案はASTの医師からにしてください」
  4. d.「これから診療チームで抗菌薬の変更を検討します」
  5. e.「提案は明日の診療科カンファレンスの場でお願いします」

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、敗血症の治療中に抗菌薬適正使用支援チーム、ASTの薬剤師から抗菌薬の変更を提案されたとき、担当医としてどう応えるかという問題だ。医学知識だけでなく、チーム医療での役割分担が問われている。まずは患者さんの状態を簡単に評価しておこう。
医学生医学生
意識障害があり、呼吸数も多く、血圧も低いので、qSOFAの3項目をすべて満たしています。敗血症が強く疑われますね。
ドクタードクター
その通り。しかも輸液に加えてノルアドレナリンが必要な低血圧で、平均動脈圧も65mmHgを大きく下回っている。敗血症性ショックの病態と考えられる。初期対応として、血液培養を2セット採ってから広域抗菌薬を開始しているのは、教科書どおりの正しい流れだ。
医学生医学生
では入院3日目というのは、どういう意味を持つタイミングなんでしょう。
ドクタードクター
そこが大事なポイント。培養を採ってから48〜72時間ほどで、起炎菌と薬剤感受性がわかってくる。経験的に始めた広域抗菌薬を、起炎菌に合わせた狭域の薬に切り替えるデ・エスカレーションを考える典型的な時期なんだ。逆に、耐性菌が見つかって変更が必要になることもある。
医学生医学生
ASTの薬剤師さんは、その結果を見て連絡してきたわけですね。でも、主治医に断りなく検査結果を見るのはいいんですか。
ドクタードクター
いい疑問だね。でも、それこそがASTの本来の仕事なんだ。血液培養陽性例や広域抗菌薬・抗MRSA薬を使っている患者を把握して、検査結果と処方を確認し、担当医に助言する。院内の正規業務だから、主治医の許可を逐一取る必要はない。無断で見ないでほしいと返すのは、チーム医療を妨げる対応になる。
医学生医学生
それなら、専門家に任せてASTで処方を変えておいてもらうのはどうでしょう。効率的な気がします。
ドクタードクター
そこは落とし穴だ。ASTの役割はあくまで助言と提案で、薬剤師には処方権がない。処方を決めて変更する責任は、患者の病状全体を把握している担当医、つまり診療チームにある。提案を自分で吟味せず丸投げするのは、主治医の責任放棄になってしまう。
医学生医学生
では、提案はASTの医師からにしてほしい、という返事は?医師同士の方が話が早いかもと思ったんですが。
ドクタードクター
職種で提案を受け付けないという態度は不適切だよ。薬剤師が処方の妥当性を評価して、薬の選択や用量、変更を医師に提案するのは、チーム医療における薬剤師の重要な役割なんだ。
医学生医学生
臨床実習で感染症科を回ったとき、薬剤師さんがバンコマイシンの血中濃度を見て投与量を提案していて、先生がすぐ採用していました。
ドクタードクター
まさにTDM、治療薬物モニタリングの支援で、これもASTの大事な活動だ。では、明日のカンファレンスで提案してほしい、という返事はどうかな。
医学生医学生
丁寧な対応に見えますが、敗血症性ショックの患者さんで1日待つのは遅すぎますね。
ドクタードクター
その通り。合理的な理由なく判断を先送りすると、不適切な抗菌薬が続いて治療の失敗につながるかもしれないし、不要な広域抗菌薬が続けば耐性菌の選択やClostridioides difficile感染症などの副作用のリスクも上がる。ASTの提案は電話や電子カルテで直接届くもので、カンファレンスを待つ必要はないんだ。
医学生医学生
そうすると、これから診療チームで抗菌薬の変更を検討します、という返事が正解ですね。提案を受け止めつつ、決めるのは自分たち、という形です。
ドクタードクター
そう。提案に感謝して受け止め、解熱や血圧・意識の改善といった臨床経過、推定される感染巣、感受性結果、腎機能などを踏まえて、診療チームとして速やかに判断する。提案の尊重と主治医の最終責任、この両方を満たす答えだ。
医学生医学生
ASTは感染制御チームのICTとは違うんですか。CBTの勉強のときに混同していました。
ドクタードクター
よく混同されるね。ICTは院内感染対策が中心で、ASTは抗菌薬の使い方に焦点を当てたチームだ。医師、薬剤師、臨床検査技師、看護師などで構成され、処方医へのフィードバック、特定抗菌薬の届出制・許可制、院内のアンチバイオグラム作成、職員教育などを担う。目的は、個々の患者の治療効果を高めながら、副作用と耐性菌の出現を最小限にすることだ。研修医になったら、ASTからの連絡は頼もしい援軍だと思って受け止めてほしい。

まとめ

敗血症では血液培養を2セット以上採取した後、速やかに広域抗菌薬で経験的治療を始め、培養・感受性結果が判明する48〜72時間後にデ・エスカレーションなどの見直しを行います。ASTは医師・薬剤師・臨床検査技師・看護師などからなる多職種チームで、検査結果や処方を確認して担当医に助言・提案することが本来業務であり、薬剤師からの提案も正当なものとして尊重します。一方、処方の最終決定権と責任は担当医(診療チーム)にあるため、提案を受け止めたうえで臨床経過や感受性結果を踏まえて速やかに検討するのが適切な対応です。検査閲覧の拒否、処方の丸投げ、職種による提案の拒絶、理由のない先送りは、いずれもチーム医療と患者の利益を損ないます。抗菌薬適正使用は耐性菌対策の要であり、多職種の専門性を生かす姿勢は臨床現場で欠かせない力です。

解答・解説

正解はdです

患者の状態の整理

・84歳女性。2日前からの発熱と意識障害(JCS Ⅱ-10:普通の呼びかけで容易に開眼する程度)で救急搬入。 ・体温38.9℃、心拍数128/分、血圧74/40mmHg、呼吸数28/分、酸素投与下でSpO2 96%。 ・quick SOFA〈qSOFA〉の3項目(意識の変容、呼吸数22/分以上、収縮期血圧100mmHg以下)をすべて満たし、感染症を背景とした敗血症が強く疑われる。さらに初期輸液に加えてノルアドレナリン(血管収縮薬)が必要な低血圧であり、敗血症性ショックの病態と考えられる(平均動脈圧は(74-40)÷3+40 ≒ 51mmHgと65mmHgを大きく下回る)。 ・敗血症診療の原則どおり、血液培養2セットを含む微生物検査を採取してから、ただちに広域スペクトル抗菌薬(経験的治療)を開始している。

問われていること

入院3日目は、培養結果(起炎菌の同定と薬剤感受性)が判明してくる時期であり、経験的に開始した広域抗菌薬を、起炎菌に合わせたより狭域の抗菌薬に切り替える「デ・エスカレーション」を検討する典型的なタイミングである。抗菌薬適正使用支援チーム〈AST〉の薬剤師はこの検査結果を確認し、抗菌薬の変更を提案してきた。 ASTは、医師・薬剤師・臨床検査技師・看護師などで構成され、院内の抗菌薬使用を監視し、主治医に助言・提案することで、患者の治療効果を高めつつ耐性菌の出現や副作用を減らすことを目的とした多職種チームである。検査結果や処方の確認はASTの本来業務であり、提案は医師以外の職種からも行われる。一方、処方の最終的な決定・変更は、患者を担当する医師(診療チーム)の責任で行う。 したがって適切な回答は、提案を受け止めて感謝し、患者の臨床経過・感染巣・感受性結果を踏まえて、速やかに診療チームとして変更を検討する、というものである。

選択肢考察

  1. ×a.  「無断で検査結果を確認するのはご遠慮ください」

    ASTは、血液培養陽性例や広域抗菌薬・抗MRSA薬などの使用例を把握し、検査結果と処方内容を確認して介入することが本来の役割である。院内の正規業務として行われるもので、主治医の許可を逐一得る必要はない。チーム医療の連携を妨げ、患者の利益を損なう不適切な対応である。

  2. ×b.  「ASTで抗菌薬の処方を変更しておいてください」

    ASTの役割は助言・提案であり、薬剤師には処方権がない。処方の決定と変更は、患者の病状全体を把握している担当医(診療チーム)が責任をもって行うべきものである。提案内容を自ら吟味せずに丸投げするのは、主治医としての責任を放棄することになり不適切である。

  3. ×c.  「医師への提案はASTの医師からにしてください」

    薬剤師が処方内容の妥当性を評価し、薬剤の選択・用量・変更などを医師に提案することは、チーム医療における薬剤師の重要な役割として位置づけられている。職種によって提案を受け付けない態度は、多職種連携を阻害し、必要な治療変更を遅らせる。

  4. ○d.  「これから診療チームで抗菌薬の変更を検討します」

    ASTの提案を受け入れたうえで、処方権と責任を持つ診療チームが、患者の臨床経過(解熱、血圧・意識の改善の有無など)、推定感染巣、培養・感受性結果、腎機能などを踏まえて変更の可否を速やかに判断する、という適切な対応である。提案を尊重しつつ最終判断を主治医側で行うという、ASTと診療チームの役割分担に合致している。

  5. ×e.  「提案は明日の診療科カンファレンスの場でお願いします」

    敗血症性ショックの患者で、培養結果に基づく抗菌薬の見直しは時機を逃さず行うべきであり、合理的な理由なく判断を先送りするのは適切でない。不適切な抗菌薬が続けば治療の失敗につながり、不必要な広域抗菌薬の継続は耐性菌の選択や副作用(Clostridioides difficile感染症など)のリスクを高める。ASTからの提案は通常、電話や電子カルテを通じて担当医に直接伝えられるもので、カンファレンスを待つ必要はない。

抗菌薬適正使用支援〈Antimicrobial Stewardship〉

・目的:個々の患者の感染症治療効果を最大化し、有害事象と薬剤耐性菌の出現を最小限に抑えること。 ・AST:感染症に詳しい医師、薬剤師、臨床検査技師、看護師などで構成する多職種チーム。院内感染対策を担う感染制御チーム〈ICT〉とは別に、抗菌薬の使い方に焦点を当てて活動する。 ・主な活動:血液培養陽性例・広域抗菌薬や抗MRSA薬などの長期使用例のモニタリングと処方医への助言(前向き監査とフィードバック)、特定抗菌薬の届出制・許可制、TDM〈治療薬物モニタリング:血中濃度測定に基づく投与量調整〉の支援、院内アンチバイオグラム(院内分離菌の感受性一覧)の作成、職員教育など。 ・ASTはあくまで助言・提案を行う立場であり、処方の最終決定は主治医が行う。

敗血症の診断(Sepsis-3)

・敗血症:感染症に対する生体反応の調節不全により、生命を脅かす臓器障害が生じた状態。感染症(疑いを含む)に加え、SOFAスコアが2点以上急上昇したもの。 ・qSOFA:呼吸数22/分以上、意識の変容(GCS15点未満)、収縮期血圧100mmHg以下のうち2項目以上で敗血症を疑う。ただし感度が十分でないため、qSOFA単独でのスクリーニングは推奨されておらず、SIRS〈全身性炎症反応症候群〉基準なども併用して評価する。 ・敗血症性ショック:十分な輸液を行っても平均動脈圧65mmHg以上を保つのに血管収縮薬を要し、かつ血中乳酸値が2mmol/L(18mg/dL)を超えるもの。

敗血症の初期診療と抗菌薬

・抗菌薬投与前に血液培養を2セット以上採取する(汚染菌との判別や検出感度向上のため)。ただし採取のために抗菌薬開始を大きく遅らせない。 ・敗血症性ショックでは認知後できるだけ早く(1時間以内を目標に)経験的に広域抗菌薬を開始する。 ・初期蘇生は晶質液(乳酸リンゲル液など)の輸液、第一選択の血管収縮薬はノルアドレナリン。 ・感染源の検索とコントロール(膿瘍ドレナージ、感染したカテーテルの抜去など)も並行して行う。 ・培養・感受性結果が判明したら(通常48〜72時間後)、臨床経過と合わせて、狭域抗菌薬へのデ・エスカレーションや投与期間の見直しを行う。

POINT

・ASTは多職種チームで、検査結果や処方を確認して主治医に抗菌薬の変更などを提案するのが本来業務である。 ・薬剤師など医師以外の職種からの提案も正当であり、尊重する。 ・処方の最終決定権と責任は担当医(診療チーム)にあり、提案を踏まえて速やかに検討する。 ・敗血症では培養採取後に経験的広域抗菌薬を開始し、培養結果判明後(48〜72時間)にデ・エスカレーションを検討する。 ・qSOFA:呼吸数22/分以上、意識変容、収縮期血圧100mmHg以下。敗血症性ショック:血管収縮薬で平均動脈圧65mmHg以上維持が必要+乳酸値>2mmol/L。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。