救急車を待つな、今そこにいる人が打て―学校でのアナフィラキシーとエピペン®の実施者
第120回医師国家試験 F問題 第38問
国試問題にチャレンジ
6歳の女児。呼吸困難のため救急要請された。小学校の給食で,ピーナッツバター付きのパンを食べた直後から呼吸困難と悪心を認めた。傍にいた担任教諭は,事務員に家族を呼び救急車を要請するように指示した。救急車は15分後,家族は20分後に到着するという。意識は傾眠状態。脈は触知できるが,顔面は蒼白であった。激しい咳嗽と全身に膨疹を認める。学校から搬入予定の病院まで車で30分かかる。ピーナッツによるアナフィラキシーショックの既往がある。主治医の指導でアドレナリン自己注射液は本人に携帯させており,事前に担任教諭ヘアドレナリン注射の指導をしている。担任教諭が注射の実施について判断に迷ったため,主治医に電話相談をした。 指示すべきアドレナリン注射の実施者はどれか。
- a.家族
- b.教諭
- c.本人
- d.救急救命士
- e.搬入先の医師
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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ドクター
医学生
ドクターまとめ
アナフィラキシーの第一選択治療はアドレナリン筋注であり、食物では症状出現から心停止まで短時間で進行しうるため、投与の遅れが予後を左右します。本例のように皮膚・呼吸器・消化器症状に加えて意識レベル低下や顔面蒼白を伴う重症例では、家族や救急隊、病院の医師を待たず、その場にいて事前に指導を受けた担任教諭に直ちに注射させるべきです。6歳で傾眠状態の本人は自己注射できず、教職員が代わりにエピペン®を注射することは反復継続性のない救命行為として医師法違反にならないとされ、学校のアレルギー対応ガイドラインにも記載されています。注射後は仰臥位・下肢挙上とし、急に立たせず、二相性反応に備えて必ず医療機関へ搬送します。「迷ったら打つ」「最も早く確実に打てる人が打つ」という原則は、学校や地域と連携する医師にとって欠かせない知識です。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・6歳女児。ピーナッツによるアナフィラキシーショックの既往があり、アドレナリン自己注射液(エピペン®)を携帯している。 ・給食でピーナッツバター付きのパンを食べた直後から、呼吸困難・激しい咳嗽(呼吸器症状)、悪心(消化器症状)、全身の膨疹(皮膚症状)が出現した。 ・意識は傾眠、顔面蒼白で、脈は触れるものの循環不全・低酸素が進行しつつある状態である。
診断
既知のアレルゲンへの曝露直後に、皮膚・呼吸器・消化器の複数臓器症状が急速に出現し、意識レベル低下まで来しているので、ピーナッツによるアナフィラキシー(ショックに移行しつつある重症例)と判断できる。急激な呼吸困難では気道異物も鑑別に挙がるが、全身の膨疹や悪心を伴うことからアナフィラキシーと考えるのが妥当である。
設問の考え方
アナフィラキシーの第一選択治療はアドレナリンの筋肉内注射であり、投与が早いほど予後が良く、遅れると心停止・死亡のリスクが高まる。したがって「誰が最も早く、確実に注射できるか」が判断の軸になる。 ・本人:6歳で、しかも傾眠状態であり自己注射は不可能。 ・家族:到着まで20分。 ・救急隊:到着まで15分。 ・病院の医師:救急車到着後さらに搬送に30分かかり、治療開始まで45分以上。 ・担任教諭:現場にすでにおり、事前に主治医から注射の指導を受けている。 よって、主治医は電話でためらわず担任教諭に直ちに注射するよう指示すべきである。教職員が自己注射できない児童生徒に代わってエピペン®を注射することは、反復継続する意図のない救命のための行為として医師法違反にはならないとする見解が国から示されており、学校のアレルギー対応ガイドラインにも明記されている。
選択肢考察
- ×a. 家族
家族の到着は20分後である。すでに意識レベル低下と顔面蒼白を来しており、ショックが進行している状況で20分も投与を遅らせることは心停止の危険を高める。現場に注射可能な人がいるのに家族を待つ理由はない。
- ○b. 教諭
担任教諭は児のそばにおり、事前に主治医からアドレナリン注射の指導を受けているため、今すぐ確実に実施できる唯一の人物である。教職員が、自己注射ができない状態の児童生徒に代わってエピペン®を注射することは、反復継続する意図のない救命行為であり医師法違反にならないとされ、文部科学省監修の学校におけるアレルギー疾患対応のガイドラインにも記載されている。判断に迷ったときは打つことが原則であり、主治医は直ちに注射するよう指示すべきである。注射後も救急車を待ち、医療機関へ搬送する。
- ×c. 本人
アドレナリン自己注射液は本人に携帯させてはいるが、6歳と幼く、さらに傾眠状態で意識レベルが低下しているため、自分で注射することは期待できない。重症アナフィラキシーでは本人が自己注射できないことが多く、だからこそ周囲の大人が代わりに打てるよう事前指導が行われている。
- ×d. 救急救命士
救急救命士は、アドレナリン自己注射液を処方されている傷病者に対しては、それを用いて注射を行うことが認められている。しかし本例では救急車の到着まで15分かかり、その間にショックが進行する危険がある。現場に実施可能な教諭がいる以上、救急隊を待つべきではない。
- ×e. 搬入先の医師
救急車到着までの15分に加え、病院まで30分かかるため、治療開始は早くても45分以上後になる。アナフィラキシーでは症状出現から心停止まで短時間で進行しうるため、病院到着まで待つのは明らかに不適切である。
アナフィラキシーの概要
アレルゲンなどへの曝露により、複数臓器に全身性のアレルギー症状が急速に出現し、生命に危機を与えうる過敏反応である。血圧低下や意識障害を伴う場合をアナフィラキシーショックという。食物では症状出現から心停止までの時間が中央値で約30分と短いと報告されており、迅速な対応が必要である。
アドレナリン筋注
・第一選択。α1作用による血管収縮(血圧上昇・粘膜浮腫軽減)、β1作用による心収縮力増強、β2作用による気管支拡張、マスト細胞からのメディエーター放出抑制を示す。 ・医療機関では0.01 mg/kg(小児最大0.3 mg、成人最大0.5 mg)を大腿前外側に筋注し、効果が乏しければ5〜15分ごとに反復する。 ・自己注射液は0.15 mg製剤(体重15〜30 kg目安)と0.3 mg製剤(体重30 kg以上目安)がある。大腿前外側に、緊急時は衣服の上からでも注射できる。 ・抗ヒスタミン薬やステロイドは補助的治療であり、アドレナリンの代わりにはならない。ステロイドは二相性反応予防目的で使われてきたが、その効果の根拠は乏しい。
エピペン®使用を考慮すべき症状(日本小児アレルギー学会の一般向け目安)
消化器症状:繰り返し吐き続ける、持続する強い(がまんできない)おなかの痛み 呼吸器症状:のどや胸が締め付けられる、声がかすれる、犬が吠えるような咳、持続する強い咳込み、ゼーゼーする呼吸、息がしにくい 全身症状:唇や爪が青白い、脈を触れにくい・不規則、意識がもうろうとしている、ぐったりしている、尿や便を漏らす これらが一つでもあれば使用する。本例は激しい咳嗽、呼吸困難、傾眠と複数該当する。
注射後の対応
仰臥位で下肢を挙上する(呼吸困難が強ければ上体を起こす、嘔吐があれば顔を横に向ける)。急に立たせたり座らせたりしない(循環血液量が心臓に戻らなくなり心停止を招くことがある)。効果は一時的で二相性反応もありうるため、症状が改善しても必ず医療機関を受診させる。
学校での体制
学校生活管理指導表に基づき、児のアレルギー情報を教職員で共有し、エピペン®の保管場所や使用方法を全教職員が把握しておくことが求められる。
POINT
・アナフィラキシーの第一選択はアドレナリン筋注であり、投与の遅れが予後を左右する。 ・本人が自己注射できないときは、その場にいて指導を受けた教職員が代わりに注射してよい(医師法違反にならないとされる)。 ・家族・救急隊・病院を待たず、現場で最も早く確実に打てる人に実施させる。 ・迷ったら打つ。打った後も必ず救急搬送する。
