骨転移の痛みに、まず何を?―除痛ラダーの第一歩はアセトアミノフェン
第113回医師国家試験 E問題 第39問
国試問題にチャレンジ
66歳の男性。5年前から前立腺癌で治療中である。半年前に腰椎と右肋骨に転移が確認され,最近,腰痛を自覚するようになった。疼痛以外の自覚症状はない。 疼痛緩和のために,まず投与すべきなのはどれか。
- a.コデイン
- b.モルヒネ
- c.フェンタニル
- d.オキシコドン
- e.アセトアミノフェン
対話形式の解説
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医学生まとめ
がん疼痛の薬物療法では、痛みの強さに応じて鎮痛薬を選ぶWHO方式の除痛ラダーが基本となり、鎮痛薬未使用で痛みが強いとは示されていない初期の疼痛では、第1段階の非オピオイド鎮痛薬であるアセトアミノフェン(またはNSAIDs)から開始します。コデインは第2段階の弱オピオイド、モルヒネ・オキシコドン・フェンタニルは第3段階の強オピオイドであり、オピオイドを追加しても非オピオイド鎮痛薬は原則として併用を続けます。2018年のWHOガイドラインではラダーは教育的な目安とされ、強い痛みには最初から強オピオイドを用いてよいとされています。骨転移痛には緩和照射や骨修飾薬も組み合わせ、下肢麻痺や膀胱直腸障害が出れば脊髄圧迫として緊急対応が必要です。段階的な鎮痛の考え方と副作用対策、危険なサインの見極めは、緩和ケアの実践に欠かせない基礎知識です。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・66歳の男性。5年前から前立腺癌の治療を受けている。 ・半年前に腰椎と右肋骨への骨転移が判明し、最近になって腰痛が出てきた。 ・疼痛以外の症状はない。下肢の麻痺やしびれ、膀胱直腸障害など脊髄圧迫を示す症状の記載はなく、鎮痛薬もまだ使われていない。
病態の考え方
前立腺癌は骨に転移しやすい癌の代表で、腰椎などの脊椎や骨盤、肋骨によく転移する(骨硬化性の転移が多い)。本例の腰痛は、腰椎転移による癌性疼痛(がん疼痛)と考えるのが自然である。骨転移の痛みは、骨膜への刺激や骨内の炎症性物質による侵害受容性の痛み(体性痛)が主体である。
設問の考え方
がん疼痛の薬物療法では、痛みの強さに応じて鎮痛薬を段階的に選ぶ考え方(WHO方式の3段階除痛ラダー)が基本となる。 ・第1段階(軽度の痛み): 非オピオイド鎮痛薬(アセトアミノフェン、NSAIDs) ・第2段階(軽度〜中等度の痛み): 弱オピオイド(コデイン、トラマドールなど)±非オピオイド鎮痛薬 ・第3段階(中等度〜高度の痛み): 強オピオイド(モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル、ヒドロモルフォンなど)±非オピオイド鎮痛薬 本例は「最近腰痛を自覚するようになった」段階で、まだ鎮痛薬を使っておらず、痛みが耐えがたいほど強いという記載もない。したがって、まず第1段階の非オピオイド鎮痛薬から開始するのが原則であり、選択肢の中ではアセトアミノフェンが該当する。効果が不十分であれば、非オピオイド鎮痛薬を続けたままオピオイドを追加していく。 なお、WHOの2018年のがん疼痛ガイドラインでは、除痛ラダーを機械的に一段ずつ上る必要はなく、強い痛みには初めから強オピオイドを使用してよいとされ、ラダーは教育的な目安として位置づけられている。本例のように痛みの強さが特に示されていない初期の疼痛では、非オピオイド鎮痛薬から開始するのが妥当である。
選択肢考察
- ×a. コデイン
コデインは弱オピオイドに分類され、除痛ラダーの第2段階で用いる薬である。体内で肝臓の薬物代謝酵素CYP2D6によって一部がモルヒネに変換されて鎮痛効果を発揮するため、代謝能力の個人差により効果や副作用がばらつく。非オピオイド鎮痛薬で十分な効果が得られない場合に追加を検討する薬であり、鎮痛薬未使用の段階で最初に選ぶものではない。
- ×b. モルヒネ
モルヒネは強オピオイドの代表で、除痛ラダーの第3段階(中等度〜高度の痛み)で用いる。経口・注射・坐剤など剤形が豊富だが、代謝産物(モルヒネ-6-グルクロニドなど)が腎臓から排泄されるため、腎機能障害があると蓄積して眠気や呼吸抑制が出やすい。便秘・悪心・眠気などの副作用対策も必要になる。痛みが強い場合には早期から用いてよいが、本例のような初期の疼痛でまず選ぶ薬ではない。
- ×c. フェンタニル
フェンタニルは強オピオイドで、貼付剤(経皮吸収型製剤)や注射薬、口腔粘膜吸収製剤として用いられる。腎機能障害の影響を受けにくく、モルヒネに比べ便秘が少ないとされる。貼付剤は効果発現が遅く用量調節がしにくいため、他のオピオイドで痛みが安定している患者の切り替えなどに用いることが多い。鎮痛薬未使用の患者に最初に投与する薬ではない。
- ×d. オキシコドン
オキシコドンは強オピオイドに分類され、経口の徐放製剤・速放製剤や注射薬がある。代謝産物の活性が弱く、腎機能障害時にもモルヒネより使いやすいとされる。低用量を第2段階で用いることもあるが、いずれにせよ非オピオイド鎮痛薬で効果が不十分な場合や痛みが強い場合に導入する薬であり、本例でまず投与すべき薬ではない。
- ○e. アセトアミノフェン
アセトアミノフェンは非オピオイド鎮痛薬で、除痛ラダーの第1段階に位置づけられる。主に中枢で作用して鎮痛・解熱効果を示し、抗炎症作用は弱いが、NSAIDsのような消化管潰瘍、腎障害、血小板機能抑制といった副作用が少ないため、高齢者や腎機能が気になる患者にも使いやすい。大量投与では肝障害に注意が必要である。鎮痛薬未使用で、痛みの強さが特に示されていない本例では、まずアセトアミノフェン(またはNSAIDs)から開始し、効果不十分ならオピオイドを追加する。
WHO方式がん疼痛治療法の基本原則
・経口的に(by mouth): 可能な限り簡便な経口投与を優先する。 ・時刻を決めて規則正しく(by the clock): 痛みが出てから飲むのではなく、効果が切れる前に定時投与する。突出痛にはレスキュー薬(速放性製剤)を用いる。 ・患者ごとの個別的な量で(for the individual): オピオイドには標準量や上限がなく、効果と副作用をみながら調節する。 ・細かい配慮をもって(with attention to detail): 副作用対策や説明を丁寧に行う。 ・かつては「除痛ラダーに沿って(by the ladder)」も原則に含まれていたが、2018年の改訂で原則からは外れ、痛みの強さに応じて適切な薬を選ぶ考え方となった。
オピオイドの主な副作用と対策
・便秘: ほぼ必発で耐性がつきにくいため、下剤(浸透圧性下剤、刺激性下剤、末梢性μオピオイド受容体拮抗薬のナルデメジンなど)を併用する。 ・悪心・嘔吐: 投与初期に多く、制吐薬で対処する。数日〜1、2週間で耐性ができることが多い。 ・眠気、せん妄、呼吸抑制: 過量時に注意。呼吸抑制にはナロキソンで拮抗する。
骨転移による痛みの治療
・鎮痛薬に加え、局所の痛みには放射線照射(緩和照射)が有効である。 ・骨修飾薬(ゾレドロン酸、デノスマブ)は、病的骨折や脊髄圧迫などの骨関連事象を減らす目的で用いられる。顎骨壊死や低カルシウム血症に注意する。 ・前立腺癌では、去勢抵抗性となった骨転移に対しラジウム223による治療が行われることもある。 ・下肢の麻痺・感覚障害、膀胱直腸障害が出現した場合は、転移性脊髄圧迫を疑い緊急で対応(ステロイド、放射線治療、手術)する。 ・鎮痛補助薬: 神経障害性疼痛を伴う場合は、プレガバリンなどの抗けいれん薬や抗うつ薬、ステロイドなどを併用することがある。
POINT
・がん疼痛の初期治療では、まず非オピオイド鎮痛薬(アセトアミノフェン、NSAIDs)から開始する(除痛ラダー第1段階)。 ・コデイン(・トラマドール)は弱オピオイドで第2段階、モルヒネ・オキシコドン・フェンタニルは強オピオイドで第3段階。 ・オピオイドを追加しても非オピオイド鎮痛薬は原則として併用を続ける。 ・WHO 2018年ガイドラインでは除痛ラダーは教育的目安とされ、強い痛みには最初から強オピオイドを用いてよい。 ・骨転移痛には放射線照射や骨修飾薬(ゾレドロン酸、デノスマブ)も組み合わせ、脊髄圧迫症状に注意する。
