お産で命を落とさないために―妊産婦死亡の第1位「産科危機的出血」を円グラフから読み解く
第113回医師国家試験 C問題 第7問
国試問題にチャレンジ
2010年(平成22年)から2016年(平成28年)までの日本の妊産婦死亡の原因別頻度を以下に示す。 ①はどれか。 ただし,①~⑤はa~eのいずれかに該当する。

- a.感染症
- b.肺血栓塞栓症
- c.産科危機的出血
- d.心・大血管疾患
- e.心肺虚脱型羊水塞栓症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
日本の妊産婦死亡の原因で最も多いのは産科危機的出血で、2010〜2016年の集計では約4分の1を占めます。これに脳出血・脳梗塞、心肺虚脱型羊水塞栓症、心・大血管疾患、肺血栓塞栓症などの肺疾患、感染症が続きます。妊娠末期の子宮には大量の血液が流れており、弛緩出血や胎盤の異常、子宮型羊水塞栓症などでDICを合併すると急速に重篤化するため、ショックインデックスによる評価、早期輸血、高次施設への搬送が重要です。妊産婦死亡は妊娠中から妊娠終了後満42日未満の死亡を指し、妊産婦死亡率は出産10万対で表される点もあわせて押さえておきましょう。原因の順位とそれぞれの病態を理解しておくことは、周産期の急変に備え、母体の命を守る臨床判断の土台になります。
解答・解説
正解はcです
本問は、日本の妊産婦死亡を原因別に分けた円グラフで、①〜⑤に当てはまる疾患を問うものである。グラフ中では「脳出血・脳梗塞」「偶発合併症」「その他」「不明」はすでに示されており、残る5つの区画が選択肢の5疾患に対応する。区画は面積の大きい順に①→②→③→④→⑤と並んでおり、①は全体の約4分の1を占める最大の区画である。
原因別の順位(2010〜2016年、概数)
①産科危機的出血 約23% 脳出血・脳梗塞(頭蓋内出血・梗塞) ②心肺虚脱型羊水塞栓症 約13% ③心・大血管疾患 約10% ④肺血栓塞栓症などの肺疾患 約8% ⑤感染症 約7%
考え方
妊産婦死亡の最大の原因が分娩時・分娩後の大量出血(産科危機的出血)であることは、日本でも世界でも共通する。出産時には子宮への血流が毎分500〜700 mL程度に達するため、子宮収縮が不良になったり胎盤剝離面からの出血が止まらなかったりすると、短時間で生命を脅かす出血となる。さらに凝固障害(播種性血管内凝固:DIC)を合併しやすい。したがって最大の区画①には産科危機的出血が入る。 次いで多いのが脳出血・脳梗塞で、妊娠高血圧症候群に伴う脳出血などが含まれる。その後に、突然の心停止・呼吸停止で発症する心肺虚脱型羊水塞栓症、周産期心筋症や大動脈解離などの心・大血管疾患、肺血栓塞栓症、劇症型A群溶血性レンサ球菌感染症などの感染症が続く。
選択肢考察
- ×a. 感染症
感染症は⑤に該当し、約7%を占める。代表は劇症型A群溶血性レンサ球菌(GAS)感染症で、咽頭炎などに続いて急速に敗血症性ショック・多臓器不全へ進行し、子宮内胎児死亡を伴うことも多い。その他、リステリア感染症や、分娩後の子宮内感染・敗血症なども原因となる。頻度は①に及ばない。
- ×b. 肺血栓塞栓症
肺血栓塞栓症を中心とする肺疾患は④に該当し、約8%を占める。妊娠中は凝固能亢進、増大した子宮による下大静脈・骨盤内静脈の圧迫、産後の安静臥床などにより深部静脈血栓症を生じやすく、特に帝王切開後は高リスクである。早期離床、弾性ストッキング、間欠的空気圧迫法、リスクに応じた抗凝固療法で予防する。
- ○c. 産科危機的出血
産科危機的出血は妊産婦死亡の原因として最も多く、①(約23%)に該当する。原因には弛緩出血、前置胎盤・癒着胎盤、常位胎盤早期剝離、子宮破裂、産道裂傷などがあり、DICを合併して急速に重篤化する。羊水成分の流入により子宮の著しい弛緩とDICを生じる子宮型羊水塞栓症も、産科危機的出血による死亡の重要な原因である。対策として、ショックインデックス(心拍数÷収縮期血圧)による出血量の評価、早期の輸血(新鮮凍結血漿を含む)、高次施設への迅速な搬送などが重視されている。
- ×d. 心・大血管疾患
心・大血管疾患は③に該当し、約10%を占める。妊娠中は循環血液量が非妊時の約1.4〜1.5倍に増え、心拍出量も増大するため心臓への負荷が大きい。周産期心筋症(妊娠末期〜産後に心機能が低下する心筋症)、大動脈解離(マルファン症候群などがリスク)、既存の先天性心疾患の悪化などが含まれる。
- ×e. 心肺虚脱型羊水塞栓症
心肺虚脱型羊水塞栓症は②に該当し、約13%を占める。分娩前後に羊水成分が母体循環に入ることで、アナフィラキシー様の反応により突然の呼吸困難、低酸素血症、血圧低下、心停止を来す。発症が急激で予測が難しく、救命率が低い。なお、子宮の弛緩と出血・DICを主体とする病型は子宮型羊水塞栓症と呼ばれ、こちらは産科危機的出血の原因として扱われる。
妊産婦死亡の定義
妊娠中または妊娠終了後満42日未満の女性の死亡で、妊娠の期間や部位に関係なく、妊娠もしくはその管理に関連した、またはそれによって悪化したすべての原因によるもの(不慮または偶発の原因によるものを除く)をいう。妊娠そのものの合併症による直接産科的死亡と、既存疾患が妊娠で悪化した間接産科的死亡に分けられる。妊娠終了後満42日以後1年未満の死亡は後発妊産婦死亡と呼ばれる。
妊産婦死亡率
出産(出生数+妊娠満12週以後の死産数)10万対で表す。日本の妊産婦死亡率は戦後大きく低下し、近年はおおむね出産10万対3前後と世界でも最も低い水準にある。
羊水塞栓症の2病型
・心肺虚脱型:急激な呼吸循環不全で発症する古典的な病型。 ・子宮型(DIC先行型):子宮弛緩と非凝固性の大量出血・DICが主体となる病型。臨床的には産科危機的出血として現れる。
近年の動向
2010年以降の集計を延長した近年の報告でも、産科危機的出血が最多である状況は変わらないが、その割合は対策の普及により低下傾向にある。また、妊娠中から産後1年までの期間を含めると、自殺(産後うつ病などの精神疾患が背景)が妊産婦の死因として大きな割合を占めることが明らかになり、周産期のメンタルヘルス支援が重要課題となっている。
POINT
・日本の妊産婦死亡の原因で最も多いのは産科危機的出血である。 ・次いで脳出血・脳梗塞、心肺虚脱型羊水塞栓症、心・大血管疾患、肺血栓塞栓症、感染症の順。 ・子宮型羊水塞栓症は産科危機的出血の重要な原因となる。 ・感染症では劇症型A群溶血性レンサ球菌感染症に注意する。 ・妊産婦死亡は妊娠中〜妊娠終了後満42日未満、妊産婦死亡率は出産10万対で表す。 ・産後1年までを含めると自殺が大きな問題となる。
