お腹が張るのは何のせい?―5枚の腹部エックス線写真から「波動」を探せ
第113回医師国家試験 B問題 第8問
国試問題にチャレンジ
腹部エックス線写真(①~⑤)を別に示す。 腹部の診察で波動が認められると考えられるのはどれか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
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ドクターまとめ
波動は、腹腔内を自由に移動する大量の液体、つまり大量腹水を示す触診所見です。腹部単純エックス線写真では、腹水はびまん性の透過性低下として現れ、立位では下腹部優位に白くなり、液体に浮いた腸管ガスが上腹部や中央に偏在することが手がかりになります。腹部膨満は5F(fluid、flatus、feces、fat、fetus)で整理し、ニボー多発は腸閉塞、泡沫状陰影は便貯留、広範なガス拡張は鼓腸、限局した軟部陰影による圧排は腫瘤と読み分けます。腸閉塞のように液体が腸管内にとどまる場合は波動が生じない点や、波動の感度は低く少量の腹水の検出には超音波やCTが優れる点も重要です。画像所見と身体所見を往復して考える習慣は、腹部膨満の患者を前にしたときの鑑別の土台になります。
解答・解説
正解はdです
問われていること
波動(fluid wave)とは、腹腔内に大量の液体がたまっているときに得られる触診所見である。仰臥位の患者の側腹部の一方に検者の手掌を当て、反対側の側腹部を指で軽くはじくと、液体を伝わった衝撃が手掌に感じられる。腹壁の皮下脂肪を介した振動を遮るため、助手(または患者自身)の手の尺側縁を腹部正中に縦に押し当てて行うのが一般的である。したがって本問は「5枚の腹部単純エックス線写真のうち、大量の腹水を示すものはどれか」を問うている。
腹部単純エックス線写真での腹水の読み方
液体は軟部組織とほぼ同じエックス線吸収値をもつため、腹水そのものは白く(透過性低下として)写る。腹水が大量になると、 ・腹部全体、特に立位では重力により骨盤腔から下腹部にかけてびまん性に透過性が低下する(すりガラス状) ・腸管は液体中に浮くため、ガスを含んだ腸管が腹部の中央・上方に寄り集まる ・肝下縁や腸腰筋陰影(psoas line)、腹膜外脂肪線(flank stripe)が不明瞭になる ・上行・下行結腸と側腹壁との距離が開く といった所見がみられる。
各写真の要旨
①(立位)左上腹部に腸管ガスが欠如し、軟部陰影が占拠して腸管を右下方へ圧排している。脾腫などの左上腹部腫瘤を考える。 ②(臥位)大腸を主体とする広範な腸管が著明なガスで拡張している(鼓腸)。 ③(立位)結腸内にガスと内容物が混ざった泡沫状・顆粒状の陰影が広く分布する。便の大量貯留(宿便)である。 ④(立位)下腹部から骨盤にかけて広範に透過性が低下し、腸管ガスは上腹部に押し上げられて偏在している。大量腹水の像であり、波動を触知すると考えられる。 ⑤(立位)拡張した腸管が多数みられ、内部に鏡面像(ニボー、air-fluid level)を形成している。腸閉塞(イレウス)の像である。 本問は、腹部膨満の原因として古くから挙げられる「5F」(fluid、flatus、feces、fat、fetus)を中心に、画像と身体所見を結び付けられるかをみる問題である。波動は fluid(腹水)に対応する所見であり、正解は④である。
選択肢考察
- ×a. ①
左上腹部に腸管ガス像がなく、その部分を均一な軟部濃度の陰影が占め、腸管は右側・下方へ押しやられている。脾腫をはじめとする左上腹部の腫瘤性病変が疑われる像である。限局した充実性の腫瘤では、液体が腹腔内を自由に移動しないため波動は生じない。触診では腫瘤そのもの(脾腫であれば左肋骨弓下に触れる辺縁)を触れることになる。
- ×b. ②
臥位像で、ハウストラ(結腸膨起)をもつ大腸を中心に、腹部全体の腸管がガスで著しく拡張している。鼓腸(flatus)による腹部膨満であり、打診では広範な鼓音を呈する。腸管内のガスは波動を生じないため不適である。なお、大腸の著明なガス拡張は、S状結腸軸捻転や大腸の閉塞、偽性腸閉塞(Ogilvie症候群)などでもみられるため、臨床では原因検索が必要となる。
- ×c. ③
結腸の走行に沿って、ガスと固形の内容物が混じり合った泡沫状(まだら状)の陰影が広く認められる。大量の便が貯留した状態(宿便、feces)の像である。腹部は膨満しうるが、触診では硬い便塊を索状・塊状に触れることがあるのみで、波動は認めない。
- ○d. ④
立位で下腹部から骨盤腔にかけて広範囲にエックス線透過性が低下しており、ガスを含む腸管は上腹部に偏って押し上げられている。重力で腹腔の低い位置にたまった大量の液体と、その上に浮いた腸管を示す所見で、大量腹水と判断できる。腹腔内を自由に移動する液体が大量にあるため、側腹部をはじいた衝撃が対側に伝わり、波動を触知すると考えられる。打診では、仰臥位で側腹部が濁音・臍周囲が鼓音となり、体位変換で濁音界が移動する(移動性濁音、shifting dullness)。
- ×e. ⑤
拡張した腸管ループが多数みられ、それぞれの下部に液体、上部にガスがたまって水平な境界線(鏡面像、ニボー)をつくっている。立位で多数のニボーを認めるのは腸閉塞(イレウス)の典型像である。液体は拡張した腸管の内腔にとどまっており、腹腔内に自由な液体が大量にあるわけではないので、波動は生じない。打診では主に鼓音を呈し、聴診では機械的閉塞の場合に金属音(高調な腸雑音)を聴取しうる。
腹部膨満の原因:5F
・fluid(腹水):波動、移動性濁音、側腹部の膨隆(蛙腹) ・flatus(鼓腸・ガス):広範な鼓音 ・feces(便):便塊の触知、エックス線で泡沫状陰影 ・fat(肥満):皮下脂肪の厚い腹壁、臍の陥凹 ・fetus(胎児・妊娠):妊娠反応、子宮底の触知 これに腫瘤(巨大卵巣嚢腫、脾腫など)や臓器腫大を加えて鑑別する。なお、巨大な卵巣嚢腫でも液体を内包するため波動様の所見を呈することがあり、腹水との鑑別には超音波検査が有用である。
腹水の身体所見
・移動性濁音:仰臥位で側腹部が濁音、側臥位にすると上側になった側腹部が鼓音に変わる。腹水がおよそ500 mL以上で検出可能とされる。 ・波動:大量の腹水で陽性となる。感度は高くないが、陽性であれば腹水の存在を強く示唆する。 ・少量の腹水の検出には身体診察やエックス線よりも超音波検査やCTが優れる。
腹部単純エックス線写真の基本所見
・鏡面像(ニボー):立位で拡張腸管内に液面形成。腸閉塞を示唆する。 ・小腸と大腸の見分け方:小腸は Kerckring 皺襞が腸管の全周を横断し、中央部に分布しやすい。大腸はハウストラが腸管の一部を横切り、腹部の辺縁を枠取るように走る。 ・coffee bean sign:S状結腸軸捻転で、ガスで著明に拡張したS状結腸ループがコーヒー豆状に見える。 ・腹水:びまん性の透過性低下、腸管ガスの中央・上方への偏在、腸腰筋陰影や肝下縁の不明瞭化。
POINT
・波動は大量腹水を示す触診所見である。 ・腹部単純エックス線写真での大量腹水:びまん性(立位では下腹部優位)の透過性低下と、腸管ガスの中央・上方への偏在。 ・腹部膨満の鑑別は5F(fluid、flatus、feces、fat、fetus)で整理する。 ・ニボー多発=腸閉塞、泡沫状陰影=便貯留、広範な腸管ガス拡張=鼓腸、限局した軟部陰影による腸管圧排=腫瘤。
