生後30分のSpO2 85%―「新生児は低くて当たり前」の落とし穴
第113回医師国家試験 B問題 第10問
国試問題にチャレンジ
出生後30分を経過した在胎40週の新生児で異常を疑う所見はどれか。
- a.直腸温37.1℃
- b.心拍数120/分
- c.収縮期血圧60mmHg
- d.呼吸数44/分
- e.SpO2 85%(room air)
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
正期産新生児のバイタルサインは、直腸温36.5〜37.5℃、心拍数120〜160/分前後、呼吸数40〜60/分、収縮期血圧50〜80mmHg程度が目安で、成人の感覚では異常に見える値でも正常範囲に入ります。SpO2は出生後の肺循環への移行に伴って徐々に上昇し、生後10分で90%前後に達し、生後30分を過ぎた健康な児では室内気で95%以上となるため、この時点の85%は明らかな異常です。原因として新生児一過性多呼吸や胎便吸引症候群、気胸などの呼吸器疾患、チアノーゼ性先天性心疾患、新生児遷延性肺高血圧症を鑑別し、上下肢のSpO2差も手がかりになります。新生児の評価では「その時点での正常値」を意識することが、見逃しを防ぐ第一歩です。
解答・解説
正解はeです
問われていること
在胎40週(正期産)で生まれ、出生後30分が経過した新生児のバイタルサインについて、正常範囲を外れるものを選ぶ問題である。新生児のバイタルサインの正常値は成人と大きく異なるため、数値を正確に覚えておく必要がある。
出生後の循環・呼吸の変化と時間経過
胎児期は胎盤でガス交換が行われ、胎児の動脈血酸素飽和度は低い。出生して肺呼吸が始まると、肺血管抵抗が急速に低下して肺血流が増え、動脈管や卵円孔を介した右左短絡は減少していく。この移行に伴いSpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)は生後数分から十数分かけて徐々に上昇する。新生児蘇生法(NCPR)では、生後1分で60%、3分で70%、5分で80%、10分で90%程度を目標値(正常児の経過の目安)としている。したがって、生後直後に低めのSpO2であること自体は生理的だが、生後30分を経過した健康な正期産児であれば、室内気でSpO2は通常95%以上となる。
考え方
選択肢の体温・心拍数・血圧・呼吸数はいずれも正期産新生児の正常範囲内にある。一方、室内気でSpO2 85%は、生後30分の時点では明らかに低く、呼吸障害(新生児一過性多呼吸、呼吸窮迫症候群、胎便吸引症候群、気胸など)、チアノーゼ性先天性心疾患、新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)などを疑って評価すべき所見である。
選択肢考察
- ×a. 直腸温37.1℃
新生児の直腸温の正常範囲はおよそ36.5〜37.5℃であり、37.1℃は正常である。新生児は体重あたりの体表面積が大きく皮下脂肪が少ないため熱を失いやすく、出生直後は低体温に特に注意が必要である。なお、熱産生は主に褐色脂肪組織による非ふるえ熱産生に依存している。
- ×b. 心拍数120/分
新生児の安静時心拍数はおよそ120〜160/分が標準的で、睡眠時などには100/分程度まで下がることもある(正常範囲としては100〜160/分程度)。120/分は正常である。新生児では1回拍出量を増やす余力が小さいため、心拍出量は主に心拍数に依存する。蘇生の場面では心拍数100/分未満が介入の目安となる。
- ×c. 収縮期血圧60mmHg
正期産新生児の血圧は、収縮期がおよそ50〜80mmHg、拡張期が30〜50mmHg程度であり、収縮期60mmHgは正常範囲内である。新生児の血圧は在胎週数や日齢とともに上昇していくため、早産児ではさらに低い値が正常となる。
- ×d. 呼吸数44/分
新生児の呼吸数の正常範囲はおよそ40〜60/分(典型的には40〜50/分前後)であり、44/分は正常である。新生児は主に横隔膜を使った腹式呼吸を行い、呼吸リズムがやや不規則であることも珍しくない。60/分を超える場合は多呼吸として、呻吟・陥没呼吸・鼻翼呼吸などの努力呼吸の有無とあわせて評価する。
- ○e. SpO2 85%(room air)
出生直後のSpO2は生理的に低く、生後10分ごろに90%程度へ達するのが正常な経過である。生後30分を経過した健康な正期産児では、室内気でSpO2は通常95%以上となるため、85%は明らかな低酸素血症であり異常と判断する。呼吸器疾患(新生児一過性多呼吸、胎便吸引症候群、気胸など)、チアノーゼ性先天性心疾患、新生児遷延性肺高血圧症などを鑑別し、酸素投与や呼吸補助、心エコーなどの評価が必要となる。
正期産新生児のバイタルサインの目安
・体温(直腸温):36.5〜37.5℃ ・心拍数:120〜160/分(100〜160/分) ・呼吸数:40〜60/分(多呼吸は60/分超) ・血圧:収縮期50〜80mmHg、拡張期30〜50mmHg ・SpO2:生後数十分以降は室内気で95%以上
出生後のSpO2目標値(新生児蘇生法の目安)
生後1分:60%前後、3分:70%前後、5分:80%前後、10分:90%前後。出生直後から高濃度酸素を投与すると酸化ストレスによる害が懸念されるため、蘇生時の酸素投与はこれらの目標値を参考に調節する。SpO2は右手(動脈管より上流、preductal)で測定する。
新生児の低酸素血症の鑑別
・呼吸器:新生児一過性多呼吸、呼吸窮迫症候群(主に早産児)、胎便吸引症候群、気胸、肺炎、先天性横隔膜ヘルニアなど ・循環器:チアノーゼ性先天性心疾患(完全大血管転位症、Fallot四徴症、総肺静脈還流異常症など)、新生児遷延性肺高血圧症 ・上肢と下肢のSpO2差(preductal と postductal の差)は、動脈管を介した右左短絡(遷延性肺高血圧症など)の手がかりとなる。
Apgarスコア
生後1分と5分に、心拍数・呼吸・筋緊張・反射・皮膚色の5項目を各0〜2点で評価する。
POINT
・新生児の正常値:直腸温36.5〜37.5℃、心拍数120〜160/分、呼吸数40〜60/分、収縮期血圧50〜80mmHg。 ・SpO2は出生後徐々に上昇し、生後10分で約90%、生後30分以降の健康な正期産児では室内気で95%以上となる。 ・生後30分で室内気SpO2 85%は異常であり、呼吸器疾患・チアノーゼ性心疾患・遷延性肺高血圧症を鑑別する。
