「眠れない」ではなく「眠ってしまう」―患者の一言から見抜くナルコレプシー
第113回医師国家試験 A問題 第12問
国試問題にチャレンジ
ナルコレプシーの患者の訴えと考えられるのはどれか。2つ選べ。
- a.「会議中に突然眠ってしまいます」
- b.「毎日明け方になるまで眠れません」
- c.「大笑いすると突然全身の力が抜けます」
- d.「足がむずむずして動かさずにいられません」
- e.「毎晩眠れないのではないかと不安になります」
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
ナルコレプシーは視床下部のオレキシン神経の脱落によって覚醒とレム睡眠の切り替えが不安定になる中枢性過眠症で、睡眠発作・情動脱力発作・入眠時幻覚・睡眠麻痺が四主徴です。「会議中に突然眠ってしまう」は睡眠発作、「大笑いで力が抜ける」は意識が保たれたまま筋緊張が消える情動脱力発作であり、後者はレム睡眠時の筋緊張消失が覚醒中に現れたものと理解できます。一方、入眠困難は不眠症や睡眠・覚醒相後退障害、脚の不快感と動かしたい衝動はむずむず脚症候群、眠れないことへの予期不安は精神生理性不眠の訴えです。診断にはMSLTでの平均睡眠潜時8分以下とSOREMP 2回以上、髄液オレキシン低値が用いられ、治療は中枢神経刺激薬とレム睡眠を抑える抗うつ薬が中心となります。「眠れない」のか「眠ってしまう」のかという軸で訴えを整理することは、睡眠障害全般の鑑別の出発点になります。
解答・解説
正解はa, cです
ナルコレプシーは、日中の耐えがたい眠気と、本来レム睡眠に伴う現象が覚醒時や入眠時に出てしまう症状を特徴とする中枢性過眠症である。視床下部外側野で覚醒を維持する神経ペプチド「オレキシン(ヒポクレチン)」を産生する神経細胞が脱落し、覚醒状態とレム睡眠の切り替えが不安定になることが原因と考えられている。 古典的な四主徴は次のとおりである。 (1) 睡眠発作(日中の過度の眠気):会議中・食事中・会話中など、通常は眠らない場面でも抗しがたい眠気に襲われ、数分〜数十分眠り込む。短い仮眠の後はすっきり目覚めることが多い。 (2) 情動脱力発作(カタプレキシー):大笑い、喜び、驚き、怒りなど強い感情をきっかけに、骨格筋(抗重力筋)の緊張が突然失われる。膝折れ、頸部の脱力、ろれつが回らないといった部分的なものから、全身の脱力で崩れ落ちるものまである。意識は保たれる。レム睡眠時の筋緊張消失が覚醒中に出現したものと解釈される。 (3) 入眠時幻覚:寝入りばなに鮮明で恐ろしい幻視・幻触などを体験する。 (4) 睡眠麻痺(いわゆる金縛り):入眠時や覚醒時に意識はあるのに体が動かせない。 したがって設問では、「場面を選ばず突然眠ってしまう」という睡眠発作と、「感情の高ぶりで力が抜ける」という情動脱力発作を述べた訴えを選べばよい。残りの選択肢は、不眠症(入眠困難、不眠への予期不安)やむずむず脚症候群といった、ナルコレプシー以外の睡眠関連疾患の訴えである。ナルコレプシーは過眠症であり、主訴は「眠れない」ではなく「眠ってしまう」である点が鑑別の軸になる。
選択肢考察
- ○a. 「会議中に突然眠ってしまいます」
起きていなければならない状況でも抗しがたい眠気に襲われ、数分から数十分眠り込んでしまう睡眠発作の訴えであり、ナルコレプシーの中核症状である。夜間に十分眠っていても日中の眠気が毎日のように続くことが特徴で、睡眠不足症候群や睡眠時無呼吸症候群などとの鑑別が必要になる。
- ×b. 「毎日明け方になるまで眠れません」
寝床に入っても長時間寝つけないという入眠困難の訴えであり、不眠症(あるいは入眠時刻が極端に遅れる睡眠・覚醒相後退障害)を考える訴えである。ナルコレプシーでは逆に寝つきが非常によく、入眠直後にレム睡眠が出現する(入眠時レム睡眠期:SOREMP)。夜間の睡眠が分断されて中途覚醒が増えることはあるが、明け方まで寝つけないという訴えは典型的でない。
- ○c. 「大笑いすると突然全身の力が抜けます」
強い感情(大笑い、喜び、驚き、怒りなど)を引き金に抗重力筋の緊張が急に失われる情動脱力発作(カタプレキシー)の訴えである。意識は保たれ、持続は数秒〜数分程度で、膝が折れたり崩れるように倒れ込んだりする。レム睡眠中の筋緊張消失(アトニア)が覚醒時に出現した現象と理解され、ナルコレプシー(特にオレキシン欠損を伴う1型)にほぼ特異的な症状である。
- ×d. 「足がむずむずして動かさずにいられません」
むずむず脚症候群(restless legs syndrome:RLS、レストレスレッグス症候群)の訴えである。安静時、特に夕方から夜間に下肢の不快な異常感覚と、脚を動かしたいという強い衝動が生じ、動かすと軽快する。このため入眠が妨げられる。鉄欠乏、腎不全(透析)、妊娠などが誘因となり、ドパミン系の機能異常が関与するとされる。レム睡眠行動障害とは別の疾患であり、ナルコレプシーの症状ではない。
- ×e. 「毎晩眠れないのではないかと不安になります」
「今夜も眠れないのでは」という予期不安と、眠ろうとする過度の努力がかえって覚醒を高めて不眠を悪化させる、精神生理性不眠(慢性不眠障害の代表的な病型)の訴えである。神経症性不眠や不眠恐怖とも表現される。睡眠薬に頼りやすく依存を形成しやすい点にも注意が必要で、治療では認知行動療法(CBT-I)が重視される。ナルコレプシーの訴えではない。
ナルコレプシーの病態
正常では、入眠後まずノンレム睡眠(N1→N2→N3と深くなる)が出現し、約90分後に最初のレム睡眠が現れる。ナルコレプシーではレム睡眠を抑制する仕組みが障害され、入眠直後にレム睡眠が出現する(SOREMP:sleep onset REM period)。入眠時幻覚、睡眠麻痺、情動脱力発作は、いずれもレム睡眠の要素(夢見、筋緊張消失)が覚醒と入り混じって出現したものと理解できる。
原因・分類
視床下部のオレキシン産生神経細胞の脱落により、脳脊髄液中のオレキシンA(ヒポクレチン-1)濃度が低下する。特定のHLA型(HLA-DR2/DQ1、とくにDQ6に属するDQ β1鎖アレル06:02)との強い関連があり、自己免疫機序が想定されている。睡眠障害国際分類第3版(ICSD-3)では、情動脱力発作または髄液オレキシン低値を伴う「ナルコレプシー1型」と、これらを伴わない「2型」に分類される。10歳代での発症が多い。
検査
夜間睡眠ポリグラフ検査(PSG)の翌日に反復睡眠潜時検査(MSLT)を行い、平均睡眠潜時8分以下かつSOREMPが2回以上であることが診断の目安となる(夜間PSGでのSOREMPも1回分として数えられる)。
治療
眠気:モダフィニル、メチルフェニデート(徐放剤)、ペモリンなどの中枢神経刺激薬。計画的な短時間の昼寝も有効。 情動脱力発作・入眠時幻覚・睡眠麻痺:レム睡眠を抑える三環系抗うつ薬(クロミプラミンなど)やSNRI・SSRI。
鑑別すべき睡眠関連疾患
不眠症(入眠困難・中途覚醒・早朝覚醒)、睡眠時無呼吸症候群(いびき・日中の眠気)、むずむず脚症候群、レム睡眠行動障害(夢の内容どおりに体が動く:レム睡眠中の筋緊張消失が欠如、レビー小体病やパーキンソン病との関連)、睡眠・覚醒相後退障害など。
POINT
・ナルコレプシーの四主徴:睡眠発作、情動脱力発作(カタプレキシー)、入眠時幻覚、睡眠麻痺。 ・情動脱力発作は大笑いなど強い感情で誘発され、意識は保たれる。 ・病態:視床下部オレキシン神経の脱落 → 入眠時レム睡眠(SOREMP)。 ・診断:MSLTで平均睡眠潜時8分以下+SOREMP 2回以上、髄液オレキシン低値。 ・「眠れない」訴えは不眠症、「足がむずむず」はむずむず脚症候群。
