眠れない夜=不眠症ではない―診断の決め手は「昼間の困りごと」
第120回医師国家試験 B問題 第4問
国試問題にチャレンジ
不眠症に該当するのはどれか。
- a.週に1回の不眠
- b.カフェイン摂取後の不眠
- c.4時間昼寝をした日の夜の入眠困難
- d.夜間勤務の休憩中に仮眠が取れない。
- e.職業や学業などの日常生活に問題が生じる不眠
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
不眠症(不眠障害)は、入眠困難・中途覚醒・早朝覚醒などの夜間の睡眠の問題に加え、十分な睡眠の機会があること、そして日中の機能障害や苦痛があることの3要素で診断され、慢性不眠症では週3日以上・3か月以上の持続が目安です。週1回程度の不眠、カフェインなど物質による不眠、長時間の昼寝後の入眠困難、夜勤中の仮眠が取れないといった状況は、頻度不足や明らかな原因・睡眠機会の不足で説明でき、不眠症には該当しません。中核となるのは「睡眠の問題によって仕事や学業など日中の生活に支障が出ているか」という点です。治療は睡眠衛生指導を基本とし、慢性例ではCBT-Iが第一選択で、睡眠薬は依存や転倒のリスクに配慮して用います。「眠れない」という訴えを日中の機能から評価する視点は、不必要な投薬を避け、本当に治療が必要な患者を見極めるうえで欠かせません。
解答・解説
正解はeです
本問は、「眠れない」という訴えのうち、どのようなものを病気としての不眠症(不眠障害)と呼ぶかを問う問題である。
不眠症の3要素
不眠症と診断するには、次の3つがそろっている必要がある。 (1) 夜間の睡眠の問題:入眠困難(寝つけない)、中途覚醒(夜中に何度も目が覚める)、早朝覚醒(予定より早く目が覚めて二度寝できない)など。 (2) 十分な睡眠の機会があること:眠るための時間と環境(静かで暗い寝室など)が確保されているのに眠れないこと。 (3) 日中の機能障害:眠れないことで、倦怠感、集中力・注意力・記憶力の低下、気分の不安定、仕事や学業の能率低下、事故やミスの増加などが生じ、本人が苦痛を感じていること。 さらに、慢性の不眠症ではこれらが週3日以上、3か月以上続くことが目安とされる。また、カフェインやアルコールなどの物質の作用、ほかの睡眠覚醒障害(睡眠時無呼吸、概日リズム睡眠覚醒障害など)だけで不眠が十分に説明できる場合は、不眠症とは区別して扱う。
考え方
各選択肢を、上記の「頻度・持続」「睡眠機会」「明らかな外的原因の有無」「日中の機能障害」という観点で照らし合わせる。夜に眠れないことがあっても、それが一時的で生活に影響していない場合や、眠れない理由が生活状況から明らかに説明できる場合は、病気としての不眠症には当たらない。不眠症の定義の中心にあるのは、睡眠の問題によって日中の生活に支障が出ているという点である。
選択肢考察
- ×a. 週に1回の不眠
誰でもときには眠れない夜がある。週1回程度の不眠は頻度として少なく、不眠症の目安である「週3日以上」を満たさない。不眠症は睡眠の問題が反復・持続することを前提とするため、これだけでは不眠症とはいえない。
- ×b. カフェイン摂取後の不眠
カフェインはアデノシン受容体を遮断して覚醒作用を示し、その効果は数時間持続する(血中半減期はおおむね数時間)。摂取後に眠れないのは物質の薬理作用で説明でき、診断分類上は物質・医薬品誘発性の睡眠障害として扱われる。不眠症は物質の作用だけで説明できないことが前提であるため、これは該当しない。対応としては、夕方以降のカフェイン摂取を控えるといった睡眠衛生の指導が基本となる。
- ×c. 4時間昼寝をした日の夜の入眠困難
人は起きている時間が長くなるほど眠気(睡眠圧、睡眠欲求)が蓄積し、眠ることで解消される。日中に4時間も眠ると睡眠圧が大きく解消されるため、その夜に寝つけないのは生理的に当然の反応である。生活習慣(睡眠衛生)の問題による一過性の入眠困難であり、病的な不眠症とはいえない。なお、日中の昼寝は午後早い時間に短時間(30分以内程度)とするのが望ましいとされる。
- ×d. 夜間勤務の休憩中に仮眠が取れない。
夜勤中の休憩は時間が短く、職場という環境でもあり、眠るための十分な機会とはいえない。また、勤務中は緊張状態にあることや、本来覚醒している時間帯でなくても体内時計(概日リズム)の影響を受けることから、仮眠が取れないのは不自然ではない。不眠症は十分な睡眠機会があるにもかかわらず眠れない状態を指すため、これは該当しない。夜勤・交代勤務に伴う睡眠の問題が持続して日中の眠気や不眠をきたす場合は、交代勤務型の概日リズム睡眠覚醒障害として別に扱われる。
- ○e. 職業や学業などの日常生活に問題が生じる不眠
不眠症の診断には、夜間の睡眠の問題に加えて、それによる日中の機能障害(仕事・学業・社会生活への支障、強い苦痛)が必須である。夜の睡眠時間が短くても日中に困っていなければ不眠症とはされず、逆に生活に支障が生じていることこそが病気として治療対象とする根拠となる。本選択肢はこの中核要件を満たしており、不眠症に該当する。
不眠症(不眠障害)の診断の目安
米国精神医学会の診断基準(DSM-5-TR)や睡眠障害国際分類第3版(ICSD-3)による慢性不眠症の要点は以下のとおりである。 ・睡眠の量や質への不満があり、入眠困難、睡眠維持困難(中途覚醒)、早朝覚醒のうち1つ以上がある。 ・その睡眠の問題が、臨床的に意味のある苦痛、または社会的・職業的・学業的などの機能障害を引き起こしている。 ・週3夜以上、3か月以上続いている(3か月未満のものは短期不眠症として扱われる)。 ・十分な睡眠の機会があるにもかかわらず生じている。 ・ほかの睡眠覚醒障害だけでは説明できず、物質(薬物乱用、医薬品)の生理学的作用によるものではない。 ・精神疾患や身体疾患が併存していても、それだけで不眠が十分に説明できない場合には不眠症と診断できる。
不眠の4つのタイプ
入眠困難(寝つきが悪い)、中途覚醒(夜中に目が覚める)、早朝覚醒(朝早く目が覚めてしまう)、熟眠障害(眠りが浅く、休まった感じがしない)に分けて考えることが多い。
治療の基本
まず睡眠衛生指導(規則正しい起床時刻、日中の適度な運動、就寝前のカフェイン・アルコール・喫煙を避ける、長時間の昼寝を避ける、眠くなってから床に就くなど)を行う。慢性不眠症に対しては不眠症に対する認知行動療法(CBT-I:刺激制御法、睡眠制限法などを含む)が第一選択として推奨される。薬物療法では、オレキシン受容体拮抗薬、メラトニン受容体作動薬、非ベンゾジアゼピン系・ベンゾジアゼピン系睡眠薬などが用いられるが、依存や転倒のリスクに注意する。
POINT
・不眠症=夜間の睡眠困難+十分な睡眠機会+日中の機能障害(苦痛)の3要素。 ・慢性不眠症の目安は週3日以上・3か月以上。 ・カフェインなど物質による不眠、長時間の昼寝後の入眠困難、睡眠機会が不十分な状況(夜勤中の仮眠など)は不眠症とはいわない。 ・最も重要な判断基準は「日中の生活に支障があるかどうか」。
