会議中に落ちる眠り―患者の一言から睡眠障害を見抜く
第119回医師国家試験 E問題 第5問
国試問題にチャレンジ
ナルコレプシーの患者の訴えはどれか。
- a.「会議中に突然眠ってしまいます」
- b.「毎日,明け方になるまで眠れません」
- c.「毎晩,眠れないのではないかと不安になります」
- d.「眠っている間に足がぴくぴく動いていると妻に言われます」
- e.「夜中に知らないうちに冷蔵庫の中のものを食べているみたいです」
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
ナルコレプシーは、夜間に眠っていても日中に場面を選ばず突然眠り込む睡眠発作を主症状とする中枢性過眠症で、「会議中に突然眠ってしまう」という訴えが典型です。四主徴は睡眠発作、情動脱力発作、入眠時幻覚、睡眠麻痺で、病態はオレキシン神経の脱落、診断は反復睡眠潜時検査での睡眠潜時短縮と複数回の入眠時レム睡眠期の確認によります。明け方まで眠れない訴えは不眠症や睡眠・覚醒相後退障害、眠れないことへの不安は精神生理性不眠症、睡眠中の足のぴくつきは周期性四肢運動障害、無自覚な夜間摂食は睡眠関連摂食障害や睡眠薬の影響を考えます。睡眠の訴えを不眠・過眠・睡眠中の異常行動・リズムのずれに整理する視点は、外来での問診から適切な検査・治療へつなげる基本となります。
解答・解説
正解はaです
睡眠に関する患者の訴えを聞き、どの睡眠障害に当てはまるかを結び付けられるかを問う問題である。 睡眠の訴えは大きく、(1) 眠れない(不眠)、(2) 日中に眠すぎる(過眠)、(3) 睡眠中に異常な運動や行動が起こる(睡眠関連運動障害・睡眠時随伴症〈パラソムニア〉)、(4) 眠る時間帯がずれる(概日リズム睡眠・覚醒障害)に整理できる。 ナルコレプシーは (2) の過眠を代表する疾患である。夜間に十分眠っていても、日中に場面を選ばず強い眠気に襲われ、会議中・食事中・会話中など通常なら眠らない状況でも眠り込んでしまう(睡眠発作)。したがって「日中の、状況にそぐわない突然の入眠」を述べた訴えを選べばよい。 他の選択肢は、不眠(入眠困難・概日リズムの後退)、不眠への予期不安(精神生理性不眠症)、睡眠中の下肢の周期的な動き(周期性四肢運動障害)、睡眠中の無意識な摂食(睡眠関連摂食障害)を表す訴えであり、いずれも過眠を主訴とするナルコレプシーとは異なる。
選択肢考察
- ○a. 「会議中に突然眠ってしまいます」
会議中という本来眠るべきでない場面で、抗しがたい眠気によって突然眠り込むのは、ナルコレプシーの中核症状である睡眠発作(日中の過度の眠気)にあたる。ナルコレプシーでは短時間の居眠りの後に一時的にすっきりするが、数時間後には再び眠気が出ることが多い。なお、突然の入眠は麦角系ドパミン作動薬(パーキンソン病治療薬)の副作用としてもみられるため、実臨床では服薬歴の確認も必要である。
- ×b. 「毎日,明け方になるまで眠れません」
床に就いても明け方まで寝付けないという訴えで、不眠症の入眠困難や、体内時計が後ろにずれた睡眠・覚醒相後退障害(若年者に多く、明け方に眠り昼近くまで起きられない)が考えられる。熟眠感の乏しい患者が「一晩中眠れていない」と訴える場合もある。ナルコレプシーでは夜間に中途覚醒が増えて睡眠が分断されることはあるが、明け方まで眠れないことが主訴になる疾患ではない。
- ×c. 「毎晩,眠れないのではないかと不安になります」
眠れないことへの予期不安を述べており、精神生理性不眠症(不眠を気にして眠ろうと努力するほど緊張が高まり、かえって眠れなくなる悪循環に陥った慢性不眠)の典型的な訴えである。寝室や就床そのものが緊張の条件付け刺激になっていることが多い。日中の過眠を主とするナルコレプシーとは方向性が逆である。
- ×d. 「眠っている間に足がぴくぴく動いていると妻に言われます」
睡眠中に下肢(主に足関節の背屈や足趾の伸展)が数十秒ごとに周期的に動く周期性四肢運動(以前は睡眠時ミオクローヌス症候群と呼ばれた)を、同床者が指摘した訴えである。本人は自覚しないことが多く、動きに伴う微小な覚醒で睡眠が浅くなり、日中の疲労感や眠気の原因となる。むずむず脚症候群(下肢の不快感と動かしたい衝動が安静時・夕方以降に強まる疾患)の患者の多くに合併する。ナルコレプシーの症状ではない。
- ×e. 「夜中に知らないうちに冷蔵庫の中のものを食べているみたいです」
夜間に本人の記憶がないまま摂食行動をとっており、ノンレム睡眠からの不完全な覚醒で生じる睡眠時随伴症(睡眠時遊行症やその一型である睡眠関連摂食障害)が考えられる。ゾルピデムなどの非ベンゾジアゼピン系睡眠薬による前向性健忘や、せん妄でも同様の行動が起こりうるため、服薬歴の確認が重要である。ナルコレプシーの症状ではない。
ナルコレプシーの概要
日中の耐えがたい眠気を主症状とする中枢性過眠症である。10歳代(思春期〜青年期)に発症することが多く、性差はほとんどない。視床下部で覚醒を維持する神経ペプチドであるオレキシン(ヒポクレチン)を産生する神経細胞が脱落することが主な病態と考えられている。日本人では HLA クラスII のうち DR2(DR15)および DQ1(DQ6)系の特定のアレルとの強い関連が知られる。
四主徴
1) 睡眠発作(日中の過度の眠気):場面を選ばず眠り込む。 2) 情動脱力発作(カタプレキシー):笑う・驚く・怒るなど強い感情の動きをきっかけに、意識は保たれたまま膝や首などの筋緊張が数秒〜数分抜ける。ナルコレプシーに特異性が高い。 3) 入眠時幻覚:寝入りばなに鮮明な幻視・幻聴などを体験する。 4) 睡眠麻痺:寝入りばなや目覚めの際に体が動かない、いわゆる金縛り。 3)・4) は、覚醒からすぐにレム睡眠に入る(入眠時レム睡眠期)ことと、レム睡眠に伴う夢と筋緊張低下が覚醒時に入り込むことで説明される。夜間睡眠の分断もしばしばみられる。
検査
睡眠ポリグラフ検査(PSG)で他の睡眠障害を除外した翌日に、反復睡眠潜時検査(MSLT)を行い、平均睡眠潜時の短縮と、複数回の入眠時レム睡眠期(SOREMP)を確認する。脳脊髄液中のオレキシン濃度低下も診断に有用である。
治療
規則正しい睡眠習慣と計画的な昼寝に加え、眠気にはモダフィニル、メチルフェニデート徐放剤、ペモリンなどの中枢刺激薬を、情動脱力発作・入眠時幻覚・睡眠麻痺には三環系抗うつ薬(クロミプラミン)などのレム睡眠を抑える薬を用いる。
選択肢に登場した睡眠障害の整理
・入眠困難/睡眠・覚醒相後退障害:寝付けない、眠る時刻が遅れる。 ・精神生理性不眠症:不眠への不安と過剰な努力が不眠を固定化する。 ・周期性四肢運動障害:睡眠中の周期的な下肢の動き。むずむず脚症候群と合併しやすい。 ・睡眠関連摂食障害:睡眠中に無自覚に食べる。ゾルピデムなどの薬剤でも生じる。 ・レム睡眠行動障害:夢の内容に合わせて叫ぶ・殴るなどの行動をとる。高齢男性に多く、パーキンソン病やレビー小体型認知症の前駆症状として重要である。
POINT
・ナルコレプシーの主訴は「日中、場面を選ばず突然眠ってしまう」こと(睡眠発作)。 ・四主徴:睡眠発作、情動脱力発作、入眠時幻覚、睡眠麻痺。 ・病態はオレキシン神経の脱落。思春期〜青年期発症、性差なし。 ・診断は MSLT で平均睡眠潜時短縮と複数回の入眠時レム睡眠期。 ・睡眠中の足のぴくつき=周期性四肢運動障害、無意識の夜間摂食=睡眠関連摂食障害(薬剤性にも注意)。
