妊娠から乳幼児期まで一本の線で―「母子保健法」の守備範囲を見極める
第112回医師国家試験 F問題 第41問
国試問題にチャレンジ
母子保健法に基づいて行われるのはどれか。2つ選べ。
- a.妊産婦健康診査
- b.未熟児養育医療
- c.乳幼児期の定期予防接種
- d.小児慢性特定疾患治療研究事業
- e.児童相談所の設置
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
母子保健法は、妊娠届と母子健康手帳の交付、妊産婦・乳幼児の健康診査、保健指導・訪問指導、低出生体重児(2,500g未満)の届出、入院を要する未熟児への養育医療などを定め、妊娠期から乳幼児期の健康管理を主に市町村が担う枠組みです。一方、児童相談所や小児慢性特定疾病の医療費助成は児童福祉法、定期予防接種は予防接種法が根拠であり、同じ子どもを対象にしていても目的によって法律が分かれます。1歳6か月児健診と3歳児健診が市町村の義務である点や、母子手帳に記録される予防接種でも根拠法は予防接種法である点は頻出です。制度の根拠法を整理しておくことは、臨床現場で母子を適切な支援につなぐうえでも役立ちます。
解答・解説
正解はa, bです
本問は、母子に関わる各種の保健・医療・福祉施策が、どの法律を根拠にしているかを問う問題である。 母子保健法(1965年制定)は、母性と乳幼児の健康の保持・増進を目的とする法律で、妊娠の届出から母子健康手帳の交付、妊産婦・乳幼児の健康診査、保健指導、訪問指導、低出生体重児への対応、未熟児の養育医療までを、主に市町村の業務として一体的に定めている。つまり「妊娠期から乳幼児期までの健康管理(健診・指導・医療給付)」が母子保健法の守備範囲である。 これに対し、子どもの福祉全般(児童相談所、児童養護施設、障害児支援、小児慢性特定疾病の医療費助成など)は児童福祉法、感染症予防のための予防接種は予防接種法が根拠となる。似た対象(子ども)を扱っていても目的の違いで法律が分かれる点を整理しておくと解きやすい。 以上より、母子保健法に基づくのは妊産婦健康診査と未熟児養育医療である。
選択肢考察
- ○a. 妊産婦健康診査
母子保健法第13条は、市町村が必要に応じて妊産婦や乳幼児に健康診査を行い、またはその受診を勧奨しなければならないと定めており、妊婦健康診査はこれを根拠に実施される。現在は国の通知により、妊娠期間中に標準14回程度の妊婦健診について公費助成が行われている。妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、胎児発育の異常などを早期に発見する目的をもつ。
- ○b. 未熟児養育医療
母子保健法第20条に基づく医療給付で、出生時体重2,000g以下の児や、生活力が特に弱く所定の症状(けいれん、運動異常、強い黄疸、呼吸・体温調節の異常など)を示す未熟児が、指定養育医療機関に入院して治療を受ける場合に、その医療費を公費で給付する制度である。実施主体はかつて都道府県等であったが、2013年度から市町村に移譲された。同法は関連して、低出生体重児(2,500g未満)の届出(第18条)や未熟児訪問指導(第19条)も定めている。
- ×c. 乳幼児期の定期予防接種
定期予防接種(BCG、DPT-IPVなどの混合ワクチン、麻疹風疹混合、Hibなど)は予防接種法に基づいて市町村が実施する。予防接種法は感染症の発生・まん延の予防を目的とする法律であり、母子保健法ではない。なお、接種の記録は母子保健法に基づく母子健康手帳に記載されるが、接種の根拠法とは区別して覚える。
- ×d. 小児慢性特定疾患治療研究事業
小児がん、慢性腎疾患、先天性代謝異常など長期療養を要する子どもの医療費を助成する制度で、根拠は児童福祉法である。1974年に予算事業として始まり、2005年施行の児童福祉法改正で同法に位置づけられた。さらに2014年の児童福祉法改正(2015年1月施行)で、公平で安定的な医療費助成制度として法定化され、名称も「小児慢性特定疾病医療費助成制度」となり対象疾病も拡大された。母子保健法に基づくものではない。
- ×e. 児童相談所の設置
児童相談所は児童福祉法第12条に基づき、都道府県と指定都市に設置が義務づけられている(中核市や特別区も設置できる)。児童虐待への対応、子どもの一時保護、施設入所の措置、障害や非行に関する相談・判定などを担う行政機関であり、母子保健法とは根拠が異なる。
母子保健法に基づく主な施策
・保健指導(第10条):妊産婦や乳幼児の保護者に対し、妊娠・出産・育児に関する指導を行う。 ・新生児訪問指導(第11条)、妊産婦訪問指導(第17条)、未熟児訪問指導(第19条) ・健康診査(第12条・第13条):1歳6か月児健康診査と3歳児健康診査は市町村に実施が義務づけられている(第12条)。妊産婦健診や乳児健診などはその他必要に応じて行う健診(第13条)。 ・妊娠の届出(第15条)と母子健康手帳の交付(第16条):届出は市町村長に行い、市町村が手帳を交付する。 ・低出生体重児の届出(第18条):出生時体重2,500g未満の児は保護者が市町村に届け出る。 ・養育医療(第20条):入院を要する未熟児への医療給付。 ・産後ケア事業(第17条の2):出産後1年以内の母子に心身のケアや育児支援を行う(2021年施行で市町村の努力義務)。
他法に基づく関連施策
・児童福祉法:児童相談所、児童福祉施設、小児慢性特定疾病医療費助成、障害児支援、乳児家庭全戸訪問事業(こんにちは赤ちゃん事業)、助産施設への入所措置など ・予防接種法:定期予防接種 ・児童虐待の防止等に関する法律:虐待の通告義務など ・障害者総合支援法:自立支援医療(育成医療など) ・母体保護法:不妊手術、人工妊娠中絶
POINT
・母子保健法:妊娠届・母子健康手帳、妊産婦/乳幼児健診(1歳6か月児・3歳児健診は義務)、保健指導・訪問指導、低出生体重児届出(2,500g未満)、未熟児養育医療(入院が必要な未熟児、2,000g以下など)。 ・児童福祉法:児童相談所、小児慢性特定疾病医療費助成。 ・予防接種法:定期予防接種。 ・多くの母子保健事業の実施主体は市町村である。
