「今すぐ電話すべき値」はどれ?―パニック値を見抜くたった一つの物差し
第112回医師国家試験 E問題 第21問
国試問題にチャレンジ
臨床検査のパニック値でないのはどれか。
- a.白血球750/μL
- b.動脈血pH 7.18
- c.血清K 7.0mEq/L
- d.血清Ca 14.2mg/dL
- e.血清総コレステロール320mg/dL
対話形式の解説
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ドクターまとめ
パニック値(緊急異常値)とは、生命に危険が迫っている可能性を示し、ただちに治療を始めれば救命しうる検査値であり、検査部門から主治医へ直接かつ速やかに報告されます。判断の物差しは「その値が数時間〜数日のうちに致死的な事態につながるか」で、高度の白血球減少(重症感染症)、pH 7.2前後を下回るアシデミア(循環破綻)、高度の高カリウム血症(致死的不整脈)、高度の高カルシウム血症(脱水・意識障害・不整脈)はいずれも該当します。一方、総コレステロールやHbA1c、尿酸のように長期的なリスクを示す指標は、高値でも緊急処置にはつながらないため通常パニック値に設定されません。具体的な基準値は施設ごとに定められ、急性か慢性か、検体の取り扱いに問題がないかも考慮して解釈します。パニック値の意味を理解しておくことは、研修医として緊急連絡を受けたときに迅速かつ適切に動くための基礎になります。
解答・解説
正解はeです
パニック値(critical value、緊急異常値ともいう)とは、生命に危険が迫っている可能性を示す極端な検査値のことである。ただちに治療を始めれば救命できる可能性があるが、診察所見だけでは見抜きにくく、検査によって初めて気づける値と定義される。このため、パニック値が出た場合、検査部門は通常の結果報告を待たずに、電話などで主治医へ直接かつ速やかに伝える必要がある。 パニック値に当たるかどうかは、「その値が短時間(数時間〜数日)のうちに致死的な事態、たとえば重症感染症、致死的不整脈、意識障害、循環不全などにつながるか」で判断する。具体的な基準値は全国で一律ではなく、各施設が臨床医と協議して決める。外来か入院か、急性か慢性かによって値を変える施設もある。 選択肢のうち、白血球減少、高度のアシデミア、高カリウム血症、高カルシウム血症は、いずれも数時間から数日で命に関わりうる。一方、高コレステロール血症は動脈硬化を通じて長い年月をかけて心血管イベントのリスクを高める異常であり、その日のうちに緊急の対応を必要とするものではない。したがって、パニック値でないのは e である。
選択肢考察
- ×a. 白血球750/μL
白血球数の基準範囲はおおむね3,300〜8,600/μLである。750/μLは著しい減少で、パニック値に当たる。多くの施設は下限の基準を1,500〜2,000/μL程度に設定している。白血球数がここまで低いと、多くの場合好中球も高度に減少している(無顆粒球症、抗がん薬などによる骨髄抑制、再生不良性貧血、急性白血病など)。この状態では細菌や真菌に対する防御がほとんど働かず、感染すると短時間で敗血症に進む。発熱があれば発熱性好中球減少症として、ただちに広域抗菌薬を投与する必要がある。
- ×b. 動脈血pH 7.18
動脈血pHの基準範囲は7.35〜7.45である。7.18は高度のアシデミア(血液が酸性に傾いた状態)で、パニック値に当たる。多くの施設はpH 7.2未満、または7.6を超える値をパニック値としている。pHが7.2を下回ると、心筋の収縮力が落ち、カテコラミンが効きにくくなり、不整脈が起こりやすくなる。そのため循環が破綻する危険が高い。原因としては、糖尿病ケトアシドーシス、乳酸アシドーシス(ショック、敗血症)、急性呼吸不全による呼吸性アシドーシスなどがあり、原因検索と治療を急ぐ。
- ×c. 血清K 7.0mEq/L
血清Kの基準範囲は3.6〜4.8mEq/L程度である。7.0mEq/Lは高度の高カリウム血症で、パニック値に当たる。多くの施設は6.0mEq/L前後を上限の基準としている。高カリウム血症では、心電図でテント状T波、PR延長、P波の消失、QRS幅の拡大が順に現れ、最終的には心室細動や心停止に至る。ただちに心電図モニターを装着し、カルシウム製剤の静注による心筋の保護、グルコース・インスリン療法などによるKの細胞内への移動、Kの体外への除去(陽イオン交換樹脂、利尿薬、血液透析)を行う。なお、溶血や採血手技が原因の偽性高カリウム血症を除外することも必要である。
- ×d. 血清Ca 14.2mg/dL
血清Caの基準範囲は8.8〜10.1mg/dL程度である。14.2mg/dLは高度の高カルシウム血症で、パニック値に当たる。多くの施設は12〜13mg/dL程度を上限の基準としている。高カルシウム血症では、腎臓で尿を濃縮できなくなって多尿と脱水が起こり、急性腎障害に進む。さらに、意識障害などの中枢神経症状、QT短縮、不整脈が現れることがあり、高カルシウム血症クリーゼとして緊急治療が必要になる。治療は大量の生理食塩液の輸液を基本とし、カルシトニンやビスホスホネート製剤を併用する。原因としては悪性腫瘍(PTHrPの産生や骨転移)と原発性副甲状腺機能亢進症が多い。なお、低アルブミン血症がある場合は補正Ca値で評価する。
- ○e. 血清総コレステロール320mg/dL
総コレステロール320mg/dLは明らかな高値で、家族性高コレステロール血症などが疑われる。しかし、コレステロールの害は、動脈硬化が長い時間をかけて進み、冠動脈疾患や脳梗塞のリスクを高めることにある。この値そのものが数時間から数日のうちに生命を脅かすことはない。そのため、総コレステロールには通常パニック値を設定しない。対応としては、LDLコレステロールなどを確認し、二次性の原因(甲状腺機能低下症、ネフローゼ症候群など)の検索、生活習慣の改善、スタチンなどによる治療を外来で計画的に進めればよい。
パニック値の運用
・パニック値は、検査部門が臨床医と相談して施設ごとに決める。検出されたら、検査部門から主治医(または担当医)へ電話などで直接連絡し、誰がいつ受けたかを記録する。 ・同じ検査値でも、急性に生じたのか、慢性的に続いているのかで危険度は異なる。たとえば慢性腎臓病の患者が軽い高カリウム血症を続けている場合や、慢性呼吸不全の患者のPaCO2高値などである。そのため、外来と入院、急性と慢性で基準を分ける施設もある。 ・異常値が出たら、採血や検体の取り扱いの問題(溶血、点滴ルート側からの採血、検体の放置など)による見かけの異常でないかも確認する。
パニック値として設定されることの多い項目(数値は一例で、施設によって異なる)
・血液:白血球(著減・著増)、Hb(高度の貧血)、血小板(著減)、PT-INR(著明な延長) ・生化学:Na、K、Ca(低値・高値とも)、血糖(低血糖・著明な高血糖)、AST/ALT・LDHの著増など ・血液ガス:pH、PaO2の低値、PaCO2の高値など ・その他:血液培養の陽性、髄液のグラム染色陽性など
パニック値を通常設定しない項目の例
総コレステロール、LDLコレステロール、HbA1c、尿酸など、長期的なリスクの指標となる項目である。これらはいずれも慢性疾患の管理指標で、数値が高くても緊急の処置にはつながらない。
POINT
・パニック値は、生命の危険が迫っていることを示し、ただちに治療すれば救命しうる値である。主治医へ直接かつ速やかに報告する ・具体的な基準値は施設ごとに決められる ・代表的な項目:白血球の著減、pH 7.2未満、K著高、Ca著高、Na異常、低血糖、高度の貧血、血小板著減など ・総コレステロールのように長期的なリスクの指標となる項目は、パニック値の対象にならない
