男女で「正常」が違う検査値―ヘモグロビンに性差が生まれる理由
第118回医師国家試験 C問題 第29問
国試問題にチャレンジ
基準値に性差があるのはどれか。
- a.血清Ca値
- b.血清CRP値
- c.動脈血PaO2
- d.血清アルブミン値
- e.血中ヘモグロビン値
対話形式の解説
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医学生まとめ
臨床検査の基準範囲は健常者の測定値の中央95%を含む範囲であり、性別や年齢などの生理的要因で変動する項目があります。ヘモグロビンは、アンドロゲンによるエリスロポエチン産生促進と女性の月経による失血のため男性で高く、基準範囲が男女別に設定されています。一方、血清カルシウム、CRP、動脈血酸素分圧、アルブミンは成人で性差がなく、酸素分圧は加齢で低下するなど年齢差として理解しておくべき項目もあります。ほかにクレアチニン・CK・尿酸・フェリチンは男性で、HDLコレステロールは女性で高いなど、性差の理由(性ホルモン・失血・筋肉量)から整理すると覚えやすくなります。患者の属性に応じた基準範囲で検査値を解釈する姿勢は、日常診療のあらゆる場面で役立ちます。
解答・解説
正解はeです
臨床検査値の基準範囲(健常者の測定値の中央95%が含まれる範囲)は、性別・年齢・妊娠・生活習慣などの生理的要因によって変動することがあり、検査結果を解釈する際にはこれらを考慮する必要がある。 性差が生じる主な理由は、①性ホルモンの作用(アンドロゲンによる造血促進や筋肉量の増加など)、②月経による失血、③体格・筋肉量の違い、である。これらの影響を受ける項目として、ヘモグロビン(Hb)、赤血球数、ヘマトクリット、血清鉄・フェリチン、クレアチニン、クレアチンキナーゼ(CK)、尿酸、γ-GTPなどが代表的である。 一方、血清Ca、CRP、PaO2、アルブミンは、生体の恒常性維持や炎症・呼吸機能・栄養状態などを反映する指標であり、成人では基準範囲に男女差を設けない。日本の共用基準範囲(日本臨床衛生検査技師会などが定めた全国共通の基準範囲)でも、選択肢の中で男女別の値が示されているのはヘモグロビンのみである。
選択肢考察
- ×a. 血清Ca値
血清Caは副甲状腺ホルモン(PTH)、活性型ビタミンD、カルシトニンによって狭い範囲に厳密に調節されており、基準範囲は男女共通(共用基準範囲で約8.8〜10.1mg/dL)である。体内のCaの約99%は骨・歯に存在し、血中にあるのはごく一部にすぎない。血清Caの約半分はアルブミンなどの蛋白と結合しているため、低アルブミン血症では見かけ上低値となり、補正Ca値[実測Ca+(4−アルブミン値)]で評価する。
- ×b. 血清CRP値
C反応性蛋白(CRP)は、炎症や組織傷害の際にIL-6などのサイトカインの刺激を受けて肝臓で産生される急性期蛋白である。健常者ではごく低値(一般に0.3mg/dL以下、共用基準範囲では0.14mg/dL以下)で、基準範囲に性差はない。
- ×c. 動脈血PaO2
動脈血酸素分圧(PaO2)は肺での血液の酸素化能を示す指標で、基準値は室内気吸入下でおよそ80〜100Torrであり、性差はない。ただし加齢とともに低下する(換気血流比の不均等が増すため)ことが知られており、年齢差はある項目である。
- ×d. 血清アルブミン値
アルブミンは肝臓で合成され、血清総蛋白の約60%を占める蛋白である。膠質浸透圧の維持や、Ca・ビリルビン・薬物などの運搬を担い、栄養状態や肝合成能の指標とされる。成人の基準範囲は男女共通(共用基準範囲で約4.1〜5.1g/dL)である。高齢者ではやや低値となる傾向がある。
- ○e. 血中ヘモグロビン値
男性は女性よりHbが高く、基準範囲は男女別に設定されている(共用基準範囲で男性約13.7〜16.8g/dL、女性約11.6〜14.8g/dL)。理由として、テストステロンなどのアンドロゲンが腎臓でのエリスロポエチン(EPO)産生を促し、骨髄での赤血球産生を高めること、女性では月経による周期的な失血があり鉄が不足しやすいことが挙げられる。WHOの貧血の基準も成人男性Hb 13g/dL未満、成人女性(非妊娠)12g/dL未満と男女で異なる。
基準範囲に性差がある主な検査項目
・赤血球数、ヘモグロビン、ヘマトクリット(男性>女性): アンドロゲンによるEPO産生促進、月経による失血 ・血清鉄、フェリチン(男性>女性): 月経・妊娠による鉄喪失 ・クレアチニン、CK(男性>女性): 筋肉量の差 ・尿酸(男性>女性): エストロゲンに尿酸排泄促進作用があるため、女性では閉経前は低く閉経後に上昇する ・γ-GTP(男性>女性) ・HDLコレステロール(女性>男性): エストロゲンの作用
性差がない主な項目
白血球数、血小板数、総蛋白、アルブミン、電解質(Na、K、Cl、Ca)、CRP、血糖、動脈血ガス(PaO2、PaCO2、pH)、プロトロンビン時間など。
年齢による変動の例
・ALP: 小児期(骨成長期)に骨型ALPが増加し高値となる ・PaO2: 加齢により低下する ・Hb: 高齢者ではやや低下する傾向がある ・新生児はHbが高く(胎児期の低酸素環境を反映)、生後2〜3か月で生理的に最も低くなる(生理的貧血)
基準範囲の考え方
基準範囲は健常者集団の95%が含まれる範囲であり、健常者でも約5%は範囲外となる。逆に範囲内であっても病気がないとは限らない。性・年齢などの属性に応じて適切な基準範囲を参照することが重要である。
POINT
・Hb・赤血球数・ヘマトクリットは男性で高い(アンドロゲンによるEPO産生促進+女性の月経による失血) ・その他の性差項目: 血清鉄・フェリチン、クレアチニン、CK、尿酸、γ-GTP(いずれも男性>女性)、HDLコレステロール(女性>男性) ・Ca、CRP、PaO2、アルブミンは基準範囲に性差がない ・PaO2は加齢で低下、ALPは小児期に高値(年齢差の代表例)
