StudyMed医師国家試験

「来月からやめます」は準備期のサイン―行動変容ステージモデルで患者の今を見極める

第112回医師国家試験 E問題 第20問

国試問題にチャレンジ

第112回 E問題 第20問

糖尿病の患者における行動変容の準備期と考えられるのはどれか。

  1. a.食後の運動を7か月続けている。
  2. b.夕食後にデザートを食べている。
  3. c.テレビを見ているとついお菓子を食べてしまうことがある。
  4. d.糖尿病が悪化しているので来月から間食をやめようと考えている。
  5. e.間食した後はストレッチ体操をすればよいと思っている。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、糖尿病患者さんの言葉から行動変容の段階を見極める問題だ。使うのは行動変容ステージモデル、トランスセオレティカルモデルとも呼ばれる考え方。各選択肢の発言を「行動を始めているか」「いつ始めるつもりか」という2つの視点で読んでいこう。
医学生医学生
公衆衛生の講義で習いました。無関心期、関心期、準備期、実行期、維持期の5段階ですよね。
ドクタードクター
その通り。段階を分ける目安は時間軸だ。まだ行動していない人なら、6か月以内に変えるつもりがあるか、1か月以内に始めるつもりか。すでに行動している人なら、それを6か月未満続けているか、6か月以上続けているかで判断する。
医学生医学生
6か月と1か月、数字がいくつも出てくるので混乱しそうです。
ドクタードクター
整理しよう。6か月以内に変えるつもりがなければ無関心期、6か月以内に変えるつもりはあるが踏み出せないのが関心期、1か月以内に始めるつもりが準備期。行動を始めて6か月未満が実行期、6か月以上続いていれば維持期だ。では、食後の運動を7か月続けている人はどこかな。
医学生医学生
もう行動しているので実行期……いや、6か月を超えているから維持期ですね。
ドクタードクター
正解。もし5か月なら実行期だった。行動がすでに習慣として定着しつつある段階だから、準備期ではない。次に、夕食後にデザートを食べている人は?
医学生医学生
血糖を上げやすい習慣を続けていて、やめる気配もないので無関心期でしょうか。
ドクタードクター
そう考えるのが自然だね。変えようとする意思や時期についての発言がないから、少なくとも準備期ではない。では、テレビを見ているとついお菓子を食べてしまう人はどうだろう。
医学生医学生
「つい」という言い方に、悪いとわかっている気持ちがにじんでいる気がします。関心期ですか。
ドクタードクター
いい読み方だ。そう解釈すれば関心期、問題意識がはっきり示されていないと見れば無関心期とも取れて、文面だけでは断定しにくい。ただ、どちらにしても「いつからやめる」という計画がないので準備期ではない、という点は確実に言える。
医学生医学生
間食のあとにストレッチをすればいいと思っている人も、似た感じですね。
ドクタードクター
そうだね。間食を控えるという本来の行動ではなく、「あとで体操すれば帳消し」と間食を正当化している。しかも実際に体操しているとも書かれていない。関心期とも無関心期とも読めるけれど、近く望ましい行動を始めようと決めているわけではないので、やはり準備期ではない。
医学生医学生
残るのが、糖尿病の悪化を自覚して来月から間食をやめようと考えている人。開始時期まで決めているので、これが準備期ですね。
ドクタードクター
その通り。まだ行動は始めていないけれど、おおむね1か月以内に始める意思が固まっている。準備期の決め手は、この「具体的な開始時期」なんだ。
医学生医学生
段階がわかったら、診療ではどう生かすんでしょうか。
ドクタードクター
そこがこのモデルの本質だよ。段階ごとに効果的な働きかけが違う。無関心期には病気のリスクについて情報を伝えて関心を引き出す。関心期には、変えた場合の利点と変えない場合の不利益を一緒に整理して迷いをほぐす。準備期には、具体的で達成できる目標、たとえば間食は週1回までといった計画を立て、周囲に宣言してもらうのが効果的だ。
医学生医学生
実行期や維持期では何をするんですか。
ドクタードクター
実行期は、できたことを褒めて自己効力感、つまり自分はやれるという自信を高め、逆戻りしやすい場面への対策を一緒に考える。維持期は逆戻りを防ぐ工夫を続けて習慣として定着させる。そして大事なのは、段階は一方向に進むとは限らず、前の段階に戻ることもよくあるということ。逆戻りは失敗ではなく変化の過程の一部ととらえるんだ。
医学生医学生
臨床実習で内分泌代謝内科を回ったとき、指導医の先生が患者さんごとに話し方を変えていた理由がわかった気がします。OSCEの医療面接でも使えそうですね。
ドクタードクター
まさにそうだね。無関心期の人にいきなり詳しい食事計画を渡しても、なかなか響かない。それから、同じ人でも食事、運動、禁煙など行動の種類ごとに段階が違うことがある。運動は維持期でも間食は無関心期、ということもあるから、どの行動についての段階なのかを意識して評価しよう。

まとめ

行動変容ステージモデルでは、生活習慣の変化を無関心期・関心期・準備期・実行期・維持期の5段階でとらえ、行動前は「6か月以内か1か月以内に始めるつもりか」、行動後は「継続が6か月未満か以上か」で区別します。「来月から間食をやめよう」と開始時期を具体的に決めている状態は準備期であり、7か月運動を続けている状態は維持期、変える意思や計画が示されていない状態は無関心期や関心期にあたります。段階ごとに、情報提供、利点と不利益の整理、具体的な目標設定と宣言、自己効力感の強化、逆戻り予防と、支援の内容を変えることが重要です。段階は逆戻りすることもあり、行動の種類ごとに異なる場合もあります。患者さんの言葉から現在の段階を読み取り、それに合った働きかけを選ぶ力は、糖尿病をはじめとする生活習慣病の診療や保健指導の基本となります。

解答・解説

正解はdです

本問は、行動変容ステージモデル(トランスセオレティカルモデル、多理論統合モデルとも呼ばれる)の5段階を、糖尿病患者の具体的な言動に当てはめて判別できるかを問う問題である。

モデルの骨格

このモデルは、人が生活習慣を変えるとき「無関心期 → 関心期 → 準備期 → 実行期 → 維持期」の順に段階を進むと考える。段階を分ける目安は次の2つの時間軸である。 ・まだ行動を起こしていない段階:変える意思があるか、いつ始めるつもりか(6か月以内か、1か月以内か) ・すでに行動を起こしている段階:その行動をどれだけ続けているか(6か月未満か、6か月以上か)

本問で変えるべき行動

糖尿病患者に望まれる健康行動とは、間食や甘いものを控える、食後に体を動かすといった、血糖コントロールに役立つ行動である。各選択肢がこの行動に対してどの段階にあるかを考える。

解き方

準備期の決め手は「近いうち(おおむね1か月以内)に行動を始めようと具体的に決めている」ことである。「来月から間食をやめよう」と開始時期まで定めている d がこれにあたる。すでに行動を続けている a は行動期側(維持期)、望ましい行動をまだとっておらず開始の予定も示されていない b・c・e は準備期より手前の段階である。

選択肢考察

  1. ×a.  食後の運動を7か月続けている。

    食後の運動という健康行動をすでに実行しており、その継続期間が7か月と6か月を超えている。実行開始から6か月以上が経過して習慣として定着した段階は維持期であり、準備期ではない。もし継続期間が6か月未満であれば実行期となる。

  2. ×b.  夕食後にデザートを食べている。

    血糖を上げやすい食習慣をそのまま続けており、やめようとする意思や開始時期についての発言もない。行動を変えることに関心を示していないので、無関心期に相当すると考えるのが自然である。少なくとも、近く行動を始める予定を立てている準備期にはあたらない。

  3. ×c.  テレビを見ているとついお菓子を食べてしまうことがある。

    「つい食べてしまう」という表現には、間食が望ましくないと薄々感じている気持ちが読み取れる。そのため、変えたいという気持ちはあっても行動に移す具体的な計画がない関心期と解釈できる。一方で、問題意識が明示されていないとして無関心期と捉えることもでき、どちらとも断定しにくい。いずれにせよ、いつから間食をやめるかという計画は示されていないため、準備期ではない。

  4. ○d.  糖尿病が悪化しているので来月から間食をやめようと考えている。

    病状の悪化を自覚し、「来月から」と開始時期を具体的に決めて間食をやめるつもりでいる。まだ行動は始めていないが、おおむね1か月以内に行動を起こす意思が固まっているので、準備期に該当する。この段階では、具体的な目標設定(例:間食は週1回までにする)や、行動を始めると周囲に宣言することなどを支援すると、実行期へ進みやすくなる。

  5. ×e.  間食した後はストレッチ体操をすればよいと思っている。

    間食を控えるという本来の健康行動ではなく、「後で体操をすれば帳消しになる」という考えで間食を正当化している。間食に何らかの問題意識はあると読めば関心期、間食をやめる気がないと読めば無関心期に近い。また、ストレッチ体操を実際に行っているとも書かれていない。いずれの解釈でも、望ましい行動を近く始めようと決めている準備期にはあたらない。

行動変容ステージモデルの5段階と支援の例

・無関心期(前熟考期):6か月以内に行動を変えるつもりがない。→ 病気や生活習慣のリスクについて情報を伝え、関心を引き出す。 ・関心期(熟考期):6か月以内に変えるつもりはあるが、まだ踏み出せない。→ 変えた場合の利点と変えない場合の不利益を一緒に整理し、迷いを解きほぐす(意思決定のバランスを利点側へ傾ける)。 ・準備期:1か月以内に始めるつもりでいる(小さな行動をすでに試している場合も含む)。→ 具体的で達成可能な目標と計画を立て、行動を始めると宣言するよう促す。 ・実行期:行動を始めて6か月未満である。→ できたことを褒めて自己効力感(自分はやれるという自信)を高め、逆戻りしやすい場面への対策を立てる。 ・維持期:行動を6か月以上続けている。→ 再発(逆戻り)を防ぐ工夫を続け、習慣として定着させる。

補足

・段階は必ずしも一方向に進むわけではなく、前の段階へ戻ること(逆戻り)もよくある。逆戻りは失敗ではなく、変化の過程の一部ととらえる。 ・患者が今どの段階にいるかを見極め、その段階に合った働きかけをすることが保健指導や生活習慣病の診療で重視される。無関心期の人にいきなり具体的な行動計画を求めても効果は乏しい。 ・同じ人でも、食事・運動・禁煙など行動の種類ごとに段階が異なることがある。

POINT

・行動変容の5段階:無関心期 → 関心期 → 準備期 → 実行期 → 維持期 ・時間の目安:関心期は6か月以内、準備期は1か月以内に行動を始めるつもりでいる段階。実行期は開始後6か月未満、維持期は6か月以上 ・「来月から始めよう」と具体的に決めている場合は準備期である ・段階に応じて支援の内容を変える。逆戻りもありうる

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。