StudyMed医師国家試験

食後に静かになるホルモン―「蓄える」と「動員する」で読み解く成長ホルモン

第114回医師国家試験 E問題 第21問

国試問題にチャレンジ

第114回 E問題 第21問

健常成人の血中濃度で食事により値が低下するのはどれか。

  1. a.GH
  2. b.インスリン
  3. c.グルコース
  4. d.トリグリセリド
  5. e.遊離サイロキシン〈FT4〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、食事をとると血中濃度が下がるものを選ぶ問題だ。ひとつひとつ暗記するより、「食後の体はエネルギーを蓄えるモードに切り替わる」という大きな流れで考えるのがコツだよ。食後に増えるもの、減るものをどう整理する?
医学生医学生
食後は糖や脂質が吸収されるので、それに関係するものは増えそうです。逆に、空腹のときに働くものが減るんでしょうか。
ドクタードクター
いい方向性だね。食後は同化、つまり蓄える方向が優位になって、その司令塔がインスリン。空腹時にエネルギーを動員する異化側のホルモンは、食後には抑えられる。まずグルコースから確認しよう。
医学生医学生
炭水化物を食べれば血糖は上がりますよね。健診で「朝ごはんを抜いて来てください」と言われるのもそのためだと思います。
ドクタードクター
その通り。健常者では食後30〜60分ごろにピークを迎えて、2〜3時間でほぼ空腹時の値に戻る。だから空腹時血糖は、10時間以上の絶食後に採血して評価するんだ。インスリンはどうかな。
医学生医学生
血糖が上がると膵β細胞から分泌されるので、食後に上がります。生理学でインクレチンも習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。食事の刺激で消化管からGLP-1やGIPが出て、血糖依存性にインスリン分泌を増強する。インスリンは筋肉や肝臓に糖を取り込ませ、余ったエネルギーを脂肪として蓄える。まさに「蓄える」ホルモンだ。では、トリグリセリドは?
医学生医学生
脂質を食べると小腸でカイロミクロンがつくられるので、上がると思います。
ドクタードクター
正解。食後4〜6時間ほどでピークになる。だから脂質異常症の診断は原則として空腹時採血で、空腹時150 mg/dL以上を高トリグリセリド血症とする。随時採血なら175 mg/dL以上が目安だ。
医学生医学生
残るのは成長ホルモンと遊離サイロキシンですね。成長ホルモンは成長を促すホルモンなので、栄養が入ったら増えそうな気もするんですが……。
ドクタードクター
そこがこの問題の落とし穴だね。GHは名前のイメージとは裏腹に、代謝の面では血糖を上げて脂肪分解を促すインスリン拮抗ホルモンなんだ。分泌が高まるのは空腹、低血糖、運動、深い睡眠のとき。胃から出るグレリンも、空腹時に増えてGH分泌を促す。
医学生医学生
じゃあ食後は血糖が上がって、グレリンも減るから、GHは抑えられるということですか。
ドクタードクター
その通り。さらに脂肪分解の産物である遊離脂肪酸が上がってもGHは抑制される。だから食事で低下するのはGHで、これが正解だ。最後にFT4はどうかな。
医学生医学生
甲状腺ホルモンは半減期が長かった記憶があります。1回の食事くらいでは変わらないのでは。
ドクタードクター
そう。T4の半減期は約1週間と長く、視床下部—下垂体—甲状腺系のフィードバックで安定しているから、食事でほとんど変化しない。甲状腺中毒症で食後に一過性の高血糖が出ることはあるけれど、それは甲状腺ホルモンが糖の吸収を速めるせいで、FT4の値が食事で動くわけではないよ。
医学生医学生
「ブドウ糖でGHが抑えられる」という性質は、先端巨大症の検査にも使われていましたよね。CBTの勉強で出てきました。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。健常者なら75g経口ブドウ糖負荷でGHは低値まで抑制されるが、先端巨大症では抑制されず、逆に上がる奇異性上昇を示すこともある。反対に、GH分泌不全症を疑うときは、インスリン低血糖試験やアルギニン負荷、GHRP-2負荷などの分泌刺激試験で反応をみる。
医学生医学生
過剰を疑ったら抑制試験、不足を疑ったら刺激試験、という使い分けですね。
ドクタードクター
その通り。それからGHは拍動的に分泌されるから、1回測っただけでは評価が難しい。実際には負荷試験やIGF-Iと組み合わせて判断する。ほかに食後に下がるものとしては、遊離脂肪酸やケトン体、インスリンで細胞内に取り込まれる血清Kや無機リンもある。採血のタイミングが検査値を左右することは、病棟でもよく意識しておきたいね。

まとめ

食後の体はインスリンを中心に「蓄える」同化優位の状態となり、血糖・インスリン・トリグリセリドは上昇します。成長ホルモン(GH)は血糖を上げ脂肪分解を促すインスリン拮抗ホルモンで、空腹・低血糖・運動・深睡眠やグレリンで分泌が促され、食後の血糖上昇や遊離脂肪酸上昇、グレリン低下によって抑制されるため、食事で血中濃度が低下します。FT4は半減期が約1週間と長く、食事の影響をほとんど受けません。この「ブドウ糖でGHが抑制される」性質は先端巨大症の診断における75g経口ブドウ糖負荷試験に応用されており、分泌不全症の刺激試験と対比して理解しておくことが大切です。食事による検査値の変化を代謝の流れで捉えることは、採血条件の解釈や内分泌負荷試験の理解につながります。

解答・解説

正解はaです

食事をとると、消化管から糖や脂質が吸収され、それに応じて体はエネルギーを「蓄える」方向(同化)へ切り替わる。この切り替えを担う代表がインスリンであり、逆に空腹時にエネルギーを動員する(異化)ホルモンは食後に抑えられる。 選択肢を食後の変化で整理すると、糖の吸収によりグルコース(血糖)が上昇し、それに反応してインスリン分泌が増える。また脂質の吸収により、小腸で作られたカイロミクロンを介してトリグリセリドが上昇する。これらはいずれも食後に増加する項目である。 一方、成長ホルモン(growth hormone:GH)は血糖を上昇させ脂肪分解を促すインスリン拮抗ホルモン(抗インスリンホルモン)の一つで、空腹・低血糖・運動・深い睡眠で分泌が促される。食後の血糖上昇や、脂肪分解の産物である遊離脂肪酸の上昇はGH分泌を抑制する。この「ブドウ糖負荷でGHが抑制される」性質は、先端巨大症の診断で75g経口ブドウ糖負荷試験を行い、GHが十分に抑制されるかをみることに応用されている。 甲状腺ホルモン(FT4)は半減期が約1週間と長く、血中濃度は1回の食事で有意に変化しない。以上より、食事で低下するのはGHであり、正解はaである。

選択肢考察

  1. ○a.  GH

    GHは下垂体前葉から分泌され、肝臓などでのグルコース産生を促し、脂肪組織での脂肪分解を進めて遊離脂肪酸を増やす、インスリン拮抗作用をもつホルモンである。分泌は視床下部のGHRH(成長ホルモン放出ホルモン)と胃から分泌されるグレリン(空腹時に増加)で促進され、ソマトスタチンで抑制される。食後は血糖と遊離脂肪酸が上昇し、グレリンも低下するため、GH分泌は抑制され血中濃度は低下する。健常者では75g経口ブドウ糖負荷によりGHが低値まで抑制されるが、先端巨大症ではこの抑制がみられない(奇異性上昇を示すこともある)。なお、アルギニンなど一部のアミノ酸はGH分泌刺激作用をもち、GH分泌刺激試験に用いられる。

  2. ×b.  インスリン

    食後に吸収されたグルコースが膵β細胞に取り込まれると、インスリン分泌が促進される。さらに食事刺激により消化管から分泌されるインクレチン(GLP-1、GIP)が、血糖依存性にインスリン分泌を増強する。インスリンは骨格筋・脂肪組織・肝臓での糖の取り込みや貯蔵(グリコーゲン合成)を促し、余剰のエネルギーをトリグリセリドとして脂肪組織に蓄える。したがって食後に血中濃度は上昇する。

  3. ×c.  グルコース

    炭水化物を含む食事をとると、小腸で単糖として吸収されたグルコースが門脈を経て全身循環に入り、血糖値は上昇する。健常者では食後30~60分ころにピークとなり、インスリンの働きにより2~3時間でほぼ空腹時の値に戻る。空腹時血糖の基準を用いる検査では、食事の影響を避けるため早朝空腹時(10時間以上の絶食後)に採血する。

  4. ×d.  トリグリセリド

    血中のトリグリセリドは、主に食事由来の脂質を小腸から運ぶカイロミクロン(外因性)と、肝臓で合成されるVLDL(超低比重リポ蛋白、内因性)に含まれる。脂質を含む食事の後にはカイロミクロンが増えるため、トリグリセリドは上昇し、食後4~6時間程度でピークとなる。このため脂質異常症の診断では原則として10時間以上絶食後の空腹時採血で評価し、空腹時150 mg/dL以上を高トリグリセリド血症とする(随時採血では175 mg/dL以上)。

  5. ×e.  遊離サイロキシン〈FT4〉

    FT4は甲状腺から分泌されるサイロキシン(T4)のうち、血漿蛋白に結合していない遊離型である。T4は半減期が約1週間と長く、視床下部-下垂体-甲状腺系のフィードバックで安定に保たれるため、食事の摂取によって血中濃度が変化することはほとんどない。甲状腺機能検査は採血時刻や食事の有無の影響を受けにくい。なお、甲状腺中毒症では腸管からの糖吸収が速まり、食後に一過性の高血糖や尿糖を示すことがある(oxyhyperglycemia)が、これは甲状腺ホルモンが糖代謝に及ぼす影響であって、食事でFT4値が変動するという意味ではない。

食事による主な検査値の変化

・上昇する:血糖、インスリン、Cペプチド、トリグリセリド、インクレチン(GLP-1、GIP)、ガストリン、コレシストキニンなど。 ・低下する:GH、グレリン、グルカゴン(糖質中心の食事の場合。蛋白質の多い食事では上昇しうる)、遊離脂肪酸、ケトン体、血清無機リン(糖とともに細胞内に取り込まれるため)、血清K(インスリンにより細胞内へ移行)など。 ・ほとんど変化しない:甲状腺ホルモン(FT4、FT3)、TSH、総コレステロール、HbA1cなど。

GH分泌の調節

・促進因子:GHRH、グレリン、低血糖、空腹・絶食、運動、ストレス、深い睡眠(入眠後早期の徐波睡眠期に大きな分泌ピーク)、アルギニンなどのアミノ酸、エストロゲン。 ・抑制因子:ソマトスタチン、高血糖、遊離脂肪酸の上昇、IGF-I(ネガティブフィードバック)、肥満、グルココルチコイド過剰。 ・GHは日内で拍動的に分泌されるため、単回測定値の評価は難しく、刺激試験・抑制試験やIGF-Iを併せて評価する。

GHに関連する負荷試験

・GH分泌不全症(分泌低下)の診断:GH分泌刺激試験(インスリン低血糖試験、アルギニン負荷、グルカゴン負荷、GHRP-2負荷など)で反応低下を確認する。 ・先端巨大症(分泌過剰)の診断:75g経口ブドウ糖負荷試験でGHが正常域まで抑制されないことを確認する。

インスリン拮抗ホルモン

GH、グルカゴン、コルチゾール、カテコールアミン(アドレナリン)、甲状腺ホルモンは血糖を上昇させる方向に働く。これらは空腹時や低血糖、ストレス時に分泌が増える。

POINT

・食後は同化優位となり、血糖・インスリン・トリグリセリドは上昇する。 ・GHはインスリン拮抗ホルモンで、高血糖や遊離脂肪酸上昇により分泌が抑制されるため、食後に低下する。 ・この性質を応用し、先端巨大症の診断では75g経口ブドウ糖負荷試験でGHの抑制の有無をみる。 ・FT4は半減期が長く、食事の影響をほとんど受けない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。