StudyMed医師国家試験

「目標達成の徹底」は誰を守るのか―過重労働対策の二本柱を読み解く

第112回医師国家試験 E問題 第14問

国試問題にチャレンジ

第112回 E問題 第14問

産業保健における過重労働対策として適切でないのはどれか。

  1. a.時間外労働時間の削減
  2. b.年次有給休暇の取得促進
  3. c.担当業務目標達成の徹底
  4. d.健康診断結果に基づく事後措置
  5. e.長時間労働者への医師による面接指導

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は産業保健の問題で、過重労働対策として適切でないものを選ぶ。ポイントは、過重労働対策が「負荷そのものを減らす」対策と「負荷を受けている人の健康を守る」対策の二本柱でできている、という枠組みだ。この枠に当てはまらない選択肢を探せばいい。まず、過重労働がなぜ問題になるのか、説明できるかな。
医学生医学生
長時間労働で睡眠が削られて疲労がたまり、いわゆる過労死につながるから、ですよね。
ドクタードクター
その通り。長時間労働は睡眠や休養の時間を奪い、脳血管疾患や心疾患、それにうつ病などの精神障害のリスクを高めることが知られている。過労自殺も含めて、社会的に大きな問題になってきたんだ。では一つ目の柱、負荷を減らす対策に当てはまるのはどれだと思う?
医学生医学生
時間外労働時間の削減と、年次有給休暇の取得促進ですね。
ドクタードクター
正解。時間外労働の削減は最も基本的な対策で、働き方改革関連法による2019年施行の労働基準法改正で、時間外労働には罰則付きの上限が設けられた。原則は月45時間・年360時間で、臨時的な特別の事情があっても、年720時間以内、休日労働を含めて単月100時間未満、2〜6か月平均80時間以内に収める必要がある。
医学生医学生
公衆衛生の講義で「80時間」と「100時間」が何度も出てきて混乱しました。
ドクタードクター
混乱しやすいところだね。脳・心臓疾患の労災認定で使われる、いわゆる過労死ラインが、発症前1か月におおむね100時間、または2〜6か月平均でおおむね80時間を超える時間外労働だ。上限規制の数字はこれを踏まえたものと理解すると整理しやすい。有給休暇についても、年10日以上付与される労働者には、使用者が年5日を確実に取得させることが義務化されている。休むことで心身の疲労を回復させるわけだ。
医学生医学生
二つ目の柱、健康を守る対策は、健康診断の事後措置と医師による面接指導ですね。
ドクタードクター
そう。労働安全衛生法では、健康診断で異常所見があった労働者について事業者が医師等の意見を聴き、就業場所の変更や労働時間の短縮、深夜業の回数の減少などの措置を講じることになっている。これが事後措置だ。高血圧や脂質異常症、糖尿病のような脳・心臓疾患のリスク因子を把握して、負荷を調整するうえで欠かせない。
医学生医学生
面接指導は、残業が月100時間を超えた人が対象だったと思います。
ドクタードクター
そこは改正点に注意しよう。以前は月100時間超だったけれど、2019年の改正で、時間外・休日労働が月80時間を超え、疲労の蓄積が認められる労働者が申し出た場合に、事業者が医師による面接指導を行わなければならない、と引き下げられた。医師は心身の状態を確認して保健指導を行い、事業者はその意見を聴いて労働時間の短縮などの就業上の措置を講じる。
医学生医学生
本人の申し出が必要なんですね。そうすると残るのは、担当業務目標達成の徹底です。
ドクタードクター
その通り、これが適切でないものだ。目標達成を徹底させれば、それをこなすために残業や休日出勤が増え、精神的な重圧も強まる。つまり負荷を増やす方向に働いてしまう。過重労働対策として求められるのは、むしろ業務量や目標そのものが適正かを見直し、必要なら軽減や再配分をすることなんだ。
医学生医学生
企業としては生産性も大事なので、一見もっともらしく聞こえますね。
ドクタードクター
そう、だから出題される。大事なのは「労働者の健康を守る」という産業保健の視点で選択肢を見ることだ。目標管理そのものが悪いわけではないけれど、過重労働対策という文脈では逆効果になる。
医学生医学生
負荷を減らすか、健康を守るか、どちらにも入らないものを選べばいいと分かりました。
ドクタードクター
いいまとめだね。関連する制度も押さえておこう。労働者50人以上の事業場では産業医の選任と、ストレスチェックの実施が義務になっている。ストレスチェックで高ストレスと判定された人には、本人の申し出により医師が面接指導を行う。
医学生医学生
社会医学実習で企業の産業医の先生にお話を伺ったとき、面接で一番大事なのは睡眠時間を聞くことだとおっしゃっていました。
ドクタードクター
それは実践的なアドバイスだね。睡眠不足は疲労蓄積の重要な指標で、脳・心臓疾患や抑うつのリスクとも関係する。それから2021年の労災認定基準改正では、過労死ラインに届かなくても、それに近い時間外労働に加えて、勤務時間の不規則性など労働時間以外の負荷要因があれば、業務と発症との関連性が強いと評価できるようになった。時間だけでなく、働き方の質にも目を向ける必要があるということだ。研修医として働き始めたら、医師自身の働き方改革も他人事ではないから、ぜひ自分のこととしても覚えておいてほしい。

まとめ

過重労働対策は、時間外労働の削減や年次有給休暇の取得促進など「負荷そのものを減らす対策」と、健康診断結果に基づく事後措置や長時間労働者への医師による面接指導など「労働者の健康を守る対策」の二本柱で構成されます。担当業務目標達成の徹底は残業や精神的重圧を増やし、負荷を強める方向に働くため、過重労働対策として適切ではありません。現行制度では、時間外労働に罰則付きの上限(原則月45時間・年360時間)が設けられ、面接指導は時間外・休日労働が月80時間超で疲労の蓄積があり、申し出た労働者が対象です。過労死ライン(発症前1か月おおむね100時間、2〜6か月平均おおむね80時間)とあわせて数値を整理しておくことが重要です。産業保健では常に「労働者の健康を守る」視点で施策を評価する姿勢が求められます。

解答・解説

正解はcです

問われていること

過重労働とは、長時間労働や休日の不足、強い業務負荷などにより、労働者の心身に過度の負担がかかる状態をいう。長時間労働は睡眠や休養の時間を削り、疲労を蓄積させ、脳血管疾患・心疾患(いわゆる過労死)や、うつ病などの精神障害(過労自殺を含む)のリスクを高めることが知られている。本問は、産業保健の立場から過重労働を防ぐ対策として「適切でないもの」を選ぶ問題である。

考え方

過重労働対策は大きく二つの柱からなる。 1.負荷そのものを減らす対策:時間外・休日労働の削減、年次有給休暇の取得促進、労働時間等の設定の改善、業務量・人員配置の見直しなど 2.負荷を受けている労働者の健康を守る対策:健康診断とその結果に基づく事後措置、長時間労働者への医師による面接指導、それに基づく就業上の措置など この枠組みに当てはめると、時間外労働の削減、有給休暇の取得促進、健康診断の事後措置、医師による面接指導はいずれもどちらかの柱に該当する。一方、「担当業務目標達成の徹底」は労働者にかかる負荷を増やす方向に働き、目標を達成するために残業や休日出勤が増えることにつながりやすい。過重労働対策としては、むしろ業務量や目標が適正かを見直すことが求められる。

選択肢考察

  1. ×a.  時間外労働時間の削減

    過重労働の中心は長時間労働であり、時間外・休日労働を減らすことは最も基本的な対策である。働き方改革関連法による労働基準法改正(2019年施行)で、時間外労働には罰則付きの上限(原則として月45時間・年360時間)が設けられている。臨時的な特別の事情がある場合でも、年720時間以内、休日労働を含めて単月100時間未満、2〜6か月平均80時間以内に収める必要がある。過重労働対策として適切である。

  2. ×b.  年次有給休暇の取得促進

    過重労働の状態にある労働者は、年次有給休暇をほとんど取得していないことが多い。休暇を取得することで心身の疲労を回復する時間を確保でき、過重労働対策として適切である。2019年からは、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、使用者が年5日の取得を時季を指定するなどして確実に取得させることが義務化されている。

  3. ○c.  担当業務目標達成の徹底

    担当業務の目標達成を徹底させると、目標をこなすために時間外労働や休日出勤が増え、精神的な重圧も強まるため、過重労働をかえって悪化させるおそれがある。過重労働の防止には、業務量や目標そのものが適正かを見直し、必要に応じて軽減・再配分することが求められる。したがって過重労働対策として適切でなく、本問の正解である。

  4. ×d.  健康診断結果に基づく事後措置

    労働安全衛生法では、事業者は健康診断で異常所見のあった労働者について医師等の意見を聴き、その意見を踏まえて就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少などの措置(事後措置)を講じることとされている。過重労働で悪化しやすい高血圧、脂質異常症、糖尿病などの脳・心臓疾患のリスク因子を把握し、負荷を調整するうえで重要であり、過重労働対策として適切である。

  5. ×e.  長時間労働者への医師による面接指導

    労働安全衛生法に基づく制度で、時間外・休日労働が月80時間を超え、疲労の蓄積が認められる労働者が申し出た場合、事業者は医師による面接指導を行わなければならない(2019年の改正で、それまでの月100時間超から80時間超に引き下げられた)。医師は疲労の蓄積状況や心身の状態を確認して保健指導を行い、事業者はその医師の意見を聴いて、労働時間の短縮などの必要な就業上の措置を講じる。過重労働対策の中核をなすものであり、適切である。

過重労働対策の経緯

・2002年:厚生労働省が「過重労働による健康障害防止のための総合対策」を策定した。 ・2005年(2006年施行):労働安全衛生法の改正により、長時間労働者に対する医師による面接指導制度が設けられた。 ・2014年:過労死等防止対策推進法が制定された。 ・2018年(2019年から順次施行):働き方改革関連法により、時間外労働の罰則付き上限規制、年5日の年次有給休暇の確実な取得、面接指導の対象拡大(月80時間超)、事業者による労働時間の客観的な把握の義務化などが導入された。

過労死ラインと脳・心臓疾患の労災認定

発症前1か月間におおむね100時間、または発症前2〜6か月間にわたって1か月あたりおおむね80時間を超える時間外労働があると、業務と発症との関連性が強いと評価される。2021年の認定基準改正では、この水準に至らなくても、これに近い時間外労働に加えて、勤務時間の不規則性などの労働時間以外の負荷要因が認められれば、業務と発症との関連性が強いと評価できるとされた。

関連する産業保健の制度

・ストレスチェック制度(労働者50人以上の事業場で義務):心理的な負担の程度を把握し、高ストレス者には本人の申出により医師が面接指導を行う。 ・産業医:労働者50人以上の事業場で選任が義務づけられ、長時間労働者の面接指導や健康診断の事後措置に関与する。

POINT

・過重労働対策は「負荷を減らす対策(時間外労働の削減、有給休暇の取得促進)」と「健康を守る対策(健康診断の事後措置、医師による面接指導)」の二本柱である。 ・業務目標達成の徹底は負荷を増やすため、対策として不適切。 ・医師による面接指導の対象は、時間外・休日労働が月80時間超で疲労の蓄積があり、申出をした労働者。 ・過労死ライン:発症前1か月におおむね100時間、または2〜6か月平均でおおむね80時間を超える時間外労働。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。