「させられる」と「やめられない」は別物―作為体験と強迫症状を分ける自我意識
第112回医師国家試験 E問題 第15問
国試問題にチャレンジ
疾患と症状の組合せで誤っているのはどれか。
- a.心気症 ―― 身体的愁訴
- b.うつ病 ―― 心気妄想
- c.強迫性障害 ―― 作為体験
- d.統合失調症 ―― 妄想知覚
- e.心的外傷後ストレス障害〈PTSD〉 ―― 過覚醒
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
精神症状の用語は、精神機能のどの領域の異常かで整理すると理解しやすくなります。作為体験(させられ体験)は自分の思考や行動が外部に操られていると感じる自我意識(能動性)の障害で、統合失調症に特徴的なSchneiderの一級症状です。強迫性障害では、強迫観念や強迫行為を自分のものと認識し、不合理と知りつつ止められないため、自我意識は保たれており作為体験はみられません。心気症の身体的愁訴、うつ病の微小妄想としての心気妄想、統合失調症の一次妄想である妄想知覚、PTSDの過覚醒はいずれも正しい組合せです。「自分の考えか、させられているのか」という視点は、強迫症状と統合失調症の鑑別など実際の診療でも重要な手がかりになります。
解答・解説
正解はcです
問われていること
代表的な精神疾患と、その疾患に特徴的な症状(精神症状学の用語)との対応を問う問題であり、「誤っている組合せ」を選ぶ。
考え方
それぞれの症状用語が、精神機能のどの領域の異常を指すのかを整理すると判断しやすい。 ・身体的愁訴:身体の不調についての訴え。心気症の中心症状。 ・心気妄想:重い身体疾患にかかっていると確信し、訂正できない妄想。うつ病の微小妄想の一つ。 ・作為体験(させられ体験):自分の思考や行動が他者に操られていると感じる、自我意識の障害。統合失調症に特徴的。 ・妄想知覚:実際の知覚に、了解できない特別な意味づけが突然結びつく一次妄想。統合失調症に特徴的。 ・過覚醒:常に警戒し緊張が続く状態。PTSDの中核症状の一つ。 このうち、強迫性障害と作為体験の組合せが誤りである。両者はどちらも「自分の意に反して何かが起こる」という点で一見似ているが、自我意識の保たれ方が根本的に異なる。強迫性障害では、浮かんでくる考えや衝動を「自分自身の考え」と認識したうえで、不合理だと感じながらも抑えられずに苦しむ。一方、作為体験では、思考や行動の主体が自分であるという感覚(能動性の意識)そのものが失われ、「外部の何者かにさせられている」と体験される。この自我意識障害の有無が両者を分ける重要な鑑別点である。
選択肢考察
- ×a. 心気症 ―― 身体的愁訴
心気症は、医学的な検査で異常がないにもかかわらず、ありふれた身体感覚にとらわれ、自分が重い病気にかかっているのではないかと過度に心配し続ける病態である。頭痛、腹部不快感、動悸などの身体的愁訴を繰り返し訴え、訴えの部位や内容が受診のたびに変化することも多い。ただし、説明を受けると一時的に安心するなど、確信の程度は妄想には至らない。組合せは正しい。なお、DSM-5では心気症という診断名は廃止され、身体症状が目立つものは身体症状症、病気への不安が中心のものは病気不安症に分類されている。
- ×b. うつ病 ―― 心気妄想
重症のうつ病では、抑うつ気分や自己評価の低下を背景に、自分を実際より小さく悪く見積もる「微小妄想」が出現しやすい。微小妄想には、心気妄想(不治の病にかかっていると確信する)、貧困妄想(実際には蓄えがあるのに破産したと確信する)、罪業妄想(取り返しのつかない罪を犯したと確信する)があり、心気妄想はその一つである。心気症との違いは、根拠を示しても訂正できない確信(妄想)である点にある。組合せは正しい。
- ○c. 強迫性障害 ―― 作為体験
作為体験(させられ体験)とは、自分の思考や感情、行動が自分の意思ではなく、外部の何者かによって操られ、させられていると感じる体験であり、自我意識(能動性の意識)の障害である。思考吹入(考えを外から吹き込まれる)、思考奪取(考えを抜き取られる)などとともに、統合失調症に特徴的な症状で、Schneiderの一級症状にも含まれる。一方、強迫性障害では、繰り返し浮かぶ考え(強迫観念)や、それを打ち消すための行為(強迫行為:手洗い、確認など)を自分自身のものと認識しており、不合理だと感じながらも止められない点に苦痛がある。主体的な自我意識は保たれているため、作為体験はみられない。よってこの組合せは誤りであり、本問の正解である。
- ×d. 統合失調症 ―― 妄想知覚
妄想知覚は、実際に正しく知覚したものに、本人にとって特別な意味が突然結びつき、確信される妄想である。例えば「すれ違った人が咳払いをしたのは、自分が監視されている合図だ」と、根拠なく即座に確信するものがこれに当たる。知覚そのものは正常であり、知覚の誤りである錯覚や、対象のない知覚である幻覚とは異なる。心理的に由来をたどれない一次妄想の代表で、Schneiderの一級症状に含まれ、統合失調症に特徴的である。組合せは正しい。
- ×e. 心的外傷後ストレス障害〈PTSD〉 ―― 過覚醒
PTSDは、生命が脅かされるような出来事(災害、事故、暴力、性暴力など)を体験・目撃した後に生じる。過覚醒は、常に危険に備えて神経が張り詰めた状態で、不眠、易刺激性(いらだちやすさ)、集中困難、過度の警戒心、ささいな物音などに強く驚く過剰な驚愕反応として現れる。侵入症状(フラッシュバック、悪夢)、回避と並ぶPTSDの中核症状であり、組合せは正しい。
自我意識の障害
自我意識は、Jaspersによると、(1)能動性(自分が考え行動しているという意識)、(2)単一性(自分は一人であるという意識)、(3)同一性(過去と現在の自分が同じであるという意識)、(4)外界と他者に対する自我の境界、の4つの側面からなる。作為体験は、このうち能動性の障害が典型である。自我境界の障害としては、思考吹入、思考奪取、思考伝播(自分の考えが他人に伝わってしまう)などがある。
Schneiderの一級症状(統合失調症の診断に重視された症状)
考想化声、話しかけと応答の形の幻聴、自己の行為を批評する幻聴、身体への被影響体験、思考奪取やその他の思考への干渉、考想伝播、妄想知覚、感情・衝動・意志の領域におけるさせられ体験。
一次妄想と二次妄想
・一次妄想(真性妄想):心理的に由来をたどれない妄想。妄想気分(周囲が何となく不気味に変わったと感じる)、妄想知覚、妄想着想(突然に思いつき確信する)がある。統合失調症に特徴的。 ・二次妄想:気分や状況から心理的に理解できる妄想。うつ病の微小妄想、躁病の誇大妄想などがこれに当たる。
強迫性障害
強迫観念(不潔恐怖、加害恐怖、確認へのこだわりなど)と強迫行為(手洗い、確認、数を数えるなど)を特徴とする。治療は選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)と、曝露反応妨害法などの認知行動療法が中心である。
PTSD(DSM-5)
症状は、(1)侵入症状(フラッシュバック、悪夢)、(2)回避、(3)認知と気分の陰性の変化(出来事の重要な部分を思い出せない、自責感、感情の麻痺など)、(4)覚醒度と反応性の著しい変化(過覚醒)の4群からなり、1か月以上持続するものをいう。1か月未満のものは急性ストレス障害とされる。
POINT
・作為体験(させられ体験)は自我意識の障害で、統合失調症に特徴的。 ・強迫性障害では、強迫観念・行為を自分のものと認識し、不合理と知りつつ止められない(自我意識は保たれる)。 ・うつ病の微小妄想:心気妄想・貧困妄想・罪業妄想。 ・妄想知覚は一次妄想であり、Schneiderの一級症状に含まれる。 ・PTSDの中核症状:侵入症状、回避、認知・気分の陰性変化、過覚醒。
