薬では「治らない」鼻炎―ダニアレルギーを根本から変える唯一の治療とは
第112回医師国家試験 D問題 第47問
国試問題にチャレンジ
18歳の女子。くしゃみと鼻汁とを主訴に来院した。幼少時から一年中くしゃみと水様性鼻汁があり,特に起床直後に症状が強い。血清特異的IgE検査でヤケヒョウヒダニとコナヒョウヒダニのスコアが高値を示した。根治的な治療を希望して受診した。 根治が期待できる治療法はどれか。
- a.減感作療法
- b.鼻内レーザー手術
- c.抗ヒスタミン薬内服
- d.抗ロイコトリエン薬内服
- e.副腎皮質ステロイド点鼻
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
一年中続くくしゃみ・水様性鼻汁があり、ダニ特異的IgEが高値であれば、ダニを原因とする通年性アレルギー性鼻炎と診断でき、起床時の悪化は寝具のダニ抗原への曝露で説明できます。治療は抗原の除去・回避、薬物療法、アレルゲン免疫療法、手術療法に分けられますが、抗ヒスタミン薬、抗ロイコトリエン薬、鼻噴霧用ステロイド薬、鼻内レーザー手術はいずれも症状を抑える対症療法で、中止や粘膜再生により再燃します。減感作療法(アレルゲン免疫療法)は制御性T細胞の誘導やIgG4遮断抗体の産生などを通じて免疫応答そのものを変え、自然経過を改善して根治が期待できる唯一の治療であり、日本ではダニとスギ花粉に対する舌下免疫療法が保険適用です。一方で全例が治癒するわけではなく、アナフィラキシーなどの副反応への備えが必要です。「症状を抑える治療」と「体質を変える治療」を区別する視点は、アレルギー疾患全般の治療選択と患者説明の基本になります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・18歳女性。幼少時から季節を問わず一年中、くしゃみと水様性鼻汁が続いている。 ・起床直後に症状が強い。 ・血清特異的IgE検査で、ヤケヒョウヒダニとコナヒョウヒダニに対するIgE抗体が高値である。
診断
くしゃみ・水様性鼻汁(・鼻閉)はアレルギー性鼻炎の3主徴であり、症状が通年性であること、原因抗原に対する特異的IgE抗体が証明されていることから、ダニを原因抗原とする通年性アレルギー性鼻炎と診断できる。ヒョウヒダニは室内塵(ハウスダスト)の主要な抗原成分で、布団・枕・カーペットなどに多く生息する。就寝中に寝具のダニ抗原を吸い込み続けるため、朝の起床時に症状が強く出るという経過もダニアレルギーに合致する。 鑑別として、同様の症状を示すがアレルギー(特異的IgE)が証明されない好酸球増多性鼻炎や血管運動性鼻炎が挙がるが、本例は特異的IgEが陽性であり否定的である。季節性の花粉症とは、症状が一年中続く点で区別される。
設問の考え方
アレルギー性鼻炎の治療は、抗原の除去・回避、薬物療法、アレルゲン免疫療法、手術療法に大別される。このうち薬物療法と手術療法は、すでに起こっているアレルギー反応による症状を抑える対症療法である。一方、アレルゲン免疫療法(減感作療法)は原因抗原を少量から投与して体の免疫応答そのものを変化させる治療で、疾患の自然経過を改善し、長期的な寛解や治癒が期待できる唯一の方法である。本例は「根治的な治療」を希望しているため、これに該当するものを選ぶ。
選択肢考察
- ○a. 減感作療法
減感作療法(アレルゲン免疫療法)は、原因抗原のエキスを少量から開始して徐々に増やしながら長期間投与し、その抗原に対する過剰な免疫反応を起こりにくくする治療である。機序としては、制御性T細胞の誘導、Th2型からTh1型への免疫応答の偏りの是正、IgEと競合して抗原を捕捉する遮断抗体(抗原特異的IgG4)の産生などが考えられている。投与方法には皮下注射法(皮下免疫療法)と舌下投与法(舌下免疫療法)があり、わが国ではダニとスギ花粉に対する舌下免疫療法の製剤が保険適用となっている。3〜5年程度の継続が勧められ、終了後も効果が持続しうること、新たな抗原への感作や喘息の発症を抑える可能性があることが報告されている。アレルギー性鼻炎の自然経過を変えて根治が期待できる唯一の治療法であり、本例の希望に合致する。ただし、全例が治癒するわけではなく、まれにアナフィラキシーなどの全身性副反応が起こりうる(皮下注射法の方が頻度は高い)ため、初回投与は医療機関で行い、経過観察が必要である。
- ×b. 鼻内レーザー手術
下鼻甲介の粘膜をレーザーで焼灼して変性させ、粘膜の腫脹を抑えたり抗原への反応性を低下させたりする手術である。主に薬物療法で改善しにくい鼻閉の改善を目的とし、外来で施行できる有効な方法であるが、粘膜が再生すると効果は徐々に減弱し、数年で再燃することが多い。アレルギー体質そのものを変える治療ではないため、根治は期待できない。
- ×c. 抗ヒスタミン薬内服
H1受容体拮抗薬は、抗原抗体反応によって肥満細胞から遊離されたヒスタミンが鼻粘膜の知覚神経や血管のH1受容体に結合するのを阻害し、くしゃみや水様性鼻汁を軽減する。アレルギー性鼻炎の薬物療法の中心であり、眠気の少ない第2世代が主に用いられるが、内服をやめれば症状は再び出現する対症療法であり、根治は得られない。鼻閉に対する効果は比較的弱い。
- ×d. 抗ロイコトリエン薬内服
ロイコトリエンは肥満細胞や好酸球から放出される化学伝達物質で、鼻粘膜の血管拡張・血管透過性亢進による浮腫や好酸球の遊走を引き起こす。ロイコトリエン受容体拮抗薬はこれを阻害し、特に鼻閉に効果を示す。即時相・遅発相のいずれの反応にも作用するが、あくまで症状を抑える対症療法であり、根治は期待できない。
- ×e. 副腎皮質ステロイド点鼻
鼻噴霧用ステロイド薬は局所で強い抗炎症作用を示し、くしゃみ・鼻汁・鼻閉のいずれにも有効で、中等症以上の通年性アレルギー性鼻炎では治療の中心となる。全身への吸収がごくわずかで副作用が少ないことも利点である。しかし、炎症を抑えている間だけ効果がある対症療法であり、中止すれば症状は再燃するため根治療法ではない。
アレルギー性鼻炎の概要
I型(即時型)アレルギーによる鼻粘膜の疾患で、くしゃみ、水様性鼻汁、鼻閉を3主徴とする。抗原に感作された状態で再び抗原を吸入すると、肥満細胞表面のIgEに抗原が結合し、ヒスタミンやロイコトリエンなどの化学伝達物質が放出される。ヒスタミンは主にくしゃみと鼻汁を、ロイコトリエンなどは鼻閉を引き起こす。抗原曝露後すぐに起こる即時相反応に加え、数時間後に好酸球などの浸潤による遅発相反応が起こり、鼻閉が遷延する。
分類と主な抗原
・通年性:ダニ(ヒョウヒダニ)、ハウスダスト、ペット(ネコ・イヌ)の上皮、真菌など。わが国の通年性ではダニが最も重要である。 ・季節性(花粉症):スギ、ヒノキ(春)、イネ科(初夏)、ブタクサ・ヨモギ(秋)など。
診断
症状に加え、鼻汁好酸球検査(鼻汁中の好酸球増加)でアレルギー性炎症を確認し、皮膚テスト(プリックテスト・皮内テスト)や血清特異的IgE検査で原因抗原を同定する。必要に応じて鼻誘発試験を行う。鼻鏡検査では下鼻甲介粘膜の蒼白・浮腫状腫脹と水様性鼻汁がみられる。
治療
・抗原の除去と回避:ダニでは寝具の掃除・乾燥、こまめな掃除機がけ、湿度の管理、カーペットを避けるなど。 ・薬物療法:第2世代抗ヒスタミン薬、抗ロイコトリエン薬、抗プロスタグランジンD2・トロンボキサンA2薬、鼻噴霧用ステロイド薬、化学伝達物質遊離抑制薬など。重症の季節性アレルギー性鼻炎(スギ花粉症)では抗IgE抗体(オマリズマブ)が用いられることもある。 ・アレルゲン免疫療法(減感作療法):皮下免疫療法・舌下免疫療法。根治が期待できる唯一の治療。 ・手術療法:鼻閉に対する下鼻甲介粘膜レーザー焼灼術や粘膜下下鼻甲介骨切除術、鼻漏に対する後鼻神経切断術、鼻中隔弯曲症の矯正術など。いずれも対症的である。
舌下免疫療法の要点
抗原エキスを舌の下に保持してから飲み込む方法で、自宅で毎日行える。注射の痛みがなく、全身性副反応は皮下注射法より少ない。口腔内のかゆみや腫れなどの局所反応が比較的多い。重症の気管支喘息がある場合などは慎重な判断を要する。
POINT
・一年中のくしゃみ・水様性鼻汁+ダニ特異的IgE陽性 → 通年性アレルギー性鼻炎。起床時の悪化は寝具のダニによる。 ・根治(自然経過の改善)が期待できる唯一の治療はアレルゲン免疫療法(減感作療法)で、皮下注射法と舌下法がある。 ・抗ヒスタミン薬、抗ロイコトリエン薬、鼻噴霧用ステロイド薬、レーザー手術はいずれも対症療法である。 ・効果機序:制御性T細胞の誘導、Th2優位の是正、遮断抗体IgG4の産生。 ・副反応としてアナフィラキシーに注意する。
