答えは赤ちゃんの胃の中に―マイクロバブルテストで見る肺の成熟度
第112回医師国家試験 D問題 第26問
国試問題にチャレンジ
日齢0の新生児。出生30分後から多呼吸を認めた。在胎29週,出生体重1,100g。体温37.4℃。心拍数160/分,整。呼吸数80/分。全身のチアノーゼ,陥没呼吸および呼気時の呻吟を認める。外表奇形はなく,心雑音は聴取しない。胸部エックス線写真ですりガラス陰影を認める。診断確定のため,マイクロバブルテストを行うこととした。 必要な検体はどれか。
- a.胃液
- b.全血
- c.血清
- d.尿
- e.便
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
早産児が出生直後から多呼吸・陥没呼吸・呼気性呻吟・チアノーゼを示し、胸部エックス線ですりガラス陰影を認める場合は、肺サーファクタント欠乏による新生児呼吸窮迫症候群(IRDS)を考えます。胎児の肺で作られたサーファクタントは羊水中に流れ出し、胎児はそれを飲み込んでいるため、マイクロバブルテストの検体は出生前なら羊水、出生後なら児の胃液となり、安定した微小気泡が少ないほどサーファクタント欠乏を示します。血液や尿、便はサーファクタントの評価には使いません。治療は人工肺サーファクタントの気管内投与と呼吸管理、予防は早産が予想される母体へのステロイド投与で、エアリークや慢性肺疾患などの合併症にも注意が必要です。「肺の物質がなぜ胃にあるのか」という胎児生理を理解しておくと、検査の意味と周産期管理の全体像が一続きに見えてきます。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・在胎29週、出生体重1,100g:早産児(37週未満)であり、極低出生体重児(1,500g未満)に該当する。 ・出生30分後からの多呼吸(呼吸数80/分。新生児では60/分を超えると多呼吸)、全身のチアノーゼ、陥没呼吸、呼気時の呻吟:生後早期に発症した呼吸窮迫の徴候である。呻吟は、声門を狭めて呼気終末に気道内圧を保ち、肺胞の虚脱を防ごうとする代償反応である。 ・体温37.4℃、心拍数160/分(整):新生児としてほぼ正常範囲で、明らかな感染徴候や不整脈はない。 ・外表奇形なし、心雑音なし:染色体異常や先天性心疾患を積極的に疑う所見はない。 ・胸部エックス線写真のすりガラス陰影:肺胞が広範に虚脱していることを示唆する。
診断へのプロセス
早産の極低出生体重児が、出生後まもなく多呼吸・陥没呼吸・呻吟・チアノーゼを呈し、胸部エックス線写真ですりガラス陰影を示していることから、肺サーファクタント(肺表面活性物質)の欠乏による新生児呼吸窮迫症候群(IRDS: infant respiratory distress syndrome)が最も考えられる。 鑑別として、新生児一過性多呼吸(TTN: transient tachypnea of the newborn、正期産に近い児や帝王切開児に多く、肺水の吸収遅延による軽症の多呼吸で、エックス線では肺血管陰影の増強や葉間胸水がみられる)、胎便吸引症候群(MAS: meconium aspiration syndrome、正期産児・過期産児に多く、羊水混濁を伴い、斑状陰影や過膨張を呈する)、新生児肺炎・敗血症(B群溶血性レンサ球菌などによるもので、IRDSと画像が似ることがある)、先天性心疾患などが挙がる。本例は在胎29週という早い週数、エックス線像、発熱や心雑音がないことから、IRDSが最も疑わしい。
設問の考え方
IRDSを確定するには、肺サーファクタントが十分にあるかを評価すればよい。胎児の肺で作られたサーファクタントは肺胞液とともに羊水中へ流れ出し、胎児はその羊水を飲み込んでいる。そのため出生直後の児の胃液は羊水とほぼ同じ成分を含み、サーファクタントの量を反映する。マイクロバブルテストはこの性質を利用し、出生前なら羊水、出生後なら児の胃液を検体として行う。本例は出生後の児であるから、胃液を採取して検査する。
選択肢考察
- ○a. 胃液
出生直後の新生児の胃内には、子宮内で飲み込んだ羊水が残っている。羊水には胎児の肺から流れ出た肺サーファクタントが含まれるため、胃液を用いればサーファクタントの量を推定できる。胃管で胃液を吸引し、生理食塩水などと混ぜてピペットで泡立て、スライドガラス上で一定時間後に残る微小な安定気泡の数を顕微鏡で数える。気泡が少なければサーファクタントの欠乏を意味し、IRDSの診断を支持する。
- ×b. 全血
肺サーファクタントは肺胞内に分泌されて機能する物質で、血液中の量から肺胞内の状態を評価することはできない。全血はマイクロバブルテストの検体ではない。IRDSの管理において血液は動脈血ガス分析(低酸素血症、高二酸化炭素血症、アシドーシスの評価)や感染症の評価に用いられるが、診断確定の検査とは目的が異なる。
- ×c. 血清
血清にも肺サーファクタントの量を反映する情報は含まれないため、マイクロバブルテストには用いない。血清はCRPなど炎症マーカーの測定に用いられ、新生児肺炎や敗血症との鑑別に役立つが、IRDSの確定には直結しない。
- ×d. 尿
胎児尿は羊水の主要な供給源ではあるが、肺サーファクタントは肺から羊水中に移行するものであり、出生後の児の尿にサーファクタントが含まれるわけではない。尿はマイクロバブルテストの検体ではない。
- ×e. 便
出生直後の便(胎便)は肺サーファクタントの評価に用いられることはなく、マイクロバブルテストの検体ではない。なお、子宮内で胎便が排出されて羊水が混濁し、それを吸い込むと胎便吸引症候群(MAS)を起こすが、これは本検査とは別の話題である。
新生児呼吸窮迫症候群(IRDS)の概要
・病態:肺サーファクタントは主にⅡ型肺胞上皮細胞が産生するリン脂質(主成分はジパルミトイルホスファチジルコリン)と蛋白質の複合体で、肺胞の表面張力を下げて呼気時の肺胞虚脱を防ぐ。在胎34週ごろまでに十分量が作られるようになるため、それより早く生まれた児ほど不足しやすく、肺胞が虚脱して換気が障害される。在胎週数が短いほど発症頻度は高い。 ・危険因子:早産、母体糖尿病(高インスリン血症がサーファクタント産生を抑制する)、男児、陣痛発来前の帝王切開、周産期仮死など。 ・症状:出生直後から数時間以内に出現する多呼吸、陥没呼吸、呼気性呻吟、鼻翼呼吸、チアノーゼ。無治療では生後数日にかけて増悪しうる。 ・胸部エックス線所見:肺容量の減少、細かい網状顆粒状陰影、気管支透亮像(エアブロンコグラム)、すりガラス陰影がみられ、重症例では心陰影の境界が不明瞭な白色肺(white-out)となる。Bomsel分類でⅠ〜Ⅳ度に分けられる。
肺成熟度の評価法
・マイクロバブルテスト(安定マイクロバブルテスト):羊水または出生直後の胃液をピペットで泡立て、スライドガラスを伏せて数分間置いた後、顕微鏡下で直径の小さな安定気泡の数を数える。サーファクタントが十分にあれば小さな泡が安定して多数残り、欠乏していれば泡はすぐ消えて少数しか残らない。結果は気泡数によりstrong、medium、weak、very weak、zeroなどに分類され、weak以下(特にvery weak・zero)ではIRDSの可能性が高い。短時間で結果が出るため出生直後の診断に有用である。 ・シェークテスト(泡沫安定試験):羊水や胃液にエタノールを加えて振盪し、泡が安定して残るかをみる簡易法。 ・レシチン/スフィンゴミエリン比(L/S比):羊水中のレシチンとスフィンゴミエリンの比で、2以上あれば肺は成熟していると判断される。
予防と治療
・出生前:早産が予想される場合(おおむね在胎34週未満)、母体へ副腎皮質ステロイド(ベタメタゾンなど)を投与して胎児の肺成熟を促す。 ・出生後:人工肺サーファクタントの気管内投与が特異的治療であり、経鼻的持続陽圧呼吸(CPAP)や人工呼吸管理、酸素投与を併用する。 ・合併症:気胸などのエアリーク、動脈管開存症、慢性肺疾患(気管支肺異形成)、未熟児網膜症(酸素投与との関連)など。
POINT
・早産児が出生直後から多呼吸・陥没呼吸・呻吟・チアノーゼを示し、胸部エックス線ですりガラス陰影があればIRDSを考える。 ・IRDSの本態は肺サーファクタントの欠乏である。 ・マイクロバブルテストの検体は、出生前なら羊水、出生後なら児の胃液(飲み込んだ羊水を含む)である。 ・安定した微小気泡が少ないほどサーファクタント欠乏を示し、IRDSを支持する。 ・治療は人工肺サーファクタントの気管内投与、予防は早産が予想される母体へのステロイド投与である。
