10か月でお坐りができない―「消えるべき反射」より「現れるべき反応」を診る
第112回医師国家試験 C問題 第41問
国試問題にチャレンジ
10か月の乳児。お坐りができないことを心配した母親に連れられて来院した。4か月時に受けた健康診査では異常を指摘されなかった。 この児の神経学的評価に適しているのはどれか。
- a.背反射
- b.Moro反射
- c.Landau反射
- d.手掌把握反射
- e.非対称性緊張性頸反射
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
10か月でお坐りができないのは粗大運動発達の遅れであり、乳児の神経学的評価では月齢に応じて「消えるべき原始反射」と「現れるべき姿勢反応」の両面を確認します。Moro反射、手掌把握反射、背反射(Galant反射)、非対称性緊張性頸反射はいずれも生後6か月ころまでに消失する原始反射で、10か月児の発達到達度の評価には適しません。Landau反射は6か月前後に完成して1〜2歳ころまで持続する姿勢反応で、パラシュート反射(7〜9か月に出現)とともに生後後半の発達評価に有用です。原始反射の残存や姿勢反応の欠如は中枢神経の障害を示唆するため、筋緊張や深部腱反射、精神発達とあわせて総合的に評価します。反射の出現・消失時期を発達の流れとして理解しておくことは、乳幼児健診や発達外来での判断の基礎になります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・10か月の乳児で、お坐り(支えなしの坐位保持)ができない。定型発達では坐位はおおむね生後7か月前後で可能になり、9〜10か月ではほぼ全員が獲得しているため、明らかな粗大運動発達の遅れと考えてよい。 ・4か月健康診査では異常を指摘されていない。4か月時点の主要な評価項目は頸定(首のすわり)であり、少なくともその段階までは大きな遅れが目立たなかったと推測される。 ・本問の情報だけでは、精神発達や言語発達にも遅れがあるのか、筋緊張低下・麻痺などがあるのかは不明であり、原因疾患(脳性麻痺、神経筋疾患、染色体異常、全般的発達遅滞など)は特定できない。
乳児の神経学的評価の考え方
乳児期の神経学的評価では、月齢に応じて「消失しているべき反射」と「出現しているべき反応」の両面を確認する。 ・原始反射:脳幹・脊髄レベルで統合される反射で、新生児期から存在し、大脳皮質など上位中枢の成熟に伴って抑制され、生後数か月で消える。 ・姿勢反応(立ち直り反応、保護伸展反応、平衡反応など):中脳・大脳皮質レベルの成熟に伴って新たに出現する反応で、坐位・立位・歩行などの運動発達の土台となる。 10か月児では、本来ならほとんどの原始反射はすでに消失しており、代わってLandau反射やパラシュート反射などの姿勢反応が出現しているはずである。したがって、この月齢の運動発達を評価するには「この時期に出現しているべき反応」が見られるかどうかを確認するのが適切であり、選択肢の中ではLandau反射がこれに該当する。 なお、原始反射が10か月でも残存していれば、それ自体は上位中枢の障害(脳性麻痺など)を疑う異常所見となる。しかし、選択肢に挙げられた原始反射はいずれも本来この月齢ではみられないもので、正常発達の到達度を評価する検査としては、出現時期が10か月前後に重なる姿勢反応のほうが目的に合う。
選択肢考察
- ×a. 背反射
背反射はGalant反射とも呼ばれる原始反射である。腹臥位(または腹側を支えた水平位)で脊柱の傍らを上から下へこすると、刺激した側へ体幹が弓なりに曲がる。新生児期からみられ、生後2〜4か月ころに消失する。10か月児では本来みられない反射であり、この月齢の発達到達度を評価する検査としては適さない。
- ×b. Moro反射
Moro反射は、仰臥位で頭部を支えて急に少し落とすなど、頭部の位置変化や大きな音を刺激として誘発される原始反射である。上肢を伸展・外転させて手を開き(第1相)、続いて抱きつくように上肢を屈曲・内転させる(第2相)。新生児期から存在し、生後4か月ころ(遅くとも6か月まで)に消失する。左右差は分娩麻痺や鎖骨骨折などの手がかりとなるが、10か月児の発達評価の主たる指標とはならない。
- ○c. Landau反射
Landau反射は、児を腹臥位のまま検者の手のひらで腹部を支えて水平に持ち上げたときにみられる姿勢反応である。頸部を挙上し、体幹と下肢を伸展させて弓なりの姿勢をとる。生後3か月ころから頭部挙上として始まり、生後6か月前後で体幹・下肢までの伸展が完成し、その後1〜2歳ころまで認められる。発達に伴って段階的に変化する(第1相〜第3相と呼ばれる)ため、月齢に見合った反応が出ているかを観察することで運動発達の進み具合を判断できる。10か月児ではすでに完成した反応がみられるはずであり、出現しない・弱い場合は筋緊張低下や中枢神経の発達障害を示唆する。したがって本児の神経学的評価に適している。
- ×d. 手掌把握反射
手掌把握反射は、手のひらを指などで圧迫すると指を屈曲して握りしめる原始反射である。新生児期から存在し、生後3〜4か月ころから弱まり、遅くとも6か月までに消失して、随意的なつかみ動作に置き換わる。10か月児では本来みられないため、この月齢の発達評価には適さない。なお、足底把握反射はより長く残り、9〜10か月ころに消失する点と区別しておく。
- ×e. 非対称性緊張性頸反射
非対称性緊張性頸反射(ATNR:asymmetric tonic neck reflex)は、仰臥位で頭部を一側に回旋させると、顔の向いた側の上下肢が伸展し、後頭側の上下肢が屈曲する原始反射である(フェンシングの構えに似る)。新生児期から存在し、生後4〜6か月ころに消失する。この反射が消えることで両手を正中で合わせる動作や寝返りが可能になる。10か月児では本来みられず、発達到達度の評価に用いる検査としては適さない。残存していれば脳性麻痺などを疑う所見となる。
主な原始反射と消失時期の目安
・Moro反射:生後4か月ころ(〜6か月)に消失 ・手掌把握反射:3〜6か月で消失 ・足底把握反射:9〜10か月ころに消失 ・背反射(Galant反射):2〜4か月で消失 ・非対称性緊張性頸反射(ATNR):4〜6か月で消失 ・吸啜反射・探索反射:4〜6か月ころまでに消失(随意的な摂食に移行) ・自動歩行(原始歩行):1〜2か月で消失
主な姿勢反応と出現時期の目安
・Landau反射:3か月ころから始まり6か月前後で完成、1〜2歳ころまでみられる ・パラシュート反射(前方):生後7〜9か月ころに出現し、生涯持続する。児を腹臥位で持ち上げて急に頭から下へ傾けると、両上肢を前方へ伸ばし手を開いて体を支えようとする ・立ち直り反応:生後数か月から出現し、頸定・寝返り・坐位の獲得を支える ・平衡反応(傾斜反応など):坐位では6〜8か月ころから出現
粗大運動発達の目安(通過率がおおむね90%となる月齢の目安)
・頸定:4か月 ・寝返り:6〜7か月 ・坐位保持:9〜10か月 ・つかまり立ち:11か月 ・ひとり歩き:1歳3か月
評価の考え方
原始反射の消失遅延(残存)と、姿勢反応の出現遅延(欠如)は、いずれも中枢神経系の成熟の遅れや障害を示す。特に脳性麻痺では、原始反射の残存と姿勢反応の欠如がそろってみられることが多い。運動発達の遅れを評価する際は、筋緊張(低緊張か過緊張か)、深部腱反射、左右差、精神・言語発達の状況もあわせて確認し、必要に応じて頭部MRIや遺伝学的検査、筋疾患の検索へ進む。
POINT
・10か月でお坐りができないのは粗大運動発達の遅れである。 ・乳児の神経学的評価では、月齢に応じて「消えるべき原始反射」と「現れるべき姿勢反応」を確認する。 ・Moro反射、手掌把握反射、背反射(Galant反射)、ATNRはいずれも生後6か月ころまでに消失する原始反射である。 ・Landau反射(6か月前後に完成し1〜2歳まで持続)やパラシュート反射(7〜9か月に出現)は、発達とともに出現する姿勢反応で、生後後半の発達評価に有用である。
