足の裏の丸いやけどが語るもの―乳児の突然死に「虐待」を見抜く視点
第112回医師国家試験 C問題 第40問
国試問題にチャレンジ
生後8か月の乳児。ぐったりしていると,母親に抱きかかえられて救急外来を受診した。児は呼吸,心拍および対光反射がなく,蘇生を試みたが反応なく,死亡が確認された。頭部や顔面に新旧混在した皮下出血の散在と両足底に多数の円形の熱傷痕とを認める。母親によるとこれまで病気を指摘されたことはなかったという。死後に行った頭部CTでは,両側に硬膜下血腫を認める。 最も考えられるのはどれか。
- a.虐待
- b.髄膜炎
- c.先天性心疾患
- d.溶血性尿毒症症候群〈HUS〉
- e.乳幼児突然死症候群〈SIDS〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
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ドクター
医学生
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医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
乳児に受傷時期の異なる多発性の皮下出血、足底など自ら負うことのない部位の円形熱傷(たばこ熱傷)、両側硬膜下血腫を認め、保護者からの説明がない場合は、身体的虐待による頭部外傷(AHT)を最も疑います。乳児の硬膜下血腫は揺さぶりや殴打による架橋静脈の断裂で生じ、網膜出血や脳損傷を伴いやすく、乳児の虐待死の主要な死因です。髄膜炎、先天性心疾患、溶血性尿毒症症候群などの内因性疾患では多発外傷や熱傷痕を説明できず、乳幼児突然死症候群は死因が特定できない場合の除外診断であるため当てはまりません。虐待が疑われれば児童相談所などへの通告義務があり、異状死は24時間以内に警察へ届け出ます。外傷の部位・形・時期と説明との不一致に着目する視点は、子どもを守る医師の基本的な素養です。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・生後8か月の乳児が、ぐったりした状態で母親に連れてこられ、来院時すでに呼吸・心拍・対光反射がなく、蘇生に反応せず死亡した。 ・頭部・顔面に、新しいものと古いものが混在した皮下出血が散在している。受傷時期の異なる外傷が複数あることは、外力が一度きりではなく繰り返し加えられたことを示す。 ・両足底に多数の円形の熱傷痕がある。足底はまだ歩かない8か月児が自分でやけどをする部位ではなく、大きさのそろった円形の熱傷が多発する形は、火のついたたばこを押し当てられた痕(たばこ熱傷)に典型的である。 ・これまで病気の指摘はなく、内因性疾患をうかがわせる情報はない。 ・死後の頭部CTで両側の硬膜下血腫がある。乳児の硬膜下血腫は、頭部への強い外力や、激しく揺さぶられることで脳と硬膜をつなぐ架橋静脈が断裂して生じる。
診断へのプロセス
死因としては、両側硬膜下血腫を伴う頭部外傷が最も考えられる。そのうえで、①受傷時期の異なる多発性の皮下出血、②乳児が自ら負うことのない部位の円形熱傷痕、③保護者から外傷についての説明がないこと、という所見がそろっており、事故ではなく、保護者などによる身体的虐待の結果と考えるのが最も妥当である。乳幼児の虐待による頭部外傷(AHT:abusive head trauma)は、揺さぶりや殴打・叩きつけによって生じ、乳児の虐待死の主要な原因である。
設問への考え方
感染症、先天性疾患、血液疾患、突然死症候群などの内因性疾患では、多発する新旧の外傷や熱傷痕は説明できない。外傷所見の「部位」「形」「受傷時期の違い」と「説明との不一致」に着目することが、虐待を見抜く鍵となる。なお、虐待が疑われる死亡は異状死に該当するため、医師には警察への届出が求められる。
選択肢考察
- ○a. 虐待
受傷時期の異なる頭部・顔面の皮下出血が散在し、足底にはたばこを押し付けられたとみられる多数の円形熱傷痕がある。これらは繰り返し加えられた故意の外力を示しており、死因と考えられる両側硬膜下血腫も揺さぶりや殴打などによる頭部外傷として説明できる。既往に疾患がなく、内因死を示唆する所見もないことから、身体的虐待による死亡(虐待による乳幼児頭部外傷)が最も考えられる。
- ×b. 髄膜炎
細菌性髄膜炎は乳児の重篤な疾患で、発熱、不機嫌、哺乳不良、大泉門膨隆、けいれんなどを伴って急速に悪化することがある。しかし本例には先行する発熱などの感染徴候の記載がなく、髄膜炎では多発する新旧の皮下出血や円形の熱傷痕、両側硬膜下血腫は説明できない。
- ×c. 先天性心疾患
先天性心疾患による突然の心停止はありうるが、これまで病気を指摘されたことがなく、心雑音、チアノーゼ、体重増加不良などの既往の記載もない。また、心疾患では外傷所見や硬膜下血腫を説明できない。
- ×d. 溶血性尿毒症症候群〈HUS〉
溶血性尿毒症症候群(HUS)は、主に腸管出血性大腸菌(O157など)が産生する志賀毒素によって、溶血性貧血・血小板減少・急性腎障害の三徴をきたす疾患である。通常は血便を伴う下痢が先行し、血小板減少による出血斑がみられることはあるが、本例には先行する消化器症状の記載がない。また、新旧混在の皮下出血や円形の熱傷痕は出血傾向では説明できない。
- ×e. 乳幼児突然死症候群〈SIDS〉
乳幼児突然死症候群(SIDS)は、それまでの健康状態や既往歴から予測できず、死亡状況の調査と解剖検査を行っても死因が特定できない、原則1歳未満の児の突然死をいう、除外診断である。本例は両側硬膜下血腫という死因となりうる明らかな外傷所見があり、多発する外傷・熱傷痕も認めるため、SIDSの定義に当てはまらない。
身体的虐待を疑う所見
・受傷時期の異なる多発外傷(色調の異なる皮下出血、治癒段階の異なる骨折) ・通常の事故では受傷しにくい部位の外傷: 耳介、頬、頸部、上腕内側、体幹、臀部、大腿内側、足底など(転倒による外傷は額・膝・肘など突出部に多い) ・形のはっきりした外傷: たばこによる円形熱傷、手形、ベルトやコードなどの痕、咬傷 ・境界明瞭な熱湯浴による熱傷(靴下・手袋をはいたような分布) ・骨折: 肋骨後方の骨折、長管骨の骨幹端骨折(metaphyseal lesion)、多発・新旧混在の骨折 ・乳児の頭部外傷: 硬膜下血腫、網膜出血、脳浮腫 ・病歴上の特徴: 受傷機転の説明が発達段階と合わない、説明が変わる、受診の遅れ
虐待による乳幼児頭部外傷(AHT)
・揺さぶりや叩きつけ・殴打などで生じ、かつては揺さぶられっ子症候群(shaken baby syndrome)と呼ばれた病態を含む。 ・乳児は頭部が体に比べて大きく、頸部の筋力が弱いため、揺さぶられると脳が頭蓋内で大きく動き、架橋静脈の断裂による硬膜下血腫、網膜出血、びまん性脳損傷をきたしやすい。 ・虐待死の多くは乳児期に起こり、死因では頭部外傷が多い。
児童虐待の分類(児童虐待防止法)
身体的虐待、性的虐待、ネグレクト(育児放棄)、心理的虐待の4つ。児童相談所の相談対応件数では心理的虐待が最も多い。
医師に求められる対応
・虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、市町村、都道府県の設置する福祉事務所、または児童相談所に通告する義務がある(児童虐待防止法)。確証がなくても「思われる」段階で通告し、医師の守秘義務違反には当たらない。 ・死体を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出る(医師法第21条)。虐待による外傷が疑われる死亡は異状死に当たる。 ・きょうだいがいる場合には、その安全確保も考慮する。
SIDSの要点
・原則1歳未満、多くは生後2〜6か月に発症し、睡眠中に起こる。 ・危険因子: うつぶせ寝、両親の喫煙、人工栄養。予防のため、1歳までは仰向け寝が推奨される。 ・解剖を含めた検索で死因が特定できないことが診断の前提である。
POINT
・新旧混在の多発皮下出血、足底などの円形熱傷(たばこ熱傷)、乳児の硬膜下血腫 → 身体的虐待を最も疑う。 ・虐待を見抜く鍵は、外傷の部位・形・受傷時期の違いと、保護者の説明との不一致である。 ・乳児の虐待死の死因は頭部外傷が多い(揺さぶり・殴打による硬膜下血腫、網膜出血)。 ・SIDSは解剖などで死因が特定できない場合の除外診断であり、外傷所見があれば当てはまらない。 ・虐待が疑われれば児童相談所などへ通告(守秘義務に優先)、異状死は24時間以内に警察へ届出。
