「3号液を1.5L」で本当に足りる?―輸液はmEq計算で選ぶ
第112回医師国家試験 C問題 第36問
国試問題にチャレンジ
44歳の男性。消化管検査のため1日絶食が必要になり,末梢静脈から1,500mL/日の輸液を行うことになった。耐糖能異常と電解質異常はない。身長167cm,体重61kg。Na+は成人推奨量を,K+は平均的な経口摂取量の半分程度を入れたい。アミノ酸や脂肪乳剤の投与は行わない。輸液の既製市販品の組成を示す。 輸液の名称 Na+(mEq/L) K+(mEq/L) ブドウ糖+(g/dL) A液 30 20 20 B液 84 20 3.2 C液 35 20 4.3 1日分の輸液として適切なのはどれか。
- a.A液1,500mL
- b.B液1,500mL
- c.C液1,500mL
- d.乳酸リンゲル液1,500mL
- e.5%ブドウ糖液500mLと生理食塩液1,000mL
対話形式の解説
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ドクターまとめ
輸液を選ぶときは、必要な電解質量をmEqで求め、投与予定の輸液量で割って目標濃度を出し、製剤の組成と照らし合わせます。食塩1gはNa+約17mEqなので、成人の食塩目標量(8g未満、現行基準では7.5g未満)はNa+約130mEqに相当し、1.5Lで投与するにはNa+85〜90mEq/L程度が必要です。K+は平均摂取量の半分の約30mEqで20mEq/Lとなり、両者を満たすのはNa+84・K+20mEq/Lの低濃度糖加電解質液(2号液相当)です。3号液は約2L投与を前提とするため1.5LではNa+が不足し、高濃度糖液は末梢から投与できず、乳酸リンゲル液や生理食塩液はK+をほとんど含みません。「番号ではなく中身の数字で選ぶ」という考え方は、病棟で日常的に行う輸液オーダーの土台になります。
解答・解説
正解はbです
条件の整理
・44歳男性、体重61kg。耐糖能異常・電解質異常はなく、腎機能などにも問題の記載はない。消化管検査のための1日だけの絶食で、末梢静脈から1日1,500mLを輸液する。 ・求められているのは、Na+を「成人推奨量」、K+を「平均的な経口摂取量の半分程度」含む輸液である。アミノ酸・脂肪乳剤は使わない。
目標量の計算
①Na+ 食塩(NaCl)の分子量は約58.5であり、食塩1gに含まれるNa+は 1,000÷58.5≒17mEq である。成人男性の食塩摂取の目標量は、日本人の食事摂取基準(2015年版)で8.0g/日未満(2020年版以降は7.5g/日未満)とされている。 8g×17mEq/g=136mEq(7.5gなら約128mEq) これを1,500mLで投与するには、136÷1.5≒90mEq/L 程度(7.5gなら約85mEq/L)のNa+濃度が必要となる。 ②K+ 日本人成人男性のカリウム摂取量は平均で1日2.3〜2.5g程度であり、その半分は約1.2gである。Kの原子量は約39.1なので、1gは 1,000÷39.1≒25.6mEq に相当する。 1.2g×25.6mEq/g≒30mEq これを1,500mLで投与するには、30÷1.5=20mEq/L のK+濃度が必要となる。
各輸液に含まれる量(1,500mLあたり)
・A液:Na+ 45mEq、K+ 30mEq、ブドウ糖300g ・B液:Na+ 126mEq、K+ 30mEq、ブドウ糖48g ・C液:Na+ 52.5mEq、K+ 30mEq、ブドウ糖64.5g ・乳酸リンゲル液:Na+ 195mEq、K+ 6mEq ・5%ブドウ糖液500mL+生理食塩液1,000mL:Na+ 154mEq、K+ 0mEq、ブドウ糖25g Na+約85〜90mEq/L、K+20mEq/Lという目標濃度に最も近いのはB液であり、1日分の量としてもNa+126mEq、K+30mEqと目標にほぼ一致する。
選択肢考察
- ×a. A液1,500mL
K+は30mEqと目標どおりだが、Na+は45mEqで目標(約130mEq)の3分の1程度しかなく不足する。さらにブドウ糖濃度が20%と高く、浸透圧は血漿の約4倍に達する。末梢静脈から投与すると血管痛や静脈炎を起こすため、このような高濃度糖液は中心静脈から投与するのが原則である。1日だけの絶食で耐糖能も正常な患者に、末梢から高カロリーを入れる必要もない。
- ○b. B液1,500mL
1,500mL中にNa+ 84×1.5=126mEq、K+ 20×1.5=30mEqが含まれる。食塩換算でNa+126mEqは約7.4gに相当し、成人男性の食塩摂取目標量(8g未満、現行基準では7.5g未満)とほぼ一致する。K+30mEqはカリウム約1.2gに相当し、平均的な経口摂取量の半分程度という条件を満たす。ブドウ糖濃度も3.2%と低く、末梢静脈から安全に投与できる。条件を最もよく満たす輸液である。
- ×c. C液1,500mL
Na+35mEq/L、K+20mEq/L、ブドウ糖4.3%という組成は、一般的な維持輸液(いわゆる3号液)である。1,500mL中のK+は30mEqで条件を満たすが、Na+は52.5mEq(食塩約3g相当)にとどまり、成人推奨量に比べて大きく不足する。維持液は1日2L前後を投与することを前提に、必要な水分と電解質をおおむね満たすよう設計されているため、1,500mLではNa+が足りない。
- ×d. 乳酸リンゲル液1,500mL
乳酸リンゲル液はNa+130mEq/L、K+4mEq/L、Ca2+3mEq/L、Cl−109mEq/L、乳酸28mEq/L程度を含む細胞外液補充液である。1,500mLではNa+195mEqと過剰になる一方、K+は6mEqしかなく目標の30mEqに大きく足りない。ブドウ糖も含まないため、絶食時の維持輸液としては不適切である。出血や脱水などで細胞外液を補う目的で用いる。
- ×e. 5%ブドウ糖液500mLと生理食塩液1,000mL
5%ブドウ糖液は電解質を含まず、生理食塩液はNa+とCl−を各154mEq/L含むがK+を含まない。合計でNa+154mEqとやや多く、K+は0mEqで、K+を補うという条件を満たさない。またCl−も154mEqと多く、大量投与では高クロール性代謝性アシドーシスの原因となりうる。
電解質の単位換算
・食塩1g=Na+約17mEq(NaClの分子量58.5)。逆にNa+100mEqは食塩約5.9gに相当する。 ・カリウム1g=K+約25.6mEq(Kの原子量39.1)。 ・塩化カリウム(KCl)1gではK+約13.4mEq(KClの分子量74.6)となるので、Kそのものの重量とKClの重量を混同しないよう注意する。
1日の維持量の目安(成人)
・水分:約30〜40mL/kg/日(体重60kgで約2L) ・Na+:約1〜2mEq/kg/日 ・K+:約0.5〜1mEq/kg/日 ・ブドウ糖:飢餓によるケトーシスと体蛋白の分解を抑えるには1日100g程度が目安とされる。ただし本問のような1日だけの絶食で耐糖能が正常であれば、少量のブドウ糖でも大きな問題はない。
主な輸液製剤の分類
・細胞外液補充液(等張電解質輸液):生理食塩液、リンゲル液、乳酸・酢酸リンゲル液など。Na+濃度が血漿に近く、投与した量の多くが細胞外液(主に間質と血管内)にとどまる。出血・脱水・ショック時の循環血漿量の補充に用いる。 ・低張電解質輸液:生理食塩液を5%ブドウ糖液で希釈した組成をもち、Na+濃度が低い順に1号液(開始液:Kを含まない)、2号液(脱水補給液:Kを含む)、3号液(維持液:Na+35mEq/L前後、K+20mEq/L前後)、4号液(術後回復液:電解質が少ない)と呼ばれる。本問のB液の組成は2号液に、C液は3号液に相当する。 ・5%ブドウ糖液:体内でブドウ糖が代謝されると自由水となり、細胞内外に均等に分布する。電解質は補えない。
末梢静脈から投与できる輸液の上限
浸透圧比(血漿浸透圧に対する比)がおおむね3程度までが末梢静脈投与の目安とされ、ブドウ糖濃度では10〜12.5%程度までが限界とされる。それを超える高濃度糖液(高カロリー輸液)は中心静脈から投与する。
POINT
・食塩1g=Na+約17mEq、カリウム1g=K+約25.6mEq。 ・成人男性の食塩摂取目標量は8g未満(2020年版以降7.5g未満)で、Na+に換算すると約130mEq前後になる。 ・必要量÷輸液量で目標濃度を求め、製剤の組成と照らし合わせて選ぶ。 ・3号液(維持液)は1日約2Lの投与を前提とした組成であり、1.5LではNa+が不足する。 ・ブドウ糖20%のような高濃度糖液は末梢静脈から投与できない。 ・乳酸リンゲル液・生理食塩液は細胞外液補充液であり、Kをほとんど(または全く)含まない。
