国連機関の「担当分野」で解く―WHOがたばこと闘う理由
第112回医師国家試験 C問題 第2問
国試問題にチャレンジ
WHOの活動について正しいのはどれか。
- a.識字率を向上させる。
- b.たばこ規制を推進する。
- c.食糧を安定的に供給する。
- d.温室効果ガスの削減を行う。
- e.労働者の作業環境を改善させる。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
WHOは1948年に設立された保健・医療を担う国連の専門機関で、たばこ規制枠組条約(FCTC、2003年採択・2005年発効)を作り、MPOWER政策パッケージや世界禁煙デーを通じて各国のたばこ規制を推進しています。識字・教育はUNESCO、食糧・農業はFAO(緊急食糧援助はWFP)、地球環境はUNEPや気候変動枠組条約、労働条件や作業環境はILOが主に担います。WHOはこれらの機関と協力することもありますが、「その分野を主に担う機関はどこか」という観点で判断することが大切です。WHOは天然痘根絶、国際保健規則による感染症監視、ICDやICFの作成なども担っており、国際機関と担当分野をセットで整理しておくと、公衆衛生の問題に幅広く対応できます。
解答・解説
正解はbです
WHO(World Health Organization:世界保健機関)は1948年に設立された国際連合の専門機関で、本部はスイスのジュネーブにある。WHO憲章は「すべての人々が可能な最高の健康水準に到達すること」を目的に掲げており(第1条)、活動の中心は保健・医療の分野である。 国際連合には分野ごとに専門機関・計画があり、本問は各選択肢の活動を「主に担う機関はどこか」と結び付けて考えると解ける。識字・教育はUNESCO、食糧・農業はFAO、地球環境・気候変動はUNEPや気候変動枠組条約、労働条件はILOが主に担う。これに対し、たばこ規制は健康を守るための政策であり、WHOが国際条約を作って推進している。 なお、健康は教育・栄養・環境・労働とも深く関わるため、WHOがほかの機関と協力してこれらに関わることはある。しかし、各分野の活動の中心となる機関を問われた場合は、上記の対応で判断する。
選択肢考察
- ×a. 識字率を向上させる。
識字率の向上は教育の分野であり、主に国際連合教育科学文化機関(UNESCO:United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization)が担う。UNESCOは「万人のための教育(Education for All)」などの取り組みで識字教育を進めてきた。WHOの主な活動ではない。
- ○b. たばこ規制を推進する。
喫煙は心血管疾患、がん、慢性閉塞性肺疾患(COPD)など多くの非感染性疾患の重要な危険因子であり、たばこ対策は保健分野の中心的課題である。WHOは「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約(FCTC:Framework Convention on Tobacco Control)」を作った。この条約は2003年の世界保健総会で採択され、2005年に発効した。WHOのもとで作られた初めての国際条約であり、日本も締約国である。WHOはさらに、条約の主な対策をまとめた「MPOWER」政策パッケージを示し、各国のたばこ規制を支援している。毎年5月31日の「世界禁煙デー」もWHOが定めた。
- ×c. 食糧を安定的に供給する。
食糧の安定供給や農林水産業の振興、飢餓の撲滅は、主に国際連合食糧農業機関(FAO:Food and Agriculture Organization)が担う。FAOは調査や情報提供を行い、各国政府間の協議を支援している。緊急時の食糧支援は国連世界食糧計画(WFP)が担う。WHOはFAOと共同で食品規格(コーデックス規格)を定めるなど食品安全には関わるが、食糧供給そのものは主な活動ではない。
- ×d. 温室効果ガスの削減を行う。
温室効果ガスの削減は、国際連合気候変動枠組条約(UNFCCC)と、それに基づく京都議定書・パリ協定などの国際的な枠組みで進められている。国際連合の機関では、国連環境計画(UNEP)が地球環境問題の調整を担う。WHOは気候変動が健康に与える影響の評価や啓発は行うが、温室効果ガス削減を進める中心ではない。
- ×e. 労働者の作業環境を改善させる。
労働者の作業環境や労働条件の改善は、主に国際労働機関(ILO:International Labour Organization)が担う。ILOは政府・使用者・労働者の三者で構成される機関で、労働安全衛生に関する条約や勧告を採択している。WHOはILOと協力して産業保健に関わるが、作業環境の改善を進める中心はILOである。
WHOの主な活動
・国際保健事業の指導・調整を行う機関としての活動 ・保健に関する情報の収集・提供と、医学情報の総合的な調整 ・各国の保健医療体制を強くするための技術協力 ・感染症やその他の疾病の撲滅・制圧の推進(例:天然痘根絶宣言〔1980年〕、ポリオ根絶計画) ・国際保健規則(IHR)による感染症の国際的な監視と対応 ・保健分野の研究の推進・指導 ・国際疾病分類(ICD)や国際生活機能分類(ICF)などの国際基準の作成 ・生物学的製剤・医薬品・食品などの国際基準の作成 ・たばこ規制(FCTC)など非感染性疾患の対策
主な国際機関と担当分野
・WHO(世界保健機関):保健・医療 ・UNICEF(国連児童基金):子どもの保健・栄養・教育など ・UNESCO(国連教育科学文化機関):教育・科学・文化(識字教育、世界遺産など) ・FAO(国連食糧農業機関):食糧・農業 ・WFP(国連世界食糧計画):食糧援助 ・ILO(国際労働機関):労働条件・労働安全衛生 ・UNEP(国連環境計画):地球環境 ・UNHCR(国連難民高等弁務官事務所):難民の保護 ・UNFPA(国連人口基金):人口・リプロダクティブヘルス ・UNAIDS(国連合同エイズ計画):HIV/AIDS対策
WHOの組織
最高意思決定機関は世界保健総会(WHA)で、毎年ジュネーブで開かれる。日本はアフリカ、アメリカ、東地中海、ヨーロッパ、東南アジア、西太平洋の6つの地域事務局のうち、西太平洋地域事務局(本部はマニラ)に属する。
WHOが定めた主な記念日
世界保健デー(4月7日、WHO設立の日)、世界禁煙デー(5月31日)、世界エイズデー(12月1日)、世界結核デー(3月24日)など。
POINT
・WHOは保健・医療を担う国連の専門機関で、たばこ規制枠組条約(FCTC、2005年発効)を作り、たばこ規制を進めている。 ・識字・教育→UNESCO、食糧→FAO、労働環境→ILO、地球環境→UNEP・気候変動枠組条約、と機関と分野をセットで覚える。
