StudyMed医師国家試験

国連機関の「担当分野」で解く―WHOがたばこと闘う理由

第112回医師国家試験 C問題 第2問

国試問題にチャレンジ

第112回 C問題 第2問

WHOの活動について正しいのはどれか。

  1. a.識字率を向上させる。
  2. b.たばこ規制を推進する。
  3. c.食糧を安定的に供給する。
  4. d.温室効果ガスの削減を行う。
  5. e.労働者の作業環境を改善させる。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は国際保健の基本、WHOが何をする機関なのかを問う問題だ。国連には分野ごとに専門機関があって、それぞれの活動を「どの機関が主に担っているか」と結び付けられれば迷わず解ける。まず、WHOの目的を一言で言えるかな。
医学生医学生
世界保健機関なので、世界中の人の健康を守ること、でしょうか。
ドクタードクター
その通り。WHOは1948年に設立された国連の専門機関で、本部はスイスのジュネーブ。憲章では「すべての人々が可能な最高の健康水準に到達すること」を目的に掲げている。つまり活動の中心は保健・医療の分野なんだ。では選択肢を見て、明らかに健康そのものを扱っているのはどれだと思う?
医学生医学生
たばこ規制ですね。喫煙は肺癌やCOPDの危険因子だと、呼吸器内科の講義で何度も聞きました。
ドクタードクター
正解。喫煙は心血管疾患、がん、COPDなど多くの非感染性疾患の重要な危険因子だから、たばこ対策は保健分野の中心的課題なんだ。WHOは「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」、略してFCTCを作った。2003年の世界保健総会で採択され、2005年に発効した、WHOのもとで作られた初めての国際条約だよ。日本も締約国だ。
医学生医学生
WHOが条約まで作っていたとは知りませんでした。勧告を出すだけの機関だと思っていました。
ドクタードクター
そう思う人は多いね。さらにWHOは、条約の主な対策を「MPOWER」という政策パッケージにまとめて各国を支援している。喫煙状況の監視、受動喫煙からの保護、禁煙支援、警告表示、広告規制、たばこ税の引き上げといった内容だ。毎年5月31日の世界禁煙デーもWHOが定めたものだよ。では、ほかの選択肢を見ていこう。識字率の向上はどうかな。
医学生医学生
教育の話なので、UNESCOでしょうか。世界遺産のイメージが強いですが、名前に「教育」が入っていますよね。
ドクタードクター
その通り。UNESCOは国連教育科学文化機関で、識字教育を含む教育分野を主に担っている。次に食糧の安定供給は?
医学生医学生
FAOだと思います。でも、栄養は健康に直結するので、WHOもやっていそうで少し迷いました。
ドクタードクター
その迷いは大事なポイントだね。食糧の安定供給や農業の振興、飢餓の撲滅は主にFAO、国連食糧農業機関が担う。緊急時の食糧援助は国連世界食糧計画、WFPだ。WHOはFAOと共同で食品規格、いわゆるコーデックス規格を定めるなど食品安全には関わるけれど、食糧供給そのものは中心的な活動ではないんだ。
医学生医学生
温室効果ガスの削減はパリ協定のイメージなので、WHOではなさそうですね。
ドクタードクター
そうだね。温室効果ガスの削減は気候変動枠組条約と、それに基づく京都議定書やパリ協定で進められていて、国連の中では国連環境計画、UNEPが地球環境問題の調整役を担う。WHOは気候変動が健康に与える影響の評価や啓発はするけれど、削減を進める中心ではない。最後に労働者の作業環境の改善は?
医学生医学生
社会医学の講義で産業保健を習ったときに、ILOが出てきました。
ドクタードクター
よく覚えているね。ILO、国際労働機関は政府・使用者・労働者の三者で構成される珍しい機関で、労働安全衛生に関する条約や勧告を採択している。WHOもILOと協力して産業保健に関わるけれど、作業環境改善の中心はILOだ。
医学生医学生
健康は教育や食糧、環境、労働とも関わるけれど、「主に担う機関」で判断すればいいということですね。
ドクタードクター
まさにそこがこの問題の核心だよ。発展知識として、WHOのほかの代表的な活動も押さえておこう。1980年の天然痘根絶宣言、現在も続くポリオ根絶計画、国際保健規則による感染症の国際的な監視、それに国際疾病分類ICDや国際生活機能分類ICFの作成もWHOの仕事だ。
医学生医学生
ICDは死亡診断書を書くときの病名コードにも使われていますよね。臨床実習で死因統計の話を聞いたときに出てきました。
ドクタードクター
そう、臨床の現場にも直結しているんだ。組織面では、最高意思決定機関は毎年ジュネーブで開かれる世界保健総会で、日本は6つの地域事務局のうちマニラにある西太平洋地域事務局に属している。記念日では、WHO設立の日である4月7日が世界保健デー、12月1日が世界エイズデー、3月24日が世界結核デーだ。
医学生医学生
子どもの保健ならUNICEF、難民ならUNHCR、HIVならUNAIDSと、ほかの機関もセットで覚えておきます。
ドクタードクター
それがいちばん効率的な覚え方だね。禁煙指導は外来でも日常的に行うものだけど、その背景に国際条約があると知っておくと、公衆衛生の視点が広がるはずだよ。

まとめ

WHOは1948年に設立された保健・医療を担う国連の専門機関で、たばこ規制枠組条約(FCTC、2003年採択・2005年発効)を作り、MPOWER政策パッケージや世界禁煙デーを通じて各国のたばこ規制を推進しています。識字・教育はUNESCO、食糧・農業はFAO(緊急食糧援助はWFP)、地球環境はUNEPや気候変動枠組条約、労働条件や作業環境はILOが主に担います。WHOはこれらの機関と協力することもありますが、「その分野を主に担う機関はどこか」という観点で判断することが大切です。WHOは天然痘根絶、国際保健規則による感染症監視、ICDやICFの作成なども担っており、国際機関と担当分野をセットで整理しておくと、公衆衛生の問題に幅広く対応できます。

解答・解説

正解はbです

WHO(World Health Organization:世界保健機関)は1948年に設立された国際連合の専門機関で、本部はスイスのジュネーブにある。WHO憲章は「すべての人々が可能な最高の健康水準に到達すること」を目的に掲げており(第1条)、活動の中心は保健・医療の分野である。 国際連合には分野ごとに専門機関・計画があり、本問は各選択肢の活動を「主に担う機関はどこか」と結び付けて考えると解ける。識字・教育はUNESCO、食糧・農業はFAO、地球環境・気候変動はUNEPや気候変動枠組条約、労働条件はILOが主に担う。これに対し、たばこ規制は健康を守るための政策であり、WHOが国際条約を作って推進している。 なお、健康は教育・栄養・環境・労働とも深く関わるため、WHOがほかの機関と協力してこれらに関わることはある。しかし、各分野の活動の中心となる機関を問われた場合は、上記の対応で判断する。

選択肢考察

  1. ×a.  識字率を向上させる。

    識字率の向上は教育の分野であり、主に国際連合教育科学文化機関(UNESCO:United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization)が担う。UNESCOは「万人のための教育(Education for All)」などの取り組みで識字教育を進めてきた。WHOの主な活動ではない。

  2. ○b.  たばこ規制を推進する。

    喫煙は心血管疾患、がん、慢性閉塞性肺疾患(COPD)など多くの非感染性疾患の重要な危険因子であり、たばこ対策は保健分野の中心的課題である。WHOは「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約(FCTC:Framework Convention on Tobacco Control)」を作った。この条約は2003年の世界保健総会で採択され、2005年に発効した。WHOのもとで作られた初めての国際条約であり、日本も締約国である。WHOはさらに、条約の主な対策をまとめた「MPOWER」政策パッケージを示し、各国のたばこ規制を支援している。毎年5月31日の「世界禁煙デー」もWHOが定めた。

  3. ×c.  食糧を安定的に供給する。

    食糧の安定供給や農林水産業の振興、飢餓の撲滅は、主に国際連合食糧農業機関(FAO:Food and Agriculture Organization)が担う。FAOは調査や情報提供を行い、各国政府間の協議を支援している。緊急時の食糧支援は国連世界食糧計画(WFP)が担う。WHOはFAOと共同で食品規格(コーデックス規格)を定めるなど食品安全には関わるが、食糧供給そのものは主な活動ではない。

  4. ×d.  温室効果ガスの削減を行う。

    温室効果ガスの削減は、国際連合気候変動枠組条約(UNFCCC)と、それに基づく京都議定書・パリ協定などの国際的な枠組みで進められている。国際連合の機関では、国連環境計画(UNEP)が地球環境問題の調整を担う。WHOは気候変動が健康に与える影響の評価や啓発は行うが、温室効果ガス削減を進める中心ではない。

  5. ×e.  労働者の作業環境を改善させる。

    労働者の作業環境や労働条件の改善は、主に国際労働機関(ILO:International Labour Organization)が担う。ILOは政府・使用者・労働者の三者で構成される機関で、労働安全衛生に関する条約や勧告を採択している。WHOはILOと協力して産業保健に関わるが、作業環境の改善を進める中心はILOである。

WHOの主な活動

・国際保健事業の指導・調整を行う機関としての活動 ・保健に関する情報の収集・提供と、医学情報の総合的な調整 ・各国の保健医療体制を強くするための技術協力 ・感染症やその他の疾病の撲滅・制圧の推進(例:天然痘根絶宣言〔1980年〕、ポリオ根絶計画) ・国際保健規則(IHR)による感染症の国際的な監視と対応 ・保健分野の研究の推進・指導 ・国際疾病分類(ICD)や国際生活機能分類(ICF)などの国際基準の作成 ・生物学的製剤・医薬品・食品などの国際基準の作成 ・たばこ規制(FCTC)など非感染性疾患の対策

主な国際機関と担当分野

・WHO(世界保健機関):保健・医療 ・UNICEF(国連児童基金):子どもの保健・栄養・教育など ・UNESCO(国連教育科学文化機関):教育・科学・文化(識字教育、世界遺産など) ・FAO(国連食糧農業機関):食糧・農業 ・WFP(国連世界食糧計画):食糧援助 ・ILO(国際労働機関):労働条件・労働安全衛生 ・UNEP(国連環境計画):地球環境 ・UNHCR(国連難民高等弁務官事務所):難民の保護 ・UNFPA(国連人口基金):人口・リプロダクティブヘルス ・UNAIDS(国連合同エイズ計画):HIV/AIDS対策

WHOの組織

最高意思決定機関は世界保健総会(WHA)で、毎年ジュネーブで開かれる。日本はアフリカ、アメリカ、東地中海、ヨーロッパ、東南アジア、西太平洋の6つの地域事務局のうち、西太平洋地域事務局(本部はマニラ)に属する。

WHOが定めた主な記念日

世界保健デー(4月7日、WHO設立の日)、世界禁煙デー(5月31日)、世界エイズデー(12月1日)、世界結核デー(3月24日)など。

POINT

・WHOは保健・医療を担う国連の専門機関で、たばこ規制枠組条約(FCTC、2005年発効)を作り、たばこ規制を進めている。 ・識字・教育→UNESCO、食糧→FAO、労働環境→ILO、地球環境→UNEP・気候変動枠組条約、と機関と分野をセットで覚える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。