入らない栄養、残る栄養―吸収不良症候群の症状を「2つの軸」で整理する
第112回医師国家試験 C問題 第3問
国試問題にチャレンジ
吸収不良症候群の症状として頻度の低いのはどれか。
- a.貧血
- b.浮腫
- c.便秘
- d.体重減少
- e.腹部膨満感
対話形式の解説
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ドクターまとめ
吸収不良症候群は、さまざまな原因で栄養素の消化・吸収が障害される病態の総称です。症状は、未吸収の栄養素が腸管内に残ることによる下痢・脂肪便・腹部膨満感・腹鳴と、栄養素が体内に入らないことによる体重減少、低蛋白血症による浮腫、鉄・葉酸・ビタミンB12欠乏による貧血、脂溶性ビタミン欠乏症状に分けて整理できます。未吸収の栄養素は浸透圧や脂肪酸・胆汁酸の作用で腸管内の水分を増やすため、主な便通異常は下痢であり、便秘はまれです。鉄は十二指腸、葉酸は空腸、ビタミンB12と胆汁酸は回腸末端と、吸収部位を合わせて覚えておくと、障害部位から欠乏症状を予測できます。症状を発生機序から理解することで、慢性下痢に体重減少や貧血を伴う患者を診たときに吸収不良を想起し、原因検索へとつなげられます。
解答・解説
正解はcです
吸収不良症候群は、消化管で栄養素がうまく消化・吸収されず、栄養障害を起こす病態の総称である。一つの疾患名ではなく、さまざまな原因疾患を含む。
原因の分け方
・消化の障害(管腔内の消化不良):慢性膵炎・膵切除後などによる膵外分泌機能不全、胆汁うっ滞や回腸切除による胆汁酸の不足、胃切除後 ・吸収の障害(腸粘膜の異常):セリアック病、熱帯スプルー、Whipple病、Crohn病、短腸症候群、乳糖不耐症(二糖類分解酵素欠損症)、腸リンパ管拡張症、小腸の細菌異常増殖など
症状の考え方
症状は大きく二つに分けて考えると整理しやすい。 1)吸収されなかった栄養素が腸管内に残ることで起こる症状:下痢、脂肪便(白っぽく光沢があり悪臭が強い、水に浮く便)、腹部膨満感、腹鳴、放屁の増加 2)栄養素が体内に入らないことで起こる欠乏症状:体重減少・るいそう、低蛋白血症による浮腫、鉄・葉酸・ビタミンB12の欠乏による貧血、ビタミンK欠乏による出血傾向、ビタミンDやカルシウムの欠乏による骨軟化症・テタニー、ビタミンA欠乏による夜盲症など 消化・吸収されなかった脂肪や糖質は腸管内の浸透圧を上げ、腸内細菌による分解物(脂肪酸など)が腸管からの水分分泌を促すため、便は軟らかく量が多くなる。したがって主な便通異常は下痢であり、便秘は典型的な症状ではない。
選択肢考察
- ×a. 貧血
吸収不良症候群ではよくみられる。造血に必要な栄養素の吸収部位はそれぞれ決まっており、鉄は主に十二指腸から上部空腸、葉酸は主に空腸(近位小腸)、ビタミンB12は内因子と結合して回腸末端で吸収される。セリアック病のように近位小腸が障害されれば鉄欠乏性貧血や葉酸欠乏による巨赤芽球性貧血が、Crohn病や回腸切除後のように回腸末端が障害されればビタミンB12欠乏による巨赤芽球性貧血が起こる。
- ×b. 浮腫
吸収不良症候群ではよくみられる。蛋白質の吸収障害によって低アルブミン血症になると、血漿膠質浸透圧が下がり、血管内の水分が間質へ移って浮腫が出る。腸リンパ管拡張症のように腸管から蛋白が漏れ出る病態(蛋白漏出性胃腸症)を合併すると、低蛋白血症はさらに目立つ。
- ○c. 便秘
吸収不良症候群で便秘がみられることはまれである。吸収されずに腸管内に残った栄養素は浸透圧性に水分を腸管内に引き込み、未吸収の脂肪から腸内細菌が作る脂肪酸や、大腸に流れ込んだ胆汁酸は大腸からの水分分泌を促す。その結果、主な便通異常は下痢や脂肪便となる。したがって、選択肢の中で頻度が低いのは便秘である。
- ×d. 体重減少
吸収不良症候群ではよくみられる。糖質・脂質・蛋白質といったエネルギー源の吸収が不十分になるため、食事を十分にとっていてもエネルギー不足となり、体重減少やるいそうが起こる。特に脂肪はエネルギー量が多く(1 gあたり約9 kcal)、脂肪の吸収障害は体重減少に大きく影響する。小児では成長障害として現れることもある。
- ×e. 腹部膨満感
吸収不良症候群ではよくみられる。小腸で吸収されなかった糖質(乳糖不耐症での乳糖など)が大腸に届くと、腸内細菌が発酵させて水素やメタンなどのガスを作る。このため腹部膨満感、腹鳴、放屁の増加が起こる。
吸収不良症候群の主な原因疾患
・セリアック病:小麦などに含まれるグルテンに対する免疫反応で小腸粘膜が傷つき、絨毛が萎縮する。抗組織トランスグルタミナーゼ抗体が診断に役立ち、治療はグルテン除去食である。欧米に多く、日本ではまれである。 ・熱帯スプルー:熱帯地方の居住者・滞在者に起こる、原因不明の小腸粘膜障害。葉酸とテトラサイクリン系抗菌薬で治療する。 ・Whipple病:Tropheryma whippleiの感染症。小腸粘膜にPAS染色陽性のマクロファージがみられ、関節痛や中枢神経症状を伴うことがある。 ・乳糖不耐症:小腸のラクターゼが不足し、乳製品をとると下痢や腹部膨満を起こす。 ・慢性膵炎:膵外分泌機能不全による消化障害で、脂肪便が目立つ。膵消化酵素の補充で治療する。 ・短腸症候群:小腸の大量切除で吸収面積が減る。回腸切除ではビタミンB12と胆汁酸の吸収も障害される。
主な栄養素の吸収部位
・鉄、カルシウム:十二指腸から上部空腸 ・葉酸:空腸(近位小腸) ・糖質、蛋白質、脂質の大部分:空腸を中心とした小腸 ・ビタミンB12(内因子と結合したもの)、胆汁酸:回腸末端
欠乏する栄養素と症状
・脂溶性ビタミン:A→夜盲症、D→骨軟化症・低カルシウム血症によるテタニー、K→出血傾向(プロトロンビン時間の延長) ・鉄→小球性貧血、葉酸・ビタミンB12→大球性(巨赤芽球性)貧血、ビタミンB12→末梢神経障害・亜急性連合性脊髄変性症 ・蛋白質→低アルブミン血症、浮腫
主な検査
便中脂肪の検査(ズダンIII染色による脂肪便の確認)、D-キシロース吸収試験(小腸粘膜の吸収能を調べる)、Schilling試験(ビタミンB12の吸収を調べる。現在はほとんど行われない)、BT-PABA試験(膵外分泌機能を調べる)、小腸内視鏡と生検などがある。
POINT
・吸収不良症候群の便通異常は下痢・脂肪便が中心で、便秘はまれである。 ・欠乏症状として体重減少、低蛋白血症による浮腫、貧血(鉄・葉酸・ビタミンB12)、脂溶性ビタミン欠乏症状が出る。 ・発酵ガスによる腹部膨満感・腹鳴・放屁の増加もよくみられる。 ・吸収部位:鉄は十二指腸、葉酸は空腸、ビタミンB12と胆汁酸は回腸末端。
