StudyMed医師国家試験

入らない栄養、残る栄養―吸収不良症候群の症状を「2つの軸」で整理する

第112回医師国家試験 C問題 第3問

国試問題にチャレンジ

第112回 C問題 第3問

吸収不良症候群の症状として頻度の低いのはどれか。

  1. a.貧血
  2. b.浮腫
  3. c.便秘
  4. d.体重減少
  5. e.腹部膨満感

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は吸収不良症候群の症状についての問題だ。症状を丸暗記するより、「吸収されなかった栄養素が腸に残ることで起こる症状」と「栄養素が体に入らないことで起こる欠乏症状」の2つに分けて考えると、頻度の低いものが自然に浮かび上がってくるよ。そもそも吸収不良症候群とはどんなものだと思う?
医学生医学生
ひとつの病気の名前ではなく、いろいろな原因で栄養が吸収できなくなる状態をまとめた呼び方、という理解で合っていますか。
ドクタードクター
合っているよ。原因は大きく2つ。慢性膵炎や胆汁酸不足、胃切除後のように消化そのものが障害されるタイプと、セリアック病、Crohn病、短腸症候群、乳糖不耐症のように腸粘膜での吸収が障害されるタイプだ。では、吸収されなかった栄養素が腸の中に残ると、便はどうなるだろう。
医学生医学生
水分を引き込んで下痢になりそうです。生理学の講義で浸透圧性下痢を習いました。
ドクタードクター
その通り。未吸収の糖質や脂肪は腸管内の浸透圧を上げて水分を引き込む。さらに、未吸収の脂肪から腸内細菌が作る脂肪酸や、大腸に流れ込んだ胆汁酸は、大腸からの水分分泌を促す。だから便は軟らかく量が多くなって、下痢や脂肪便が主な便通異常になるんだ。
医学生医学生
ということは、便秘は起こりにくいので、これが頻度の低い症状ですね。
ドクタードクター
正解。吸収不良症候群で便秘がみられることはまれだ。ちなみに脂肪便は白っぽく光沢があって悪臭が強く、水に浮くのが特徴だよ。では、残りの選択肢がなぜよくみられるのかも確認しよう。腹部膨満感はどうかな。
医学生医学生
これも腸に残るほうの症状ですよね。乳糖不耐症で牛乳を飲むとお腹が張るのと同じ仕組みでしょうか。
ドクタードクター
いい例えだね。小腸で吸収されなかった糖質が大腸に届くと、腸内細菌が発酵させて水素やメタンなどのガスを作る。それで腹部膨満感、腹鳴、放屁の増加が起こるんだ。次は欠乏症状のほう。体重減少は?
医学生医学生
エネルギー源が入ってこないので、食べていても痩せていくということですね。
ドクタードクター
そう。特に脂肪は1 gあたり約9 kcalとエネルギー量が多いから、脂肪の吸収障害は体重減少に大きく影響する。小児では成長障害として現れることもあるよ。では浮腫は?
医学生医学生
浮腫というと心不全やネフローゼを先に考えてしまって、吸収不良とはつながりにくかったです。
ドクタードクター
そこは意外と見落としやすいね。蛋白質の吸収が障害されると低アルブミン血症になって、血漿膠質浸透圧が下がり、血管内の水分が間質に移る。ネフローゼで蛋白が尿から失われるのと、入口で蛋白が入ってこないのとで、結果は同じ低アルブミン血症なんだ。腸リンパ管拡張症のように腸から蛋白が漏れ出る病態を合併すると、さらに目立つ。
医学生医学生
なるほど。貧血は鉄やビタミンB12の不足でしょうか。
ドクタードクター
その通りで、ここは吸収部位とセットで覚えると強い。鉄は主に十二指腸から上部空腸、葉酸は空腸、ビタミンB12は内因子と結合して回腸末端で吸収される。だからセリアック病のように近位小腸がやられると鉄欠乏性貧血や葉酸欠乏による巨赤芽球性貧血、Crohn病や回腸切除後のように回腸末端がやられるとビタミンB12欠乏による巨赤芽球性貧血が起こりやすい。
医学生医学生
消化器内科の実習でCrohn病の回盲部切除後の患者さんがビタミンB12を注射で補充していたのは、そういう理由だったんですね。
ドクタードクター
まさにそれだよ。回腸末端では胆汁酸も再吸収されるから、切除後は胆汁酸が大腸に流れ込んで下痢の原因にもなる。ほかの欠乏症状も押さえておこう。脂溶性ビタミンでは、ビタミンA欠乏で夜盲症、ビタミンD欠乏で骨軟化症や低カルシウム血症によるテタニー、ビタミンK欠乏で出血傾向、つまりプロトロンビン時間の延長が起こる。
医学生医学生
ビタミンB12欠乏では亜急性連合性脊髄変性症も出るとCBTの勉強で覚えました。
ドクタードクター
よく覚えているね。原因疾患も少し整理しておこう。セリアック病はグルテンに対する免疫反応で小腸の絨毛が萎縮する病気で、抗組織トランスグルタミナーゼ抗体が診断に役立ち、治療はグルテン除去食。欧米に多く日本ではまれだ。Whipple病はPAS染色陽性のマクロファージが特徴で、慢性膵炎による消化障害には膵消化酵素の補充を行う。検査では、ズダンIII染色による便中脂肪の確認、小腸粘膜の吸収能をみるD-キシロース吸収試験、膵外分泌機能をみるBT-PABA試験などがある。
医学生医学生
腸に残る症状と、体に入らない欠乏症状に分けて考えれば、知らない組み合わせが出ても推論できそうです。
ドクタードクター
その考え方が大事だよ。臨床では、慢性の下痢に体重減少や貧血、浮腫が重なっている患者さんを見たら、吸収不良を疑って原因検索に進む。症状の背景にある仕組みを理解しておけば、診断にも治療にもつながるんだ。

まとめ

吸収不良症候群は、さまざまな原因で栄養素の消化・吸収が障害される病態の総称です。症状は、未吸収の栄養素が腸管内に残ることによる下痢・脂肪便・腹部膨満感・腹鳴と、栄養素が体内に入らないことによる体重減少、低蛋白血症による浮腫、鉄・葉酸・ビタミンB12欠乏による貧血、脂溶性ビタミン欠乏症状に分けて整理できます。未吸収の栄養素は浸透圧や脂肪酸・胆汁酸の作用で腸管内の水分を増やすため、主な便通異常は下痢であり、便秘はまれです。鉄は十二指腸、葉酸は空腸、ビタミンB12と胆汁酸は回腸末端と、吸収部位を合わせて覚えておくと、障害部位から欠乏症状を予測できます。症状を発生機序から理解することで、慢性下痢に体重減少や貧血を伴う患者を診たときに吸収不良を想起し、原因検索へとつなげられます。

解答・解説

正解はcです

吸収不良症候群は、消化管で栄養素がうまく消化・吸収されず、栄養障害を起こす病態の総称である。一つの疾患名ではなく、さまざまな原因疾患を含む。

原因の分け方

・消化の障害(管腔内の消化不良):慢性膵炎・膵切除後などによる膵外分泌機能不全、胆汁うっ滞や回腸切除による胆汁酸の不足、胃切除後 ・吸収の障害(腸粘膜の異常):セリアック病、熱帯スプルー、Whipple病、Crohn病、短腸症候群、乳糖不耐症(二糖類分解酵素欠損症)、腸リンパ管拡張症、小腸の細菌異常増殖など

症状の考え方

症状は大きく二つに分けて考えると整理しやすい。 1)吸収されなかった栄養素が腸管内に残ることで起こる症状:下痢、脂肪便(白っぽく光沢があり悪臭が強い、水に浮く便)、腹部膨満感、腹鳴、放屁の増加 2)栄養素が体内に入らないことで起こる欠乏症状:体重減少・るいそう、低蛋白血症による浮腫、鉄・葉酸・ビタミンB12の欠乏による貧血、ビタミンK欠乏による出血傾向、ビタミンDやカルシウムの欠乏による骨軟化症・テタニー、ビタミンA欠乏による夜盲症など 消化・吸収されなかった脂肪や糖質は腸管内の浸透圧を上げ、腸内細菌による分解物(脂肪酸など)が腸管からの水分分泌を促すため、便は軟らかく量が多くなる。したがって主な便通異常は下痢であり、便秘は典型的な症状ではない。

選択肢考察

  1. ×a.  貧血

    吸収不良症候群ではよくみられる。造血に必要な栄養素の吸収部位はそれぞれ決まっており、鉄は主に十二指腸から上部空腸、葉酸は主に空腸(近位小腸)、ビタミンB12は内因子と結合して回腸末端で吸収される。セリアック病のように近位小腸が障害されれば鉄欠乏性貧血や葉酸欠乏による巨赤芽球性貧血が、Crohn病や回腸切除後のように回腸末端が障害されればビタミンB12欠乏による巨赤芽球性貧血が起こる。

  2. ×b.  浮腫

    吸収不良症候群ではよくみられる。蛋白質の吸収障害によって低アルブミン血症になると、血漿膠質浸透圧が下がり、血管内の水分が間質へ移って浮腫が出る。腸リンパ管拡張症のように腸管から蛋白が漏れ出る病態(蛋白漏出性胃腸症)を合併すると、低蛋白血症はさらに目立つ。

  3. ○c.  便秘

    吸収不良症候群で便秘がみられることはまれである。吸収されずに腸管内に残った栄養素は浸透圧性に水分を腸管内に引き込み、未吸収の脂肪から腸内細菌が作る脂肪酸や、大腸に流れ込んだ胆汁酸は大腸からの水分分泌を促す。その結果、主な便通異常は下痢や脂肪便となる。したがって、選択肢の中で頻度が低いのは便秘である。

  4. ×d.  体重減少

    吸収不良症候群ではよくみられる。糖質・脂質・蛋白質といったエネルギー源の吸収が不十分になるため、食事を十分にとっていてもエネルギー不足となり、体重減少やるいそうが起こる。特に脂肪はエネルギー量が多く(1 gあたり約9 kcal)、脂肪の吸収障害は体重減少に大きく影響する。小児では成長障害として現れることもある。

  5. ×e.  腹部膨満感

    吸収不良症候群ではよくみられる。小腸で吸収されなかった糖質(乳糖不耐症での乳糖など)が大腸に届くと、腸内細菌が発酵させて水素やメタンなどのガスを作る。このため腹部膨満感、腹鳴、放屁の増加が起こる。

吸収不良症候群の主な原因疾患

・セリアック病:小麦などに含まれるグルテンに対する免疫反応で小腸粘膜が傷つき、絨毛が萎縮する。抗組織トランスグルタミナーゼ抗体が診断に役立ち、治療はグルテン除去食である。欧米に多く、日本ではまれである。 ・熱帯スプルー:熱帯地方の居住者・滞在者に起こる、原因不明の小腸粘膜障害。葉酸とテトラサイクリン系抗菌薬で治療する。 ・Whipple病:Tropheryma whippleiの感染症。小腸粘膜にPAS染色陽性のマクロファージがみられ、関節痛や中枢神経症状を伴うことがある。 ・乳糖不耐症:小腸のラクターゼが不足し、乳製品をとると下痢や腹部膨満を起こす。 ・慢性膵炎:膵外分泌機能不全による消化障害で、脂肪便が目立つ。膵消化酵素の補充で治療する。 ・短腸症候群:小腸の大量切除で吸収面積が減る。回腸切除ではビタミンB12と胆汁酸の吸収も障害される。

主な栄養素の吸収部位

・鉄、カルシウム:十二指腸から上部空腸 ・葉酸:空腸(近位小腸) ・糖質、蛋白質、脂質の大部分:空腸を中心とした小腸 ・ビタミンB12(内因子と結合したもの)、胆汁酸:回腸末端

欠乏する栄養素と症状

・脂溶性ビタミン:A→夜盲症、D→骨軟化症・低カルシウム血症によるテタニー、K→出血傾向(プロトロンビン時間の延長) ・鉄→小球性貧血、葉酸・ビタミンB12→大球性(巨赤芽球性)貧血、ビタミンB12→末梢神経障害・亜急性連合性脊髄変性症 ・蛋白質→低アルブミン血症、浮腫

主な検査

便中脂肪の検査(ズダンIII染色による脂肪便の確認)、D-キシロース吸収試験(小腸粘膜の吸収能を調べる)、Schilling試験(ビタミンB12の吸収を調べる。現在はほとんど行われない)、BT-PABA試験(膵外分泌機能を調べる)、小腸内視鏡と生検などがある。

POINT

・吸収不良症候群の便通異常は下痢・脂肪便が中心で、便秘はまれである。 ・欠乏症状として体重減少、低蛋白血症による浮腫、貧血(鉄・葉酸・ビタミンB12)、脂溶性ビタミン欠乏症状が出る。 ・発酵ガスによる腹部膨満感・腹鳴・放屁の増加もよくみられる。 ・吸収部位:鉄は十二指腸、葉酸は空腸、ビタミンB12と胆汁酸は回腸末端。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。