StudyMed医師国家試験

狭い門は締めつける―大腿ヘルニアが「やせた高齢女性」で「嵌頓しやすい」理由

第112回医師国家試験 A問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第112回 A問題 第13問

大腿ヘルニアについて正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. a.男性に多い。
  2. b.両側性が多い。
  3. c.嵌頓しやすい。
  4. d.高齢者に多い。
  5. e.大腿動脈の外側に触れる。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は大腿ヘルニアの特徴を問う知識問題だ。丸暗記で済ませたくなるところだけど、大腿輪という出口の解剖を押さえておけば、性差・年齢・嵌頓しやすさ・触れる位置がすべて筋道立てて説明できる。まずは鼠径部ヘルニア全体のイメージから確認しよう。
医学生医学生
鼠径部ヘルニアというと、男性の外鼠径ヘルニアが一番多いと習いました。だから大腿ヘルニアも男性に多いのかと思ってしまいそうです。
ドクタードクター
そこが最初の落とし穴だね。鼠径部ヘルニア全体では確かに男性の外鼠径ヘルニアが最多だけど、大腿ヘルニアに限ると女性に多い。女性は骨盤が幅広く大腿輪が相対的に大きいこと、妊娠・出産による腹圧上昇や組織の脆弱化が加わることが理由とされている。
医学生医学生
ということは、女性の鼠径部ヘルニアはほとんど大腿ヘルニアなんですか。
ドクタードクター
いい疑問だ。実はそうではなく、女性でも数としては外鼠径ヘルニアのほうが多い。「大腿ヘルニアは女性に多い」と「女性のヘルニアは大腿ヘルニアが多い」は別の話だから、混同しないようにね。
医学生医学生
年齢はどうでしょう。外鼠径ヘルニアは小児の腹膜鞘状突起の開存が原因になると小児外科の講義で聞きました。
ドクタードクター
大腿ヘルニアは小児や若年者にはまれで、中高年以降、特にやせた高齢女性に好発する。加齢による横筋筋膜など結合組織の脆弱化や、皮下脂肪の減少が関わると考えられている。だから高齢者に多い、というのは正しい記述だ。
医学生医学生
次は嵌頓ですね。高齢だから嵌頓しやすい、ということですか。
ドクタードクター
年齢というより解剖が主な理由だよ。大腿輪は前方を鼠径靱帯、後方をCooper靱帯、内側を裂孔靱帯、外側を大腿静脈に囲まれた狭い開口部なんだ。周りが硬い靱帯だから伸び縮みせず、一度脱出した腸管が締めつけられて戻らなくなりやすい。これが嵌頓しやすさの正体で、正しい選択肢になる。
医学生医学生
解剖実習で鼠径部を剖出したとき、裂孔靱帯がかなり硬かったのを覚えています。あそこに腸が挟まると思うと怖いですね。
ドクタードクター
実感があるのはいいことだ。さらに注意したいのが、腸管壁の一部だけが挟まるRichterヘルニアの形をとることがある点。腸管内腔が完全には閉塞しないので腸閉塞症状がはっきりせず、気づかないうちに壊死が進むことがある。
医学生医学生
それなら、見つかった時点で早めに手術したほうがいいんですね。
ドクタードクター
その通り。大腿ヘルニアは診断がついたら待機的にでも早期に手術するのが原則だ。では残りの記述も確認しよう。両側性が多い、についてはどう思う?
医学生医学生
組織の脆弱化が原因なら、両側に出てもおかしくない気がします。
ドクタードクター
理屈としては分かるけれど、実際には大部分が片側性で、右側に多いとされる。両側性は少数だから誤りだね。最後に触れる位置。大腿鞘の中で、外側から何が並んでいるか言えるかな。
医学生医学生
外側から神経、動脈、静脈、そして空間とリンパ管……NAVELでしたっけ。CBTの勉強で覚えました。
ドクタードクター
完璧だ。大腿神経は鞘の外だけど、並びは外側から神経・動脈・静脈・大腿管。大腿ヘルニアはこの一番内側の大腿管を通るから、腫瘤は鼠径靱帯の下方、大腿静脈のさらに内側に触れる。大腿動脈の外側にあるのは大腿神経で、ヘルニアの脱出部位ではないから誤りだ。
医学生医学生
まとめると、大腿ヘルニアは鼠径靱帯の下、大腿静脈の内側に出て、高齢女性に多く、狭くて硬い門のせいで嵌頓しやすい、ということですね。
ドクタードクター
よく整理できている。比較で覚えておくと強いよ。外鼠径ヘルニアは下腹壁動静脈の外側から鼠径管を通り、小児と男性に多い。内鼠径ヘルニアはHesselbach三角から直接出て、中高年男性に多く、門が広いので嵌頓はまれ。鼠径ヘルニアは鼠径靱帯の上方、大腿ヘルニアは下方に膨隆するのが基本だけど、脱出物が上へ反転して紛らわしいこともあるので、診察で迷えば超音波やCTを使う。
医学生医学生
同じように嵌頓しやすいヘルニアは他にもありますか。
ドクタードクター
閉鎖孔ヘルニアだね。やはり高齢のやせた女性に多く、門が狭いため嵌頓しやすい。閉鎖神経が圧迫されて大腿内側から膝にかけて痛むHowship-Romberg徴候が手がかりになる。臨床では、腸閉塞で来院した高齢女性を見たら、鼠径部や大腿の付け根を必ず診察し、画像で大腿輪や閉鎖孔まで確認する習慣をつけてほしい。嵌頓例では緊急手術となり、腸管壊死があれば腸切除も必要になるからね。

まとめ

大腿ヘルニアは、腹腔内容が鼠径靱帯の下方にある大腿輪から大腿管を通って脱出するヘルニアで、腫瘤は大腿静脈の内側に触れます。女性に多く、特に結合組織の脆弱化した中高年〜高齢のやせ型女性に好発し、多くは片側性で右側に多いとされます。ヘルニア門が鼠径靱帯・裂孔靱帯・Cooper靱帯という硬い組織に囲まれて狭いため嵌頓・絞扼を起こしやすく、Richterヘルニアでは腸閉塞症状が目立たないまま壊死が進むこともあるため、診断がつけば早期手術が原則です。外鼠径(小児・男性)、内鼠径(中高年男性・嵌頓まれ)、閉鎖孔ヘルニア(高齢やせ型女性・嵌頓しやすい)と対比して整理すると、高齢者の腸閉塞の原因検索にもそのまま役立ちます。

解答・解説

正解はc, dです

テーマ

大腿ヘルニアは、腹腔内容(小腸、大網など)が鼠径靱帯の下方にある大腿輪から大腿管を通って、大腿前面(大腿三角〈Scarpa三角〉の卵円窩付近)に脱出する鼠径部ヘルニアの一型である。鼠径部ヘルニア全体の数%程度と頻度は低いが、臨床上重要な特徴をもつ。

解剖から特徴を理解する

大腿輪は、前方を鼠径靱帯、後方を恥骨筋膜(Cooper靱帯)、内側を裂孔靱帯、外側を大腿静脈に囲まれた狭い開口部である。大腿鞘の中では外側から大腿神経(鞘外)・大腿動脈・大腿静脈・大腿管の順に並ぶため(覚え方:外側から「NAVEL」=Nerve, Artery, Vein, Empty space, Lymphatics)、ヘルニアは大腿静脈のさらに内側に出現する。 周囲が硬い靱帯で囲まれたヘルニア門は狭く伸展性に乏しいため、脱出した腸管は締め付けられやすく、嵌頓・絞扼を起こしやすい。

疫学

女性は骨盤が幅広く大腿輪が相対的に大きいこと、妊娠・出産による腹圧上昇や組織の脆弱化が加わることから女性に多い。また加齢による筋膜・結合組織の脆弱化を背景に、中高年〜高齢者、特にやせた高齢女性に好発する。多くは片側性で、右側に多い。 これらの特徴を踏まえて各選択肢を判断する。

選択肢考察

  1. ×a.  男性に多い。

    大腿ヘルニアは女性に多い。女性は骨盤が広く大腿輪が大きいこと、妊娠・出産の影響などが理由である。なお、鼠径部ヘルニア全体では男性の外鼠径ヘルニアが最も多いため、女性の鼠径部ヘルニアでも外鼠径ヘルニアの方が数としては多い点に注意する。

  2. ×b.  両側性が多い。

    大腿ヘルニアの大部分(約8割)は片側性であり、右側に多い。両側性は少数である。

  3. ○c.  嵌頓しやすい。

    ヘルニア門である大腿輪は、鼠径靱帯・裂孔靱帯・Cooper靱帯という硬い組織に囲まれて狭く伸展しにくい。そのため脱出臓器が締め付けられて還納できなくなる嵌頓を起こしやすく、血流障害を伴う絞扼性腸閉塞に進行しやすい。腸管壁の一部だけが嵌頓するRichterヘルニアの形をとることもあり、腸閉塞症状がはっきりしないまま壊死が進むことがある。このため、大腿ヘルニアは診断がつけば待機的にでも早期に手術を行うのが原則である。閉鎖孔ヘルニアも同様に嵌頓しやすいヘルニアとして知られる。

  4. ○d.  高齢者に多い。

    大腿ヘルニアは中年以降、とくに高齢の女性(経産婦、やせ型)に多い。加齢による腹壁・横筋筋膜の脆弱化や、皮下脂肪の減少が関与する。小児や若年者にはまれである。

  5. ×e.  大腿動脈の外側に触れる。

    大腿管は大腿静脈の内側に位置するため、大腿ヘルニアは大腿動脈・大腿静脈の内側、鼠径靱帯の下方に腫瘤として触れる。大腿動脈の外側には大腿神経が走行しており、ヘルニアの脱出部位ではない。

鼠径部ヘルニアの比較

・外鼠径ヘルニア(間接型):内鼠径輪から鼠径管を通って脱出。下腹壁動静脈の外側。小児(腹膜鞘状突起の開存)と男性に多く、陰囊まで達することがある。最も頻度が高い。 ・内鼠径ヘルニア(直接型):Hesselbach三角(下腹壁動静脈・腹直筋外縁・鼠径靱帯で囲まれる)から直接脱出。下腹壁動静脈の内側。中高年男性に多く、門が広いため嵌頓はまれ。 ・大腿ヘルニア:大腿輪から大腿管を通って脱出。鼠径靱帯の下方、大腿静脈の内側。中高年女性に多く、嵌頓しやすい。

鼠径靱帯との位置関係

鼠径ヘルニア(外・内)は鼠径靱帯の上方に、大腿ヘルニアは鼠径靱帯の下方に膨隆する。ただし、大腿ヘルニアの脱出物が上方へ反転して鼠径靱帯を越えるように見えることもあり、診察だけでは鑑別が難しい場合は超音波検査やCTが有用である。

嵌頓しやすいヘルニア

大腿ヘルニアと閉鎖孔ヘルニアはいずれもヘルニア門が狭く、高齢のやせた女性に多いという共通点がある。閉鎖孔ヘルニアでは閉鎖神経の圧迫による大腿内側〜膝の痛み(Howship-Romberg徴候)がみられることがある。

治療

嵌頓例では緊急手術を行い、腸管壊死があれば腸切除を併施する。修復法には、腹膜前腔からメッシュで筋恥骨孔全体を覆う方法(腹腔鏡下修復術を含む)や、Cooper靱帯を利用する修復(McVay法)などがある。

POINT

・大腿ヘルニア:鼠径靱帯の下、大腿静脈の内側(大腿管)に脱出 ・中高年〜高齢の女性に多い、片側性で右側に多い ・ヘルニア門が狭く硬いため嵌頓・絞扼しやすい→早期手術が原則 ・外鼠径=小児・男性、内鼠径=中高年男性(嵌頓まれ)、大腿=中高年女性(嵌頓多い) ・閉鎖孔ヘルニアも高齢やせ型女性に多く嵌頓しやすい

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。