狭い門ほど危ない―大腿ヘルニアは「見つけたら手術」が原則
第116回医師国家試験 D問題 第9問
国試問題にチャレンジ
成人大腿ヘルニアで正しいのはどれか。
- a.中年男性に多い。
- b.嵌頓はまれである。
- c.手術治療が原則である。
- d.大腿外側部の痛みを伴う。
- e.鼠径靱帯の頭側から脱出する。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
大腿ヘルニアは大腿輪から大腿管を通り、鼠径靱帯の尾側・大腿静脈の内側から大腿内側上部に脱出するヘルニアで、経産婦ややせ型の中高年女性に多くみられます。大腿輪は鼠径靱帯、Cooper靱帯、裂孔靱帯、大腿静脈に囲まれた狭く硬い門であるため、鼠径部ヘルニアの中で最も嵌頓しやすく、Richterヘルニアとして発見が遅れることもあります。そのため診断がつけば手術が原則で、嵌頓例では用手整復にこだわらず緊急手術を行い、術式にはMcVay法やメッシュ法、腹腔鏡下手術があります。閉鎖孔ヘルニアとあわせて、高齢女性の原因不明の腸閉塞では鼠径部の診察とCTを行うことが、腸管壊死を防ぐ臨床上の重要なポイントです。
解答・解説
正解はcです
テーマ
大腿ヘルニアについて、次の四点が問われている。どこから脱出するか(解剖)、誰に多いか(疫学)、何が危険か(嵌頓のしやすさ)、どう治療するか(治療方針)。
解剖から理解する
大腿ヘルニアは、腹腔内の臓器(主に小腸・大網)が大腿輪から大腿管に入り込み、鼠径靱帯より尾側(足側)の大腿内側上部に脱出するものである。大腿輪は次の四つで囲まれている。 ・前方: 鼠径靱帯 ・後方: 恥骨櫛靱帯(Cooper靱帯) ・内側: 裂孔靱帯 ・外側: 大腿静脈 この入口は狭いうえ、周りは伸び縮みしにくい靱帯である。そのため、いったん脱出した内容が締め付けられやすく、元に戻らなくなる状態(嵌頓)を起こしやすい。
結論
嵌頓しやすく、自然に治ることもないので、診断がついた時点で手術を行うのが原則である。嵌頓を起こしている場合は緊急手術になる。成人の鼠径部ヘルニアには、ヘルニアバンドなどの保存的治療による根治はなく、治療の基本は手術である。この原則は大腿ヘルニアで特に強く当てはまる。
選択肢考察
- ×a. 中年男性に多い。
大腿ヘルニアは中高年の女性に多く、特に経産婦ややせ型の高齢女性に多い。女性は骨盤が広く大腿輪も比較的広いこと、妊娠・出産で腹圧がかかり骨盤底の組織が緩むことが背景にある。なお、鼠径部ヘルニア全体でみると、男性の外鼠径ヘルニアが最も多い。女性の鼠径部ヘルニアでも数としては鼠径ヘルニアのほうが多いが、大腿ヘルニアが占める割合は男性よりはるかに高い。
- ×b. 嵌頓はまれである。
大腿ヘルニアは鼠径部ヘルニアの中で最も嵌頓しやすい。ヘルニア門(大腿輪)が狭く、周りを硬い靱帯(鼠径靱帯・裂孔靱帯・Cooper靱帯)に囲まれているためである。脱出した腸管が締め付けられて血流が途絶える(絞扼)と、腸管が壊死することがある。腸壁の一部だけがはまり込むRichterヘルニアの形をとることもあり、その場合は腸閉塞症状がはっきりせず、発見が遅れやすい。腸閉塞の原因を調べて初めて大腿ヘルニアの嵌頓が見つかることも少なくない。
- ○c. 手術治療が原則である。
嵌頓しやすく自然治癒もしないため、症状が軽くても診断がついた時点で手術による修復を行うのが原則である。嵌頓している場合、狭いヘルニア門を通して手で押し戻す(用手整復)のは難しい。無理に戻すと壊死した腸管を腹腔内に戻してしまう危険があるため、緊急手術が原則となる。術式には次のようなものがある。 ・前方到達法: McVay法(Cooper靱帯を用いて縫い合わせる)、メッシュを用いたplug法など。 ・腹腔鏡下手術: TAPP法・TEP法。鼠径ヘルニアと大腿ヘルニアのヘルニア門を一度にメッシュで覆える。 絞扼で腸管が壊死していれば、腸管の切除も行う。
- ×d. 大腿外側部の痛みを伴う。
大腿管は大腿静脈の内側にあるため、膨隆と痛みは鼠径靱帯のすぐ下の大腿内側上部(鼠径部の下方)に生じる。大腿外側の痛みはみられない。嵌頓すると、この部位に硬く圧痛のある腫瘤を触れ、腸閉塞症状(腹痛・嘔吐・腹部膨満)を伴う。大腿外側の痛みやしびれは、外側大腿皮神経が圧迫されて起こる知覚異常性大腿痛でみられる所見である。
- ×e. 鼠径靱帯の頭側から脱出する。
大腿ヘルニアは鼠径靱帯の尾側(足側)から脱出する。大腿輪から大腿管を通り、伏在裂孔(卵円窩)付近の皮下に膨隆を作る。鼠径靱帯の頭側に膨隆を作るのは、鼠径管に関わる鼠径ヘルニア(外鼠径ヘルニア・内鼠径ヘルニア)である。触診では恥骨結節が目印になる。膨隆が恥骨結節の外下方にあれば大腿ヘルニア、内上方にあれば鼠径ヘルニアを考える。
鼠径部ヘルニアの比較
・外鼠径ヘルニア: 内鼠径輪(下腹壁動静脈の外側)から鼠径管を通って脱出する。小児と若年〜中高年の男性に多く、最も頻度が高い。陰嚢まで達することがある。間接ヘルニアとも呼ぶ。 ・内鼠径ヘルニア: Hesselbach三角(下腹壁動静脈の内側)の腹壁が弱くなり、直接脱出する。中高年の男性に多い。ヘルニア門が広く、嵌頓は少ない。直接ヘルニアとも呼ぶ。 ・大腿ヘルニア: 大腿輪から鼠径靱帯の下に脱出する。中高年の女性に多い。嵌頓しやすい。
閉鎖孔ヘルニア(あわせて頻出)
・閉鎖孔から閉鎖管を通って脱出する。やせた高齢の経産婦に多い。 ・外から膨隆が見えにくく、腸閉塞として発症し、CTで診断されることが多い。嵌頓しやすく、緊急手術になりやすい。 ・Howship-Romberg徴候: 脱出したヘルニア内容が閉鎖神経を圧迫し、大腿内側から膝にかけて痛みやしびれが生じる。股関節を伸展・外転・内旋すると増強し、屈曲すると軽くなる。
嵌頓ヘルニアの注意点
・発症から時間がたち、皮膚の発赤や強い圧痛、腹膜刺激症状がある場合は、絞扼(腸管壊死)を疑う。用手整復は行わず、緊急手術とする。 ・高齢女性の原因不明の腸閉塞では、大腿ヘルニアと閉鎖孔ヘルニアを必ず鑑別に挙げ、鼠径部の診察とCT検査を行う。
POINT
・大腿ヘルニアは鼠径靱帯の下(尾側)、大腿静脈の内側から脱出する。 ・中高年の女性(経産婦、やせ型)に多い。 ・ヘルニア門が狭く周りの靱帯が硬いため、鼠径部ヘルニアの中で最も嵌頓しやすい。 ・診断がつけば手術が原則である。嵌頓していれば緊急手術を行う。 ・閉鎖孔ヘルニア(やせた高齢女性、Howship-Romberg徴候)とあわせて覚える。
