StudyMed医師国家試験

「外」と「外鼠径」は別物―成人の鼠径ヘルニアを正しく整理する

第118回医師国家試験 D問題 第5問

国試問題にチャレンジ

第118回 D問題 第5問

成人の鼠径ヘルニアで正しいのはどれか。

  1. a.高齢女性に多い。
  2. b.外ヘルニアである。
  3. c.内鼠径ヘルニアの頻度が高い。
  4. d.腹膜鞘状突起の閉鎖不全が原因である。
  5. e.開腹手術の既往はリスクファクターである。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は成人の鼠径ヘルニアの基本事項を問う問題だ。疫学、病型の頻度、成因、そしてヘルニアの分類と、知識をきちんと整理できているかが問われている。まずは言葉の定義から確認しよう。ヘルニアとはそもそもどういう状態かな。
医学生医学生
臓器が本来の場所から、すき間を通って飛び出している状態ですよね。
ドクタードクター
その通り。腹部のヘルニアは、どこへ飛び出すかで外ヘルニアと内ヘルニアに分けられる。外ヘルニアは、腹壁の弱いところ、つまりヘルニア門から、壁側腹膜でできたヘルニア嚢に包まれたまま腹腔の外へ臓器が出るもの。内ヘルニアは、傍十二指腸窩や網嚢孔のような腹腔内のくぼみや、手術でできた間隙に腸管が入り込むもので、体表からは膨らみとして見えない。
医学生医学生
じゃあ鼠径ヘルニアは鼠径部が膨らんで見えるので、外ヘルニアですね。でも、内鼠径ヘルニアというのもあるので、一瞬「内ヘルニアかも」と迷いました。
ドクタードクター
そこがこの問題の一番の引っかけだね。「外ヘルニア・内ヘルニア」は脱出先が腹腔の外か内かの分類で、「外鼠径・内鼠径」は鼠径部でどこから出るかという経路の分類なんだ。外鼠径ヘルニアも内鼠径ヘルニアも、どちらも外ヘルニアに含まれる。だから「外ヘルニアである」が正解だ。
医学生医学生
なるほど、軸がまったく違うんですね。では外鼠径と内鼠径の違いは、解剖でいうとどこで分かれるんでしたっけ。
ドクタードクター
目印は下腹壁動静脈だ。その外側にある内鼠径輪から入って鼠径管を通るのが外鼠径ヘルニア、間接型とも呼ぶ。内側のヘッセルバッハ三角、つまり腹直筋外縁・鼠径靱帯・下腹壁動静脈に囲まれた領域で、鼠径管の後壁である横筋筋膜が弱くなって直接押し出されるのが内鼠径ヘルニア、直接型だ。
医学生医学生
解剖実習で鼠径管を剖出したとき、後壁が横筋筋膜だと教わった記憶があります。そこが弱るから中高年に内鼠径が増えるんですね。だったら成人では内鼠径ヘルニアのほうが多いのでは?
ドクタードクター
そう考えがちだけど、成人でも最も多いのは外鼠径ヘルニアで、全体の過半数を占める。内鼠径ヘルニアは年齢とともに割合が増えるものの、外鼠径を上回るわけではない。小児ではほぼすべてが外鼠径ヘルニアだ。だから「内鼠径ヘルニアの頻度が高い」は誤りだね。
医学生医学生
性別はどうでしょう。高齢女性に多いというイメージはなかったんですが。
ドクタードクター
その感覚で正しい。鼠径ヘルニアは圧倒的に男性に多く、生涯発症率は男性で約27%、女性で約3%とされる。男性では精索が鼠径管を通るぶん、構造的に弱いことが一因だ。高齢女性に比較的多いのは大腿ヘルニアや閉鎖孔ヘルニアのほうだね。特に閉鎖孔ヘルニアはやせた高齢の経産婦に多く、腸閉塞や、大腿内側に痛みが走るHowship-Romberg徴候で見つかることが多い。
医学生医学生
小児外科の講義で、腹膜鞘状突起が閉じないのが鼠径ヘルニアの原因だと習いました。成人も同じではないんですか。
ドクタードクター
いいところを突いたね。腹膜鞘状突起は、胎生期に精巣が下降するとき腹膜が鼠径管へ袋状に伸び出したもので、普通は出生前後に閉じる。これが開いたまま残ると外鼠径ヘルニアの袋になる。小児の鼠径ヘルニアはほぼこの機序だ。でも成人には、内鼠径ヘルニアのように腹壁そのものの脆弱化が原因の病型があるし、外鼠径ヘルニアでも加齢による組織の弱さや腹圧の上昇が重なって発症する。成人の原因を鞘状突起の閉鎖不全だけで説明するのは誤りなんだ。
医学生医学生
成人のリスク因子というと、慢性の咳や便秘、前立腺肥大でいきむこと、重労働あたりでしょうか。開腹手術の既往もリスクになりそうですが。
ドクタードクター
腹圧の上昇はその通りで、ほかに加齢、家族歴、喫煙、コラーゲン代謝の異常なども挙げられる。一方、開腹手術の既往が明らかなリスクとなるのは、手術創の筋膜が離開して起こる腹壁瘢痕ヘルニアだ。恥骨後式の前立腺全摘除術の後に鼠径ヘルニアが増えるという報告はあるけれど、開腹手術一般を鼠径ヘルニアのリスク因子とはいえない。
医学生医学生
整理すると、男性に多い外ヘルニアで、最多は外鼠径型。成人は腹壁の弱さと腹圧が関わり、手術既往は瘢痕ヘルニアの話、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。最後に臨床で大事な点を押さえておこう。成人の鼠径ヘルニアは自然には治らず、根治には手術が必要だ。現在はメッシュを使った修復が標準で、Lichtenstein法などの前方アプローチや、TAPP・TEPといった腹腔鏡下修復術がある。症状の乏しい男性では経過観察が選ばれることもある。
医学生医学生
外科実習で腹腔鏡下の修復を見学しました。お腹の中から見ると、下腹壁動静脈の内側か外側かで病型がはっきり分かりました。
ドクタードクター
腹腔鏡の視野だと解剖がよく理解できるよね。もう一つ、絶対に見逃してはいけないのが嵌頓だ。脱出した臓器が戻らなくなり、痛みや腸閉塞症状を伴う。絞扼して血流が途絶えると腸管が壊死・穿孔に至るので、用手的に戻せない場合や壊死が疑われる場合は緊急手術になる。なお、ヘルニア門が広い内鼠径ヘルニアは嵌頓しにくく、門が狭い大腿ヘルニアは嵌頓しやすい。
医学生医学生
腸閉塞の患者さんを診るときは、鼠径部や大腿部まで必ず診察しないといけないですね。
ドクタードクター
その習慣が患者さんを救う。OSCEでも腹部診察で鼠径部を忘れないようにしよう。

まとめ

鼠径ヘルニアは、壁側腹膜に包まれた臓器が鼠径部の腹壁から腹腔外へ脱出する外ヘルニアであり、「外ヘルニア/内ヘルニア」と「外鼠径/内鼠径ヘルニア」は別の分類軸である点が重要です。成人の鼠径ヘルニアは男性に圧倒的に多く、病型では下腹壁動静脈の外側の内鼠径輪から出る外鼠径ヘルニアが最多で、内鼠径ヘルニアはヘッセルバッハ三角の脆弱化により中高年男性に増えます。腹膜鞘状突起の開存は小児の主因であり、成人では加齢による腹壁の脆弱化と慢性的な腹圧上昇が関与し、開腹手術の既往は腹壁瘢痕ヘルニアのリスクとなります。高齢女性では大腿ヘルニアや閉鎖孔ヘルニアに注意が必要です。腸閉塞を診たら鼠径部・大腿部の診察で嵌頓ヘルニアを見逃さないことが、臨床で最も役立つ教訓です。

解答・解説

正解はbです

ヘルニアとは、臓器や組織が本来の位置から、体壁の欠損部やすき間を通って逸脱した状態である。腹部のヘルニアは、どこへ脱出するかで次の2つに分けられる。 【外ヘルニア】腹壁の弱い部分やすき間(ヘルニア門)から、腹腔内の臓器が壁側腹膜(ヘルニア嚢)に包まれたまま腹腔の外(皮下など)へ脱出するもの。鼠径ヘルニア、大腿ヘルニア、閉鎖孔ヘルニア、臍ヘルニア、腹壁瘢痕ヘルニアなどがある。 【内ヘルニア】腹腔内のくぼみ(傍十二指腸窩、網嚢孔など)や、手術でできた間隙に腸管が入り込むもの。体表からは膨隆として見えない。 鼠径ヘルニアは鼠径部の腹壁から脱出する外ヘルニアの代表で、脱出する経路によって次の2つに分けられる。 ・外鼠径ヘルニア(間接型):下腹壁動静脈より外側にある内鼠径輪から入り、鼠径管を通って脱出する。 ・内鼠径ヘルニア(直接型):下腹壁動静脈より内側のヘッセルバッハ三角(腹直筋外縁・鼠径靱帯・下腹壁動静脈に囲まれた領域)で、鼠径管の後壁(横筋筋膜)が弱くなり、そこから直接押し出される。 成人の鼠径ヘルニアは男性に圧倒的に多く、病型では外鼠径ヘルニアが最も多い。小児では、腹膜鞘状突起が閉じずに残ること(開存)がほぼ唯一の原因である。一方、成人では加齢による腹壁の筋肉や筋膜の脆弱化、腹圧の上昇(慢性の咳嗽、便秘、前立腺肥大による排尿時のいきみ、重い物を持つ作業など)、喫煙、結合組織の異常などが重なって発症する。 この整理に沿えば、各選択肢の正誤を判断できる。

選択肢考察

  1. ×a.  高齢女性に多い。

    鼠径ヘルニアは男性に多く、生涯の発症率は男性で約27%、女性で約3%とされ、患者の大部分は男性である。男性は精索が鼠径管を通るため、鼠径部の構造がもともと弱いことが一因である。中高年以降に増える点は正しいが、「女性に多い」は誤りである。高齢女性に比較的多いのは大腿ヘルニアや閉鎖孔ヘルニアである。特に閉鎖孔ヘルニアは、やせた高齢の経産婦に多く、腸閉塞やHowship-Romberg徴候(閉鎖神経が圧迫されて大腿内側に痛みが出る)で見つかることが多い。

  2. ○b.  外ヘルニアである。

    鼠径ヘルニアは、鼠径部の腹壁にある弱い部分(内鼠径輪やヘッセルバッハ三角)から、壁側腹膜に包まれた腸管や大網などが腹腔の外(鼠径管内や皮下、陰嚢内)へ脱出する。腹腔内のくぼみに臓器が入り込む内ヘルニアとは異なり、体表に膨隆として現れる外ヘルニアである。立位や腹圧をかけたときに鼠径部が膨らみ、臥位で戻るのが典型的な経過である。還納できなくなると嵌頓(かんとん)となり、腸管の血流障害や腸閉塞を起こしうる。なお、「外ヘルニア」と「外鼠径ヘルニア」は別の概念であり、外鼠径ヘルニアも内鼠径ヘルニアも、どちらも外ヘルニアに含まれる。

  3. ×c.  内鼠径ヘルニアの頻度が高い。

    成人でも最も多い病型は外鼠径ヘルニア(間接型)であり、鼠径ヘルニア全体の過半数を占める。内鼠径ヘルニア(直接型)は、加齢によって鼠径管後壁の横筋筋膜が弱くなることで生じるので、中高年の男性に多く、年齢とともに割合は増えるが、外鼠径ヘルニアを上回るわけではない。小児の鼠径ヘルニアはほぼすべて外鼠径ヘルニアである。

  4. ×d.  腹膜鞘状突起の閉鎖不全が原因である。

    腹膜鞘状突起は、胎生期に精巣(女性では子宮円索)が下降する際に腹膜が鼠径管内へ袋状に伸び出したものである。通常は出生前後に閉じるが、これが開いたまま残ると外鼠径ヘルニアのヘルニア嚢になる。小児の鼠径ヘルニアはこの機序によるものである。しかし成人の鼠径ヘルニアには、内鼠径ヘルニアのように腹壁(鼠径管後壁)の脆弱化そのものが原因となる病型が含まれる。また、成人の外鼠径ヘルニアでも、加齢による組織の脆弱化や腹圧の上昇が重なって発症する。したがって、成人の鼠径ヘルニアの原因を腹膜鞘状突起の閉鎖不全だけとするのは誤りである。

  5. ×e.  開腹手術の既往はリスクファクターである。

    開腹手術の既往が明らかなリスクとなるのは、手術創の部分の筋膜が離開して生じる腹壁瘢痕ヘルニアである。成人の鼠径ヘルニアで確立したリスク因子は、男性、加齢、家族歴、慢性的な腹圧上昇(慢性閉塞性肺疾患による咳嗽、便秘、前立腺肥大症、重労働)、喫煙、低体重、コラーゲン代謝の異常などである。恥骨後式の前立腺全摘除術の後に鼠径ヘルニアが増えるという報告はあるが、開腹手術一般の既往を鼠径ヘルニアのリスク因子とすることはできない。

鼠径部ヘルニアの病型の整理

・外鼠径ヘルニア(間接型):ヘルニア門は内鼠径輪で、下腹壁動静脈の外側にある。鼠径管を通り、陰嚢まで下降することがある。最も頻度が高く、小児はほぼすべてこの型である。 ・内鼠径ヘルニア(直接型):ヘルニア門はヘッセルバッハ三角で、下腹壁動静脈の内側にある。中高年の男性に多い。ヘルニア門が広いため嵌頓は少ない。 ・大腿ヘルニア:鼠径靱帯の下にある大腿輪から脱出する。中高年の女性に多い。ヘルニア門が狭いため嵌頓しやすい。 ・日本ヘルニア学会の分類では、Ⅰ型(間接)、Ⅱ型(直接)、Ⅲ型(大腿)、Ⅳ型(併存)、Ⅴ型(特殊)とする。

鼠径管の構造

・前壁:外腹斜筋腱膜 ・後壁:横筋筋膜(内鼠径ヘルニアはここから脱出する) ・上壁:内腹斜筋・腹横筋の下縁 ・下壁:鼠径靱帯 ・内容:男性では精索、女性では子宮円索。腸骨鼠径神経も通る。

成人と小児の比較

・小児:腹膜鞘状突起の開存による外鼠径ヘルニアで、自然に治ることはほとんどない。手術は高位結紮(ヘルニア嚢を根元でしばる)が基本である。 ・成人:腹壁の脆弱化と腹圧の上昇が関与する。自然には治らず、根治には手術が必要である。人工のメッシュを用いた修復(Lichtenstein法などの前方アプローチ、TAPP・TEPなどの腹腔鏡下修復術)が標準である。症状が乏しい男性では経過観察が選ばれることもある。

嵌頓ヘルニア

脱出した臓器が戻らなくなった状態である。痛みや圧痛、腸閉塞症状を伴い、絞扼して腸管の血流が途絶えると壊死・穿孔に至る。用手的に戻せない場合や、腸管壊死が疑われる場合は緊急手術を行う。

外ヘルニアと内ヘルニア

外ヘルニア:鼠径、大腿、閉鎖孔、臍、腹壁瘢痕、白線ヘルニアなど。 内ヘルニア:傍十二指腸ヘルニア、網嚢孔ヘルニア(Winslow孔ヘルニア)、腸間膜裂孔ヘルニア、術後に生じる間隙(Petersen's defectなど)へのヘルニアなど。 なお、横隔膜ヘルニア(食道裂孔ヘルニアなど)は体腔内での移動であり、内ヘルニアとして扱われることが多い。

POINT

・鼠径ヘルニアは壁側腹膜に包まれた臓器が腹腔外へ出る外ヘルニアである。 ・成人の鼠径ヘルニアは男性に多く、病型は外鼠径ヘルニアが最多である。 ・腹膜鞘状突起の開存は小児の外鼠径ヘルニアの原因であり、成人では腹壁の脆弱化と腹圧の上昇が関与する。 ・内鼠径ヘルニアは下腹壁動静脈の内側のヘッセルバッハ三角から脱出し、中高年の男性に多い。 ・高齢女性に多いのは大腿ヘルニアと閉鎖孔ヘルニアである。 ・開腹手術の既往が主なリスクとなるのは腹壁瘢痕ヘルニアである。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。