心筋梗塞3日目に響く新しい雑音―壊れた心臓の「穴」と「切れた糸」を聴き分ける
第112回医師国家試験 A問題 第12問
国試問題にチャレンジ
発症3日目の急性心筋梗塞の患者に,収縮期雑音が突然,出現した。 原因として考えられるのはどれか。2つ選べ。
- a.大動脈弁閉鎖不全症
- b.左室自由壁破裂
- c.解離性大動脈瘤
- d.心室中隔穿孔
- e.乳頭筋断裂
対話形式の解説
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ドクターまとめ
急性心筋梗塞の発症後24時間〜1週間、とくに数日目は壊死心筋が最も脆弱になり、左室自由壁破裂・心室中隔穿孔・乳頭筋断裂という機械的合併症が起こりやすくなります。このうち新たな収縮期雑音を生じるのは、左室から右室への短絡で胸骨左縁下部に汎収縮期雑音を生じる心室中隔穿孔と、急性僧帽弁逆流で心尖部に収縮期雑音を生じる乳頭筋断裂です。左室自由壁破裂は心膜腔への出血による心タンポナーデが主病態で雑音は特徴的でなく、大動脈弁閉鎖不全や大動脈解離に伴う弁逆流は拡張期雑音を呈します。後乳頭筋は単一血管支配のため下壁梗塞で断裂しやすく、いずれの合併症も急速に肺水腫や心原性ショックに陥るため、心エコーで速やかに鑑別し緊急手術を検討します。発症からの時期と雑音の性状から合併症を予測する考え方は、梗塞後の患者管理に欠かせない臨床判断の基盤です。
解答・解説
正解はd, eです
テーマ
急性心筋梗塞(AMI:acute myocardial infarction)の発症後、壊死した心筋が脆弱になる時期(おおむね発症後24時間〜1週間、とくに3〜5日目前後)には、心臓の構造が壊れる「機械的合併症」が起こりやすい。代表的なものは、左室自由壁破裂、心室中隔穿孔、乳頭筋断裂の3つである。
考え方
本問のポイントは「新たに出現した収縮期雑音」である。収縮期に血液が本来とは異なる経路へ勢いよく流れると、収縮期雑音が生じる。 ・心室中隔穿孔:収縮期に高圧の左室から低圧の右室へ、穿孔部を通って血液が短絡(左右シャント)する→胸骨左縁下部の汎収縮期雑音(しばしばスリルを伴う)。 ・乳頭筋断裂:僧帽弁を支える乳頭筋が断裂し、急性の僧帽弁閉鎖不全(僧帽弁逆流)が起こる→収縮期に左室から左房へ逆流する血流による心尖部の収縮期雑音。 一方、左室自由壁破裂は心膜腔へ出血して心タンポナーデを起こす病態であり、心内での異常血流ではないため雑音は特徴的でない。 したがって、AMI発症3日目に突然出現した収縮期雑音の原因としては、心室中隔穿孔と乳頭筋断裂を考える。両者はいずれも急激な血行動態の悪化(急性心不全・肺水腫、心原性ショック)をきたしやすく、心エコー(カラードプラ)で速やかに鑑別し、緊急手術を検討する必要がある。
選択肢考察
- ×a. 大動脈弁閉鎖不全症
大動脈弁閉鎖不全症では、拡張期に大動脈から左室へ血液が逆流するため、胸骨左縁第3肋間付近を中心とした拡張期灌水様雑音を聴取する。収縮期雑音ではない。また、急性心筋梗塞の機械的合併症として大動脈弁閉鎖不全が生じることは通常ない。
- ×b. 左室自由壁破裂
左室自由壁破裂はAMI発症後1週間以内に多い致死的な合併症であるが、血液は心膜腔へ流出して心タンポナーデを起こす。突然破裂する型(blow-out型)では急激な血圧低下・意識消失・無脈性電気活動(PEA)に至り、じわじわと滲み出す型(oozing型)では亜急性のタンポナーデとして血圧低下や頸静脈怒張をきたす。心内に異常な収縮期血流を生じないため、新たな収縮期雑音の原因としては考えにくい。
- ×c. 解離性大動脈瘤
大動脈解離(解離性大動脈瘤)は急性心筋梗塞の合併症として起こるものではない。逆に、Stanford A型解離が冠動脈起始部(多くは右冠動脈)に及んで心筋梗塞を合併することはある。また解離が大動脈弁輪に及ぶと大動脈弁閉鎖不全を生じるが、その雑音は拡張期雑音である。
- ○d. 心室中隔穿孔
心室中隔の梗塞部が破綻して穿孔すると、収縮期に左室から右室へ血液が短絡し、胸骨左縁下部に粗い汎収縮期雑音(しばしば触知可能なスリルを伴う)が新たに出現する。前壁中隔梗塞(左前下行枝閉塞)に多いが、下壁梗塞でも起こる。肺血流増加と左室の前方拍出低下から急性心不全・心原性ショックに陥りやすい。心エコーのカラードプラで短絡血流を確認し、右心カテーテルでは右房から右室・肺動脈にかけての血中酸素飽和度の上昇(step-up)を認める。治療は大動脈内バルーンパンピング(IABP)などで循環を補助しつつ、外科的閉鎖術を行う。
- ○e. 乳頭筋断裂
乳頭筋が断裂すると僧帽弁尖を支えられなくなり、急性の高度僧帽弁閉鎖不全が生じて心尖部に収縮期雑音が出現する。急性の逆流では左房が拡大しておらずコンプライアンスが低いため、左房圧が急上昇し、急激な肺水腫・心原性ショックをきたす(左房圧と左室圧が早期に等しくなるため、雑音が短く小さいこともある点に注意)。後乳頭筋は右冠動脈または左回旋枝のいずれか一方のみから栄養されることが多いため、下壁・後壁梗塞で断裂しやすい。前乳頭筋は左前下行枝と左回旋枝の二重支配であり断裂しにくい。治療は緊急の僧帽弁置換術(または形成術)である。
急性心筋梗塞の主な合併症と時期
・不整脈(電気的合併症):発症直後〜24時間以内が最多。心室細動・心室頻拍は院外死亡の主因。下壁梗塞では房室ブロックや洞徐脈、前壁梗塞の房室ブロックは広範梗塞を示し予後不良。 ・心原性ショック・心不全:梗塞範囲が広い場合(一般に左室心筋の40%以上の障害)に起こりやすい。 ・機械的合併症:発症後24時間〜1週間(とくに数日以内)に多い。左室自由壁破裂、心室中隔穿孔、乳頭筋断裂。再灌流療法の普及により頻度は低下したが、いずれも致死率が高い。 ・右室梗塞:下壁梗塞に合併しやすい。低血圧・頸静脈怒張を示すが肺うっ血は乏しい。輸液で前負荷を保ち、硝酸薬は避ける。 ・心室瘤:数週間以降に形成。持続するST上昇、心不全、心室性不整脈、壁在血栓(塞栓症)の原因となる。 ・心膜炎:数日以内の梗塞後心膜炎と、数週後の自己免疫機序によるDressler症候群がある。
機械的合併症の比較
・左室自由壁破裂:心タンポナーデ(血圧低下、頸静脈怒張、PEA)。雑音なし。心エコーで心嚢液貯留。治療は心嚢穿刺と緊急手術。 ・心室中隔穿孔:胸骨左縁下部の汎収縮期雑音+スリル。左右シャント。右心カテーテルで酸素飽和度step-up。 ・乳頭筋断裂:心尖部の収縮期雑音(急性僧帽弁逆流)。急激な肺水腫。下壁梗塞(後乳頭筋)に多い。
リスク因子
高齢、女性、初回梗塞、側副血行路に乏しい、再灌流療法が行われなかった・遅れた場合などで機械的合併症が起こりやすい。
POINT
・AMIの機械的合併症は発症後1週間以内(特に数日以内)に多い ・新たな収縮期雑音→心室中隔穿孔(左右シャント)または乳頭筋断裂(急性僧帽弁逆流) ・左室自由壁破裂→心タンポナーデ(雑音は特徴的でない) ・後乳頭筋は単一血管支配のため下壁梗塞で断裂しやすい ・大動脈弁閉鎖不全は拡張期雑音 ・鑑別と診断には心エコー(カラードプラ)が第一
