StudyMed医師国家試験

「今すぐ開ける」か「整えてから開ける」か―新生児の腹部疾患を緊急度で仕分ける

第111回医師国家試験 I問題 第33問

国試問題にチャレンジ

第111回 I問題 第33問

緊急開腹手術を必要とする疾患はどれか。2つ選べ。

  1. a.胃破裂
  2. b.肥厚性幽門狭窄症
  3. c.中腸軸捻転症
  4. d.臍ヘルニア
  5. e.Hirschsprung病

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、新生児・乳児の消化管疾患を「治療の緊急度」で仕分ける問題だ。病名を知っているだけでは解けなくて、それぞれの病態で何が起きていて、放置すると何時間で何が失われるのか、を考えるのがポイントになる。まず、緊急開腹手術が必要になるのはどんな病態だと思う?
医学生医学生
外科の講義で「穿孔と絞扼は待てない」と習いました。そういうイメージでいいですか。
ドクタードクター
まさにその2本柱だね。1つは消化管の穿孔・破裂で、内容物が腹腔内に漏れて腹膜炎から敗血症、ショックへ進む。もう1つは腸管の血流障害、つまり絞扼で、血流が途絶えた腸は短時間で壊死してしまう。どちらも数時間単位で生命や腸管の生存が左右されるんだ。では胃破裂から見ていこう。
医学生医学生
新生児の胃が破れるというのは、正直あまりピンと来ません。何が原因なんでしょうか。
ドクタードクター
新生児胃破裂は多くが生後1週以内に起こる。胃壁筋層の先天的な欠損や脆弱性があるところに、哺乳や啼泣、マスク換気などで胃内圧が上がって破裂すると考えられている。大量の空気が腹腔内に漏れるから、お腹が急激にパンパンに張って横隔膜が押し上げられ、呼吸まで障害される。腹部単純X線では大量の腹腔内遊離ガスがみられ、仰臥位でもfootball signとして見えることがある。
医学生医学生
穿孔そのものなので、全身管理をしながらすぐ開腹して破裂部を修復する、ということですね。
ドクタードクター
その通り。次は中腸軸捻転症。これは胎生期の腸の回転と関係がある。中腸は上腸間膜動脈を軸に反時計回りに270度回転して腹腔内に戻り、固定される。この回転や固定が不完全な腸回転異常症では、腸間膜の付け根が狭くなって、そこを軸に中腸全体がねじれてしまうんだ。
医学生医学生
発生学の講義で出てきた270度回転ですね。ねじれると上腸間膜動脈の血流が止まるから、小腸のほとんどが一気に危なくなる……。
ドクタードクター
そう。十二指腸から横行結腸中央付近までが広範に壊死すれば、短腸症候群や死亡につながる。だから疑ったら直ちに開腹して捻転を解除するLadd手術を行う。臨床で一番大事なサインは、突然の胆汁性嘔吐だ。
医学生医学生
小児科の実習で、指導医の先生が「新生児の緑色の嘔吐は夜中でも呼んで」と言っていたのを思い出しました。
ドクタードクター
とても大事な教えだね。胆汁性嘔吐はVater乳頭より肛門側の閉塞を示すから、中腸軸捻転を否定できるまでは緊急事態として扱う。診断は上部消化管造影でのcorkscrew sign、超音波で上腸間膜動脈と静脈の位置関係の異常やwhirlpool signが手がかりになる。では、残りの3つはなぜ緊急開腹ではないのかな。肥厚性幽門狭窄症はどう?
医学生医学生
噴水状嘔吐で、いずれ手術になる病気だと覚えていたので、緊急手術かと思ってしまいました。
ドクタードクター
そこが引っかけだね。幽門筋が肥厚して胃の出口が狭くなる病気で、生後2〜3週ごろから胆汁を含まない噴水状嘔吐を繰り返す。胃液の塩酸を失うので、脱水と低クロール性代謝性アルカローシス、低カリウム血症をきたす。この状態のまま麻酔をかけると、術後の無呼吸などのリスクが高くなる。だからまず輸液で脱水と電解質を補正して、整えてから幽門筋切開術を行う。アトロピン療法という内科的な選択肢もある。
医学生医学生
手術はするけれど「待てる手術」なんですね。Hirschsprung病も同じ考え方でしょうか。
ドクタードクター
そうだね。肛門側から連続して腸管壁内の神経節細胞が欠如していて、その部分が蠕動しないため機能的な通過障害になる。胎便排泄遅延や腹部膨満で見つかることが多い。初期治療は浣腸や洗腸による減圧で、全身状態が整ってから待機的に根治術を行う。減圧が難しい例や重い腸炎を合併した例では人工肛門が必要になることもあるけれど、通常は緊急開腹の対象ではない。
医学生医学生
臍ヘルニアは、いわゆる「でべそ」ですよね。これは手術すらしないことが多いと聞きました。
ドクタードクター
その理解で合っている。小児の臍ヘルニアは1〜2歳ごろまでに大多数が自然閉鎖し、嵌頓もまれだから経過観察が基本だ。圧迫療法を行う施設もあるし、閉じない場合は待機的手術を考える。つまり今回の選択肢は、緊急手術の胃破裂と中腸軸捻転症、状態を整えてから手術する肥厚性幽門狭窄症とHirschsprung病、経過観察が基本の臍ヘルニア、という3群に分かれるんだ。
医学生医学生
正解は胃破裂と中腸軸捻転症ですね。嘔吐に胆汁が混じるかどうかで、閉塞部位と緊急度の見当がつくのも整理できました。
ドクタードクター
いいまとめだ。ほかにも緊急手術が必要なものとして、壊死性腸炎の穿孔、内科的に整復できない腸重積症、整復不能の嵌頓ヘルニアなども押さえておこう。逆に先天性十二指腸閉鎖症はdouble bubble signが有名だけど、全身状態を整えてからの手術になる。臨床では「穿孔か、絞扼か」を常に自問して、新生児の胆汁性嘔吐を見たら迷わず小児外科に連絡する。この判断の速さが、腸と命を守ることにつながるんだ。

まとめ

緊急開腹手術が必要なのは、消化管の穿孔(破裂)と腸管の血流障害(絞扼)という、数時間単位で生命や腸管が失われる病態です。新生児胃破裂は大量の腹腔内遊離ガスと腹膜炎を、中腸軸捻転症は腸回転異常を背景に上腸間膜動脈を軸とした捻転で広範な腸壊死をきたすため、ただちに手術(中腸軸捻転ではLadd手術)を行います。一方、肥厚性幽門狭窄症は脱水と低クロール性代謝性アルカローシスの補正後、Hirschsprung病は洗腸などによる減圧後に待機的に手術し、小児の臍ヘルニアは多くが自然閉鎖するため経過観察が基本です。特に新生児の胆汁性嘔吐は中腸軸捻転を否定できるまで緊急事態として扱うことが重要です。疾患を「緊急手術」「整えてから待機手術」「経過観察」に仕分ける視点は、小児外科の初期対応を判断するうえで欠かせません。

解答・解説

正解はa, cです

本問は主に新生児・乳児期の消化管疾患を、治療の緊急度によって分類できるかを問うている。 緊急開腹手術が必要になるのは、放置すると数時間単位で生命や腸管の生存が脅かされる病態であり、代表は次の2つである。 (1) 消化管穿孔(破裂):消化管内容が腹腔内に漏れて腹膜炎・敗血症・ショックに至る。新生児では腹腔内遊離ガス(気腹)による著明な腹部膨満で呼吸も障害される。 (2) 腸管の血流障害(絞扼):腸管がねじれたり締めつけられたりして血流が途絶し、短時間で壊死に陥る。中腸軸捻転はその典型で、広範な小腸壊死をきたしうる。 一方、まず全身状態や代謝異常の補正を優先し待機的に手術する疾患(肥厚性幽門狭窄症、Hirschsprung病)や、自然治癒が期待でき経過観察が基本の疾患(臍ヘルニア)は、緊急開腹手術の対象ではない。選択肢をこの3群に振り分けると、胃破裂と中腸軸捻転症が正解となる。

選択肢考察

  1. ○a.  胃破裂

    新生児胃破裂は主に生後数日以内(多くは生後1週以内)に発症する。胃壁筋層の先天的な欠損・脆弱性に、哺乳や啼泣、マスク換気などによる胃内圧の上昇が加わって大弯側などが破裂すると考えられている。大量の空気と胃内容が腹腔内に漏れ、急激な腹部膨満、呼吸障害、腹膜炎、ショックをきたす。腹部単純X線で大量の腹腔内遊離ガス(立位で横隔膜下のガス、仰臥位でfootball signなど)を認める。全身管理と並行して、ただちに開腹して破裂部を修復する緊急手術が必要である。

  2. ×b.  肥厚性幽門狭窄症

    幽門輪の筋層が肥厚して胃の出口が狭くなる疾患で、生後2〜3週ごろから哺乳のたびに胆汁を含まない噴水状嘔吐を繰り返す。男児に多い。嘔吐で胃液(塩酸)を失うため、脱水と低クロール性代謝性アルカローシス・低カリウム血症をきたす。まず輸液で脱水と電解質・酸塩基異常を補正することが優先であり、補正前の手術は麻酔のリスク(術後の無呼吸など)を高めるため緊急手術の適応ではない。補正後に幽門筋切開術(Ramstedt手術、開腹または腹腔鏡)を行うか、アトロピン硫酸塩の静注・経口投与による内科的治療を選択する。アトロピン療法は多くの症例で有効とされるが、無効例では手術に移行する。

  3. ○c.  中腸軸捻転症

    胎生期に中腸(十二指腸下行部から横行結腸中央付近まで)は臍帯内に脱出し、上腸間膜動脈(SMA)を軸に反時計回りに計270度回転しながら腹腔内に戻って固定される。この回転・固定が不完全な腸回転異常症では腸間膜の付着部が狭くなり、SMAを軸に中腸全体がねじれる(中腸軸捻転)。発症は新生児期に多く、突然の胆汁性嘔吐が特徴である。腸管への血流が途絶して短時間で中腸全体が壊死に陥るおそれがあり、広範な壊死に至ると短腸症候群や死亡につながる。上部消化管造影での十二指腸の通過障害やcorkscrew sign、超音波でのSMA・上腸間膜静脈(SMV)の位置関係の異常やwhirlpool signで診断し、疑えば直ちに開腹して捻転を解除する(Ladd手術)緊急手術を行う。

  4. ×d.  臍ヘルニア

    小児の臍ヘルニア(いわゆる「でべそ」)は、臍帯脱落後に臍輪の筋膜が閉じきらず、腸管などが皮膚に覆われたまま突出するものである。生後数か月ごろまで大きくなることがあるが、その後は縮小し、1〜2歳ごろまでに大多数が自然閉鎖する。嵌頓はまれであり、基本は経過観察である(皮膚のたるみを防ぐ目的で圧迫療法を行う施設もある)。2歳ごろを過ぎても閉鎖しない場合などに待機的手術を考慮する。成人の臍ヘルニアは自然治癒しないため手術適応となるが、嵌頓していなければ緊急手術ではない。

  5. ×e.  Hirschsprung病

    腸管壁内の神経節細胞が肛門側から連続して先天的に欠如する疾患で、無神経節腸管が蠕動せず機能的な通過障害となり、その口側腸管が拡張する。新生児期の胎便排泄遅延、腹部膨満、嘔吐で発症することが多い。診断は注腸造影(caliber change)、直腸肛門内圧検査(直腸肛門反射の欠如)、直腸粘膜生検(アセチルコリンエステラーゼ染色陽性線維の増生、神経節細胞の欠如)による。初期治療は浣腸・洗腸やブジーによる腸管減圧であり、全身状態と体重増加を待って待機的に根治術(無神経節腸管を切除して正常腸管を肛門へ引き下ろす手術)を行う。減圧が困難な例や重症の腸炎を合併した例では人工肛門造設が必要となるが、通常は緊急開腹手術の対象ではない。

新生児・乳児の消化管疾患と治療の緊急度

・緊急手術:消化管穿孔(新生児胃破裂、壊死性腸炎の穿孔など)、中腸軸捻転、内科的整復不能の腸重積症、嵌頓ヘルニアの整復不能例など。 ・状態を整えてから待機的に手術:肥厚性幽門狭窄症(脱水・アルカローシス補正後)、Hirschsprung病(減圧後)、先天性十二指腸閉鎖症など。 ・自然治癒を期待して経過観察:小児の臍ヘルニア、陰嚢水腫(精巣水瘤)など。

嘔吐の性状と鑑別

・胆汁を含まない嘔吐:閉塞部位がVater乳頭より口側(肥厚性幽門狭窄症など)。 ・胆汁性嘔吐:Vater乳頭より肛門側の閉塞(中腸軸捻転、十二指腸閉鎖など)。新生児の胆汁性嘔吐は中腸軸捻転を否定できるまで緊急事態として扱う。

腹部単純X線の典型像

・胃破裂(消化管穿孔):大量の腹腔内遊離ガス。 ・十二指腸閉鎖:double bubble sign。 ・肥厚性幽門狭窄症:胃泡の拡大(single bubble)。超音波で幽門筋の肥厚(厚さ約4mm以上)・幽門管の延長を認める。

腸回転異常症と中腸軸捻転

正常では中腸はSMAを軸に計270度反時計回りに回転して固定される。回転異常ではLadd靱帯(盲腸から右側腹壁へ走る異常索状物)による十二指腸の圧迫や、腸間膜根部が狭いことによる軸捻転を起こす。Ladd手術では捻転解除、Ladd靱帯の切離、腸間膜根部の開大、虫垂切除などを行う。

POINT

・緊急開腹手術が必要なのは「穿孔(胃破裂など)」と「絞扼・血流障害(中腸軸捻転など)」。 ・新生児の胆汁性嘔吐は中腸軸捻転を疑い緊急対応する。 ・肥厚性幽門狭窄症は脱水・低Cl性代謝性アルカローシスの補正が先、その後に幽門筋切開術またはアトロピン療法。 ・Hirschsprung病は洗腸・浣腸による減圧後、待機的に根治術。 ・小児の臍ヘルニアは大多数が自然閉鎖するため経過観察が基本。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。