「今すぐ開ける」か「整えてから開ける」か―新生児の腹部疾患を緊急度で仕分ける
第111回医師国家試験 I問題 第33問
国試問題にチャレンジ
緊急開腹手術を必要とする疾患はどれか。2つ選べ。
- a.胃破裂
- b.肥厚性幽門狭窄症
- c.中腸軸捻転症
- d.臍ヘルニア
- e.Hirschsprung病
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
緊急開腹手術が必要なのは、消化管の穿孔(破裂)と腸管の血流障害(絞扼)という、数時間単位で生命や腸管が失われる病態です。新生児胃破裂は大量の腹腔内遊離ガスと腹膜炎を、中腸軸捻転症は腸回転異常を背景に上腸間膜動脈を軸とした捻転で広範な腸壊死をきたすため、ただちに手術(中腸軸捻転ではLadd手術)を行います。一方、肥厚性幽門狭窄症は脱水と低クロール性代謝性アルカローシスの補正後、Hirschsprung病は洗腸などによる減圧後に待機的に手術し、小児の臍ヘルニアは多くが自然閉鎖するため経過観察が基本です。特に新生児の胆汁性嘔吐は中腸軸捻転を否定できるまで緊急事態として扱うことが重要です。疾患を「緊急手術」「整えてから待機手術」「経過観察」に仕分ける視点は、小児外科の初期対応を判断するうえで欠かせません。
解答・解説
正解はa, cです
本問は主に新生児・乳児期の消化管疾患を、治療の緊急度によって分類できるかを問うている。 緊急開腹手術が必要になるのは、放置すると数時間単位で生命や腸管の生存が脅かされる病態であり、代表は次の2つである。 (1) 消化管穿孔(破裂):消化管内容が腹腔内に漏れて腹膜炎・敗血症・ショックに至る。新生児では腹腔内遊離ガス(気腹)による著明な腹部膨満で呼吸も障害される。 (2) 腸管の血流障害(絞扼):腸管がねじれたり締めつけられたりして血流が途絶し、短時間で壊死に陥る。中腸軸捻転はその典型で、広範な小腸壊死をきたしうる。 一方、まず全身状態や代謝異常の補正を優先し待機的に手術する疾患(肥厚性幽門狭窄症、Hirschsprung病)や、自然治癒が期待でき経過観察が基本の疾患(臍ヘルニア)は、緊急開腹手術の対象ではない。選択肢をこの3群に振り分けると、胃破裂と中腸軸捻転症が正解となる。
選択肢考察
- ○a. 胃破裂
新生児胃破裂は主に生後数日以内(多くは生後1週以内)に発症する。胃壁筋層の先天的な欠損・脆弱性に、哺乳や啼泣、マスク換気などによる胃内圧の上昇が加わって大弯側などが破裂すると考えられている。大量の空気と胃内容が腹腔内に漏れ、急激な腹部膨満、呼吸障害、腹膜炎、ショックをきたす。腹部単純X線で大量の腹腔内遊離ガス(立位で横隔膜下のガス、仰臥位でfootball signなど)を認める。全身管理と並行して、ただちに開腹して破裂部を修復する緊急手術が必要である。
- ×b. 肥厚性幽門狭窄症
幽門輪の筋層が肥厚して胃の出口が狭くなる疾患で、生後2〜3週ごろから哺乳のたびに胆汁を含まない噴水状嘔吐を繰り返す。男児に多い。嘔吐で胃液(塩酸)を失うため、脱水と低クロール性代謝性アルカローシス・低カリウム血症をきたす。まず輸液で脱水と電解質・酸塩基異常を補正することが優先であり、補正前の手術は麻酔のリスク(術後の無呼吸など)を高めるため緊急手術の適応ではない。補正後に幽門筋切開術(Ramstedt手術、開腹または腹腔鏡)を行うか、アトロピン硫酸塩の静注・経口投与による内科的治療を選択する。アトロピン療法は多くの症例で有効とされるが、無効例では手術に移行する。
- ○c. 中腸軸捻転症
胎生期に中腸(十二指腸下行部から横行結腸中央付近まで)は臍帯内に脱出し、上腸間膜動脈(SMA)を軸に反時計回りに計270度回転しながら腹腔内に戻って固定される。この回転・固定が不完全な腸回転異常症では腸間膜の付着部が狭くなり、SMAを軸に中腸全体がねじれる(中腸軸捻転)。発症は新生児期に多く、突然の胆汁性嘔吐が特徴である。腸管への血流が途絶して短時間で中腸全体が壊死に陥るおそれがあり、広範な壊死に至ると短腸症候群や死亡につながる。上部消化管造影での十二指腸の通過障害やcorkscrew sign、超音波でのSMA・上腸間膜静脈(SMV)の位置関係の異常やwhirlpool signで診断し、疑えば直ちに開腹して捻転を解除する(Ladd手術)緊急手術を行う。
- ×d. 臍ヘルニア
小児の臍ヘルニア(いわゆる「でべそ」)は、臍帯脱落後に臍輪の筋膜が閉じきらず、腸管などが皮膚に覆われたまま突出するものである。生後数か月ごろまで大きくなることがあるが、その後は縮小し、1〜2歳ごろまでに大多数が自然閉鎖する。嵌頓はまれであり、基本は経過観察である(皮膚のたるみを防ぐ目的で圧迫療法を行う施設もある)。2歳ごろを過ぎても閉鎖しない場合などに待機的手術を考慮する。成人の臍ヘルニアは自然治癒しないため手術適応となるが、嵌頓していなければ緊急手術ではない。
- ×e. Hirschsprung病
腸管壁内の神経節細胞が肛門側から連続して先天的に欠如する疾患で、無神経節腸管が蠕動せず機能的な通過障害となり、その口側腸管が拡張する。新生児期の胎便排泄遅延、腹部膨満、嘔吐で発症することが多い。診断は注腸造影(caliber change)、直腸肛門内圧検査(直腸肛門反射の欠如)、直腸粘膜生検(アセチルコリンエステラーゼ染色陽性線維の増生、神経節細胞の欠如)による。初期治療は浣腸・洗腸やブジーによる腸管減圧であり、全身状態と体重増加を待って待機的に根治術(無神経節腸管を切除して正常腸管を肛門へ引き下ろす手術)を行う。減圧が困難な例や重症の腸炎を合併した例では人工肛門造設が必要となるが、通常は緊急開腹手術の対象ではない。
新生児・乳児の消化管疾患と治療の緊急度
・緊急手術:消化管穿孔(新生児胃破裂、壊死性腸炎の穿孔など)、中腸軸捻転、内科的整復不能の腸重積症、嵌頓ヘルニアの整復不能例など。 ・状態を整えてから待機的に手術:肥厚性幽門狭窄症(脱水・アルカローシス補正後)、Hirschsprung病(減圧後)、先天性十二指腸閉鎖症など。 ・自然治癒を期待して経過観察:小児の臍ヘルニア、陰嚢水腫(精巣水瘤)など。
嘔吐の性状と鑑別
・胆汁を含まない嘔吐:閉塞部位がVater乳頭より口側(肥厚性幽門狭窄症など)。 ・胆汁性嘔吐:Vater乳頭より肛門側の閉塞(中腸軸捻転、十二指腸閉鎖など)。新生児の胆汁性嘔吐は中腸軸捻転を否定できるまで緊急事態として扱う。
腹部単純X線の典型像
・胃破裂(消化管穿孔):大量の腹腔内遊離ガス。 ・十二指腸閉鎖:double bubble sign。 ・肥厚性幽門狭窄症:胃泡の拡大(single bubble)。超音波で幽門筋の肥厚(厚さ約4mm以上)・幽門管の延長を認める。
腸回転異常症と中腸軸捻転
正常では中腸はSMAを軸に計270度反時計回りに回転して固定される。回転異常ではLadd靱帯(盲腸から右側腹壁へ走る異常索状物)による十二指腸の圧迫や、腸間膜根部が狭いことによる軸捻転を起こす。Ladd手術では捻転解除、Ladd靱帯の切離、腸間膜根部の開大、虫垂切除などを行う。
POINT
・緊急開腹手術が必要なのは「穿孔(胃破裂など)」と「絞扼・血流障害(中腸軸捻転など)」。 ・新生児の胆汁性嘔吐は中腸軸捻転を疑い緊急対応する。 ・肥厚性幽門狭窄症は脱水・低Cl性代謝性アルカローシスの補正が先、その後に幽門筋切開術またはアトロピン療法。 ・Hirschsprung病は洗腸・浣腸による減圧後、待機的に根治術。 ・小児の臍ヘルニアは大多数が自然閉鎖するため経過観察が基本。
