StudyMed医師国家試験

飲みすぎた翌朝と、胃を取ったあとの食後―低血糖を「機序」で読み解く

第111回医師国家試験 I問題 第34問

国試問題にチャレンジ

第111回 I問題 第34問

低血糖をきたすのはどれか。2つ選べ。

  1. a.大量の飲酒
  2. b.乳糖不耐症
  3. c.胃全摘術後
  4. d.インターフェロン投与
  5. e.非ステロイド性抗炎症薬〈NSAIDs〉投与

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、低血糖をきたす病態を選ぶ問題だ。原因を丸暗記するより、血糖がどうやって保たれているかを押さえて、その仕組みのどこが崩れるのかを考えると整理しやすい。まず、空腹時に血糖を支えているのは何だと思う?
医学生医学生
生化学で習った、肝臓のグリコーゲン分解と糖新生です。
ドクタードクター
その通り。食後は消化管からのブドウ糖吸収、空腹時は肝臓からの供給で血糖が保たれる。だから低血糖は大きく2つの場面で起こる。1つは空腹時低血糖で、肝臓からの供給が減るか、インスリン作用が過剰になる場合。もう1つは食後の反応性低血糖で、食後に血糖が急上昇したのに対してインスリンが過剰に出て、あとから下がりすぎる場合だ。この枠組みで選択肢を見ていこう。まず大量の飲酒はどうかな。
医学生医学生
救急科の実習で、飲酒翌朝に意識障害で搬送された人の血糖が低くて驚いたことがあります。でも、なぜアルコールで血糖が下がるのかまでは説明できません。
ドクタードクター
いい経験をしているね。エタノールは肝臓で代謝されるときにNADHを大量に生じて、NADH/NAD⁺比が上がる。すると乳酸からピルビン酸への反応などが進まなくなって、糖新生が抑えられるんだ。食事をとらずに大量に飲むと、肝グリコーゲンが尽きたあとに糖新生で支えられなくなって、空腹時低血糖になる。
医学生医学生
低栄養のアルコール多飲者だと、もともとグリコーゲンの蓄えが少ないので、さらに起こりやすいということですね。
ドクタードクター
そう。それに、インスリンやスルホニル尿素薬を使っている糖尿病患者では、飲酒が低血糖を強めて長引かせることもある。次は胃全摘術後だ。
医学生医学生
ダンピング症候群ですね。ただ、早期と後期のどちらが低血糖だったか、CBTの勉強のときによく混乱していました。
ドクタードクター
多くの人がつまずくところだね。胃がなくなると、食物をためて少しずつ送り出す機能が失われて、一気に小腸へ流れ込む。後期ダンピング症候群では、糖質が急速に吸収されて食後早期に高血糖になり、それに反応してインスリンが過剰に分泌される。ブドウ糖の吸収が終わってもインスリン作用が残るから、食後2〜3時間ごろに冷汗、動悸、手指振戦、意識障害などの低血糖症状が出るんだ。
医学生医学生
早期ダンピングは食後30分以内で、高浸透圧の内容物が流れ込むことによる症状だから、低血糖が主体ではないんですね。「後期が低血糖」と覚えます。
ドクタードクター
それでいい。予防には少量頻回の食事、糖質を控えめにしてゆっくり食べることが基本で、症状が出たら糖質を補給する。では、ここからは違う選択肢だ。インターフェロン投与はどう考える?
医学生医学生
消化器内科の講義でC型肝炎の治療薬として習いました。副作用が多い薬という印象ですが、低血糖もあったかどうか……。
ドクタードクター
インターフェロンは耐糖能をむしろ悪化させる方向に働く。インスリン抵抗性を高めて高血糖を起こしたり、膵島関連自己抗体の出現を誘発して1型糖尿病を発症させたりすることがある。ほかにも投与初期のインフルエンザ様症状、抑うつ、間質性肺炎、血球減少、甲状腺機能異常などが重要な副作用だ。低血糖とは逆向きだと覚えておこう。
医学生医学生
乳糖不耐症は、乳糖を分解できないから吸収できる糖が減って、血糖が下がるような気がしてしまいます。
ドクタードクター
ありがちな誤解だね。ラクターゼが働かないと乳糖が吸収されず、腸管内に水を引き込んだり大腸で発酵されたりして、腹部膨満や腹痛、浸透圧性下痢を起こす。乳糖負荷試験で血糖が上がらないことは診断の手がかりになるけれど、それは「上がらない」だけで、血糖を正常以下に下げる仕組みはないんだ。
医学生医学生
NSAIDsも低血糖とは結びつかない気がします。薬理学の講義では、消化性潰瘍と腎障害、アスピリン喘息が中心でした。
ドクタードクター
その理解で問題ない。大量のアスピリンなどが低血糖に関与しうると書いている成書もあるけれど、頻度は低く、低血糖をきたす代表とはいえない。この問題では、明確に低血糖を起こす大量の飲酒と胃全摘術後の2つが正解になる。
医学生医学生
空腹時に肝臓からの供給が落ちるのがアルコール、食後にインスリンが過剰になるのが胃切除後、という2つの型に分けて考えればよかったんですね。
ドクタードクター
その通り。発展として、低血糖の原因全体も同じ枠組みで整理しておこう。最も多いのは薬剤性で、インスリン、スルホニル尿素薬が代表。シベンゾリンなどの抗不整脈薬やニューキノロン系抗菌薬も知られている。インスリン過剰ならインスリノーマやインスリン自己免疫症候群、拮抗ホルモン不足なら副腎不全や下垂体機能低下症、ほかに肝不全、腎不全、大型腫瘍によるIGF-Ⅱ産生なども挙がる。臨床で注意したいのは、β遮断薬を飲んでいる人や低血糖を繰り返している人では動悸や発汗が出にくく、いきなり意識障害で見つかることがある点だ。意識障害の患者を診たら、まず血糖を測る習慣をつけておこう。

まとめ

血糖は食後には消化管からの吸収、空腹時には肝臓のグリコーゲン分解と糖新生で保たれており、低血糖は「空腹時に肝臓からの供給が減るかインスリン作用が過剰になる場合」と「食後の反応性低血糖」に分けて考えると整理できます。大量の飲酒はNADH/NAD⁺比の上昇によって肝の糖新生を抑え、特に食事をとらない場合に空腹時低血糖を起こします。胃全摘術後の後期ダンピング症候群では、食後の急激な高血糖に続くインスリン過剰分泌によって、食後2〜3時間ごろに反応性低血糖が起こります。一方、インターフェロンはむしろ糖尿病の発症・悪化の原因となり、乳糖不耐症は浸透圧性下痢を起こすものの血糖を下げる機序はなく、NSAIDsも低血糖の代表的原因とはいえません。低血糖の原因を機序で整理し、意識障害ではまず血糖を測る姿勢を身につけることは、救急や内科診療の基本になります。

解答・解説

正解はa, cです

低血糖の原因を機序ごとに整理できているかを問う問題である。 血糖値は、食後は消化管からのブドウ糖吸収によって、空腹時は肝臓のグリコーゲン分解と糖新生(乳酸・アミノ酸・グリセロールなどからブドウ糖を新たに作ること)によって維持されている。したがって低血糖は大きく次の二つの場面で起こる。 (1) 空腹時低血糖: 肝臓からのブドウ糖供給が減る(糖新生の抑制、肝不全、副腎不全、飢餓など)か、インスリン作用が過剰になる(インスリノーマ、インスリン・スルホニル尿素薬の使用など)。 (2) 食後(反応性)低血糖: 食後の急激な血糖上昇に対してインスリンが過剰・遅れて分泌され、その後に血糖が下がりすぎる(胃切除後の後期ダンピング症候群など)。 選択肢を見ると、大量飲酒は(1)の糖新生抑制、胃全摘術後は(2)の反応性低血糖の典型例である。一方、インターフェロンはむしろ高血糖(糖尿病の発症・悪化)の原因として知られ、乳糖不耐症は消化管症状を起こすが血糖を下げる病態ではない。NSAIDsの主な副作用は消化管・腎・喘息であり、国試レベルでは低血糖の原因とはみなさない。

選択肢考察

  1. ○a.  大量の飲酒

    アルコール(エタノール)は肝臓で代謝される際にNADH(還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)を大量に生じ、細胞内のNADH/NAD⁺比が上昇する。その結果、乳酸→ピルビン酸などの反応が進まなくなり、肝臓での糖新生が抑えられる。食事をとらずに大量に飲酒すると、肝グリコーゲンが枯渇した後に糖新生で血糖を支えられなくなり、空腹時低血糖をきたす(アルコール性低血糖)。飲酒翌朝の意識障害の鑑別として重要であり、低栄養のアルコール多飲者ではさらに起こりやすい。また、インスリンやスルホニル尿素薬を使用中の糖尿病患者では、飲酒が低血糖を増強・遷延させる。

  2. ×b.  乳糖不耐症

    乳糖不耐症は、小腸刷子縁の二糖類分解酵素であるラクターゼの活性低下・欠損により、乳糖(ラクトース)をグルコースとガラクトースに分解・吸収できない状態である。吸収されなかった乳糖は浸透圧によって腸管内に水分を引き込み、さらに大腸で腸内細菌に発酵されて短鎖脂肪酸やガスを生じるため、乳製品摂取後に腹部膨満・腹痛・浸透圧性(酸性)下痢をきたす。乳糖負荷試験では血糖が上昇しないことが診断の手がかりとなるが、これは「上がらない」だけであり、血糖を正常以下に下げる機序はない。したがって低血糖の原因にはならない。

  3. ○c.  胃全摘術後

    胃を全摘すると、食物を一時的にため込んで少しずつ十二指腸へ送り出す機能が失われ、摂取した食物が一気に小腸へ流れ込む(ダンピング症候群)。後期ダンピング症候群では、糖質が急速に吸収されて食後早期に一過性の高血糖となり、それに反応してインスリンが過剰に分泌される。食後2〜3時間ごろ、ブドウ糖の吸収が終わってもインスリン作用が残るために反応性低血糖を起こし、冷汗・動悸・手指振戦・脱力感・意識障害などがみられる。なお食後30分以内に起こる早期ダンピング症候群は、高浸透圧の内容物が小腸に流入することによる循環血漿量の減少や消化管ホルモン・血管作動性物質の放出が主体で、動悸・めまい・腹痛・下痢などを呈するが、低血糖が主体ではない。

  4. ×d.  インターフェロン投与

    インターフェロン(IFN)はC型肝炎や一部の腫瘍などに用いられてきた薬剤で、耐糖能に対してはむしろ悪化方向に働く。インスリン抵抗性を高めて2型糖尿病様の高血糖を起こしたり既存の糖尿病を悪化させたりするほか、膵島関連自己抗体の出現を誘発して1型糖尿病を発症させることもある。その他の重要な副作用として、投与初期のインフルエンザ様症状(発熱・倦怠感)、抑うつ(自殺企図に注意)、間質性肺炎、白血球・血小板減少、甲状腺機能異常などがある。低血糖の原因としては挙げられない。

  5. ×e.  非ステロイド性抗炎症薬〈NSAIDs〉投与

    NSAIDsはシクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害してプロスタグランジンの産生を抑える薬剤であり、代表的な副作用は消化性潰瘍・消化管出血、腎血流低下による腎障害、アスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息)などである。アスピリン(大量のサリチル酸)など一部の薬剤は、スルホニル尿素薬の作用増強などを介して低血糖に関与しうると記載している成書もあるが、頻度は低く、低血糖をきたす薬剤の代表とはいえない。本問の他の選択肢と比べ、明確に低血糖を起こす病態とはいえないため誤りと判断する。

低血糖の定義と症状

一般に血糖値70mg/dL未満を低血糖の目安とする。症状は二つに分けられる。 ・交感神経刺激症状(血糖が下がると拮抗ホルモンとしてアドレナリンが分泌されるため): 発汗、動悸、手指振戦、不安感、顔面蒼白 ・中枢神経症状(脳のブドウ糖不足による): 頭痛、集中力低下、異常行動、けいれん、意識障害 β遮断薬の内服中や低血糖を繰り返す患者(無自覚性低血糖)では交感神経症状が出にくく、いきなり意識障害で発見されることがある。

低血糖の主な原因の整理

・薬剤性(最も多い): インスリン、スルホニル尿素薬、速効型インスリン分泌促進薬。その他、シベンゾリン・ジソピラミドなどの抗不整脈薬、ニューキノロン系抗菌薬、ペンタミジン、β遮断薬(症状のマスクと遷延)など ・インスリン過剰: インスリノーマ、インスリン自己免疫症候群(インスリン自己抗体による) ・肝臓からの糖供給低下: アルコール、重症肝不全、飢餓・低栄養、敗血症 ・拮抗ホルモン不足: 副腎皮質機能低下症(コルチゾール欠乏)、下垂体機能低下症(ACTH・GH欠乏) ・腎不全: 腎での糖新生低下とインスリン・薬剤の排泄遅延 ・腫瘍によるIGF-Ⅱ産生: 大型の間葉系腫瘍などによる非膵島細胞腫瘍低血糖(NICTH) ・食後反応性低血糖: 胃切除後の後期ダンピング症候群、肥満手術後など

ダンピング症候群の比較

・早期: 食後30分以内。高浸透圧の食物が小腸に急速に流入し、体液の腸管内移動と消化管ホルモン・血管作動性物質の分泌による。動悸、発汗、めまい、腹痛、下痢 ・後期: 食後2〜3時間。急激な高血糖→インスリン過剰分泌→反応性低血糖。冷汗、動悸、振戦、脱力、意識障害 予防には少量頻回の食事、糖質を控えめにしてゆっくり食べることが基本で、後期ダンピングの低血糖症状が出たら糖質を補給する。

POINT

・アルコールはNADH/NAD⁺比を上げて肝の糖新生を抑制し、空腹時低血糖を起こす。 ・胃切除後の後期ダンピング症候群は食後2〜3時間の反応性低血糖(高血糖→インスリン過剰分泌)。早期ダンピング(食後30分以内)は低血糖ではない。 ・インターフェロンは糖尿病の発症・悪化(高血糖)の原因となる。 ・乳糖不耐症は浸透圧性下痢をきたすが、低血糖は起こさない。 ・薬剤性低血糖の代表はインスリン・スルホニル尿素薬で、シベンゾリン、ニューキノロン系なども知られる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。