妊娠10週のエコーに映るもの、まだ映らないもの―時期で考える胎児超音波
第111回医師国家試験 G問題 第31問
国試問題にチャレンジ
妊娠10週の経腟超音波検査で診断できるのはどれか。
- a.無脳児
- b.前置胎盤
- c.頸管無力症
- d.羊水過多症
- e.横隔膜ヘルニア
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
妊娠10週の経腟超音波では、CRL計測(約3cm)の際に胎児頭部の輪郭が観察できるため、無脳症・無頭蓋症のような頭部の大きな形態異常を疑い、診断しうるのが特徴で、骨化が進む11〜13週ではより確実になります。一方、前置胎盤は胎盤位置が妊娠経過で変化するため31週末ごろまでに診断し、頸管長は16〜24週ごろ、羊水量は中期以降の経腹超音波、横隔膜ヘルニアは18〜20週ごろの形態スクリーニングで評価します。無脳症は神経管閉鎖障害の一つで、母体血清AFPの上昇を伴い、妊娠前からの葉酸摂取で予防が期待できます。「どの異常をどの時期に評価できるか」を胎児の発育や子宮の変化と結びつけて理解することが、妊婦健診での超音波検査を適切に読み解く基礎になります。
解答・解説
正解はaです
本問は、妊娠10週という妊娠初期の時点で、経腟超音波検査によって何が評価・診断できるかを問う問題である。
妊娠10週の超音波で見えるもの
妊娠初期は子宮がまだ骨盤内にあるため、子宮に近い腟からプローブを当てる経腟超音波が主に使われる。妊娠10週の胎児は頭殿長(CRL:頭頂から殿部までの長さ)が約3cmで、頭部と体幹が区別して描出できる。CRLは妊娠8〜11週ごろに分娩予定日の確認(妊娠週数の修正)に用いられる計測値であり、この計測の際に胎児の頭部の形が観察される。妊娠初期(おおむね10〜13週)の胎児形態の観察で評価できる代表的な異常は、無頭蓋症・無脳症、脳瘤、胎児後頸部の著明な浮腫(NT肥厚)、頸部嚢胞性リンパ管腫など、頭頸部の大きな形態異常である。
時期が合わないもの
一方、胎盤の位置、子宮頸管の状態、羊水量、胸腹部臓器の細かい形態は、妊娠中期以降に評価するのが原則である。妊娠初期には胎盤位置が後に変化しうること、子宮体部と頸部の境が分かりにくいこと、羊水量の異常がまだ現れにくいこと、胎児の臓器が小さく横隔膜などの細かい構造を評価できないことが理由である。 したがって、妊娠10週の経腟超音波で診断しうるのは、頭部の大きな形態異常である無脳児である。
選択肢考察
- ○a. 無脳児
正しい。無脳症は神経管の頭側が閉じないために起こる神経管閉鎖障害で、頭蓋冠と大脳が欠損する致死的な異常である。胎内では、まず頭蓋骨のない状態(無頭蓋症)で脳組織が羊水中に露出し、羊水にさらされて脳組織が壊れていくことで無脳症に至ると考えられている。妊娠10週ごろにはCRL計測の際に頭部の輪郭が観察されるため、正常な頭部の形が描出されなければ妊娠初期に疑い、診断することができる。頭蓋骨の骨化が進む妊娠11〜13週ではさらに確実に評価できる。無脳症では母体血清・羊水のαフェトプロテイン(AFP)が上昇するが、妊娠初期の診断は主に超音波で行う。予防として、妊娠前からの葉酸摂取が神経管閉鎖障害のリスクを下げる。
- ×b. 前置胎盤
誤り。前置胎盤は胎盤が内子宮口を覆う、またはその近くに付着している状態である。妊娠初期から中期に胎盤が低い位置にあっても、子宮下部が伸びるにつれて胎盤の下端が内子宮口から離れていくこと(いわゆるplacental migration)が多いため、妊娠10週の所見では診断できない。一般には妊娠中期の超音波で前置胎盤を疑い、妊娠31週末ごろまでに経腟超音波で内子宮口と胎盤下縁の位置関係を確認して診断する。
- ×c. 頸管無力症
誤り。頸管無力症は、陣痛などの子宮収縮がないにもかかわらず子宮頸管が短縮・開大し、妊娠中期の流産や早産を起こす状態である。妊娠初期は子宮体部と頸部の境界がはっきりせず、頸管の短縮や内子宮口の開大(漏斗状変化)を正しく評価できない。頸管長の経腟超音波計測はおおむね妊娠16〜24週ごろに行い、頸管長の短縮(25mm未満が一つの目安)や内子宮口の開大を確認する。最終的な診断は既往歴や臨床経過も含めて行う。
- ×d. 羊水過多症
誤り。羊水量の評価は妊娠中期・後期に経腹超音波で行い、羊水ポケット(羊水腔の最大垂直深度)が8cm以上、または羊水インデックス(AFI:子宮を4区画に分けて測った最大深度の合計)が24〜25cm以上を羊水過多とする。羊水の大部分は妊娠中期以降の胎児尿でつくられ、羊水過多の原因となる胎児の嚥下障害(消化管閉鎖、神経筋疾患など)や母体の糖尿病の影響も妊娠中期以降に現れる。したがって妊娠10週の経腟超音波では診断できない。子宮底長が週数に比べて大きいことが疑うきっかけになる。
- ×e. 横隔膜ヘルニア
誤り。先天性横隔膜ヘルニアは横隔膜の欠損部から腹部臓器が胸腔内へ脱出し、肺の発育が妨げられる(肺低形成)疾患である。妊娠10週の胎児は臓器が小さく、横隔膜の欠損や胸腔内の胃・腸管を評価することはできない。また妊娠12週ごろまでは腸管が臍帯内に出ている生理的臍帯ヘルニアの時期でもある。横隔膜ヘルニアは妊娠中期(18〜20週ごろ)の胎児形態スクリーニングで、心臓が片側に押されている、胸腔内に胃泡が見えるといった所見から見つかることが多い。
妊娠時期ごとの主な超音波評価
・妊娠初期(〜13週):子宮内の胎嚢の確認(異所性妊娠の除外)、胎児心拍の確認、CRLによる妊娠週数の確認、多胎の膜性診断、頭頸部の大きな形態異常(無頭蓋症・無脳症、脳瘤、NT肥厚、頸部嚢胞性リンパ管腫など)。主に経腟超音波。 ・妊娠中期(18〜20週ごろ):胎児形態異常スクリーニング(中枢神経、顔面、心臓の四腔断面、横隔膜、腹壁、消化管、腎・膀胱、四肢など)、胎盤位置、頸管長(16〜24週ごろ、経腟超音波)。 ・妊娠後期:胎児発育(推定体重)、羊水量、胎位、前置胎盤の確定診断(31週末ごろまで)。
神経管閉鎖障害
・無脳症(頭側の閉鎖不全)と二分脊椎(尾側の閉鎖不全)が代表的である。 ・神経管は胎生4週ごろ(妊娠6週ごろ)に閉鎖するため、予防には妊娠1か月以上前からの葉酸摂取(1日0.4mg)が推奨される。 ・母体血清AFPや羊水AFPが上昇する。 ・無脳症は生後長く生存できない致死的疾患である。
NT(nuchal translucency)
妊娠11〜13週に胎児の後頸部に見られる皮下の低エコー域の厚さである。肥厚は染色体異常(21トリソミーなど)や心疾患との関連が知られるが、それだけで診断が決まるものではなく、検査の実施には十分な説明と同意が必要である。
POINT
・妊娠10週の経腟超音波では、CRL計測(約3cm)とともに頭部の大きな形態異常(無脳症・無頭蓋症)を診断しうる。 ・前置胎盤は胎盤位置が変化するため妊娠初期には診断しない(31週末ごろまでに経腟超音波で診断)。 ・頸管長評価は妊娠16〜24週ごろ、羊水量評価は妊娠中期以降の経腹超音波。 ・横隔膜ヘルニアなど胸腹部の形態異常は妊娠中期(18〜20週)のスクリーニングで見つかる。
