StudyMed医師国家試験

左を向いても動かない左眼―9方向眼位で見抜く外転神経麻痺

第111回医師国家試験 G問題 第32問

国試問題にチャレンジ

第111回 G問題 第32問

眼位および眼球運動の診察を行っている。9方向の眼位を別に示す。  診断はどれか。

第111回 G問題 第32問の問題画像
  1. a.外転神経麻痺
  2. b.滑車神経麻痺
  3. c.顔面神経麻痺
  4. d.三叉神経麻痺
  5. e.動眼神経麻痺

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は9方向眼位の写真から、どの外眼筋、つまりどの脳神経が障害されているかを読み取る問題だ。ポイントは「どの方向を見たときに、どちらの眼の動きが悪いか」を見つけること。その前に、写真の向きについて一つ確認しておこう。9方向眼位の写真で、写真の右側に写っている眼は患者のどちらの眼かな。
医学生医学生
検者が正面から見た向きで並んでいるので、写真の右側は患者の左眼、ですよね。OSCEで対座法をやったときも左右を取り違えそうになりました。
ドクタードクター
その通り。ここを間違えると患側を逆に答えてしまうから要注意だ。では写真を見ていこう。患者が左を見たとき、右眼はしっかり内側へ寄っているのに、左眼は外側へ動かず、ほぼ正面の位置にとどまっている。つまり左眼の外転障害だね。一方、右方視や上方視・下方視では両眼とも大きな制限はない。
医学生医学生
正面視でも左眼が少し内側に寄っているように見えます。これも関係ありますか。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。外転を担う筋が働かないと、その拮抗筋である内直筋の作用が相対的に勝って、正面視でも患眼が内側へ偏位する。麻痺性の内斜視だ。角膜反射法、いわゆるHirschberg法で見ると、反射光が瞳孔中央より外側にずれる形になる。
医学生医学生
外転は外直筋で、外直筋は外転神経支配なので、左外転神経麻痺ですね。神経解剖の講義で「LR6 SO4、残りはⅢ」と覚えました。
ドクタードクター
完璧だ。外転障害だけが単独でみられ、眼瞼下垂や瞳孔異常もない。これが外転神経麻痺の典型像だよ。患者さんは「左を見ると横に二重に見える」と、水平性の複視を訴えることが多い。では、ほかの選択肢も確認しよう。まず動眼神経麻痺はどうかな。
医学生医学生
動眼神経は外眼筋を4つも支配しているので、外転神経麻痺と間違えることはなさそうですが……。
ドクタードクター
そう、障害のパターンがまったく違う。動眼神経は内直筋・上直筋・下直筋・下斜筋に加えて、上眼瞼挙筋と瞳孔括約筋も支配している。完全麻痺だと外直筋と上斜筋だけが残るので、患眼は正面視で外下方へ偏位し、眼瞼下垂と散瞳を伴う。今回は内転も上下転も保たれ、眼瞼下垂も散瞳もないから否定できるね。
医学生医学生
滑車神経麻痺は上斜筋でしたよね。上斜筋の作用がいつもややこしくて混乱します。
ドクタードクター
多くの人がつまずくところだね。上斜筋は内旋と、内転した位置での下転を担う。だから麻痺すると内下方視が障害され、患眼が上方へずれる上斜視になって、上下・斜めにずれる複視が出る。患者さんは複視を減らそうと健側へ頭を傾けることが多く、患側に頭を傾けると上斜視が強くなる。これがBielschowsky頭部傾斜試験だ。今回は内下方視が保たれていて、障害は水平の外転に限られるから当てはまらない。
医学生医学生
顔面神経と三叉神経は、そもそも外眼筋を動かしていないですよね。
ドクタードクター
その通り。顔面神経は表情筋の運動神経で、眼に関係するのは眼輪筋麻痺による閉瞼不全、いわゆる兎眼くらい。三叉神経は顔面や角膜の感覚と咀嚼筋の運動を担っていて、障害で角膜反射の求心路が落ちることはあるけれど、眼球運動障害は起こさない。どちらも今回の外転障害は説明できないね。
医学生医学生
動きの悪い方向から麻痺筋を推定して、そこから支配神経へたどる、という順番で考えればいいんですね。
ドクタードクター
そうだね。麻痺筋が働く方向を見たときに複視が最大になる、というのも覚えておこう。最後に臨床的な話をしておくと、外転神経は脳幹から出て頭蓋底を長い距離走行するので、障害を受けやすい神経なんだ。原因で頻度が高いのは何だと思う?
医学生医学生
神経内科を回ったとき、糖尿病の患者さんで急に複視が出た方がいました。微小血管障害でしょうか。
ドクタードクター
いい経験をしたね。中高年では糖尿病や高血圧による微小血管障害が多く、数か月で自然に改善することが多い。ただし、頭蓋内圧亢進でも外転神経麻痺が出ることがあって、これは病変の部位を直接示さない偽性局在徴候として知られている。ほかにも腫瘍、外傷、海綿静脈洞の病変などが原因になるから、頭痛やうっ血乳頭、ほかの脳神経症状がないかを必ず確認する必要がある。
医学生医学生
「糖尿病だから様子見」で済ませず、頭蓋内の病気を見逃さないことが大事ですね。
ドクタードクター
その通り。鑑別として、甲状腺眼症や眼窩の骨折、先天性のDuane症候群、日内変動のある重症筋無力症でも外転障害は起こりうる。逆に、瞳孔異常を伴う動眼神経麻痺なら内頸動脈-後交通動脈分岐部の動脈瘤を疑って緊急で精査する。眼球運動障害は、救急や外来で重大な疾患の入り口になることがあるんだ。

まとめ

9方向眼位写真では、写真の右側が患者の左側にあたることに注意し、どの方向でどちらの眼の動きが悪いかを確認します。患側を見たときに患眼が外転できず、正面視で患眼が内斜視を示し、眼瞼下垂や散瞳を伴わなければ、外直筋を支配する外転神経の麻痺と診断できます。動眼神経麻痺は外下方偏位・眼瞼下垂・散瞳、滑車神経麻痺は内下方視障害と上斜視・健側への頭位傾斜が特徴で、顔面神経と三叉神経は外眼筋を支配しません。外転神経麻痺の原因は微小血管障害が多い一方、頭蓋内圧亢進による偽性局在徴候や腫瘍などもありうるため、随伴症状の確認が欠かせません。「LR6 SO4、残りはⅢ」を軸に、動きの悪い方向から麻痺筋と支配神経をたどる考え方は、眼球運動障害の診察全般の基本になります。

解答・解説

正解はaです

本問は、9方向眼位写真から、どの外眼筋(どの脳神経)が障害されているかを読み取る問題である。

9方向眼位写真の見方

9方向眼位写真は、正面視を中央に置き、上・下・左右・斜め4方向を見たときの両眼をまとめて撮影したものである。写真は検者が患者を正面から見た向きで並ぶため、写真の右側の列は患者の左方視、写真の右側に写る眼は患者の左眼にあたる。それぞれの方向で左右の眼が同じだけ動いているか、正面視で角膜の反射光が瞳孔の中央にあるか(角膜反射法、Hirschberg法)を確認する。

本問の所見

・左方視(写真右側の列の上段・中段・下段):右眼は内転して内側へ十分に動くが、左眼は外側へ動かず、ほぼ正面の位置にとどまっている。左眼の外転障害である。 ・右方視や上方視・下方視:両眼とも大きな制限はなく、内転・上転・下転は保たれている。 ・正面視:左眼がわずかに内側へ偏位している(内斜視)。外転筋が働かず、拮抗筋である内直筋の作用が相対的に勝るためである。 ・眼瞼下垂や瞳孔の明らかな異常はみられない。

診断

外転を担うのは外直筋で、外直筋を支配するのは外転神経(第Ⅵ脳神経)である。外転障害だけが単独でみられ、正面視で患眼が内斜視となっていることから、左外転神経麻痺と診断する。臨床的には、患側を見たときに増強する水平性の複視(左右に並んで二重に見える)を訴えることが多い。

選択肢考察

  1. ○a.  外転神経麻痺

    正しい。外転神経は外直筋だけを支配し、眼球を外側へ向ける(外転)。麻痺すると患側方向を見たときに患眼が外転できず、正面視でも患眼が内側へ偏位する(麻痺性内斜視)。写真では左方視で左眼が外転せず、正面視で左眼が軽い内斜視を示しており、左外転神経麻痺に一致する。外転神経は脳幹から出て頭蓋底を長い距離走行するため障害を受けやすく、原因として糖尿病などによる微小血管障害、頭蓋内圧亢進(特定の部位を示さない偽性局在徴候として現れる)、腫瘍、外傷、海綿静脈洞病変などがある。

  2. ×b.  滑車神経麻痺

    誤り。滑車神経(第Ⅳ脳神経)は上斜筋を支配する。上斜筋は眼球を内旋させるとともに、内転した位置での下転(内下方視)を担う。麻痺すると内下方視が障害され、患眼が上方へ偏位する(上斜視)とともに外旋して、上下・斜めにずれる複視が生じる。患者は複視を減らすため健側へ頭を傾ける(頭位傾斜)ことが多く、患側に頭を傾けると上斜視が増強する(Bielschowsky頭部傾斜試験陽性)。本問の写真では内下方視は保たれており、障害は水平方向の外転に限られるため当てはまらない。

  3. ×c.  顔面神経麻痺

    誤り。顔面神経(第Ⅶ脳神経)は表情筋を支配する運動神経で、外眼筋の運動には関与しない。眼に関係する症状としては眼輪筋の麻痺による閉瞼不全(兎眼)があり、角膜の乾燥や角膜障害の原因になる。眼球運動障害は起こさないため、本問の外転障害を説明できない。また写真から兎眼の有無は判断できない。

  4. ×d.  三叉神経麻痺

    誤り。三叉神経(第Ⅴ脳神経)は顔面・角膜の感覚と咀嚼筋の運動を担い、外眼筋は支配しない。障害されると顔面の感覚低下や角膜反射の低下(求心路の障害)、咀嚼力の低下が生じるが、眼球運動障害は起こらない。眼位写真からその所見は評価できず、本問の外転障害とも合わない。

  5. ×e.  動眼神経麻痺

    誤り。動眼神経(第Ⅲ脳神経)は内直筋・上直筋・下直筋・下斜筋の4つの外眼筋に加え、上眼瞼挙筋と瞳孔括約筋(副交感神経)を支配する。完全麻痺では内転・上転・下転が障害され、外直筋と上斜筋の作用だけが残るため、正面視で患眼は外下方へ偏位する。さらに眼瞼下垂と散瞳(対光反射消失)を伴う。本問では内転・上下転が保たれ、眼瞼下垂や散瞳もなく、外転だけが障害されているため動眼神経麻痺ではない。なお瞳孔異常を伴う動眼神経麻痺では内頸動脈-後交通動脈分岐部動脈瘤の圧迫を考え、緊急の精査が必要である。

外眼筋と支配神経

・外直筋:外転(外転神経、Ⅵ) ・上斜筋:内旋、内転位での下転(滑車神経、Ⅳ) ・内直筋:内転(動眼神経、Ⅲ) ・上直筋:上転(外転位で最も強く働く)、内旋(動眼神経) ・下直筋:下転(外転位で最も強く働く)、外旋(動眼神経) ・下斜筋:外旋、内転位での上転(動眼神経) 覚え方として「LR6 SO4、残りはⅢ」がある。

眼球運動障害の診察

・9方向眼位:各方向で両眼の動きを比較し、動きの悪い方向から麻痺している筋を推定する。 ・角膜反射法(Hirschberg法):ペンライトの光を当て、角膜上の反射光の位置から眼位のずれを判定する。反射光が瞳孔中央より外側にあれば内斜視、内側にあれば外斜視を示す。 ・複視の方向:麻痺筋が働く方向を見たときに複視が最大になる。外転神経麻痺では患側を見たときに水平の複視が増強する。

外転神経麻痺の主な原因

・微小血管障害(糖尿病、高血圧):中高年に多く、数か月で自然軽快することが多い。 ・頭蓋内圧亢進:脳腫瘍、特発性頭蓋内圧亢進症など。偽性局在徴候となりうる。 ・海綿静脈洞・上眼窩裂の病変、斜台部腫瘍、外傷、Wernicke脳症など。 ・橋の外転神経核の障害では、外転神経麻痺ではなく同側への水平注視麻痺となり、顔面神経麻痺を伴いやすい。

鑑別

外転障害を示すほかの病態として、甲状腺眼症(内直筋の肥厚による制限)、眼窩内側壁骨折(内直筋の絞扼)、Duane症候群(先天性、内転時の瞼裂狭小と眼球後退を伴う)、重症筋無力症(日内変動、易疲労性)などがある。

POINT

・9方向眼位写真では、写真の右側が患者の左側である点に注意する。 ・患側方向で患眼が外転できず、正面視で患眼が内斜視 → 外転神経麻痺(外直筋)。 ・滑車神経麻痺:内下方視の障害、患眼の上斜視、健側への頭位傾斜。 ・動眼神経麻痺:外転以外の運動障害、患眼の外下方偏位、眼瞼下垂、散瞳。 ・顔面神経・三叉神経は外眼筋を支配しない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。