StudyMed医師国家試験

医師免許だけでは保険診療はできない―「保険医」と「保険医療機関」の二重指定を読み解く

第111回医師国家試験 G問題 第30問

国試問題にチャレンジ

第111回 G問題 第30問

保険医について正しいのはどれか。

  1. a.医師法に規定されている。
  2. b.すべての医師は登録する義務がある。
  3. c.保険診療に関する費用を任意に設定できる。
  4. d.保険診療として健康診断を行うことができる。
  5. e.保険診療を行うには医療機関も指定を受けていなければならない。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は臨床の問題ではなく、私たちが毎日あたりまえのように行っている保険診療の「仕組み」を問う問題だ。着眼点は、保険医がどの法律に基づく制度なのか、そして保険診療を成り立たせるために誰が何を受けている必要があるのか、の2つだよ。
医学生医学生
保険医って、医師免許を取れば自動的になるものだと思っていました。
ドクタードクター
そう思っている人は多いね。でも実は別物なんだ。医師免許は医師法に基づいて厚生労働大臣が与える資格。一方、保険医は健康保険法に基づいて、医師が自分で申請して厚生労働大臣の登録を受けるもの。実際の事務は地方厚生局が行っている。
医学生医学生
ということは、保険医は医師法に書かれているわけではないんですね。公衆衛生の講義で医師法を習ったときも、応招義務や診断書の交付義務、異状死体の届出の話ばかりでした。
ドクタードクター
その記憶は正しい。医師法は医師という資格と業務全般のルールを定める法律で、保険医の規定は入っていない。保険医の登録、保険医療機関の指定、それに診療の方針を定めた療養担当規則は、すべて健康保険法の体系に属しているんだ。
医学生医学生
じゃあ登録は全員の義務というわけでもないんですか。
ドクタードクター
義務ではなく任意だよ。ただし登録しなければ保険診療はできず、全額自己負担の自由診療しか行えない。国民皆保険の日本では、臨床をする医師のほとんどが登録しているから、義務のように見えるだけなんだ。
医学生医学生
保険医になれば、診療の値段も自分で決められるんでしょうか。開業医の先生が自分のクリニックの料金を決めているイメージがあって。
ドクタードクター
そこはよく誤解されるところだ。保険診療の価格は、中医協の答申を経て国が定める診療報酬点数表、原則1点10円と、薬価基準で全国一律に決まっている。医師や医療機関が自由に価格を付けられるのは、保険の外の自由診療だけだよ。
医学生医学生
健康診断は病院でやってもらうので、保険が使えると思っていました。
ドクタードクター
ここもポイントだね。保険給付である療養の給付は、病気やけがの治療が対象なんだ。症状のない人の健康診断は予防や早期発見が目的だから対象外。健診は自費か、労働安全衛生法による事業者健診、医療保険者が行う特定健康診査など、別の枠組みで行われる。予防接種、正常分娩、美容目的の手術も同じく保険の対象外だ。
医学生医学生
正常分娩が保険外というのは、産婦人科の実習で出産育児一時金の説明を聞いて納得しました。それで、残る「医療機関も指定を受けていなければならない」が正解ですね。
ドクタードクター
その通り。保険診療を行うには、医師個人が保険医として登録されていることに加えて、勤め先の病院や診療所が保険医療機関として指定を受けている必要がある。これを二重指定制度と呼ぶ。保険医であっても、指定のない医療機関では保険診療はできないんだ。
医学生医学生
医師と医療機関の両方に鍵がかかっている、というイメージですね。なぜ両方必要なんでしょう。
ドクタードクター
国が医師と医療機関の両方に療養担当規則を守らせ、指導や監査を行えるようにするためだよ。保険医療機関の指定は6年ごとに更新される。ちなみに保険薬局と保険薬剤師も同じ関係にある。
医学生医学生
お金の流れはどうなっているんですか。窓口で払う3割以外の部分です。
ドクタードクター
患者は窓口で原則1〜3割の一部負担金を払い、残りは医療機関がレセプト、つまり診療報酬明細書で、社会保険診療報酬支払基金や国民健康保険団体連合会といった審査支払機関を通じて保険者に請求する。研修医になると、検査や処方がレセプトでどう査定されるかを意識する場面が増えるはずだ。
医学生医学生
保険診療と自由診療を一緒にやるのはどうなんですか。
ドクタードクター
それが混合診療の問題だね。原則として認められず、行えば全体が自費になる。ただし先進医療などの評価療養、患者申出療養、差額ベッドのような選定療養は、保険外併用療養費として保険診療との併用が認められている。患者さんに先進医療を勧めるときなどには、この区別を説明できるようにしておこう。

まとめ

保険医は医師法ではなく健康保険法に基づく制度で、医師が任意に申請し厚生労働大臣(実務は地方厚生局)の登録を受けて初めて保険診療を担えます。保険診療には保険医の登録に加え、医療機関が保険医療機関の指定を受けていることも必要で、これを二重指定制度といいます。保険診療の価格は診療報酬点数表と薬価基準で全国一律に定められ、医師が任意に設定することはできません。また療養の給付は疾病・負傷の治療が対象であり、健康診断・予防接種・正常分娩などは保険の対象外です。混合診療の原則禁止と保険外併用療養費の例外も含め、日々の診療を支える制度の枠組みを理解しておくことは、臨床医として患者さんに適切な説明をするための基礎になります。

解答・解説

正解はeです

本問は、公的医療保険で診療を行うための仕組み、いわゆる保険医・保険医療機関の制度を問う問題である。

制度の骨格

日本の公的医療保険(健康保険法、国民健康保険法など)では、被保険者が病気やけがをしたときに、診察・検査・投薬・手術などの医療そのものが「療養の給付」として現物で給付される。この療養の給付を担えるのは、厚生労働大臣の指定を受けた「保険医療機関」で、厚生労働大臣の登録を受けた「保険医」が診療する場合に限られる。医療機関の指定と医師個人の登録の両方が必要な仕組みであり、これを二重指定制度という(実際の事務は地方厚生局長・地方厚生支局長が行う)。

考え方のポイント

・保険医の根拠法は健康保険法であり、医師法ではない。医師法は医師免許と医師の業務全般を定める法律である。 ・保険医の登録は医師個人の任意で、義務ではない。ただし登録しなければ保険診療はできない。 ・保険診療の価格は診療報酬点数表として国が全国一律に定めており、医師や医療機関が自由に決めることはできない。 ・保険給付の対象は疾病・負傷の治療であり、健康診断や予防接種のような予防目的の行為は原則として対象外である。 これらを踏まえると、医師の登録に加えて医療機関の指定も必要であることを述べたeが正しい。

選択肢考察

  1. ×a.  医師法に規定されている。

    誤り。保険医の制度は健康保険法に定められている(保険医の登録、保険医療機関の指定、診療・療養の方針を定めた「保険医療機関及び保険医療養担当規則」(療養担当規則)など)。医師法は医師免許、医師国家試験、応招義務、診断書の交付義務、異状死体の届出義務など、医師という資格と業務全般について定める法律で、保険医の規定は含まない。

  2. ×b.  すべての医師は登録する義務がある。

    誤り。保険医の登録は医師が自分の意思で申請するもので、法律上の義務ではない。ただし登録していない医師は、保険医療機関で健康保険による診療を行うことができず、自由診療(全額自己負担の診療)しか行えない。国民皆保険の日本では、臨床に携わる医師のほとんどが保険医として登録している。

  3. ×c.  保険診療に関する費用を任意に設定できる。

    誤り。健康保険法は、療養の給付に要する費用の額を厚生労働大臣が定めるところにより算定すると規定している。具体的には、中央社会保険医療協議会(中医協)の答申を経て定められる診療報酬点数表(原則として1点10円)と薬価基準に基づいて全国一律に計算される。保険医や保険医療機関が保険診療の価格を自由に決めることはできない。価格を自由に設定できるのは保険外の自由診療である。

  4. ×d.  保険診療として健康診断を行うことができる。

    誤り。療養の給付は疾病や負傷の治療を対象とする。症状のない人に行う健康診断は予防・早期発見を目的とする行為で、保険診療の対象にならない。健康診断は自己負担(自費)か、事業者による一般健康診断(労働安全衛生法)、医療保険者が行う特定健康診査(高齢者の医療の確保に関する法律)など、療養の給付とは別の枠組みで行われる。同じく予防接種、正常分娩、美容目的の手術なども保険給付の対象外である。

  5. ○e.  保険診療を行うには医療機関も指定を受けていなければならない。

    正しい。保険診療を行うには、医師個人が保険医として登録されていることに加え、その医師が勤める病院・診療所が保険医療機関として指定を受けている必要がある(二重指定制度)。保険医療機関の指定は6年ごとに更新される。保険医であっても、指定を受けていない医療機関では保険診療を行えない。この二重の仕組みにより、国は医療機関と医師の両方に療養担当規則を守らせ、指導・監査を行うことができる。

保険診療の仕組み

・被保険者(患者)は保険医療機関の窓口で一部負担金(原則3割、年齢・所得により1〜3割)を支払い、残りの費用は保険医療機関が審査支払機関(社会保険診療報酬支払基金、国民健康保険団体連合会)を通じて保険者に請求する。 ・請求は診療報酬明細書(レセプト)で行う。 ・保険医・保険医療機関は、診療の方針や禁止事項を定めた療養担当規則に従わなければならない。

保険医・保険医療機関(健康保険法)

・保険医:厚生労働大臣(地方厚生局長等)に登録した医師。登録は任意。 ・保険医療機関:厚生労働大臣(地方厚生局長等)の指定を受けた病院・診療所。指定は6年ごとに更新。 ・両方がそろって初めて保険診療を行える(二重指定制度)。保険薬局と保険薬剤師も同様の関係にある。

保険給付の対象外となる主なもの

健康診断、予防接種、正常な妊娠・分娩、美容整形など、疾病・負傷の治療ではないもの。

混合診療

保険診療と保険外診療を同時に行い、保険外の部分だけを自費とする「混合診療」は原則として認められず、行えば全体が自費となる。例外として、評価療養(先進医療など)、患者申出療養、選定療養(差額ベッド、大病院の紹介状なし初診など)は保険外併用療養費として保険診療との併用が認められている。

POINT

・保険医は健康保険法に規定され、医師法には規定されていない。 ・保険医の登録は任意だが、登録しなければ保険診療はできない。 ・保険診療には保険医の登録と保険医療機関の指定の両方が必要(二重指定制度)。 ・保険診療の費用は診療報酬点数表(1点10円)で全国一律に定められる。 ・健康診断・予防接種・正常分娩などは保険給付の対象外。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。