起こりうる合併症の中で「最もまれ」なのは?―中心静脈カテーテルのリスクを時間軸で整理する
第111回医師国家試験 G問題 第10問
国試問題にチャレンジ
中心静脈カテーテルに関連する合併症として可能性が最も低いのはどれか。
- a.血胸
- b.敗血症
- c.穿刺部血腫
- d.静脈血栓症
- e.心タンポナーデ
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
中心静脈カテーテルの合併症は、挿入時の機械的合併症(動脈誤穿刺、穿刺部血腫、気胸、血胸、不整脈、空気塞栓など)と、留置中の合併症(カテーテル関連血流感染症・敗血症、静脈血栓症など)に分けて整理すると理解しやすくなります。心タンポナーデは、心膜腔内にある上大静脈下部や右心房をカテーテル先端が穿孔して起こりうるものの極めてまれで、選択肢の中では最も可能性が低い合併症です。ただし致死的となりうるため、先端を心膜翻転部より上に置き、留置中の急な血圧低下や頸静脈怒張には注意します。穿刺部位ごとに鎖骨下静脈では気胸・血胸、大腿静脈では感染・血栓が多いといった特徴があり、超音波ガイド下穿刺や挿入後の胸部X線確認、マキシマルバリアプリコーションが安全管理の基本です。日常的な手技だからこそ、合併症を時間軸と頻度で整理しておくことが臨床での安全につながります。
解答・解説
正解はeです
中心静脈カテーテル(central venous catheter:CVC)は、内頸静脈・鎖骨下静脈・大腿静脈などから挿入し、先端を上大静脈または下大静脈に置くカテーテルである。高カロリー輸液、刺激性の強い薬剤や昇圧薬の確実な投与、中心静脈圧の測定などに用いられ、全身管理に欠かせない一方で、さまざまな合併症を起こしうる。
合併症を時期で整理する
・挿入時(機械的合併症):動脈誤穿刺、穿刺部血腫、気胸、血胸、神経損傷、不整脈(ガイドワイヤーやカテーテルが心臓内に入って心筋を刺激する)、空気塞栓、血管・心臓の穿孔など ・留置中(晩期合併症):カテーテル関連血流感染症(catheter-related bloodstream infection:CRBSI)とそれに続く敗血症、カテーテル関連静脈血栓症、カテーテルの位置異常・閉塞・断裂など
考え方
選択肢はいずれもCVCの合併症として起こりうるものである。そのうえで「可能性が最も低い」ものを選ぶ。血胸・穿刺部血腫は挿入時に、敗血症・静脈血栓症は留置中に、日常的に注意すべき頻度で生じる。これに対し、心タンポナーデはカテーテル先端による上大静脈下部や右心房の穿孔によって起こるが、極めてまれである。したがって、最も可能性が低いのは心タンポナーデである。ただし起これば致死的となりうるため、「起こらない合併症」ではないことに注意する。
選択肢考察
- ×a. 血胸
起こりうる。鎖骨下静脈や内頸静脈の穿刺時に、針が鎖骨下動脈などの動脈を誤って穿刺したり、静脈壁を損傷して出血が胸腔内に及んだりすると血胸になる。特に鎖骨下静脈は胸膜頂に近く、圧迫止血が難しいため、気胸とともに血胸を合併しやすい。挿入後は胸部X線写真でカテーテル先端の位置と気胸・血胸の有無を確認する。
- ×b. 敗血症
起こりうる。皮膚の常在菌(表皮ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌など)やカンジダなどが、刺入部の皮膚からカテーテル外側に沿って、あるいは輸液ラインの接続部からカテーテル内腔を通って血中に侵入し、カテーテル関連血流感染症を起こす。全身に波及すると敗血症となり、時に致死的である。CVCの留置中に最も重要な合併症の一つであり、挿入時のマキシマルバリアプリコーション(帽子・マスク・滅菌ガウン・滅菌手袋・大きな滅菌ドレープ)、クロルヘキシジンによる皮膚消毒、不要になったら速やかに抜去することなどで予防する。
- ×c. 穿刺部血腫
起こりうる。穿刺そのものに伴い、程度の差はあれ穿刺部の血腫は生じうる。特に隣接する動脈(内頸静脈では総頸動脈、鎖骨下静脈では鎖骨下動脈、大腿静脈では大腿動脈)を誤って穿刺した場合や、穿刺を何度も繰り返した場合、凝固異常のある患者で起こりやすい。内頸静脈や大腿静脈では圧迫止血が比較的容易だが、鎖骨下静脈は鎖骨の裏にあるため圧迫が難しい。超音波ガイド下穿刺で誤穿刺のリスクを減らせる。
- ×d. 静脈血栓症
起こりうる。カテーテルという異物が血管内に留置されることで、血管内皮の損傷、血流のうっ滞、カテーテル表面への血小板・フィブリンの付着が生じ(Virchow の3徴)、カテーテル周囲に静脈血栓ができやすい。留置期間が長いほど頻度が高く、集中治療室の患者をドプラ超音波で調べると約3分の1に血栓がみられたとの報告もある。穿刺部位では大腿静脈で頻度が高い。血栓は上肢・頸部の腫脹、カテーテル閉塞、肺塞栓症の原因となり、感染の温床にもなる。
- ○e. 心タンポナーデ
選択肢のなかで最も可能性が低い。上大静脈の下部(右心房との移行部付近)は心膜腔の内側にあるため、カテーテル先端やガイドワイヤーがこの部分や右心房の壁を穿孔すると、出血や輸液が心膜腔に貯留して心タンポナーデを起こしうる。ただしその頻度は極めてまれである。予防のため、カテーテル先端は心膜翻転部より上方の上大静脈内(胸部X線写真では気管分岐部の高さ付近が目安)に置き、右心房内に深く入れないようにする。CVC留置中の患者で急に血圧低下、頸静脈怒張、奇脈などが現れたら本症を疑う必要がある。
主な穿刺部位の特徴
・内頸静脈:超音波で観察しやすく、圧迫止血もしやすいため、現在よく選ばれる部位である。総頸動脈の誤穿刺に注意する。 ・鎖骨下静脈:気胸・血胸の頻度が比較的高く、圧迫止血が難しい。一方で固定しやすく、感染の頻度は低いとされる。 ・大腿静脈:気胸の心配がなく緊急時に穿刺しやすいが、感染や静脈血栓症の頻度が高く、長期留置には向かない。 ・末梢挿入型中心静脈カテーテル(PICC):上腕の静脈から挿入するため気胸などの穿刺合併症が少ないが、静脈血栓症に注意する。
カテーテル関連血流感染症(CRBSI)の対応
CVC留置中に原因不明の発熱がみられたら本症を疑い、カテーテルからと末梢静脈からの2セット以上の血液培養を採取し、多くの場合カテーテルを抜去して先端を培養する。黄色ブドウ球菌やカンジダが原因の場合は、感染性心内膜炎やカンジダ眼内炎などの合併症検索も必要となる。
その他の重要な合併症
・空気塞栓:カテーテル挿入時や接続外れの際に、胸腔内が陰圧になると空気が引き込まれる。挿入時は頭低位(Trendelenburg 位)にして予防する。 ・不整脈:ガイドワイヤーが右心房・右心室に入ると期外収縮などを誘発するため、心電図をモニターしながら挿入する。
POINT
・CVCの合併症は「挿入時」(動脈誤穿刺、血腫、気胸、血胸、空気塞栓、不整脈)と「留置中」(カテーテル関連血流感染症・敗血症、静脈血栓症)に分けて整理する。 ・心タンポナーデは上大静脈下部や右心房の穿孔で起こりうるが極めてまれである。先端を心膜翻転部より上に置くことで予防する。 ・気胸・血胸は鎖骨下静脈穿刺で、感染・血栓は大腿静脈経路で多い。 ・挿入時は超音波ガイドとマキシマルバリアプリコーションを用い、挿入後は胸部X線写真で先端位置と気胸の有無を確認する。
