胸腺で育つ司令塔―T細胞の基本とAIDSで崩れるCD4/CD8比
第111回医師国家試験 G問題 第11問
国試問題にチャレンジ
T細胞について正しいのはどれか。
- a.形質細胞に分化する。
- b.自然免疫系に分類される。
- c.末梢血リンパ球の約20%を占める。
- d.細胞傷害性T細胞はCD4陽性である。
- e.後天性免疫不全症候群〈AIDS〉ではCD4/CD8比が低下する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
T細胞は骨髄由来の前駆細胞が胸腺で正の選択・負の選択を経て成熟するリンパ球で、B細胞とともに獲得免疫に属し、末梢血リンパ球の約70〜80%を占めます。CD4陽性のヘルパーT細胞はMHCクラスIIと、CD8陽性の細胞傷害性T細胞はMHCクラスIと結合して抗原を認識し、形質細胞に分化して抗体を産生するのはB細胞です。HIVはCD4を受容体としてCD4陽性T細胞に感染・破壊するため、AIDSではCD4陽性T細胞が減少し、正常で1〜2程度のCD4/CD8比が低下します。CD4数200/μL未満は日和見感染のリスクが高まる目安であり、ATLやサルコイドーシス、DiGeorge症候群などT細胞の数や比率が変化する病態とあわせて整理しておくことが、免疫学の基礎を臨床につなげる鍵になります。
解答・解説
正解はeです
T細胞は胸腺(thymus)で分化・成熟するリンパ球で、獲得免疫(適応免疫)のうち主に細胞性免疫を担う。本問は、T細胞の分類・機能・末梢血中の割合と、T細胞が障害される代表的疾患であるAIDSとの関係を問うている。
T細胞の基本
・骨髄の造血幹細胞に由来し、胸腺で教育を受けて成熟する。胸腺内では、自己のMHC(主要組織適合遺伝子複合体)分子を認識できる細胞が残り(正の選択)、自己抗原に強く反応する細胞は除かれる(負の選択)。 ・細胞表面のT細胞受容体(TCR)で、抗原提示細胞のMHC分子上に提示されたペプチド抗原を認識する。 ・成熟T細胞は大きく、CD4陽性のヘルパーT細胞と、CD8陽性の細胞傷害性T細胞(cytotoxic T lymphocyte:CTL)に分けられる。CD4はMHCクラスII分子と、CD8はMHCクラスI分子と結合する。 ・末梢血リンパ球のうち約70〜80%を占め、最も多いリンパ球である。
考え方
B細胞とT細胞の役割の違い、自然免疫と獲得免疫の区別、CD4とCD8の対応を正確に押さえていれば、誤りの選択肢はすぐに除外できる。HIV(ヒト免疫不全ウイルス)はCD4分子を受容体としてCD4陽性T細胞に感染し、これを破壊するため、AIDSではCD4陽性T細胞が減少し、CD4/CD8比が低下する。
選択肢考察
- ×a. 形質細胞に分化する。
誤り。形質細胞に分化するのはB細胞である。B細胞は抗原刺激を受け、さらにヘルパーT細胞(特に濾胞ヘルパーT細胞)からの補助を受けて活性化し、抗体(免疫グロブリン)を大量に分泌する形質細胞や、記憶B細胞へと分化する。T細胞はこのB細胞の分化・抗体産生を助ける側であり、自身が形質細胞になることはない。
- ×b. 自然免疫系に分類される。
誤り。T細胞はB細胞とともに獲得免疫系に属する。獲得免疫は、抗原ごとに特異的な受容体(TCRやB細胞受容体)をもち、一度出会った抗原を記憶して再感染時に速やかで強い反応を起こす点が特徴である。一方、自然免疫系は病原体に共通する分子パターンをToll様受容体などで認識して即座に反応する仕組みで、好中球、マクロファージ、樹状細胞、NK細胞、補体などが担う。
- ×c. 末梢血リンパ球の約20%を占める。
誤り。末梢血リンパ球のうちT細胞は約70〜80%を占め、最も多い。B細胞は約10〜20%、NK細胞は約10〜15%程度である。「約20%」はむしろB細胞の割合に近い。
- ×d. 細胞傷害性T細胞はCD4陽性である。
誤り。細胞傷害性T細胞はCD8陽性である。CD8分子はほぼすべての有核細胞に発現するMHCクラスI分子と結合し、ウイルス感染細胞や腫瘍細胞の表面に提示された抗原を認識して、パーフォリンやグランザイム、Fasリガンドなどを用いて標的細胞を破壊する。CD4陽性なのはヘルパーT細胞で、抗原提示細胞のMHCクラスII分子上の抗原を認識し、サイトカインを産生して他の免疫細胞を活性化する。
- ○e. 後天性免疫不全症候群〈AIDS〉ではCD4/CD8比が低下する。
正しい。HIVはCD4分子を主な受容体とし、ケモカイン受容体(CCR5やCXCR4)を補助受容体としてCD4陽性T細胞に感染し、これを破壊していく。その結果、CD4陽性T細胞数が進行性に減少する。一方、CD8陽性T細胞は感染早期にはむしろ増加することが多いため、健常人では1〜2程度であるCD4/CD8比が低下し、しばしば1未満となる。CD4陽性T細胞数が200/μL未満になると、ニューモシスチス肺炎などの日和見感染症のリスクが高まる。
ヘルパーT細胞のサブセット
・Th1:IFN-γ、IL-2を産生し、マクロファージやCTLを活性化して細胞内寄生菌(結核菌など)やウイルスに対する細胞性免疫を担う。 ・Th2:IL-4、IL-5、IL-13を産生し、IgE産生や好酸球の活性化を促す。寄生虫に対する防御やアレルギーに関与する。 ・Th17:IL-17を産生し、好中球を動員して細胞外細菌・真菌に対する防御を担う。自己免疫疾患にも関与する。 ・制御性T細胞(Treg):CD4+CD25+、転写因子Foxp3を発現し、IL-10やTGF-βなどにより免疫反応を抑制して自己寛容を維持する。 ・濾胞ヘルパーT細胞(Tfh):リンパ節の胚中心でB細胞の抗体産生とクラススイッチを助ける。
CD4陽性T細胞の数が変化する主な病態
・AIDS:HIVがCD4陽性T細胞に感染して破壊するため、CD4陽性T細胞が減少し、CD4/CD8比が低下する。 ・成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL):HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)がCD4陽性T細胞に感染して腫瘍化させるため、CD4陽性の腫瘍細胞(花細胞と呼ばれる核に切れ込みのある細胞)が増加する。 ・サルコイドーシス:気管支肺胞洗浄液中のCD4/CD8比が上昇する(過敏性肺炎ではむしろ低下することが多い)。
T細胞の異常による先天性免疫不全
・DiGeorge 症候群(22q11.2欠失症候群):胸腺低形成によるT細胞減少、副甲状腺低形成による低カルシウム血症、心大血管奇形を伴う。 ・重症複合免疫不全症(SCID):T細胞(病型によりB細胞・NK細胞も)が欠損し、乳児期から重症感染を繰り返す。
POINT
・T細胞は胸腺で成熟し、獲得免疫(主に細胞性免疫)を担う。末梢血リンパ球の約70〜80%を占める(B細胞は約10〜20%)。 ・ヘルパーT細胞はCD4陽性(MHCクラスIIと結合)、細胞傷害性T細胞はCD8陽性(MHCクラスIと結合)。 ・形質細胞に分化するのはB細胞である。 ・AIDSではCD4陽性T細胞が減少し、CD4/CD8比が低下する(正常は1〜2程度)。 ・ATLではHTLV-1感染によりCD4陽性T細胞が腫瘍性に増加する。
